Dancing in the Rain

Dancing in the Rain

Life is not about waiting for the storm to pass but about learning how to dance in the Rain.

MENU

(4)国際法規の効力と適用関係:強行規範(jus cogens)とは【国際法】

f:id:hiro_autmn:20200503010945j:plain

国際法解説シリーズ。この記事では、国際法規の効力、特に強行規範(jus cogens、ユス・コーゲンス)とその他国際法規の適用関係についてまとめています。

<国際法関連の記事一覧はこちらから>

hiro-autmn.hatenablog.com

国際法規の一般的効力関係

国際法秩序の並列的構造:後述する強行規範を除いて、それぞれの効力に関しては優劣がないが、その適用順位が問題となる。

強行規範

  • 強行規範( jus cogens, peremptory norm)国家間の合意をもってその規範から逸脱することを認めず、これに抵触する条約の効力を否定する規範。(ウィーン条約法条約第53条)
  • 自然法のもとではその存在が肯定されていたが、主権概念の高揚により意思主義が支配的となった。
  • 国際社会の基本的秩序に関わる狭義の公序と、高度に人道的・道徳的観念にかかわるものを対象。
  • これに違背する規範の存在を否定することによって国際社会の基本秩序を維持すること。国内社会の私的自治や契約自由の原則が公序良俗や経済的弱者保護の制約を受けるのと同じ。

ウィーン条約法条約 (VCLT) 第53条

締結の時に一般国際法の強行規範に抵触する条約は無効である。この条約の適用上、一般国際法の強行規範とは、いかなる逸脱をも許されない規範として、また、のちに成立する同一の性質を有する一般国際法の規範によってのみ変更することのできる規範として、国により構成されている国際社会全体が受け入れ、かつ、認める規範をいう。 

(1)強行規範の要件
  1. 一般国際法としての普遍的適用性
  2. 国家の合意による逸脱変更の非許容性
  3. 諸国によって構成される国際社会全体による承認
  • ただし、まず慣習国際法(国家実行+法的信念)性を認定し、そこから強行規範性を見出す二段階テスト(実証主義的アプローチ)によるのか、自然法から直接的に導き出すのか争い(判例は後者に近い。)。
  • 前者によれば、慣習法形成時の一貫した反対国(persistent objector)が慣習法に規律されないとしても、当該慣習法の強行規範性が認められた場合は、その効力を否定することができない。
(2)強行規範の内容と認定
  • 内容の不確定性:条約法条約は積極的に定義せず、国家実行と国際裁判所の判例に委ねる」とする。
  • 特に国際法委員会(ILC)によって強行規範として引用されたものとして、国連憲章の諸原則に違反する武力行使、奴隷取引、海賊、ジェノサイド、民族浄化及びアパルトヘイトの禁止、自決権などがある。
  • 国際司法裁判所(ICJ)は認定に慎重:武力不行使原則(ニカラグア事件)、国際人道法の普遍的規則(核兵器使用の合法性事件)でについてその強行規範性について決定を避ける。ただし前者では、ILCの議論を援用したことから、強行規範性について認めたとするのが有力説。
  • 一方で、ジェノサイドの禁止規則は強行規範であると認定(コンゴ領域における武力活動事件、2005年)、ジェノザイド条約適用事件(2007年)でも再確認。
  • 拷問の禁止につき、締約国間の対世的義務であると同時に強行規範であるとも認定(訴追か引き渡しかの義務事件、2012年)
 cf.対世的義務(erga omnes)との関係:強行規範が対世的義務であることは真だが、その逆は必ずしも成り立たない。しかし、一般には密接に関連・符合。
 ex.侵略行為、ジェノサイド、奴隷制や人種差別(バルセロナ・トラクション事件、傍論)、自決権(東ティモール事件)、ジェノサイド(ジェノサイド条約適用事件)
(3)強行規範の効力
  • 締結時に強行規範に違反する条約は「無効(void)」である(条約法条約第53条)

  • 無効の効果は全体に及ぶ(可分性の原則の排除・同44条5項)条約自体が無効でなくてもその履行としてとることが求められる行為が強行違反のケースも考えられる。

  • 無効が後に確定した場合、遡及するため締約国はその間に取られた「結果をできる限り除去する」必要がある。(同71条)

  • 他方、強行規範が後から成立する場合、「当該強行規範に抵触する既存の条約は効力を失い、終了する」(同64条)無効原因ではなく終了原因。

  • 強行規範は、のちに成立する同一の性質を有する規範(すなわち強行規範)によってのみ変更することが可能。(同53条)

  • 強行規範違反についてICJの強制管轄権を認めるとする主張。コンゴ領域における武力活動事件(コンゴ v. ルワンダ)において主張されるもICJはこれを否定。

hiro-autmn.hatenablog.com

(4)強行規範をめぐる紛争の解決
  • 強行規範の承認は、国際社会の基本的法秩序の一体性を維持するため。他方、当該規範を援用すると条約関係が不安定化。
  • 強行規範との抵触に関する紛争が国連憲章33条に定める手段によって解決されないときは、いずれの紛争当事国もこれをICJに一方的に付託しうる(条約法条約第66条)ただし、裁判所は、強行規範を狭く解釈し、規範の抵触が起こらないようにする傾向。
  • 強行規範に反する個々の国家の「行為」の合法性をも否認:「強行規範から生ずる義務の国家による重大な違反は「国際責任」を引き起こし、国家はその違反の終了に協力すべきこと、ならびにいかなる国も当該違反から生じる事態を適法なものと認めたり、その自体の維持を支援してはならない」(国家責任条文、40条・41条)
  • 主権免除事件(2012年、ドイツ対イタリア)において、ICJは、強行規範違反を理由として主権免除を否定することはできないとした。

hiro-autmn.hatenablog.com

国際法規の適用関係

適用関係上の諸原則

特別法は一般法を破る」「後法は前法を廃す」による処理。ただし、法の一般原則は補充的法源であり条約・慣習法に劣後するというのが支配的。

特別法優先の原則
  • 条約は慣習法に対する特別法(lex specialis)であり優先される。ex.ガブチコボ・ナジマロシュ事件
  • 地域的慣行は一般的慣行に優先。ex. インド領通行事件
  • 条約相互間:ある一般条約の一部の締約国が特定の事項について特別の条約を締結する場合 ex.国連海洋法条約311条3項参照、条約法30条4c
  • 特別の条約の実施過程で生じた問題が同時に一般条約の別のいくつかの規定とも関係する場合:一般条約に関係する限度で両条約が併行的に適用。ex. みなみまぐろ仲裁裁判
後法優先の原則
  • 前の条約と同じ締結国がのちに同じ主題について別の相容れない条約を締結するとき、前の条約は原則として終了(条約法第59条)
  • 両国があえて終了させない場合、「のちの条約と両立する限度においてのみ」適用される(同30条3)
  • 新しい国際法秩序が慣習法によって形成されるとき、これに合致しない旧来の条約は当然には効力を失わず、改定する必要。 cf.自由地帯事件

国連憲章の優位性 

憲章と他の条約上の「義務」が抵触 (conflict) する場合は憲章上の義務が優先する。

国連憲章第103条

憲章に基づく義務と他のいずれかの国際協定に基づく義務が抵触するときは、この憲章に基づく義務が優先する。
優先規定の解釈
  1. 抵触条約の適用不能説:抵触条約は依然として有効であるが、その適用性と対抗性を喪失する。(フロリ)
  2. 無効説:効力を停止するのではなく無効とする(ベルンハルト)→問題点:憲章の義務が優先する(prevail)の文言 また、条約全体ではなく、憲章の義務に抵触しない当該条約の他の義務は適用性を持つと解すべき。
優先規定の適用範囲

義務の種類につき区別なし。範囲は、憲章に直接明記された義務に限定されるのか、それとも国連の機関が憲章に基づいて決定した拘束的義務も含むか。

  • 湾岸戦争の際の安保理決議670:「憲章103条の規定に言及しつつ、「国際協定に基づくいかなる権利義務が存在するとしても」加盟国が取るべき義務としての強制措置。

  • ロッカビー事件の仮保全措置:安保理決議748を引証して、「この決議の義務は憲章103条により、モントリオール条約を含む他の国際協定の義務に優先する」

  • ただし、拘束力を持たない総会や安保理の勧告決議は含まない。また、憲章を具体化した条約にも認められない、と解するべき。  

hiro-autmn.hatenablog.com

関連記事 

hiro-autmn.hatenablog.com

hiro-autmn.hatenablog.com

hiro-autmn.hatenablog.com

hiro-autmn.hatenablog.co