この記事では、国家と個人と国際機構の国際法上の法主体性について網羅的にまとめています。
<国際法関連の記事一覧はこちらから>
法主体の概念
- 国際法上の権利義務の帰属先が論じられるようになったのは法実証主義の時代に入ってから。これに対して、自然法は普遍的人類社会の法としての性格を有していた。
- 論理的難問:受範者 (destinataire) について、国際法が国家間の法としての発展してきたことは、国家以外の実体がアプリオリに国際法の主体になり得ないとはいえない。
- 今日の国際社会には国家以外の多くのアクターが存在(ex.個人・法人、国際機構・政府間機構(intergovernmental organization)、民族、NGO)。
国家の法主体性
国家の排他的主体性論
- 国家は国際法の保有者であり保証者でもある(ブルンチェリ)。
- 国際法の妥当性は国家の共同意思による(オッペンハイム)。「唯一かつ排他的 solely and exclusive」な法主体性(同)
- ただし、近代国際法では、すべての主権国家が同等の地位が認められたわけではなく、「一定水準の文明」と「国際法社会への加入」が必要(ローレンス)。
- 個人は、国際法の規律に基づいて国内法によって権利義務を有する「客体」に過ぎないとされた。
国際法における国家と個人の関係
- 近代国際法ー主権国家体制:国家間の関係を規律。個人にかかわる問題は原則的には国内法の規律に委ねられる。
- 国家の義務違反により個人の権益が侵害されても当該個人の本国が外交的保護権を行使しない限りは国際法上の問題とならない。
【判例】マヴロマティス事件(常設国際司法裁判所(PCIJ)、1924年):本国が自国民の問題を取り上げることによって初めて「国際法の領域に入る」「当該国家のみが請求者」たる地位をもつ。
個人の法主体性
伝統的国際法のもとでは個人の国際法主体性は認められなかったが、国家の排他的主体性論は第二次世界大戦後、急速に後退し、近年では支持なし。現代では、個人の法主体性について国際法上の主体性が認められる範囲と基準に争いがある。
実体的基準説
- 国際法が個人の法的地位や権利義務を明確に定めているときは、個人の法主体性を広く認めるべき。
- 「国際法は個人を直接に拘束し、拘束しうる」「客体」としてきた国際法は「欠陥」であり、進歩の障害となっている(ジェサップ)。
- 奴隷取引の禁止、人権、少数者の保護、海賊行為の処罰、戦争犯罪、人道に対する罪など個人は一定の地位を持つ主体となっている(オコンネル)。
・問題点:(条約等の)国際法上では国家をその権利義務主体とし、個人はその効果として国内法上の権利主体となるに過ぎないような場合にまで、法主体性が広く肯定される可能性。例えば、通商航海条約のような場合は、当該国内法によって救済され、それが不奏功に終わった場合は本国の外交的保護権を行使するに過ぎないはず(シシリー電子工業会社事件) 。
国際的手続説
- 個人の権利義務が規定されていることをもって国際法上の主体とするのではなく、さらにその権益を自らの名において実現するための国際的手続が保障されていなければならない(タウターパクト等通説)。
- 20世紀になり個人の直接の出訴権を認める国際裁判所の設置、個人の国際的請願権や申立権を認める法制度が発展したことを反映。
- 例として、中米司法裁判所、ベルサイユ条約に基づく混合仲裁裁判所、上部シレジアの少数者保護に関するドイツ=ポーランド仲裁裁判所、欧州司法裁判所、欧州人権裁判所、投資紛争解決センター、ニュルンベルク・東京裁判、ユーゴスラビア・ルワンダ国際刑事裁判所(安保理による)、国際刑事裁判所(自然人を裁くための常設的な裁判所)、信託統治地域住民の国連への請願権、米州人権委員会への申立権、自由権規約委員会への個人通報権
・問題点:国際法が実体的権利を定めている場合、それを実現する手段が国際的手続か国内的措置かによってその権利の帰属先が変わると見るのは合理的根拠に欠く。例えば、シェノサイド条約(ジェノサイドは国内裁判所ないし国際刑事裁判所(ICC)で裁かれる)、自由権規約の選択議定書(締結国と非締約国の個人の扱い)。
手続基準説
- 「国際的手続」が設定されていなくとも、国際法が定める実体的権利義務が国内法を媒介とすることなく直接に国内裁判所で適用される場合も含むべき。ただし、直接適用可能性の問題。
国際機構の法主体性
国際法主体性の認識に関する歴史的経緯
国連の法主体性
- 国連損害賠償事件(ICJ、1949年) は、国連の国際法人格を肯定。その理由として、固有の任務を持つ諸機関を有すること、加盟国の国連に対する義務が明記されていること、加盟国の領域における国連の法律上の能力と特権免除を付与されていること、条約締結能力が認められていること、諸問題に対する広い国際的責任が認められていることを列挙。
- 国連の機能的保護(functional protection) 国連自身が被った損害に加え、被害者個人の損害についても加害国に請求しうる。
- 「国連は憲章に明記されていなくとも、その義務の遂行にとって不可欠の権限が必然的な帰結として付与されていなければならない」とする黙示的権限(implied power)の法理。
法主体性認定の前提条件と法的基礎
- 国際法上の主体性について明記する設立条約は稀。例外:国連海洋法条約の国際海底機構、EU
- 一般的な要件として、(1)自律的意思決定権、(2)条約締結権能、(3)特権免除の享有、(4)国際責任能力が必要。
- 特定の国際機構が上記能力を有するかは設立条約に照らして判断される。上記諸能力を有する機構が国際法上の主体となると認める慣習法規の存在する、とする論理。
- 非加盟国との関係:国連賠償事件における非加盟国イスラエルに対し、国連は損害賠償を請求できるか「国連は国際社会の大多数の構成員を代表する組織として非加盟国にも対抗しうる客観的国際人格(personnalite internationale objective)を有する」→憲章上の権限を根拠に国連の法人格性を基礎付ける以上、非加盟国には対抗しうるかは疑問。すべての国際機構に客観的法主体性が認められるのではなく、国連は例外として位置づけられるべき。
国際法主体間の相互的地位
国際的地位を有する行為体
人民(民族)
- 人民(people)は自決権=政治的地位を自ら決定し、経済的・社会的・文化的発展を自由に追求する権利を有することが国連憲章に明記。
民族解放団体
- ナミビア独立のための南西アフリカ人民戦線(SWAPO)、ローデシア白人政権に対抗するジンバブエ愛国戦線、PLO
- 植民地本国との独立協定の締結、国際機構や会議へのオブザーバー参加、武力紛争法の適用主体(ジュネーヴ諸条約第一追加議定書1条4・96条3)
少数者・先住民
(1)少数者の保護
- 自由権規約第27条:「少数者に属するもの」が「自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践しまたは自己の言語を使用する権利」を有する。
- 人権として扱われ、その権利は「他の集団の構成員とともに」享受するもとされる。
- 「少数者の権利宣言」(1992年)は個人としての権利の内容を具体的に定める。
(2)先住民の地位
- 先住民条約(89年)「先住民および種族民」(indignous and tribal peoples)としての「人民」の権利を保護。ただし、自決権とは区別。
- 「先住民の権利に関する国連宣言」(国連総会, 2007年)は、先住民の「自決権」認めつつ、その諸問題の決定について「自治権」を有するとした。
NGO
-
国連憲章:経済社会理事会は民間団体と協議の促進のために取決めを結ぶことを定める(71条)
-
経社理は「NGOとの協議取決」の決議(68年)を採択:協議資格を有するNGOをカテゴリー1(全般的協議資格)カテゴリー2(特定事項)、ロスター(臨時的)に分類。