Dancing in the Rain

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(9)国家管轄権と主権免除

国家管轄権

1管轄権の類型と適用範囲
 国家管轄権 state jurisdiction 国家が人や物に対して統治権能を及ぼす権限
  ①立法管轄権 ②執行管轄権 ③司法管轄権
  場所的適用範囲:国家領域内については、国際法による特別の制限がある場合を除いて、全面的に適用
  一方、域外適用については、立法について国際法は必ずしも禁止するものではないが、執行については厳格に制限 ロチュース号事件「国家は他国領域で権限行使不可」
 
2自国法令適用の根拠原則:主に刑事法の場所的適用範囲の問題とされてきた
 ⑴ 属地主義 territorial principle 国家領域内で行われた犯罪はその実行者の国籍のいかんを問わず当該国の刑事法を適用するのが原則である
  主観的属地主義:犯罪開始国が持つ管轄権 客観的属地主義:結果発生国が持つ管轄権 ロチュース号事件で後者で認める 被害船の刑事管轄権=戦後に修正
 ⑵ 属人主義 nationality principle 国籍を根拠に立法管轄権を認める
  積極的属人主義:実行行為者が自国民である場合にその者の国外での犯罪に自国法を適用 受動的属人主義:自国民が国外で被害者となった場合に自国法を適用
  今日では、どの国も一定範囲の犯罪につき前者を適用している(ex.刑法3条) 管轄権が競合しても、国際法上、双方が行使可能
 ⑶ 保護主義:国家の重要な権益の侵害に対しては、実行者の国籍、実行地のいかんを問わず処罰の対象とするもの 国家の政治的安全を脅かす行為や経済的・社会的秩序を害する犯罪 
 ⑷ 普遍主義:全ての国の立法管轄権を認める原則 
  ①慣習国際法上の対象犯罪:海賊行為については争いなし 戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイド
  アイヒマン事件では、イスラエルが普遍的管轄権を肯定し、刑事裁判権を行使 一方、逮捕状事件では判断を避ける
  国際刑事裁判所規定は、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪および侵略犯罪を同裁判所の処罰犯罪として取り込んだが、補完性の原則が前提(後述)
  ②条約上の対象犯罪:ハイジャック防止条約(1970)「引渡しか訴追かの義務」条約による普遍的管轄権の設定 ただし締約国に限る 拷問禁止条約(1984)等
 ⑸ 受動的属人主義 の妥当性:国外での犯罪被害者が自国民であることを理由に被害者本国の管轄権を認めるこの原則は必ずしも普遍的に認められてきたわけではない
 近年の事例:アキレ・ラウロ号事件(1985)、ピノチェト事件 ただし実際には不引渡し

 平成15年改正刑法3条の2:強制わいせつ、逮捕監禁、略取誘拐強盗の被害者に適用=海外において犯罪の被害者となる自体が増えたため
 一般論としては、国際慣習法とはなっていない 国家主義的性格から慎重論
  →近年では、海外渡航の一般化やテロの増大により支持する国は増加傾向

 ⑹ 効果理論の妥当性 effect doctrine
 戦後、他国における経済活動が自国の経済秩序等に一定の効果を及ぼすとの理由で当該活動について自国法の域外適用を認めるとする米国 判例外国企業の制限的取引活動に対する米競争法
 一方主義的な性格:領域内行為の要素を欠き、伝統的な客観的属地主義とは異なる

 
3執行手段の違法性と司法管轄権の行使
 基本的原則:執行管轄権は国家の特別の同意無き限り他国の領域内で行使できない
  アイヒマン事件では、安保理イスラエルに「相当な賠償」をなすべきものとした
 しかし、違法な手段で容疑者を連行したとしても法廷地国は裁判権行使可能と解される
  ① 裁判所は提起された事件の法廷プロセスのみに関与すべき② 国家間の問題
 cf.ベネット事件(1992・英貴族院)「犯罪人引渡法の手続き違反の手段による場合は公訴権の行使は認められない」

Ⅱ 主権免除
1概念
 主権免除(sovereign immunity)とは、国家はその行為や財産について外国の裁判権を強制されないことをいう。
 もともとは各国の国内判例を通して発展、制度の個別的側面につき必ずしも一致していない
 ILCの国連裁判権免除条約が2004年に総会採択されたが、発効はしていない

2根拠
⑴ 形式的理由:「対等なるものは対等なるものに対して支配権を持たない」
 スクーナー船イクスチェンジ号事件(1812・米連邦最高裁) マーシャル首席裁判官
  各国主権者の「完全な平等と絶対的な独立」に鑑みてそれら相互交流の利益の促進のため各国は自国の「完全で排他的な領域管轄権」の行使を一部放棄したものとみなされる
  この「対等者非支配原則」は、制限免除主義をとる今日の国際法上、正当化根拠としては不十分
 ⑵ 実質的理由:
  ①国家の尊厳を尊重するための国際礼譲 international comityの要請
  ②国内法制度の類推適用=19世紀の国家免責
  ③判決実現不能論 ④政策的配慮論

3享有主体
 有する権限の性質、すなわち国家の統治権の一部を行使する機関か否かに基準を求める考え方が有力

4絶対免除主義から制限免除主義へ
 ⑴ 絶対免除主義
  19世紀、原則として国家の全ての行為・財産が免除の対象
   ①国家と主権者が同等視=国内法上の主権者免責制度 
   ②そもそも主権的統治活動のみが国家の行為とする認識
  政府自らが対外的経済活動に従事する状況が増大し別の考えが主張されるものの20世紀前半まで有力
 ex.中国約束手形事件(1928・大審院)ただし、法廷地国にある不動産に関する訴訟は例外とする
 ⑵制限免除主義への移行
 絶対免除主義は、取引活動において私人や企業が不利益を受ける恐れがあり、国際通商の発展に好ましくない
 制限免除主義:国家が行う活動であっても、通称活動のような非主権的行為については免除を認めないとする立場
  米は1945年のホフマン事件、英は1975年のフィリピン・アドミラル号事件で移行
 私人の法的保護と国際通商の発展という点から制限免除主義が多勢となっているが、国際法の原則となったかは即断を許さないものがある=絶対免除主義の採用を国際法違反とは言えない
  日本の判例の展開:長らくの絶対免除主義から制限免除主義へ
   ①横田基地事件(最判平成14年4月12日) 
   「免除の範囲を制限しようとする諸外国の国家実行が積み重ねられてきている」
   ②貸金請求事件(最判平成18年7月21日)
   「外国国家は、その私法的ないし業務管理的な行為については、我が国による民事裁判権の行使が当該外国国家の主権を侵害する恐れがあるなどの特段の事情がない限り、我が国の民事裁判権から免除されないと解するのが相当である」
    2009年には、「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」制定
 
5制限免除主義における行為の区分基
  ①行為目的基準説:国家が行う当該行為の目的及び動機 ex.軍隊のためのタバコ購入契約 主観的要素=免除適用拡大
  ②行為性質基準説:当該行為の性質が私人間でも行われる私的契約行為と同等のものかどうか 客観的尺度=厳格化
  ③行為実体評価説:行為の性質とともに目的も含めて総合的にその実体を判断すべきとする立場 「行為の本質はしばしばその目的によって明確化される」
  最高裁は、性質基準説をとる「その性質上、私人でも行うことが可能な商業取引であるから、その目的のいかんにかかわらず」 最判平成18年7月21日
 
6国内制定法の制限免除主義 各国で制定 免除されない場合を条文で具体的に規定するというスタイル
 
不法行為訴訟と主権免除
 主権免除の原則は、通商関係や雇用関係など、契約をめぐる訴訟において問題となることが多かった。
 しかし、不法行為の場合、被害者の側からすればその不法行為者が私人であるか外国の国家であるかによって法的救済手続きの有無が決せられるのは不合理
 アメリカ及びイギリスの免除法は不法行為による身体・財産の損害につき賠償請求を非免除事項としている
 通商や雇用関係の場合は、当事者があらかじめ事故の危険を考慮した上で法的関係を設定しうるが、不法行為の場合は被害者の予測を超えて発生するのでその法的保護が強く要請される
  一方で、横田基地事件などでは免除の対象としており、一般化しているとはいえない
 
8裁判を受ける権利と主権免除
 戦後の主要な人権条約はいずれも公正な裁判を受ける権利を定める このことは民事裁判にも保証されているのであり、主権免除原則との関係が問題となる
 しかし、各国の判例は、国家の免除を優先させてきた 強行規範の違反であっても、国際法の現状では免除の拒否事由とはならない
  アル・アドサニ事件(2001年・欧州人権裁判所)裁判を受ける権利は絶対的ではなく、①「正当な目的の追求」と②「手段と目的の均等性」から判断する
 
9裁判権免除と強制執行
 制限免除主義の元で裁判権が行使されたとしてもそれが執行されるかは別の問題 ex.資産の押収や差し押さえなどの強制執行 裁判権の行使以上に慎重
 ⑴絶対的執行免除主義:裁判権行使と判決の執行はそれぞれ別の手続 以前は支配的
 ⑵裁判連動主義:裁判が行われるときはこれに連動して執行措置が取られるとする立場 外交的配慮から純粋にこの立場をとる国は少ない
 ⑶制限的執行免除主義:執行の対象となる財産が国家の主権的ないし外交的活動に使用されるものか否か、対象財産の用途上の性質を基準に免除の可否を決める立場
  特に「商業目的」使用される財産か否か 一方で、銀行の預金資産のように個別に判別する必要のあるケースも
 
10主権免除制度の原則的廃止論
 同制度は外国の違法行為に対して裁判権を免除するものであってその効果は国家の側に一方的に有利に作用するだけでなく法の支配の観念に背馳する可能性
 一方で、国家間の良好な関係の維持に果たしてきた役割も軽視し得ない
 

 

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