準拠法の事後的変更
- 法例には明確な規定がなかったが、通則法は、当事者が契約準拠法を事後的に変更することを正面から認める(9条)遡及効については当事者の意思解釈による。
- ただし、第三者の権利を害することになる場合は、その変更を第三者に対抗できない。契約締結時に決定された準拠法による規律を前提として利害関係に入った第三者は準拠法の変更により本来主張できた抗弁を主張できなくなるなどの不都合を防ぐため。ex.契約債務の保証人、第三者のためにする契約の第三者。
第9条 当事者は、法律行為の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。た だし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない。
契約準拠法の適用
- 実質的成立要件:申込み・承諾の意思表示、目的物の特定の要否など
- 形式的成立要件:書面や公正証書といった契約の外部的形式に関する成立要件(10条)10条によると、契約締結地法か契約準拠法に適合した者であれば有効とされる。
- 契約の効力:拘束力、内容、各条項との合法性、契約不履行の場合の効果など。履行についても、行われるべき給付の性質や範囲を決定するのは契約準拠法による。
第7条
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。
第8条
1 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時 において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。
2 前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものである ときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有 する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に関係する二以上の事 業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主たる事業所の所在地の法) を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。
3 第一項の場合において、不動産を目的物とする法律行為については、前項の規定にかかわら ず、その不動産の所在地法を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。
第10条
1 法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法(当該法律行為の後に前 条の規定による変更がされた場合にあっては、その変更前の法)による。
2 前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。
3 法を異にする地に在る者に対してされた意思表示については、前項の規定の適用に当たって は、その通知を発した地を行為地とみなす。
4 法を異にする地に在る者の間で締結された契約の方式については、前二項の規定は、適用し ない。この場合においては、第一項の規定にかかわらず、申込みの通知を発した地の法又は承諾の 通知を発した地の法のいずれかに適合する契約の方式は、有効とする。
5 前三項の規定は、動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利を設定し又は 処分する法律行為の方式については、適用しない。
弱者保護に関する特則
- 非対称的な交渉力により弱者たる契約当事者が強者たる契約当事者に提示された不利な選択を認めざるを得ないという状況が生じる可能性がある。
消費者契約(11条)
準拠法の決定
- 当事者が選択した法が消費者の常居所地法以外の場合、消費者がその常居所における特定の強行規定を適用すべき旨の意思表示を事業者に対し表示したときは、契約の成立及び効力に関して当該強行規定が適用される。一定の状況のもとで、消費者に対し常居所強行法規が与えている保護を享受させる趣旨。表示を要求するのは、裁判所が消費者に有利かどうかを職権で比較することは困難であるから。
- 当事者に合意がない場合は、消費者の常居所地法による。端的に生活環境の法であるものを選択する趣旨。特徴的給付の理論を排除。
- 方式に関する特則:選択的連結によると契約が成立しやすくなることにより消費者に不利になりかねないことから特則(11条3項・4項)
準拠法の適用
- 消費者契約の成立、内容及び効力に関する問題について適用。成立内容については、合意の有無、意思表示の瑕疵、情報提供義務、約款の契約内容への組み込みなど。効力につき、危険負担、同時履行の抗弁権、債務不履行責任など。
適用除外(11条6項)
- 能動的消費者に対する適用除外:国内的にのみ活動している事業者の準拠法に関する予測可能性を保護
1号:消費者自らが事業者の事業所に赴いて消費者契約を締結する場合 ex.旅行中の契約
2号:消費者が自ら事業者の事業所に赴いて消費者契約に基づく債務の全部の履行を受けたとき
但書き:消費者が事業者の事業所における消費者契約の締結または履行につき、勧誘をその常居所地で受けていた場合は適用あり(ただし一般的な広告は含まない)
- 事業者側の事情による適用除外:消費者よりもむしろ事業者を保護すべき場合
3号:事業者が消費者の常居所を知らず、かつ、知らなかったことについて相当の理由があるとき
4号:事業者がその相手が消費者でないと誤認し、かつ誤認したことについて相当の理由があるとき
労働契約(12条)
- 対象となる労働契約の定義は解釈によるが、一般的には、個人による労務の提供、相手方による賃料支払い、労務提供者が契約相手方の指揮命令に服することを基準とする。
当事者の合意がある場合(1項)
- 基本的には7条の当事者自治の原則が妥当し、選択した法が当該労働契約の最密接関係地法以外の法である場合、労働者が最密接関係地法における特定の強行法規を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関してその強行規定の定める事項につき、当該強行規定をも適用する。
- 消費者契約とは異なり、常居所地法ではなく、最密接関係地法という一般的指針が挙げられている点である。これには推定規定(2項)があり、労務の提供すべき地が最密接関係地と推定され、もし労務提供地が特定できない場合には当該労働者を雇い入れた事務所の所在地法が最密接関係地法と推定される。
- これは、解雇された国から別の国に派遣されて労務を提供している場合や国際線の航空会社で働く正社員のようにベースとなる国とは別に複数の国で労務を提供している場合など労働契約は多様であり、労務提供地法が労働者保護にとって必ずしも適切であるとは言えないからである。
- また消費者契約については方式に関する特則が置かれているのに対して、12条には置かれていない。これは消費者保護においては契約の締結時と解約時が問題とならず、契約内容と解雇時の保護が問題となるためである。
当事者の合意がない場合
- 合意がない場合は、最密接関係地法による(8条1項)この場合、労務提供地が最密接関係地法と推定される。この点、特徴的給付の推定(8条2項)は排除される。
- 労務提供地の適用は労働者の通常の期待に適い、使用者にとっても予見可能であること、労働市場における秩序維持という観点から、労働者保護及び労働契約の規律に関して労務提供地が最も利害関係を有していることからこのような推定規定が置かれた。特定できない場合は、雇れた事業所の所在地の法が推定される。
第11条
1 消費者(個人)と事業者(法人その他の社団又は財団及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人) との間で締結される契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が消費者の 常居所地法以外の法である場合であっても、消費者がその常居所地法中の特定の強行規定を適用 すべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、当該消費者契約の成立及び効力に関しその強行 規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。
2 消費者契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、第八条の規定に かかわらず、当該消費者契約の成立及び効力は、消費者の常居所地法による。
3 消費者契約の成立について第七条の規定により消費者の常居所地法以外の法が選択された場 合であっても、当該消費者契約の方式について消費者がその常居所地法中の特定の強行規定を適 用すべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、前条第一項、第二項及び第四項の規定にかか わらず、当該消費者契約の方式に関しその強行規定の定める事項については、専らその強行規定を 適用する。
4 消費者契約の成立について第七条の規定により消費者の常居所地法が選択された場合におい て、当該消費者契約の方式について消費者が専らその常居所地法によるべき旨の意思を事業者に 対し表示したときは、前条第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式は、専 ら消費者の常居所地法による。
5 消費者契約の成立について第七条の規定による選択がないときは、前条第一項、第二項及び 第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式は、消費者の常居所地法による。
6 前各項の規定は、次のいずれかに該当する場合には、適用しない。①事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地に所在し た場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地に赴いて当該消費者契約を締 結したとき。ただし、消費者が、当該事業者から、当該事業所の所在地と法を同じくする地にお いて消費者契約を締結することについての勧誘をその常居所地において受けていたときを除く。
② 事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地に所在し た場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地において当該消費者契約に基 づく債務の全部の履行を受けたとき、又は受けることとされていたとき。ただし、消費者が、当 該事業者から、当該事業所の所在地と法を同じくする地において債務の全部の履行を受けること についての勧誘をその常居所地において受けていたときを除く。③消費者契約の締結の当時、事業者が、消費者の常居所を知らず、かつ、知らなかったことに ついて相当の理由があるとき。④消費者契約の締結の当時、事業者が、その相手方が消費者でないと誤認し、かつ、誤認した ことについて相当の理由があるとき。
第12条
1 労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により 適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労 働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を 使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項に ついては、その強行規定をも適用する。
2 前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務 を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所 在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
3 労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成 立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべ き地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
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