Dancing in the Rain

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ロッカビー事件 Cases concerning the Aerial Incident at Lockerbie

リビア VS 米国・英国(ICJ)
 
<事実と経緯>
1988年12月21日、スコットランドのロッカビー上空でパンアメリカン航空103便が爆破
これにより乗客259名(内米国民189名)と住民11人が死亡 被疑者のリビア人2人はリビアに潜伏
1991年11月、英国・米国は公訴の手続、被疑者の引き渡し等をリビアに要求
リビアは、民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関するモントリオール条約を根拠に、引渡しを拒否(引渡しか訴追かの義務)
そこで英米は、安保理に働きかけ、1992年1月21日に決議731を採決させた
決議371は、リビアが要求に応じないことを遺憾とし、要求に応えるよう強く要望
1992年3月3日、リビアは英米を相手に国際司法裁判所に以下の宣言を求めて提訴した
 ①リビアモントリオール条約上の義務を完全に従っている
 ②被告はモントリオール条約に反している
 ③被告による義務違反の禁止、リビアに対する威嚇の中止、リビアの主権・領土保全及び政治的独立に対する侵害の中止
リビアは管轄権の基礎として、モントリオール条約第14条1項を援用した
リビアは、同時に、以下の仮保全措置指示の要請も行った
 ①被疑者の引渡をリビアに強要する行為を行わないこと
 ②リビアの請求の主題をなす手続上の権利を毀損する措置を取らないよう確保すること
同年3月31日、安保理は決議748を採決した
 その内容は、リビアの要求拒否が「国際の平和と安全に対する脅威を構成する」ことを確認するものであり、安保理は憲章第7章の下で行動し、リビア経済制裁を課すものであった。
英米は以下の先決的抗弁を提出した
 ①モントリオール条約に規定する条件を充足していないため管轄権の基礎は存在しない
 ②リビアの訴えは安保理決議によって「取り消された」
 ③リビアの訴えは安保理決議により「目的がなく」なり、従って「意味がなくなった」=ムートネス
なお、本件は、2003年8月、リビアが金銭賠償に応じたため取り下げられた。
 
モントリオール条約 第14条①「この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争で交渉によつて解決することができないものは、それらの締約国のうちいずれか一国の要請によつて仲裁に付託される。紛争当事国が仲裁の要請の日から六箇月以内に仲裁の組織について合意に達しない場合には、それらの紛争当事国のうちいずれの一国も、国際司法裁判所規程に従つて国際司法裁判所に紛争を付託することができる
 
(a)1992年4月14日<仮保全措置命令>
 仮保全措置の要請後に安保理決議748が採択がされたことについて<ICJと安保理の同時係属の問題>
 リビアの主張:ICJと安保理は、それぞれ独自の権限を行使するもので、両者間に、法的な競合関係も階層関係も存在していないため、仮保全措置は可能である
     判旨:①原告も被告も国連憲章25条の規定に従い、安保理の決定を受諾しかつ履行する義務を有する
        ②この義務は決議748に対しても及ぶものである
        ③国連加盟国は憲章103条の規定に従い、いかなる国際協定に基づく義務よりも憲章上の義務を優先させなければならない。このことは決議748とモントリオール条約上の義務との関係においても妥当する
        ④よってリビアの主張するモントリオール条約上の義務は仮保全措置による保護の対象として適切ではない
        ⑤さらに仮保全措置指示は、裁判所が一見して判断する限り、決議748によって被告が享受すると思われる権利を侵害する可能性が高い
        ⑥本件状況からして、仮保全措置を指示する必要はない
 
憲章25条<決定の拘束力>:国連加盟国は、安保理の決定をこの憲章に従って受諾しかつ履行することに同意する
憲章103条<憲章義務の優先>:国連加盟国のこの憲章に基づく義務と他のいずれかの国際協定に基づく義務とが抵触するときはこの憲章に基づく義務が優先する
 
(b)1998年2月27日
 抗弁①:リビアは、仲裁裁判の提案を米国に行ったが、米国は回答せず、安保理決議741を支持することにより当該提案を拒否する考えを示した。この間、モントリオール条約14条に規定された6ヶ月は経過しており、裁判所は管轄権を認めることができる。
 抗弁②:受理可能性の判断基準日は、請求が付託された日であり、その後に採択された決議について検討の対象とはならない。また決議731は提訴前であるが、単なる勧告にすぎない
 抗弁③先決的抗弁は、管轄権や受理可能性以外の抗弁も許されるが、「もっぱら先決的」でなければならない。ムートネスの主張は、リビアの本案上の権利に影響を与えるのみならず、決定の主題をも構成する。この抗弁は本案と密接に絡み合っているのであり、「もっぱら先決的な性質を有する」とは言えない。よって被告の抗弁を却下する
 
<問題点・論点>
 安保理とICJの同時係属:本来、前者は政治的な処理、後者は法的な処理を担当しており、従って、同一の事件につき、両者は別個の補完的な機能を遂行しうる。しかし、本件では一方がICJ、他方が国連安保理を利用しているため、判断がそれぞれ異なる可能性があった。このような場合にICJは安保理決議について司法審査が可能か問題となる。この点について、国連憲章には明確な規定は存在しない。しかし、一方で、安保理決議に限界はないのかということも問題となる。すなわち、安保理に広範な裁量権が与えられているとしてもそれは国連憲章や一般国際法に従ったものでなけばならないとするものであり、その限りで司法審査が可能である、とする見解もある。
 

 

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