Dancing in the Rain

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訴追か引き渡しかの義務事件

ベルギー vs セネガル 国際司法裁判所

2012年7月20日 

<事実と経過>

 チャド共和国の元大統領アブレは、1990年に政権を追われセネガルに亡命。

 セネガル国内裁判所においてチャド国民が人道に対する罪や拷問行為を理由にアブレを告訴するが、手続不備により停滞 ベルギーにおいても重国籍者が告訴を提起。

 2005年、捜査の結果、ベルギー当局は人道に対する罪、拷問行為などを理由とする国際逮捕状を発布し、セネガルに対して引渡しを要請。

 セネガルの管轄裁判所はアブレの裁判権免除を理由として、逮捕状の有効性について判断する権限がないと判断。

 セネガルは問題をアフリカ連合に付託したが、アブレの訴追と裁判を行うよう要請される。

 2007年からセネガルは手続を整備したが、それでも刑事手続は遅延。

 2009年、ベルギーは、拷問禁止条約の裁判付託条項とICJ規程36条2項に基づく両当事国の選択条項受諾宣言を管轄権の基礎として、ICJに提訴し、セネガルがアブレについて刑事手続を開始する義務を負うこと、及び訴追しない場合にベルギーに引き渡す義務があることの宣言を求めた。

<判決要旨>

(1)管轄権

 裁判所は、拷問禁止条約6条2項及び7項1条の解釈適用につき紛争を扱う管轄権ある。

(2)受理可能性=ベルギーの原告適格

 拷問禁止条約の締約国は、共有された価値観の下、拷問行為の防止と処罰の確保に共通の利益を有する。引き渡さない場合の当局への事件付託義務は、被疑者が領域内に所在することのみをもって発生するのであり、他のすべての締約国は被疑者の所在地国の義務の履行に共通の利益を有する。この共通利益は、問題となる義務が、「条約締約国間の対世的義務(erga omnes partes)」であることを意味し、いかなる締約国もその不履行を確認しそれを停止させる目的で他の締約国の責任を援用することができる。

(3)訴追と引渡しの義務の関係

 7条1項の義務は、引渡要請とは無関係に事件付託の義務を課し、他方で、引渡要請を受けた場合は、その要請に応じることで訴追の義務を免れる。

 引渡しは条約によって与えられた選択肢であるが、訴追は条約上の義務であり、その違反は国家責任を生じさせる。

(4)セネガルの義務違反

 セネガルは、アブレに対する告訴が提起された後、できる限り速やかに義務の履行に必要なあらゆる措置を取ることを求められていたところ、かかる措置を取らなかったことで、7条1項の義務に違反し、また違反し続けている

 セネガルには国家責任が生じ、継続違法行為を停止する義務を負う。アブレを引き渡さない場合には、遅滞なく権限ある当局に訴追のために事件を付託する義務を負う。

<論点>

 「対世的義務」概念はバルセロナ・トラクション事件で提示されて以来、東ティモール事件やパレスチナの壁事件で援用されてきたが、その義務違反に対して、被害国以外にも責任追及を認めるものかどうかにつき争いがあった。

 本判決では、条約締約国間に限定されてはいるが、対世的義務違反の責任追及権を明示に認めた点で注目される。

 もっとも、どのような条約の締約国間の対世的義務を認めるかは判然としないが、判決は、強行規範によって保全される「共通利益」を確保する特殊な条約に限定しているようである 。

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