国際法解説シリーズ、国家責任法その1。この記事では、国家責任条文について概論的にまとめています。
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国家責任法とは
- 国家責任法 (law of State responsibility):国家の国際法上の義務違反によって生じた法的不正常を解消し、法適合状態を回復するための条件と手続を定める国際法の規則。
- 通常の国家の行為規範をなす「第一次規範」とは区別され、この規則が破られた時に適用される「第二次規範」に相当する(ルールそのものはなく、ルールが破られた場合にどう対応するのかを規律する。)。
- 18世紀・19世紀:被害国が違反国に対してとる報復的制裁であると理解「国際法上の義務のあらゆる違反は国際違法行為を構成し、被害国は復仇ないし戦争にさえ訴えて違反国に対して国際義務の履行を強制することができる」(オッペンハイム・1905年)
- 武力による威嚇および武力の行使が禁じられた現代国際法では、義務違反によって生じた法的不正常を是正するための法関係回復プロセスと解するべき。
法典化
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19世紀後半より主として外国人の処遇をめぐる領域国の責任問題として発展。特に米国のラテンアメリカへの進出と仲裁裁判。
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ハーグ法典化会議(1930年)、国家責任発生基準をめぐる欧米諸国と中南米諸国の対立。2001年「国家責任条文」が採択されるも、条約としての採択は見送り、二次規範とすることで妥協。
国家の国際犯罪
国家責任発生の根拠要因
- 判例では国家の義務違反がすなわち責任発生の要件とされているが、国家の故意 (dolus) 過失(culpa) は要しないか。
(1)過失責任主義 principle of fault responsibility
- 義務違反の存在に加えて過失を責任発生要件とする立場。グロティウス、ローマ法、伝統的見解。
(2)客観責任主義 principle of objective responsibility
- 国の責任はその義務違反行為と行為の当該国家への帰属が立証される限りにおいて生ずるとする立場。20世紀以降、今日の有力説。
(3)折衷説
- 一定の場合に限定して過失責任を認める。私人に関する国家の「相当の注意(due diligence)」は過失を要件としたものと見る立場。注意義務違反として構成。
過失論の克服
(1)国家機関自身の行為の義務違反
- 一般に過失の有無は責任発生の要件とされない。特に立法機関、司法機関の義務違反における過失の論証は不可能に近い。行政機関も通常は合議によるのであって過失を認定するのは現実的に難しい。
- ニカラグア事件やラグラン事件も過失の有無を特段の検討事由とすることなく義務違反を認定。司法機関について、逮捕状事件や訴訟免除事件(1999年)でも同様。
(2)私人の行為に起因する国家の義務違反
- 国家は自国領域内の私人による外国・外国人の権益の侵害を防止するための相当の注意を払わなければならず、侵害が発生した場合には、適切な救済措置を講じる義務がある。
- 相当の注意義務:あらゆる合理的で必要な措置を取ることを要求。この注意義務は侵害の防止に懈怠がなかったかどうかという意味でしばしば過失と同一視。批判:相当の注意義務それ自体が国際法上の義務であって、その違反はまさしく国際義務の違反に他ならない=客観主義
- 国際法委員会の国家責任条文の立場:「行為の国家への帰属」と「当該行為の義務の違反」で足りる(2条)過失の要否は1次規則の問題。
第2条 国家の国際違法行為の要件
国家の国際違法行為は、次の場合に存在する。作為又は不作為からなる行為が、
(a)国際法上、国家に帰属し、且つ、
(b)国家の国際義務の違反を構成する。
「損害」の要件性
- 義務違反に加えて「損害 (damage, injury, harm)」が必要か。国際法委員会はこれを一次規則に依存するという。また「損害」の証明の要件化は多くの条約違反に対して責任の成立を不可能にするおそれ。 ex.人権条約
- 国家責任は、伝統的な損害を填補とみるのではなく、侵害された法秩序の回復=合法性の確保という立場。
cf.国家責任条文48条:集団的利益の保護のための義務ないし国際社会全体に対する義務の違反に対しては被害国以外も責任追及。
第48条 被害国以外の国家による責任の追求
1.被害国以外のいかなる国家も、次の場合、第2項に従い、加害国の責任を追求する資格が与えられる。
(a)違反された義務が、その国家を含む国家集団に対して義務を負わせ、且つ、集団の共同利益保護のために創設された場合、又は
(b)違反された義務が、国際社会全体に対して義務を負わせている場合。