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(15)国家領域 II:領域取得権限(原始取得と承継取得)【国際法】

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国際法解説シリーズ、国家領域その2。この記事では、国家領域の取得について、領域取得権限の原始取得及び承継取得についてまとめまています。

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国家領域の取得権限の意義と類型

  •  権原(title):国家が領域を法的に取得するための淵源をなす根拠及び証拠。
  • 19世紀から20世紀初頭にかけては、先占、添付、割譲、征服、時効。のちに併合も含むとする見解。
  • 区分:原始取得(original mode of acquisition)と承継取得(derivative) :取得地域が他国の領有下にあったかどうかで区別。ただし、効果が異なるわけではない。

原始取得

(1)先占 occupation
  • 無主の地に対して実効的な支配・占有をすること。
  • 17世紀、スペイン・ポルトガルによる「発見」の権原性主張に対する対抗概念 cf.グロティウス「現実の占有を伴わなければならない」

要件:

 ⒈ 国家が主体であること(私人が授権される場合も含む)

 ⒉ 無主地であること 

  • 19世紀には文明国でないことは無主地であるとされた。これに対し、当時の国家実行では社会的政治的組織を持った部族の領地に対しては、当該部族の首長との協定による承継取得であったとする見解(西サハラ事件)
  • しかし、国際法主体性が認められていないにもかかわらず、条約としての効力を認めることは不合理ではないか。

 ⒊ 実効的占有 effective possession 国家権力の実効的な表示ないし行使が必要 

  • 物理的占有説(土地の占有、定住など)と社会的占有説:支配権の確立があれば良い(判例)居住困難な無人島でも成立。東部グリーンランド事件でも確認。

cf.「発見」は合理的期間内に実効的占有によって権原を完結するための「未成熟な権原」である(パルマス島事件判決、なお時際法の原則を採用している)

 ⒋ 国家による領有意思:なければ「占領」となる。

(2)添付 accretion
  • 新しい土地の形成による領域拡大。
  • 事実により領有の効果。自然現象によるものと人工的造成によるもの。ただし、人工島や海洋構築物によるものは例外(海洋法60条8)

承継取得

(1)割譲 cession 
  • 国家の意思、とくに条約による領土の移転 有償・無償を問わない。ex.樺太割譲、米のアラスカ購入
  • 移転時期につき、19世紀は実効的占有の実現や引き渡しを要件とする。現代では、条約の発効日とする見解。しかし、条約の内容など個別的に対応する必要性。
  • 住民投票の問題:ナポレオン戦争以後正統性を高めるために多用されてきたが、法的要件としては考えられていない。
  • 一方、植民地その他非自治地域においては本国の領域とは「別個かつ異なる地位」が認められていることに留意(植民地独立付与宣言)
(2)征服 subjugation 
  • 武力の行使によって他国の領土の全部または一部を強制的に取得。実効的支配の確立と領有意思の存在が必要とされた。
  • 現代国際法における征服:武力不行使原則の確立→違法から権利は生まれない。
  • 合法性を承認してはならないとする不承認主義の一般化 
  1. 武力不行使原則が強行規範ないし対世的義務となった(ニカラグア事件)
  2. 不承認義務が一般国際法上の確立したとみれる実行 ex.友好関係原則宣言、ヘルシンキ議定書

判例ナミビア事件:「すべての国は南アフリカの占拠の「違法性を認める義務」と同国の行為の「合法性の承認を包含する」あらゆる行動・取引を慎む義務がある。

判例パレスチナの壁事件「イスラエルによる壁建設はパレスチナ地域の「事実上の併合 de facto annexation」に相当するものとし、友好関係原則における違法な領土取得の不承認義務の規定を再確認しつつ、「すべての国は壁の建設から生じる違法な状態を承認してはならない義務を負う」

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(3)時効 prescription
  • 土地の領有の意思を持って相当の期間、継続的かつ公然と占有することによって領有権を取得する形態。
  • 長期の時間の経過に一定の法的効果を付与することは法秩序に内在する要請とも言えるが、国際法上、時効制度の本質的要件が明確にされておらず、要件充足の判断機関も存在しないため機能していない=学説では否定的 

 cf.「黙認」と同視されることもあるが、これは主観的意思を重視。カシキリ・セドゥドゥ事件で、当事国は時効を援用したが、裁判所は判断回避。

(4)領域権の歴史的凝固論 historical consolidation of title
  • ノルウェー漁業事件で示唆:単に時間の経過だけを重視するのではなく、あらゆる歴史的・地理的・国際的要因を考慮して権限の凝固を認定する法理。
  • 領域主権の確定を関連する諸要素の総合的評価に依存する点で伝統的領域権限とは異なる。領土紛争の解決基準の判断要素として考慮されるべき

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(14)国家領域 I:領域主権と国家の構成【国際法】

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国際法解説シリーズ、国家領域その1。この記事では、領域主権及び国家領域の構成についてまとめました。領土取得権限及び領土紛争解決ついては第二部・第三部でまとめています。

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領域主権の法概念 

国家領域とは、国家主権の及ぶ範囲の空間を指すが、この立体的空間に及ぶ国家の権限を特に領域主権(territoril sovereignty)と呼ぶ。領域主権は以下のような特徴を有する。

  1. 立体性:領土・領海・領空で構成
  2. 包括性:当該地域における人・物・事象を支配
  3. 排他性:領域主権の結果として他の国家に対して排他的に主張が可能

法的性質

国家領域の法的性質をどのように捉えるべきか、学説は所有権説と権限説に分かれる。

(1)所有権説 dominium(客観説)
  • 私人と同様に国家がその領土を自由に使用し処分する権利、すなわち所有権に類する権利を有するとする立場。 
  • ローマ法から近世の絶対王政時代の家産制時代の支配的考えであり、国家の領土は世襲財産とする。
(2)権限説 imperium(支配権説)
  • 領土主権とはその領域内の人と物に対する支配権そのものを意味する。
  • 支配権説は有力であるが、「割譲」という現状がある以上、所有権という考えも排除できないため、今日では両説が包括的に認められる。

判例パルマス島事件仲裁判決:(国家主権は)国家間の関係においては独立を意味する。地球上の一部に関わる独立は、他国を排除して、そこに国家の機能を行使する権利である。

国家領域の不可侵

  • 領土保全原則(territorial integrity):伝統的には、領域国の意に反してその領土を武力的に奪取されないことを意味。ex.1815年の議定書におけるスイスの永世中立とその領土保全クリミア戦争後のトルコ
  • 20世紀以降、連盟規約や国連憲章が「領土保全と政治的独立」を標榜、武力不行使原則とともに確認、その後、植民地独立付与宣言や友好関係原則宣言等で言及、一般国際法化。
  • 国際司法裁判所(ICJ)は、ニカラグア事件において、領域主権尊重の原則の効果は、武力不行使原則と不干渉原則と不可避的に重なると判示。
  • 人民の自決権との関係:特に植民地の人民が自決権を行使して独立する場合、施政国の領土保全の侵害を構成しないものと解するべき。 

判例ケベック分離事件:植民地人民及び外国の姿勢下にある人民あるいは内的自決を否定された人民は分離権を有する。 

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領域管理責任の原則

  • 国家は、自国領域において排他的な領域主権を持つと同時に、自国の主権行使によって他国の権利を害してはならないという責任(領域管理責任を負う。この原則の違反は、国家責任を構成。
  • 「他人のものを害さないように自己のものを使用せよ」の命題に由来する義務であり、国内法の相隣関係の法理のアナロジーとして考えられる。
  • 古典的には、自国領域内における外国人保護(領域内における他国の権利保護)や大気汚染などの越境損害(自国領域外における他国の権利保護)の問題。
  • 近年では、自国領域内における武装勢力(テロリストなど)による他国に対する越境攻撃を防止する義務に発展。
  • しかし、その義務の懈怠ないし履行不能という不作為は、当該武装勢力の行為を国家に帰属させるかという問題について、ICJは、管理不能というだけでは領域国家に帰属しないと判示コンゴ領域における軍事活動事件)

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(1)領域国内にある他国の権利侵害
  1. 人による侵害:外国人を相当な注意(due diligence)をもって保護する責任
  2. 物による侵害:他国を侵害する危険を了知している場合に必要な措置をとる責任
  • パルマス島事件(1928年)では、領域主権はそのコロラリーとして、領域内において他国の権利を保護する義務があるとした。
  • コルフ海峡事件(1946年)では、他国の権利を侵害する行為のために自国の領域を使用させてはならないというすべての国の義務の存在を指摘し、アルバニアの責任を認める。

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(2)領域国外における他国の権利侵害
  • 元来は、自国領域内の外国ないし外国人の権益を保護の対象とするものであったが、近年では、領域外の外国権益の侵害を防止すべき原則として発展し、かつ、その侵害行為が私人や企業によるものであっても国家の管理責任を生じせしめる原則へと発展。
  • さらに、環境損害に関する独自の法原則へ(1972年ストックホルム人間環境宣言原則21→1992年リオ宣言原則2)

判例】トレイル溶鉱所事件仲裁判決(1941年):いかなる国も他国に重大な結果をもたらす形で自国の領域を使用したりその使用を許容する権利を有しない。

国家領域の構成

  • 特定の国の領域主権の及ぶ国家領域は、領土とそれに付随する領水(領海と内水)、及びそれらの上部の領空から構成
  • これに対し、いずれの主権または領有にも服さない国際公域として、公海、公海上空、深海底南極大陸、宇宙空間などがある。

cf.国際化区域:国家領域のうちで特に国際的利用に供された特別の法的地位を持つ区域。

領土

  • 国家領域の中核であり、国家の存立要件。
  • 割譲すれば、それに付随して領海と領空も移転、領土に対する領域主権は排他的かつ包括的性質。
  • 国際法上の制限として、主権免除、外交特権など。

領水

内水(internal water)と領海(territorial sea)を合わせた水域。後者につき、外国船舶の無害通航権が認められるという違い(別記事参照)

領空

第一次世界大戦後、航空国際条約は、「すべての国はその領域上の空間において完全かつ排他的な主権を有する」とし、1944年のシカゴ国際民間航空条約(ICAO条約)でも確認。

  • 水平的限界:領土ないし領域の外側の限界
  • 垂直的限界:争いあり。実効的支配説、地球引力説、大気圏説、航空機揚力説、人工衛星最低軌道説など。

cf.1967年宇宙条約は宇宙空間に対する「主権の主張」を禁止、そこでの活動の自由を求める

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【国際法判例】在テヘラン米国大使館人質事件(ICJ本案判決)

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国際法判例シリーズ。この記事では、在テヘラン米国大使館人質事件のICJ本案判決についてまとめています。

【事件名】在テヘラン米国大使館人質事件

【当事国】米国 v. イラン

【判決日】国際司法裁判所(ICJ)本案判決:1980年5月24日

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経緯(仮保全措置命令以降)

  • 1979年12月15日、ICJは人質の解放、大使館の明渡し等を内容とする仮保全措置を命令。
  • 1980年4月24日、米軍は海軍ヘリによる人質救出作戦を行うも失敗。米国は、安保理への報告の中で、これは国連憲章51条に基づく自衛権の行使であり、自国民救済のための人道目的の措置と説明。同年5月24日には判決。最終的にはアルジェリアの仲介を待って1981年1月19日に達成。

判決要旨

  • イラン側は不出廷であるが裁判可能(前出)
  • 法律的紛争と政治的紛争は不可分である=混合紛争論(前出)
ICJと安保理の同時係属について
  • 国連憲章12条は「総会」について制限しているが、裁判所については規定せず。
  • 法律的紛争を解決することは、国連の主要な司法機関である裁判所の任務である。
  • 法律的な解決は紛争の平和的解決の決定的な要因になりうる。
  • したがって、安保理と裁判所が同時に活動することは可能である。
管轄権の基礎

外交関係条約議定書と領事関係条約議定書

国家責任の有無:義務違反行為のイラン政府への帰属
  • 原則として、大使館を襲撃した過激派学生は公的地位を有していたとは言えず、また、イラン国の権限ある当局から具体的な任務を与えられ国家のために行動していたとは立証されなければならないが、そのような関係は認められないため、過激派学生の行為をイラン政府に帰属させることはできない。
  • しかし、イラン自身の不作為=米国大使館及び領事館、館員、公文書及び通信手段の保護、館員の移動の自由の確保のための措置を講じなかったことは、ウィーン外交関係条約及びウィーン領事関係条約条の義務のみならず一般国際法上の義務に違反している。よってイラン自身の行為は明白で重大な義務違反を構成する。
  • また、大使館占拠後、イラン政府はあらゆる努力手段を講じ占拠を終了させなければならない義務が存在したにもかかわらず、そのような措置は取られず、加えて、学生による占拠を承認し、ホメイニ師自身が大使館占拠及び人質行為をを支持を明瞭にした。これらにより大使館占拠及び人質行為は国家の行為へと変容した。
責任阻却事由の有無
  • イランは、米国が25年以上にわたりスパイ活動を行い、国内問題への介入を行ってきたと主張。これはイランの行為を正当化する特別な事情と言えるか。
  • 同主張が立証されたとしても、イランの行動を正当化できない。外交法の規則は自己完結的な制度であり、違法行為に対する防衛及び制裁として取り得る必要な措置を規定している(外交関係条約9条及び領事関係条約23条1項及び4項のペルソナ・ノン・グラータなど)=外交法に認められた以外の制裁行為は許されない。
  • 米国の人質救出作戦はいかなる動機によるものであれ、国際関係における司法過程への尊重を害する行為であり、また、裁判所による両国に対する紛争を激化させない命令を想起させる。しかし、この行為の合法性については申し立てられておらず、またこの行為はイランの行為に対する評価とは無関係である。
  • したがって、裁判所は、国際条約及び確立した一般国際法上の義務違反を認定し、イランの国家責任及び賠償義務を認める。その上で、人質の解放、出国の保証、大使館及び領事館の明渡し、及び館員の身分保障を命じる。 

論点

  • 裁判所は伝統的な政治的紛争論を否定。ここから裁判所と安保理の同時係属の可能性があるがこれを容認。しかし、この点につき争いがある。
  • 私人の行為であっても、国家に国際法上の防止義務違反がある場合、国家責任が発生することを確認。私人の行為を国家が承認した場合にも国家に帰属(国家責任条文11条で採用)することが明らかにされた。
  • 米国の人質救出作戦につき、裁判所は非難はしたが、自国民保護のための武力行使の合法性については判断せず。またイランは不出廷のため、仮保全措置命令違反かどうかについても検討されず。
  • 自己完結制度とは、外交法上、必要な救済策が規定されており、それ以外の対抗措置はとりえないという考え方であるが、一般国際法上の対抗措置が禁じられているわけではない。またペルソナ・ノン・グラータによって外交官を追放してもそれが真の問題解決になるかは疑問が残る。

 

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旧在テヘラン米国大使館(2016年3月3日撮影)

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(13)単位法律関係 II 契約(2)【国際私法】

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準拠法の事後的変更

  • 法例には明確な規定がなかったが、通則法は、当事者が契約準拠法を事後的に変更することを正面から認める(9条)遡及効については当事者の意思解釈による。
  • ただし、第三者の権利を害することになる場合は、その変更を第三者に対抗できない。契約締結時に決定された準拠法による規律を前提として利害関係に入った第三者は準拠法の変更により本来主張できた抗弁を主張できなくなるなどの不都合を防ぐため。ex.契約債務の保証人、第三者のためにする契約の第三者

第9条 当事者は、法律行為の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。た だし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない。

契約準拠法の適用

  • 契約の成立
  1. 実質的成立要件:申込み・承諾の意思表示、目的物の特定の要否など
  2. 形式的成立要件:書面や公正証書といった契約の外部的形式に関する成立要件(10条)10条によると、契約締結地法か契約準拠法に適合した者であれば有効とされる。
  • 契約の効力:拘束力、内容、各条項との合法性、契約不履行の場合の効果など。履行についても、行われるべき給付の性質や範囲を決定するのは契約準拠法による。

第7条

法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。
第8条

1 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時 において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。

2 前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものである ときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有 する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に関係する二以上の事 業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主たる事業所の所在地の法) を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。

3 第一項の場合において、不動産を目的物とする法律行為については、前項の規定にかかわら ず、その不動産の所在地法を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。

第10条

1 法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法(当該法律行為の後に前 条の規定による変更がされた場合にあっては、その変更前の法)による。

2 前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。

3 法を異にする地に在る者に対してされた意思表示については、前項の規定の適用に当たって は、その通知を発した地を行為地とみなす。

4 法を異にする地に在る者の間で締結された契約の方式については、前二項の規定は、適用し ない。この場合においては、第一項の規定にかかわらず、申込みの通知を発した地の法又は承諾の 通知を発した地の法のいずれかに適合する契約の方式は、有効とする。

5 前三項の規定は、動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利を設定し又は 処分する法律行為の方式については、適用しない。

弱者保護に関する特則

  • 非対称的な交渉力により弱者たる契約当事者が強者たる契約当事者に提示された不利な選択を認めざるを得ないという状況が生じる可能性がある

消費者契約(11条)

  • 定義:個人と事業者との間で締結される契約
準拠法の決定
  • 当事者が選択した法が消費者の常居所地法以外の場合、消費者がその常居所における特定の強行規定を適用すべき旨の意思表示を事業者に対し表示したときは、契約の成立及び効力に関して当該強行規定が適用される。一定の状況のもとで、消費者に対し常居所強行法規が与えている保護を享受させる趣旨。表示を要求するのは、裁判所が消費者に有利かどうかを職権で比較することは困難であるから。
  • 当事者に合意がない場合は、消費者の常居所地法による。端的に生活環境の法であるものを選択する趣旨。特徴的給付の理論を排除。
  • 方式に関する特則:選択的連結によると契約が成立しやすくなることにより消費者に不利になりかねないことから特則(11条3項・4項)
準拠法の適用
  • 消費者契約の成立、内容及び効力に関する問題について適用。成立内容については、合意の有無、意思表示の瑕疵、情報提供義務、約款の契約内容への組み込みなど。効力につき、危険負担、同時履行の抗弁権、債務不履行責任など。
適用除外(11条6項)
  • 能動的消費者に対する適用除外:国内的にのみ活動している事業者の準拠法に関する予測可能性を保護
      1号:消費者自らが事業者の事業所に赴いて消費者契約を締結する場合 ex.旅行中の契約
      2号:消費者が自ら事業者の事業所に赴いて消費者契約に基づく債務の全部の履行を受けたとき 
      但書き:消費者が事業者の事業所における消費者契約の締結または履行につき、勧誘をその常居所地で受けていた場合は適用あり(ただし一般的な広告は含まない)
  • 事業者側の事情による適用除外:消費者よりもむしろ事業者を保護すべき場合
      3号:事業者が消費者の常居所を知らず、かつ、知らなかったことについて相当の理由があるとき
      4号:事業者がその相手が消費者でないと誤認し、かつ誤認したことについて相当の理由があるとき

労働契約(12条)

  • 対象となる労働契約の定義は解釈によるが、一般的には、個人による労務の提供、相手方による賃料支払い、労務提供者が契約相手方の指揮命令に服することを基準とする。
当事者の合意がある場合(1項)
  • 基本的には7条の当事者自治の原則が妥当し、選択した法が当該労働契約の最密接関係地法以外の法である場合、労働者が最密接関係地法における特定の強行法規を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関してその強行規定の定める事項につき、当該強行規定をも適用する。
  • 消費者契約とは異なり、常居所地法ではなく、最密接関係地法という一般的指針が挙げられている点である。これには推定規定(2項)があり、労務の提供すべき地が最密接関係地と推定され、もし労務提供地が特定できない場合には当該労働者を雇い入れた事務所の所在地法が最密接関係地法と推定される。
  • これは、解雇された国から別の国に派遣されて労務を提供している場合や国際線の航空会社で働く正社員のようにベースとなる国とは別に複数の国で労務を提供している場合など労働契約は多様であり、労務提供地法が労働者保護にとって必ずしも適切であるとは言えないからである。
  • また消費者契約については方式に関する特則が置かれているのに対して、12条には置かれていない。これは消費者保護においては契約の締結時と解約時が問題とならず、契約内容と解雇時の保護が問題となるためである。
当事者の合意がない場合
  • 合意がない場合は、最密接関係地法による(8条1項)この場合、労務提供地が最密接関係地法と推定される。この点、特徴的給付の推定(8条2項)は排除される。
  • 労務提供地の適用は労働者の通常の期待に適い、使用者にとっても予見可能であること、労働市場における秩序維持という観点から、労働者保護及び労働契約の規律に関して労務提供地が最も利害関係を有していることからこのような推定規定が置かれた。特定できない場合は、雇れた事業所の所在地の法が推定される。

第11条

1 消費者(個人)と事業者(法人その他の社団又は財団及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人) との間で締結される契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が消費者の 常居所地法以外の法である場合であっても、消費者がその常居所地法中の特定の強行規定を適用 すべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、当該消費者契約の成立及び効力に関しその強行 規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。
2 消費者契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、第八条の規定に かかわらず、当該消費者契約の成立及び効力は、消費者の常居所地法による。


3 消費者契約の成立について第七条の規定により消費者の常居所地法以外の法が選択された場 合であっても、当該消費者契約の方式について消費者がその常居所地法中の特定の強行規定を適 用すべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、前条第一項、第二項及び第四項の規定にかか わらず、当該消費者契約の方式に関しその強行規定の定める事項については、専らその強行規定を 適用する。
4 消費者契約の成立について第七条の規定により消費者の常居所地法が選択された場合におい て、当該消費者契約の方式について消費者が専らその常居所地法によるべき旨の意思を事業者に 対し表示したときは、前条第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式は、専 ら消費者の常居所地法による。
5 消費者契約の成立について第七条の規定による選択がないときは、前条第一項、第二項及び 第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式は、消費者の常居所地法による。
6 前各項の規定は、次のいずれかに該当する場合には、適用しない。①事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地に所在し た場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地に赴いて当該消費者契約を締 結したとき。ただし、消費者が、当該事業者から、当該事業所の所在地と法を同じくする地にお いて消費者契約を締結することについての勧誘をその常居所地において受けていたときを除く。
② 事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地に所在し た場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地において当該消費者契約に基 づく債務の全部の履行を受けたとき、又は受けることとされていたとき。ただし、消費者が、当 該事業者から、当該事業所の所在地と法を同じくする地において債務の全部の履行を受けること についての勧誘をその常居所地において受けていたときを除く。③消費者契約の締結の当時、事業者が、消費者の常居所を知らず、かつ、知らなかったことに ついて相当の理由があるとき。④消費者契約の締結の当時、事業者が、その相手方が消費者でないと誤認し、かつ、誤認した ことについて相当の理由があるとき。


第12条

1 労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により 適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労 働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を 使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項に ついては、その強行規定をも適用する。

2 前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務 を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所 在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
3 労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成 立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべ き地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。

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(12)単位法律関係 II 契約(1)【国際私法】

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総説

  • 19世紀、民法における契約自由の原則が国際私法にも影響、準拠法選択に関し、当事者自治の原則を採用。
  • 当初は、権利義務関係の創設には当事者の意思によれば十分なのであって、国家法は要しないとする立場もあったが、現代では、準拠法選択において連結点として用い、選択された準拠法は当事国の強行法規も含めて関連法規が全て適用されると理解。
  • その後の議論において、契約準拠法についても客観的な連結を目指すべきだという主張。これは、準拠法条項や契約締結地、債務の履行地といった当事者の意思に基づいた諸要素が事実として考慮されるべきものであるとするもの。
  • しかし、1980年の「契約債務の準拠法に関する条約」が契約準拠法について当事者自治の原則を正面から導入したこともあり、客観連結は主流とはならなかった。
  • また、懸念されていた契約と客観的に密接に関連する法秩序の強行法規が潜脱されるという恐れも、強行法規の特別連結により対処するという考えが受け入れられるようになっている。
  • 通則法も、契約の成立及び効力につき、当事者の準拠法選択を認めている(第7条)
通則法第7条 当事者による準拠法の選択
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

当事者自治の原則の根拠

(1)消極的根拠

 様々な類型の存在する契約一般に適切な客観的な連結点を見出すことは困難(準拠法の不明確さを回避し予測可能性を確保する)

(2)積極的根拠

 実質法上の契約自由の原則の投影、しかし直接の根拠とすると強行法規をも選択することが可能となり質的に異なることとなり問題。そこでその背後にある私的自治を根拠にする。実際上の利点として、両当事者に都合の良い法の選択ができること、十分な知識を有していること、通常は一定の関連性を有していること、予測可能性が保証されることがある。

当事者自治の原則の意味

  • 契約全体を規律する準拠法秩序を決定するものであって、そこには任意法規のみならず強行法規も適用。
  • ただし、法廷地の国際的な強行法規(輸出入管理法や外為法、競争法)の適用を排除することはできない。
  • また、第三国の国際的な強行法規が当該契約を適用の対象としている場合は、このような法規も考慮または適用されることがある。
  • なお、上記のような觝触法的指定だけでなく、特定の法規定を契約に挿入する実質法的指定も認められる。

当事者の選択による準拠法の決定

選択の対象となる法

  • 量的制限論=契約と指定される法の間に一定以上の密接関連性を要求するが、通説は、当事者の選択を積極的に評価し、当事者が取引に適切であるないし中立であると考えると考え、契約と関連のない法を選択することも許される。
  • この点、夫婦財産制に関する26条2項とは異なり、通則法7条は、当事者が選択できる法秩序に客観的な密接関連性は要求していないとするのが一般的な理解である。
非国家法の適用

 レークス・メルカトーリアやユニドロワ国際商事契約原則など国家法以外の規範を選択することは可能か。この点、国際私法は各主権国家の国家法秩序の觝触をその対象としてきたこと、非国家法の定義や内容などが不明確であることからこれを認めないとするのが従来の多数説。しかし実質的な改正はなされておらず、依然として解釈に委ねられている。

選択の方法

(1)当事者の合意
  • 明示の合意がないときに問題となる。従来は客観的な諸事情から当事者が選択したであろうと合理的に考えられるものを合理的意思とする、黙示意思の探求によるとされた。
  • 法例7条2項では当事者の選択がない場合は「行為地」によるとされたが、通則法ではこれが排除され、最密接関係地法の探求が8条によって委ねられる。
  • 黙示意思が認められる場合としては、契約中の条項が特定の法制度を前提としている場合、国際取引の慣行上の特定国の準拠法が標準になることが明らかである場合、継続的に取引を行っている場合にかつての契約に準拠法条項が挿入されていた場合などでは認められる。
(2)分割指定:(省略)
(3)準拠法選択行為の有効性
  • 意思の瑕疵があった場合、従来の通説は、国際私法独自の立場から判断し、この点に関する規定がないために我が国の国際私法の合理的解釈として、日本民法を参照しつつ、重大な錯誤に基づくときは無効、詐欺または強迫による場合は取り消しうるとしていた。
  • 近時の有力説は契約本体、準拠法条項、管轄合意条項について判断基準が統一的であることが望ましいという観点から、準拠法条項が有効であるならば適用されるべき法によってその有効性を判断すべきであるとしている。

当事者の選択がない場合の契約準拠法の決定(8条)

  • 通則法8条は、最密接関係地法によるとし、契約において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものである場合には、その給付を行う当事者の常居所地法が最密接関係地法であると推定される。ただし、不動産を目的とする契約については不動産所在地法を推定する。
通則法第8条 当事者による準拠法の選択がない場合
1 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。
 前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に関係する二以上の事業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主たる事業所の所在地の法)を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。
 第一項の場合において、不動産を目的物とする法律行為については、前項の規定にかかわらず、その不動産の所在地法を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。
(1)最密接関係地法
  • 具体的な連結点を定めることなく準拠法選択における基本的指針を示すにとどまっている。これでは予測可能性の欠けるため、2項、3項を置くことで一定の法的安定性を確保しとうとしている。
  • なお、考慮されるべき要素として、通則法は主観的連結(7条)と客観的連結(8条)に明確に分けていることから、考慮要素は客観的要素に限定されるべき。
(2)最密接関係地法の推定
  • 特徴的給付の理論(2項):特徴的な球をなすべき当事者の常居所地法が最密接関係地法であると推定される。従来主張されていた契約締結地や履行地などの連結点は契約の本旨に関係のない契約の外形的要素による画一的な連結として退け、契約が属する社会経済的環境との連結を目指し、契約において契約当事者の一方により通常行われる金銭給付ではなく、物の引き渡しやサービスの提供といった他方当事者の反対給付を重視する考え方である。
  • ただし、当該契約において特徴的給付が決定できない場合は、この推定規定は適用されず、1項により直接最密接関係地法が探求されることになる。2項ただし書きは事業所がある場合は当該事業所の所在地法が最密接関係地法と推定される。これは特徴的給付の理論が契約において職業的行為が行われている点を重視することから、当該契約における点を重視することから、当該契約に関する行為を反復継続的に行っている事業者についてはその者の生活の本拠である常居所ではなく、当該契約に関係する事業所の方が連結点としてふさわしいと考えられたからである。
  • 不動産を目的とする契約(3項):通常所在地と密接に関係していると考えられる。登記や登録が通常問題となるため。
(3)推定に対する例外

 1項は個別具体的な場合において推定を覆す例外条項として機能する。

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