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(21)国際環境法:概論【国際法】

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国際法解説シリーズ。この記事では国際環境法についてまとめました。

パリ条約の話など、最近のトピックはフォローしていませんが(というか国際環境法を一本の記事にまとめるというのもそもそも無理がありますね)、原理原則的なルールは押さえていると思います。

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国際環境法とは

  • 国際環境法(international environmental law):環境の保護・保全をはかるための国際法の実体的、手続的、組織的規則の総称。
  • 20世紀以降、生成途上:大量生産、大量消費、大気汚染等に起因する環境破壊は人間の健康への影響だけでなく、生態系・気候系といった深刻な事態を誘発=すべての国の共通認識と協力が必要
  • 開発」とは対抗関係にある。先進国と途上国の共同歩調を阻害。

ストックホルム国連人間環境会議(1972年)はこの対立を鮮明にする。先進国では「環境問題は一般に工業化と技術開発に関連する」のに対し、途上国では環境問題の大部分が低開発から生じている」ので「自国の優先順位と環境を保護し改善する必要性を念頭に置いて、その努力を開発に向けなければならない」(人間環境宣言4項)ものとする

持続可能な開発

  • 持続可能な開発(sustinable development):1980年代、国連自然保護連合が国連開発計画と世界自然保護基金とともに発表した「世界保全戦略」に起源→「環境と開発に関する世界委員会」の報告書「我ら共通の未来」(ブルントラント報告書・1987年)
  • これによれば、「将来の世代が自己の需要を満たす能力を損なうことなく現代の世代の需要を満たす開発」が必要→リオ宣言に取り入れ(原則3・4)気候変動枠組み条約。

環境保護に関する一般法原則

(1)領域管理責任原則
  • 当初は、国境を越える隣国の環境損害の防止を目的としたが、他国の権利を侵害する行為のために自国の領域を使用させてはならない、というすべての国の義務(コルフ海峡事件、1949年)へと発展。
  • 今日では、領域管理責任原則は確立した一般国際法上の地位を有する。また、環境破壊に限定されるわけではなく、およそ他国の権益を侵害することとなる自国領域の使用・使用許諾にかかる。

判例】トレイル溶鉱所事件(仲裁判決、1941年):いかなる国も、重大な結果をもたらし、また明白で確かな証拠によって立証されるときは、他国の領域ないしその領域内の財産・人に対して煤煙による被害を引き起こすような方法で自国の領土を使用し、もしくは使用を許容する権利を有しない。

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(2)環境損害防止原則
  • ストックホルム宣言(1972年):資源開発に関する各国の主権的権利を確認しつつ、国家は「自国の管轄内または管理下の活動が他国の環境または自国の管轄の範囲外の地域の環境に損害を与えないように確保する」責任を負う」(原則21)→1992年リオ宣言でも再確認。
  • 「環境」そのものを保護法益としている「環境とは抽象的概念ではなく、生活空間、生活の質および将来の世代を含む人類の健康を表示する」ものである(核兵器使用の合法性事件)
  • 環境損害防止原則(principle of environmental harm prevention)はその後、海洋法条約194条2項、気候変動枠組み条約前文、生物多様性3条等に受け継がれ、今日環境に関する国際法の一般原則として承認。同原則に基づく国家の責任は具体的にいかなる場合に生じるか、従来の事例は十分明確にしていない。
  1. 厳格責任説(strict liability):客観的な損害の発生という事実のみを持って成立。
  2. 相当の注意義務説(due diligience):損害の発生の防止に適当な措置をとることを怠った時に初めて責任が生じるとする立場。有力説。

手続制度の発展

(1)事前通報 prior notification

一国で開始される開発事業が他国の環境に相当の影響を与えることが予測されるときは、その潜在的影響国に事前に通報すること。ex.長距離越境大気汚染条約8条b、海洋法条約206条、生物多様性条約

(2)事前協議 prior consultation
  • 上記通報に続いて潜在的影響国の要請に基づいて行われる、環境リスクを最小にするための話し合い。
  • この協議は合理的期間内に誠実に行われなければならないが、他方、同意を義務付けられるものではない。一般的には、環境影響評価の実施も求められる。ex.パルプ工場事件
(3)緊急時の通報

事故等による重大な越境損害の危機が発生した時は領域国はこれを速やかに損害影響国に通報しなければならない。コルフ海峡事件で確認(船舶航行の事例であるが、今日では越境汚染にも適用。)。

環境損害責任の強化

(1)汚染者負担原則 polluter pays principle
  • 環境汚染の防止に要する費用は原則として汚染者が負担すべきとする原則(1974年、OECD)リオ宣言で確認、さらに国際的貿易と投資を歪めることなく「環境費用の内部化」に努めることを定める(原則16)
  • 生産者が環境コストの削減のために環境損害の防止と資源の有効活用を期待、環境政策の差異が市場競争に悪影響を与えないようにする
(2)無過失責任主義
  • 高度の危険を伴う活動や重大な汚染被害を発生させるおそれのある活動について、故意過失の有無を問わず賠償の責任を負う。
  • 事故は深刻で甚大な損害をもたらすおそれがある、被害者による過失の立証が困難、責任の厳格化が事故防止に有効などの観点。
  1. 民事型責任:汚染を引き起こす施設の管理者に汚染損害の無過失責任を負わせるもの ex.油濁民事責任条約「船舶の所有者」
  2. 国家補完型責任:事業者の責任を締約国家が補完して責任を負う。特に賠償額が巨額になるものを想定。ex.(パリ条約に対する)ブリュッセル補足条約(1963年)
  3. 国家専属型責任:民間組織が行う活動であっても、他国への損害の責任はこれを許可した国に専属させる責任形態。宇宙条約のみ。

地球環境の保護

  • 事前通報や協議は近隣諸国に対する越境汚染に対しては有効に機能しえても、地球規模の環境の保護には必ずしも効果的に対応できるわけではない。
  • 加害国・被害国の区別がない。すべての国が加害国であると同時に被害国であり、その特定化は困難。
  • 分野ごとに個別的条約によって可能な防止策を講ずるほかない ex.オゾン層保護ウィーン条約(1985年)、気候変動枠組条約(1992年)、生物多様性条約(1992年)、砂漠化対処条約(1994年)
  • これら条約には地球環境保護の基調概念である「持続可能な開発」が本文中に導入。また、EU条約やWTO協定などにも取り込まれ、環境法の基本原則への成熟を目指すものの、その具体的内実の不明瞭性と不確定性が実定法原則の進化を阻んでいる。

持続可能な開発概念の展開

リオ宣言(1992年):「持続可能な開発を達成するため、環境の保護は開発過程の不可分の一部をなし、それから分離して考えることはできない」(原則4)環境の開発と保護の調和的統合を強調。その他主要原則の検討ー同概念の実態を支える基本原則。

(1)世代間衡平の原則 principle of intergenerational equity(原則3)

環境の保護と開発において現代の世代は将来の世代に責任を負う。持続可能概念に内在。

(2)予防原則 precautionary principle(原則15)

重大または回復不能な環境損害のおそれがあるときは、たとえその科学的因果関係が確証されなくても、そのための予防措置を講じなければならないとする。

(3)共通だが差異ある責任 principle of common but differentiated responsibilities (原則7)

途上国と先進国は環境の保護に共通の責任を負うべきもののその度合いは異なるとするもの。

  • これまで環境を犠牲にして経済発展を遂げた先進国はより多くの責任をおうべきであり、また環境破壊の防止には相応の財政的負担と科学的技術を要する。国家平等原則の例外としての位置付け。

判例】ガブチコボ・ナジュマロシュ事件:持続可能な開発概念の中に適切に表現されている」として環境と開発の調和の必要性を説くが、国際法上同概念の法的位置付けの判断は慎重に回避 概念の曖昧性 解釈指針として?

地球環境保護の条約レジー

実効性と普遍性確保のため制度の具体的構築。近年、枠組条約と議定書の組み合わせ方式の採用と遵守手続きの導入が顕著な傾向。

(1)枠組条約と議定書の組み合わせ方式
  • 環境保護の具体的施策の実施には技術の発展、財政・立法措置の手当など、資金・時間・労力を必要とすると同時に、時代の状況に応じて柔軟に対処する必要性。
  • 環境保護の基本体制や基本原則を定める枠組条約(framework convention)を先行させ、具体的な規制基準や実施手順はのちの議定書(protocol)に委ねる方式

ex.長距離越境大気汚染条約(1979年)と硫黄化合物議定書(1985年、1994年)、オゾン層保護ウィーン条約モントリオール議定書(1987年)、気候変動枠組条約京都議定書(1997年)、生物多様性条約(1992年)とカタルヘナ議定書(2000年)

両者は目的の追求においては一体化しているものの法的には独立。締約国でも議定書参加は義務付けられない。

(2)遵守手続
  • 履行確保の方法:①国家報告・審査制度、②紛争解決手続、③遵守手続=環境条約に特有。
  • 遵守手続の概要:条約義務の不履行は一般的には国際違法行為を構成し、国家責任追及の対象となるが、環境関係議定書の遵守手続は直ちに紛争解決手続を取るのではなく、議定書の実施期間が当該不履行国との協議や支援を進めつつ遵守の促進を図る手続(最初のモントリオール議定書が「不遵守手続 non compliance procedure」と称したことから一般にこの名称が普及)

ex.京都議定書「遵守手続及びメカニズム」遵守促進部は助言、財政技術的支援、勧告、強制部は不遵守の宣言、遵守計画の作成の指示とその監視、特定の制度上の資格の停止等

  • 紛争解決手続との関係:両者は並存する。同意原則を取る紛争解決手続の限界、事後的責任追及のみでのは不十分であること、被害者・加害者の特定困難。

環境と貿易

(1)環境保護自由貿易
  1. 対抗関係論:環境と貿易は相対立する関係 ex.木材貿易と熱帯雨林の破壊、気候・生物多様性への影響。
  2. 相互扶助論:資源の効率的な利用を促進、非効率な生産活動による環境破壊を促進する一方、適切な環境対策は貿易の発展にとって必要な資源の確保に資する。
(2)WTO体制と貿易制限措置
(3)紛争解決フォーラム

GATTWTOの紛争解決手続の下では、もっぱらWTO法との適合性の有無という形で取り扱われ、環境法との両立性や適合性というかたちでの問題設定は制度上起こり得ないのではないか。

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