Dancing in the Rain

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【メモ】司法権の限界(統治行為論と部分社会論)

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昔、大学の憲法の勉強会のためにまとめたものが今活きてきそうなので、自分の中での整理のため整理してアップしてみました。

統治行為論

統治行為論とは、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為については、法律上の争訟として裁判所による法律的な判断が理論的には可能であっても、その高度の政治性ゆえに司法審査の対象から除外されるべきとする理論。

主要判例

砂川事件判決では、政治的裁量論と統治行為論を合わせた理論を展開(ただし合憲判断を行っている。)。
苫米地事件判決では、純粋な統治行為論を採用したと言える。論拠としては内在的制約説を採る(後述)

(1)砂川事件判決最大判昭和34・12・16刑集13巻13号3225頁)

【事実】Yらは、米軍飛行場の拡張計画への反対運動の際、境界柵を破壊して飛行場内に入ったため、この行為が、刑事特別法2条違反(正当な理由なく米軍施設に立ち入る罪)として問われた。第一審の東京地裁判決は日米安保条約憲法違反としたうえで、被告人を無罪としたが、検察側は最高裁に跳躍上告した。

【判旨】 破棄差戻し
「本件安全保障条約は、主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度の政治性を有するものというべきであって、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣及びこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点が少なくない。…従って、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の審査外であって…」

(2)苫米地事件判決最大判昭和35・6・8民集14巻7号1206頁)

【事実】 吉田内閣が1952年(昭和27)年8月28日に行ったいわゆる「抜き打ち解散」に関し、衆議院議員であったXは、本件解散によって議員としての地位を失った結果、歳費を受けられなくなったため、任期満了までの歳費の支払いを求めた。第一審は、Xの請求を認容したが第二審は、請求を棄却したので、Xが上告した。

【判旨】 上告棄却
「直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである」「司法権に対する制約は、結局、三権分立の原理に由来し、当該国家行為の高度の政治性、裁判所の司法機関としての性格、裁判に必然的に随伴する手続上の制約等にかんがみ、特定の明文による限定はないけれども、司法権憲法上の本質的に内在する制約と理解すべきである。」

学説

統治行為論による憲法判断を回避することを認める根拠について、学説は、自制説、内在的制約説、折衷説に分かれる。

(1)自制説

統治行為は重大な政治問題であり、司法審査を行うことによる混乱が生じて収拾がつかなくなる恐れがあるため、そのような混乱を回避するために、政策的観点から裁判所が判断を控えるべきであるとする説。

(2)内在的制約説(判例

三権分立下の司法権の本質に内在する制約であるとする説。すなわち、政治的に無責任な(民主的正統性の乏しい)裁判所は高度に政治性を帯びた国家行為を審査するべきではなく、国民の意思を尊重し、政治部門に判断を委ねるべきであるとする。

(3)折衷説(芦部・佐藤幸治 

統治行為として司法判断が回避されるべき場合があることは認めつつ、その判断については、様々な要素を勘案して個別具体的に判断するべきとする。

統治行為論に対する批判

裁判所は「統治行為論」の術語を用いたわけではない。そもそも統治行為論とは、行政裁判制度を前提とするフランスの理論であって、一元的な裁判制度をとる日本国憲法とは相容れるものではない。また、統治行為を認めるとしても、裁判所による司法審査を制限するものであるから、その概念と範囲を厳しく制限すべきである。

統治行為は憲法の明文上の根拠もなく、内容も不明確な概念であるから、機関の自律権・自由裁量論で説明できるものは除外されるべきである。

(上記2判例を対比して)純粋な国内的問題であるにもかかわらず司法裁判権は及ばず、対外的・国際的問題についてはそれが及ぶという一種のアンバランスが生じている(大石)

なお、統治行為論を言及した最高裁判例は少ない。議員定数不均衡訴訟では、被告国側は援用するも、採用されていない。下級裁判所においては、主に自衛隊の合憲性につき統治行為論が採用された。(長沼ナイキ事件、百里基地訴訟等)

部分社会論

団体の内部事項に関する行為について、例えば地方議会、大学などの内部紛争に関して、法律上の係争であれば司法審査に服するという原則の例外を認め、純粋に内部事項の場合には、事柄の性質上、それぞれの団体の自治を尊重して、司法審査を控えるべき場合がある。

ここでは部分社会論という考え方が援用されている。これは大学であれば大学内での法規範、協会であれば協会内での法規範、というように多様なコミュニティの中に各々ある自律的な法規範の存在を認め、法秩序の多元性を認める考え方である。このような考え方のもとでは各コミュニティー内での自律な法規範による組織と運営が尊重される。

地方議会

村議会出席停止事件(最大判昭和35・10・19)において、「自律的な法規範をもつ社会ないし団体に在っては、当該法規の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがある」とし、本件懲罰はそれにあたるとした。その一方で、議員の除名処分は単なる内部規律の問題にとどまらない(=市民法秩序につながる)ため司法審査が及ぶとしている(最大判昭和35.10.19)

大学

国立大学の単位認定が争われた富山大学事件(最判昭和52.3.15)で最高裁は、大学は「一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成している」とし、「単位授与行為は、他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情がない限り、純然たる大学内部の問題として大学の自主的・自律的な判断に委ねられるべき」とした。また、同時に学生が専攻科修了の要件を充足したにもかかわらず、大学がその認定をしないときは司法審査の対象になるとしている。

政党

党員の除名処分の効力が争われた共産党袴田事件最判昭和63・12・20)において最高裁は、政党が結社の自由に基づき任意に結成される政治団体であり、かつ、議会民主主義を支える極めて重要な存在であるから「高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をなしうる自由を保障しなければならない」としたうえで除名処分も自律的な解決に委ねるのが相当とした。

なお、「憲法講義 Ⅰ 」(大石)では、団体の内部問題について「司法権の限界」として位置付けるのではなく、「法律上の争訟」の成否の問題として考えるべきだとしている。

参考

【国際法判例】リギタン島・シパダン島に対する主権事件(ICJ判決)

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国際法判例シリーズ。この記事では、リギタン島シパダン島に対する主権事件のICJ判決についてまとめています。

【事件名】リギタン島シパダン島に対する主権事件

【当事国】インドネシア v. マレーシア 

【判決日】国際司法裁判所(ICJ)判決:2002年12月17日

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事実と経過

  • マレーシアは、無人島だったボルネオ島北東のリギタン島シパダン島に観光施設を建設し、自国領として主張。
  • インドネシアは、英蘭条約(1891年)4条を根拠に領有権を主張。同条によると、ボルネオ島内の蘭領と英保護領の境界線は、東岸北緯4度10分の地点からスバチク島を横切り同緯度に沿って東方に続くものとされたが、インドネシアは、当該境界線がスバチク島東岸にとどまらず、さらに東方の2島まで続き、同緯度より南の2島はボルネオ島の付属として自国に帰属するとした。
  • マレーシアは、2島に対する主権は、スル王からスペイン、アメリカ、イギリス、自国へと承継されてきたと主張。また選択的に、もし2島がオランダ領であったとされた場合でも実効的支配によって権原が自国に移ったとした。また英蘭条約4条の「スバチク島を横切りacross」とは、同島西岸から東岸で終わるという意味であり、その東方にある2島は含まれないとした。
  • 両国は国際司法裁判所(ICJ)の管轄権を受諾していなかったため、2島の主権の所在を裁判所に付託する協定を1996年に締結。

判決要旨

  • マレーシアよるリギタン島及びシパダン島に対する領有意思は相当期間に渡って示されており、したがって実効的支配を根拠に2島に対する主権はマレーシアに帰属する。

1891年の英蘭条約4条の解釈

  • 条約法条約第31条及び第32条は国際慣習法を反映。よって条約法条約の当事者でないインドネシアにも適用可能。
  • 同条約第4条の「横切りacross」という文言からは、境界線がスバチク島東岸で終わるのか、そこから東方まで続くとも明らかでない。曖昧ないでない規定も可能であったのにそうしていないのはマレーシアに有利である。よって条文(text)の解釈では決定できない。
  • 同法批准のためにオランダ議会に提出された法案付属の地図は、2島について触れていない。また、英国に伝達されておらず、反応もなかったため黙認されたとも言えない。よって同地図は条約法条約31条2項の関係合意でも関係文書でもない。
  • 条約の「趣旨及び目的(object and purpose)」について、同条約の前文は「ボルネオ島内(in)」という文言から同島より東方についてまで定める目的を持つものではない。
  • したがって、英蘭条約4条は2島に対する主権を確定する領土分割線を定めたものではない。

マレーシアの権原承継

  • 1878年にスル王からスペインに譲渡した島に2島の名前はない。
  • 1900年米西条約で、スペインがアメリカに譲渡した島にも2島の名前はない。
  • 1930年英米条約で、アメリカは2島への主権を主張しておらず、それがイギリスに譲渡されたとは明言できない。
  • したがって、イギリスから独立したマレーシアによる権原承継の主張は認められない。

実効的支配(effectivites) の問題

(1)考慮すべき要素
  • 実効的支配に基づく主権の主張は、主権者として行動する意図と意思(intention and will)及び主権の行使(actual ecsercise)が必要である。
  • 人口の希薄な地域(thinly populated or unsettled countries)については、他国が優越する主権を主張していない限り主権の行使はわずかで良い(PCIJ 東部グリーンランド事件判決)
  • 決定的期日(両国が権利を主張し始めた1969年)以前の行為が考察されるが、それ以降の行為であっても、以前から続く行為であり、自己の法的立場(legal position)を有利にするため取られたものでない行為は考察される。
  • 考察される行為が一般的性格の立法的・行政的行為の場合、その文言や趣旨から2島が特定される場合は、実効的支配を構成する行為といえる。
(2)具体的検討
  • オランダ=インドネシア海軍による偵察及び漁民の活動は、2島がその主権下にあるとみなしていたとを証明しない。
  • 群島基線を定めた1960年のインドネシア法は2島に触れていない。
  • 米国が1930年条約で諸島を放棄したとき、どの国も主権を主張せず、北ボルネオ=イギリスの管理に抗議しなかった。
  • 北ボルネオは、1917年ウミガメ保護令によりシパダン島等でのウミガメ捕獲と卵の採取を許可制にし、1954年の許可の対象には2島が含まれていた。
  • 北ボルネオによる、1933年の土地令の鳥類保護区の対象にシパダン島が含まれていた。
  • マレーシアが2島に灯台を建設した際(1960年代初頭)、インドネシアはその土地が自国領であると指摘しなかった。(ただし、通常は灯台建設は主権の行使とはみなされない cf.カタールバーレーン事件判決)
  • したがって、マレーシア=イギリスによる立法的・行政的、準司法的行為(legislative, administrative and quasi-judicial acts)は相当期間( a considerable period of time)継続し、かつ、2島に主権を行使する意思が明確に示されている。よって、実効的支配を根拠に2島に対する主権はマレーシアに帰属する。

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(3)国際法の法源 II:法の一般原則と実質的法源

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この記事は、国際法法源(形式的法源の法の一般原則と実質的法源)についてまとめています。

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形式的法源 II

形式的法源は、国際司法裁判所(ICJ)規程によると条約、慣習法、及び法の一般原則に分類される。

法の一般原則

(1)意義
  • 国際司法裁判所(ICJ)規程第38条1項(c)「文明国の認めた法の一般原則」(general principles of law recognized by civilized nations)=PCIJ規程を踏襲。ただし、「文明国」は無意味化。 
  • 意義:各国の国内法(特に私法や手続法)に共通する一般的な法原則であって、国家間の関係にも適用性のあるものを指す。
  • 自然法との関係は明らかでないが、起草過程からはこれに対するものとして考えられたとの見方。cf.38条2項の「衡平と善」は自然法
  • 法の一般原則の例として、責任発生の諸原則、禁反言(エストッペル)、信義則、権利濫用、証拠能力、既判力、訴えの利益など。
  • 直接の契機は裁判不能による適用法規不在の防止=法の欠缺の補充
(2)法源上の地位 
法源性否定論
  • あくまで国内法の原則にとどまり、それが当然に国際法規範性を有するものではない。それゆえ条約や慣習国際法に受容されることが必要(トゥンキン)
  • 国内法の規則が国際裁判の準則になったからといってただちに国際法規範性をもつことにはならない(横田、高野)
  • 法の一般原則は裁判所規程という条約によって受容されたことで国際法としての効力を有するにすぎない(田畑)
法源性肯定論
  • たしかに裁判規範と行為規範は法的には区別されるが、通常は裁判規範は同時に行為規範をなすものと認識されるはず。今日では国際裁判一般の裁判準則になっており、またその規範内容の実体は条約や慣習国際法とは別の淵源をなしていることから、独自の形式的法源としての地位を認めても良いのではないか(杉原)

実質的法源

  • 形式的法源をなす法規の生成原因、その基礎または証拠をなすもの ex.裁判例、学説、決議、宣言、未発効条約、条約採択会議の作業記録・報告書など。

国際判例

  • ICJ規程38条① (d):補助的手段として「裁判上の判決」judicial decisions =国内裁判も当然に排除されるわけではない。
  • 実際にはICJの判例は形式的法源同様の働きがあるが、判例は何が法であるかの補助的手段でしかなく、また規程は判決の先例拘束の原則を認めていない。(59条参照)
判例の機能
  • 多数国の条約解釈に影響 ex.国連憲章(国連経費事件等)、外交関係条約(在テヘラン米大使館事件)、領事関係条約(ラグラン事件)
  • 慣習国際法の存否または内容の確定機能 ex.国際海峡における無害通航権(コルフ海峡事件)、集団的自衛権ニカラグア事件)、国家責任条文における違法性阻却事由(ガブチコボ事件)
  • 判例法創造機能:創造的に宣言され法がのちに一般条約に受容あるいは慣習法化 ex.領海の直線基線方式と海洋法・領海条約(ノルウェー漁業事件)、留保の許容性と条約法条約(ジェノサイド条約留保事件)

学説

ICJ規程38条1項(d):権威ある学説を補助的手段として規定。ICJは特定の学説を直接引用しないことを慣例としている。

国際機構の決議

一般には勧告的性質を有するにすぎないが、すべての国を対象とする一般的内容の決議、とりわけ国連総会が採択する決議・宣言で普遍的な規範創設をめざすものもあり。

現行条約解釈決議
  • 友好関係原則宣言(1970)、侵略の定義に関する決議(1974) 前者につき、「本決議自体によって宣言された規則の妥当性の承認」たる意味を持つ(ニカラグア)=法明確化機能
慣習国際法宣言決議
  • 領域内庇護宣言(1967)、拷問禁止宣言(1975)、天然資源に対する永久主権決議で示された国有化の諸原則(1962)
国際法生成促進決議
  • 世界人権宣言(1948)ー国際人権規約(1966)、深海底原則宣言(1970)ー海洋法第11部(1982) 
※慣習法の生成は困難:核兵器使用の合法性事件では、核兵器禁止決議が相当多数の賛成によって決議が採択されてきた事実はその使用を違法とする広範な社会的願望を示す、他方で法的確信が育まれつつあるものの、核抑止力に依然として依存する勢力が存在する事実により、その成立は阻まれるとした。

ソフト・ロー論

  • 現行の法規範を意味する「ハード・ロー」に対比される概念であって、厳密な意味での法とは言えないものの、なんらかの規範性を持つことが期待されるもの。
 ex.ヘルシンキ最終議定書、環境と開発のリオ宣言、経済的分野についての行動綱領(codes of conduct)、国際法生成促進決議
  =国際法規範の相対化、国際裁判の不安定化

その他の実質的法源

衡平(equity)
  • 19世紀仲裁裁判において、裁判準則として国際法に加えて適用が求められてきた。
  • 裁判不能の防止と厳格な実定法規適用の緩和 多義性:法に内在する衡平、法に反する衡平、法の外の衡平 ICJ規程38条の「衡平及び善」とは区別された「法の一般原則」として適用 cf.「衡平及び善」=超法規的正義は当事者の合意による。
人道的考慮(humanitarian consideration)
  •  領海内に敷設された機雷の存在を通報しなかったことが沿岸国の義務違反とした、コルフ海峡事件では、その義務は「人道の基本的考慮」に由来するとした。
  •  ジェノサイド条約適用事件では、人道的・道徳的性格を考慮して、本条約の規則が「対世的権利義務」たる性質をもつとした。
  •  核兵器使用の合法性事件では、国際人道法は「人間の尊重と人道の基本的考慮」にとって根本的な要素を含むので、ハーグ・ジュネーブ諸条約の基本的規則は「侵すことのできない慣習国際法の原則」とした。

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一方的行為(国家の一方的宣言
  • 核実験事件のフランスの一方的宣言が多く引用、しかし特異なケースで一般化は避けなければならない。
  • しかし、一国の国家行為が、諸国の一般的需要を通して慣習法成立の契機になることはある。

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国際法法典化と国際立法

  • 法典化条約の特質:国際法委員会(ILC)による法典化作業 広範な国家実行や先例により既に存在する規則を定式化・体系化すること=現行法の成文化
  • 漸進的発達progressive development)」:未だ国際法が規律していないかあるいは国家実行が十分でない事項について発展的に条約化をはかること=法創設的作業。
  • 宣言的効果(declearatory effect)、結晶効果(crystallizing effect)、生成効果(generating effect)

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(18)海洋法 II:国際海峡・大陸棚・排他的経済水域【国際法】

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国際法解説シリーズ、海洋法その2です。この記事では、国際海峡における強化された無害通航権通過通航権、大陸棚と排他的経済水域EEZ)制度についてまとめました。

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国際海峡

  • 領海12カイリ制の確立にともない、国際的航行に使用される多くの海峡は領海化されることになる一方で、海峡は海上通商の要衝として船舶の通行が特に重視される。
  • 伝統的国際法の下では領海化された国際海峡には強化された無害通航権が適用されてきたが、海洋法は新たに通過通航権を創設。

強化された無害通航

  1. 沿岸国はその海峡の無害通航制度を停止することはできない(45条2項)沿岸国による当該海峡の閉鎖等の措置を禁止。cf.通常の領海では、自国の安全の保護のために不可欠である場合(25条3項)
  2. 軍艦の通航権が認められる「平時においては国家はその通行が無害であることを条件に、公海の2つの部分を結ぶ国際航行に使用される海峡において沿岸国の事前の許可を受けることなく自国の軍艦を通行させる権利をもつ」(コルフ海峡事件)
  3. 潜水艦を含む潜水船は浮上航行しなければならず、外国の航空機は海外上空の飛行権を有しない。

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国際海峡の基準

  1. 地理的基準:公海の2つの部分を結ぶ海峡。領海条約で、一方が他国の領海とのあいだにある海峡も。
  2. 機能的基準:国際航行(international navigation)に使用される海峡であること。

通過通航制度 transit passage

  • 第三次海洋法会議で米ソは伝統的な海峡制度に批判的。①無害性判断の恣意性②潜水艦の潜水航行③軍用機機の上空飛行
  • スペイン、モロッコインドネシア等海峡諸国は逆に無害通航の厳格な適用を要求。英は通過通航制度を提唱。
  • 意義:国際海峡における「継続的かつ迅速な通過の目的のための航行及び上空飛行の自由」(38条②)
  1. 無害性が通行可否の直接の基準とされていない
  2. 上空飛行(軍用機含む)の自由が明記
  3. 潜水航行の可否については明示規定なし
  • 公海または排他的経済水域の一部分とそれらの他の部分を結ぶ海峡で国際航行に使用されるものに適用。それ以外には無害通航(他の国の領海との間にある海峡も含む)(45条) 

大陸棚

  • 大陸棚が国際法上問題となったのは第二次世界大戦後。大陸棚に関するアメリカのトルーマン宣言(1945年)同宣言は、アメリカの沿岸の大陸棚の海底と地下資源は米に属し、同国の「管轄と管理」に服するものとする。
  • 各国は相次いで大陸棚宣言・立法、国際法委員会は不統一と混乱を収拾するため大陸棚条約の草案作成に着手。
  • 1958年大陸棚条約の成立。北海大陸棚事件では、同条約の1条から3条までの規定は慣習法規則を反映したものとする。1982年国連海洋法条約第6部:大陸棚の範囲等を修正して58年の条約を踏襲。

大陸棚の範囲

  • ①領土の自然の延長をたどる大陸棚辺縁部の外縁まで(棚状部分、大陸棚斜面、コンチネンタル・ライズを含む)または、②領海基線から200カイリの距離までの海底(76条)
  • ①につき、延長幅の最大限度は、基線から350カイリの線または2500メートルの等深線から100カイリ沖の線まで。いずれも沿岸国の判断に委ねられるが、措置は国連の大陸棚限界委員会の承認を得なければならない。
  • ②につき、200カイリに満たない場合でも、200カイリまでの海底までの一律に沿岸国の大陸棚とする

沿岸国の権利

  • 沿岸国は「大陸棚を探査し及びその天然資源を開発するため」の主権的権利を有する(77条①)

判例】オデコ会社事件(昭和57年、東京地裁):大陸棚での外国法人の活動に対する「主権の一側面たる課税権を当然に含む」

主権的権利とは

大陸棚に対して沿岸国に対して沿岸国が排他的で独占的権利を有すること、またそれが、無主物でも共有物でもないことを示す概念として導入。 cf.主権とは区別:大陸棚そのものに対する主権的権利ではなく機能的権利にすぎない。

排他的経済水域 Exclusive economic zone, EEZ

  • 1970年国連総会は73年から第三次海洋法会議を開催することを決定。中南米諸国は領海外の広い沿岸海域に対する資源管轄権を主張する構想を相次いで発表。
  • 1972年、アフリカ諸国のヤウンデ宣言は、沿岸国の基線から200カイリ水域の排他的経済水域EEZを提唱。当時台頭しつつあった新国際経済秩序構想の下に、自国の天然資源に対する永久主権の観念を海に投影。
  • 1974年、国連海洋法条約第5部に取入れ。早い段階でコンセンサス。一人歩きで各国の立法措置。

沿岸国の権利

  1. 天然資源の探査、開発、保存、管理のための、および経済的目的のその他の調査・開発活動のための「主権的権利
  2. 人工島、海洋構築物の設置、海洋の科学調査、海洋環境の保護・保全のための「管轄権」(以上56条)
  • 主権的権利は上部水域のみならず、海底とその地下にも及ぶが、条約は海底部分は大陸棚の規定によるとする。
  • 資源の「最適利用」を促進する目的で各国はその「最大持続生産量」を維持しつつ自国水域内での許容漁獲可能量と自国の漁獲能力を決定するものとし、そこに余剰分が生ずる時は協定を通して他国の入漁を認めなければならない(61・62条)

諸外国の権利

  • 資源に対しては沿岸国が主権的権利を有するものの、同水域の利用、船舶航行、上空飛行、海底電線及び海底パイプラインの敷設についてはすべての国に自由な使用が認められ、追跡権の行使や海賊の取り締まりなど他国の権利行使も可能(58条)
  • 資源の利用と管理に関するかぎり沿岸国の権限に服する海域であるが、他方、交通・通信等についてはなお従前の公海としての性格を止めている。

大陸棚の権利との異同

(1)権利の発生原因とその性格
  • 大陸棚:領土の自然の延長をなすものであり、それゆえに大陸棚の存在という自然的事実によって沿岸国は「当然かつ原初的」に、すなわち「特別の法的手続」を要することなく排他的かつ固有の権利を有する(北海大陸棚事件)
  • EEZ:沿岸国のその設定意思の表明が必要。
  • リビア・マルタ事件では、経済水域の制度は慣習法の一部をなすとしたが、それは条約発効前でも効果を有するということを表現したにすぎない 後天的権利としての性格。
(2)排他的権利性
  • 大陸棚:主権的権利は完全な排他性を持つ(77条②)
  • EEZ:上述の制限。また余剰分がなくとも途上国たる内陸国との地理的不利国の継続的な開発参加の規定(69条)

排他的経済水域と大陸棚の科学調査

沿岸国による同意方式:もっぱら平和目的でかつ全人類的利益のための科学知識を増進させるものは「通常の状況においては同意を与える」ものとし、他方、それが天然資源の探査開発に直接影響を及ぼすもの、あるいは採掘、爆発物の使用等を伴う場合は「裁量により同意を与えないことができる」とした(246条)

島と排他的経済水域

  • 島とは、「自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるもの」(121条①)
  • 島と岩の区別:島は、独自の領海、大陸棚、排他的経済水域を有する。ただし、「人間の居住または独自の経済的生活」を維持できないものは岩として、それらを有することはできない。

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(14)単位法律関係 III 法定債権(1)【国際私法】

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不法行為

総説

  • 法例11条は、不法行為法主義を採用。新たな類型の国際的不法行為に関して適切な準拠法を選択しない、偶然に決まる不法行為地が連結点として必ずしも適切ではないという点から批判。これに対する学説の主張は、①個別的不法行為に関する特則の導入、不法行為に関する準拠法のより柔軟な決定、③当事者自治の導入。
  • 通則法では、原則として加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、通常予見可能性がない場合は、加害行為が行われた地の法による。
  • 個別的不法行為の特則として、製造物責任(18条)及び名誉または信用の毀損(19条)についての特則がある。さらにこれらの規定により指定された法よりも明らかにより密接な関係を有する地がある場合の例外条項が置かれている(20条)当事者による事後的な準拠法の変更も認められている(21条)

一般不法行為 

  • 原則:結果発生地 法例11条は、隔地的不法行為に関して不明確
  • 加害行為地の秩序維持というよりも損害の公平な分配という点を重視
  • 結果発生地とは、法益侵害の結果が発生した地である。この点、二次的(後続)侵害は含まれないというのが一般的理解。
  • 結果発生地の特定が困難な場合、20条により個別的に最密接関係地法を探求。単一の行為により複数国で損害が発生する場合:個々の被害者ごとに決定可能
  • これに対し、ネットや衛生通信を通じた知財侵害や不正競争などにおいては、困難
  • 例外:結果発生地における結果の発生が「通常予見することができないものであったとき」(17条但し)は、加害行為地法。被害者と加害者の利益の公平を図り、準拠法につき加害者の予見可能性を確保する趣旨。予測可能性は一般的・平均的なものが予測できたかどうか。対象は結果発生地における結果の発生。


第17条 不法行為

不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、 加害行為が行われた地の法による 

個別的不法行為

  • 不正競争または競争制限行為に基づく不法行為知財権の侵害に基づく不法行為について個別規定が検討されたが、現行法は、生産物責任と名誉または信用の毀損の2つだけである。
(1)生産物責任(18条)
  • 原則:被害者が生産物の引き渡しを受けた地の法
  • 生産物責任の場合、生産から事故の発生まで原因となる生産物が転々とする。17条の一般則を適用すると、結果発生地は偶然に左右されることから適当とは言えない。
  • 18条は生産物で引き渡しがされたものの瑕疵により他人の生命、身体または財産を侵害する不法行為によって生ずる生産業者等に対する債権の成立及び効力の準拠法を、原則として「被害者が生産物の引き渡しを受けた地の法」としている。
  • これは被害者が生産物を取得した時点での当該生産物の所在地を指し、通常は市場を意味する。市場は生産者と被害者の接点であるという点で中立的であり、かつ密接に関連する。
  • 生産者は市場の安全基準をに従うと考えられ、生産業者等の行為を不法と評価する規範も市場地法に因るべきであるとする。当事者間のバランスに配慮した連結点であり、市場における競争の平等といった公益的観点に立つものではない。
  • 例外:生産者等の主たる事業所の所在地法
  • 予見可能性がなかった場合。一般則の加害行為地法に対応。例として、中古車市場。製造地や販売地なども考えられるが、むしろ生産物を市場に投入する意思決定を行う地である主たる事業所所在地の方が、市場地を原則的な連結点とする生産物責任における加害行為地としてより適切であると考えられた結果といえよう。
  • 引き渡しを受けた者以外の者が被害を受けた場合、18条の「被害者が生産物の引き渡しを受けた地」という連結点は、被害者が事前に生産物や生産事業者等と直接接触したことを前提としているところ、生産物の引き渡しを受けた者ではないバイ・スタンダーは、このような前提を欠いており、市場地法の適用を予測できる立場にはない。
  • とすれば、一般則である17条が適用されるべきである。例外として、生産物の引き渡しを受けた者の従業員や同居家族のように、引き渡しを受けた者と一体しできるような場合は、18条の適用が認められるだろう。


第18条 生産物責任の特例

前条の規定にかかわらず、生産物で引渡しがされたものの瑕疵により他人の生命、身体又は財産を侵害する不法行為によって生ずる生産業者(生産物を業として生産し、加工し、輸入し、輸出し、流通させ、又 は販売した者をいう)又は生産物にその生産業者と認めることがで きる表示をした者に対する債権の成立及び 効力は、被害者が生産物の引渡しを受けた地の法による。ただし、その地における生産物の引渡しが通常予見することのできないものであったときは、生産業者等の主たる事業所の所在地の法 による。

(2)名誉または信用の毀損(19条)
  • 被害者の常居所地法:同時に複数の法域ぼとに不法行為がなされたとして、それぞれについて結果発生地法によりとすると、当事者間の紛争処理が複雑になるため単一の準拠法とした。
  • 被侵害利益である名誉又は信用は物理的所在を持たないため、連結点としていずれの地を選ぶかが問題となるが、被害者の救済に資すること、加害者の予見可能性にも配慮し、何より常居所において最も重大な社会的損害が発生していると考えられることから、被害者の常居所地法が選ばれた。

第19条 名誉又は信用の毀損の特例

第十七条の規定にかかわらず、他人の名誉又は信用を毀損する不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、被害者の常居所地法(被害者が法人その他の社団又は財団である場合 にあっては、その主たる事業所の所在地の法)による。

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