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(31)国家責任法 III:外交的保護権と救済【国際法】

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国際法解説シリーズ、国家責任法その3です。国際違法行為に対する救済のための外交的保護権と賠償などの具体的救済方法についてまとめました。

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国際請求の提起

具体的請求は事案によって異なるが、外交ルートによる賠償請求の提出、関係の国際機構への付託、国際裁判所への提訴等請求国が決める。

国家自身の権利に対する侵害

  • 裁判提訴の場合を除いて、特別の手続的条件や制限はなし。
  • 裁判による場合:「訴えの利益」との関係で当事者適格が問題となる場合。南西アフリカ事件でのエチオピアリベリア:「自国に属する法的権利ないし利益」がない(一般的・集団的利益でなく、自己の具体的権益の侵害を要件としたものと解されるが、可否同数に割れたため、先例的価値に疑義。)。
集団的利益の保護と国際社会全体に対して負う義務違反
  • 条文は(a)諸国家の「集団的利益」の保護のために負う義務、ないし(b)「国際社会全体」に対して負う義務の違反に対しては、直接の被害国以外の国もその違反を追求しうる(48条1)
  • 集団的利益の例として、委任統治制度の義務違反、地域的な環境保護制度、人権保護の条約制度、安全確保の制度。国際社会全体に対して負う義務の例として、侵略行為、ジェノサイド、奴隷制、拷問、自決権侵害。

判例訴追か引き渡しかの事件(2012年):拷問禁止条約の規定は「締約国間の対世的義務 obligations erga omnes partes」を構成するので、ベルギーは締約国としてセネガルの条約違反を訴える当事者適格を有する。

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自国民の権益の侵害に対する請求

私人は条約で特別に認められる場合を除いて、一般国際法上、国際的請求を直接に提起する資格を有しない。本国の外交的保護権の行使をまって国際的に提起されることになる。

外交的保護権

  • 外国における自国民の身体財産に対する損害に関して、当該国において公正な救済が得られない場合に本国がもつこの権利を「外交的保護権 right of diplomatic protection」という。
  • ヴァッテル理論の形成:外国人を害することはその市民を保護しなければならない国家を間接的に侵害するものであり、当該国の主権者はこれに復讐し完全な賠償を強制、そのものを処罰=公的復仇の観念
  • 近代主権国家重商主義の要請 富と国力の増強を目指す商人や実業家の損害はまさに国家そのものの損害として国がこれに介入せざるを得なかった。
  • 埋没理論の形成:20世紀、ボーチャードの埋没理論=国家が一度自国民の請求を取り上げるとき、個人の請求は国家の請求に埋没する(merge)のであって、国際的には国家は自国民の代理人としてではなく、国家自身の損害の請求者として行動する。
  • 伝統的外交的保護権の制度はその国家的性格を高度に表出することになるが、それは欧米の対外的経済進出の要請に合致していた。

外交的保護権の行使要件

(1) 国籍継続の原則
  • 被害者個人が被害発生時から請求の提起時まで請求国の国籍を継続して有していなければならないとする原則 cf.侵害発生時から救済解決時までとする説も。
  • 恣意的な国籍変更の防止とされるが、今日ではノッテボーム事件の「真正な連関」理論との関係でも必要とされる。
  • 重国籍:生活の本拠地の所在地の存在など本人に最も密接な関係を持つ国のみが外交的保護権の行使を認められる(国籍抵触条約5条)同4条ではその国籍国相互間では外交的保護権を行使できないとしてが、近年では、実効的国籍の原則により、いずれかの国籍国との実質的な結合が優越しているときは、認められるとする立場が判例上有力。
  • 会社:設立準拠法国ないし本居所所在地国の外交的保護権が認められ、株主の本国には一般的には認められない(バルセロナ・トラクション事件)

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(2)国内的救済完了の原則 rule of exhaustion of local remedies
  • 外交的保護権の行使に先立って被害者個人が被害発生国において開かれている救済確保のための国内的手続を全て尽くさなければならないとするもの。
  • ①領域主権の原則により、まずは当該国の手続きに服することが求められる ②国際紛争への転化の防止 cf.国際礼譲 internaonal comity とする説。
  • 法的性格:以前は、実体法説が取られたが、今日では手続的要件とするのが一般的。
  • 適用:利用可能なすべての行政的・司法的手続を指す インターハンデル事件:合衆国の裁判所に継続中であるとしてスイスの訴え却下
  • なお、利用可能の手続が残されている旨の抗弁の立証責任はその主張する側にある(シシリー電子工業事件)
  • 例外:国家自身の権利侵害の場合は適用されない 個人=企業の損害か、国家の権利侵害が争われるケース(シシリー電子工業事件)
  • ただし、厳格な同原則の適用は被害者の救済を困難にするため、一定の状況下では適用されないものとされてきた。
  1. 法制度上の障害ないし限界が明白であるとき=法制上・判例上その手続きを尽くしても無益であることが明白。
  2. 手続的欠陥がある場合 ex.司法が行政府の指示下にある、裁判の不当な遅延。
  3. 自発的な滞在・在留ではなく、強制的ないし不可抗力による滞在のとき(理論的主張にとどまる)。
  4. 条約で明示的に排除されている場合

外交的保護権の性格

  • 行使するかはもっぱら国家の裁量による ex.バルセロナ・トラクション 救済が得られた場合の処理も国家の裁量。義務説、職務説、代理説、その他個人救済の機能を強化しようとする立場 しかし、国家のその役割違反に対する他国からの非難や抗議が原則的にありえない。
  • 人権条約や投資保護条約による個人・法人に直接国際的救済手続に訴える道を与える。
  • カルヴォ条項:外国人の被った損害問題は当該関係国の国内裁判によってのみ解決し、本国の外交的保護権に依存してはならないとする条項 主に、中南米コンセッション契約において用いられた。外交的保護の排除を目的とするからその効力は早くから問題視ー欧米では消極的・制限的に解する見解が支配的。
判例】テキサス北米浚渫会社事件(1926年・メキシコ=合衆国):全面的な是認も否認も適当でない「当該契約の実施、解釈、執行」については本国の保護を受ける権利を放棄したことになるが、他方、契約事項以外の締約国の「国際法違反(裁判拒否ないし裁判の遅延)」については外国人は本国の保護を受ける権利を放棄していない。

国際違法行為の救済

  • 賠償の義務:法益侵害に対する償いはすべての法秩序に内在する不可欠の要請=条約に義務違反の効果が定められている必要はない。
判例】ホルジョウ工場事件:可能な限り違法行為のすべての結果を除去し、その行為がなかったならばおそらく存在したであろう状態を回復するものでなければならない。
  • 賠償は発生した損害に見合うものでなければならず、また、その損害は物的損害であるか精神的損害であるかを問わない(31条) 

違法行為の中止と再発防止の義務

これらは賠償とは区別し、違法行為の効果として一般的に生じる義務として規定(30)
(1)違法行為の中止 cessation
  • 中止の要請は賠償の「原状回復」と実際上重なることが少なくない ex.パレスチナの壁事件では壁撤去と建設の中止義務を同一の主文の中で認定。
  • 概念的には違法行為の中止は第一次規則から派生する要請であって、賠償請求に先んじる義務。 
  • 当事国の要請の有無を問わず、裁判所が必要に応じてこれを命じうると解されるがそのためには当該違法行為が継続的性格を持ち、かつその時点で当該義務が有効に存在しなければならない。
(2)再発防止の保障義務 guarantee of non-repetition
  • 将来に向けた法秩序の維持に主眼がある点で賠償とは区別。しかし、広義の賠償の一環としてこれを請求することは妨げられないと解される ex.ラグラン事件

  • 裁判所は特段の必要がないかぎり消極的姿勢を鮮明にさせる=国家のさらなる違反を推定することへの司法の自制?

賠償の形態

(1)原状回復 restitution
  • 違法行為が行われる前の状態に回復すること status quo ante 原状回復が可能な場合はげんそくとしてこれが他の救済方法に優先する(ボルショウ工場事件)
  • 物的原状回復:違法な収容物の返還、違法な拿捕船舶の釈放 ex.プレア・ビヒア事件、テヘラン事件
  • 法的原状回復:国際法違反の国内法や司法決定の改廃ないし取り消し ex.逮捕状事件、パレスチナの壁事件
  • 例外:原状回復が実質的に不可能②金銭賠償に代えて原状回復をはかることが著しく均衡を欠く負担を伴う場合(35条)
(2)金銭賠償
  • 原状回復が不可能あるいは十分でないときに一般的に行われる。物的損害に限られず「重大な精神的損害・法的損害」にも適用(レインボー・ウォーリア号事件)
  • 自国民の被った損害に関する賠償額の算定の基礎は明確でない=個人の被った損害と国家が受ける損害は実質において同一ではなく、それは適当な尺度をなすにすぎない(ボルショウ事件)
  • 懲罰的損害賠償:英米法のに起源を持つが、国際法上の賠償(発生した損害に対する公正な償い)とは両立しないとして否定する見解が有力。ルシタニア号事件では否定
(3)サティスファクション
  • 違反の承認、遺憾の意の表明、公式の陳謝、国際裁判での違法の宣言、責任者の処罰、再発防止の保障他(37条)
  • 主として非物質的損害あるいは精神的損害に対する救済方法として認められてきた。コルフ海峡事件、逮捕状事件(原状回復と合わせて)、レインボー・ウォーリア号事件、ジェノサイド条約適用事件、パルプ工場事件、アイム・アローン号事件、ラグラン事件

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