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(32)国際紛争の平和的解決 I:国際紛争と非裁判手続【国際法】

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国際法解説シリーズ、国際紛争の平和的解決その1です。この記事では、戦争の違法化に至る近代国際法の発展、国連憲章上の武力不行使原則、それから具体的な紛争解決方法としての非裁判手続についてまとめました。国際仲裁及び司法裁判制度については次回、次々回で扱います。 

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平和的解決制度の変遷

国際紛争(international disputes)の解決方法:
  1. 武力による強力的解決:報復 retorion 復仇 reprisal 抑留・差押え embargo, sequestration 平時封鎖 pacific blockade
  2. 非武力による解決:仲裁・交渉・仲介 

近代国際法における紛争解決

1907年:契約上の債務回収のため兵力使用制限条約(ドラゴ・ポーター条約)「兵力ニ訴ヘサルコト」ただし仲裁拒否の場合のみ。

1913 年:ブライアン条約(米国の二国間条約)常設国際委員会に付託→戦争モラトリアム。

1921年:国際連盟規約

  • 国交断絶ニ至ルノ虞レノアル紛争」が発生した場合、仲裁、司法的解決、理事会へ付託。判決や報告書の採択後3ヶ月は戦争してはならない。その後は、判決・全会一致の報告書に服する国に対しては戦争してはならない。

  • 裁判の付託は義務化されていない。また、戦争に至らない国際紛争については沈黙

戦争の違法化

1925年:ロカルノ条約 地域的不戦条約=欧州7カ国

1928年:不戦条約(ブリアン・ケロッグ条約)

  • 国際紛争解決ノ為戦争」と「国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争」を放棄することを宣言(1条)一切の紛争は平和的手段によらないで処理・解決しない(2条)ただし、本条約違反の戦争、自衛の場合は例外
  • 「戦争」概念:戦争意思を表示するか否かで法律上の扱いが異なる。「戦争」以外の武力紛争について見解が対立。
  • 不戦条約の限界:①違法な戦争の認定基準・手続がない、②戦争以外の武力紛争については禁止していない、③平和的解決の具体的な手続がない・裁判の付託義務がない、④違反国に対する措置は「制裁としての戦争」のみ。
  • ニュルンベルク裁判では本条約が援用されたが、侵略戦争が犯罪であるという認識は当時あったかどうか疑わしい。

平和的解決強化の試み:国連憲章上の武力不行使原則

  • 国連憲章2条4項:およそ武力による威嚇又は武力の行使を禁止 cf.例外は自衛のための戦争と国連安保理決定に基づく強制措置のみ。

  • 2条3項は平和的解決の原則を規定するが、具体的な結果に到達する義務をも定めたものではない。実際、拘束力を有する国際裁判の付託には合意なくしてできない。

  • 慣習法と国連憲章上の武力不行使原則の禁止域の不一致:一般的には後者の方が狭い(ex.自国民の保護、人道的干渉)ニカラグア事件では、両者の差異を認めつつ、結果的に同一であるとした。cf.条約法31条3項

武力不行使原則の強行規範性

武力不行使原則は強行規範(jus cogens)であるとする有力説。カッセーゼ、トムシャハト、ブラウンリー、国際法委員会(ILC)など。ただし、ILCは、国連憲章の諸原則に違反する武力の不行使とする。ILCの見解を引用したニカラグア事件もこれを承認したとされる。cf.規範性否定論:少数説、国家実行による否定。

武力の意義

武力(force)について、途上国や社会主義国は政治的・経済的強制をも含むとするが、先進国による反対により、サンフランシスコ会議(1945年)においてブラジルの提案は否定。70年の「友好関係原則宣言」でも不干渉義務との間で言及するのみ。 

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国際紛争の概念 

国際紛争の発生:国際裁判では明確な「紛争」の発生がその解決手続利用の前提条件 ex.国際司法裁判所規程38条

紛争の定義

紛争とは二当事者間の法または事実の論点に関する不一致 desaccord、法的主張ないし利害の衝突 contradiction、対立 oppositionである(マヴロマティス事件、PCIJ)

法律的紛争と非法律的紛争の区別

(1)条約における紛争区分の導入
  • 紛争の解決にあたって多くの関連条約では法律的紛争と非法律的・政治的紛争を区分 ex.憲章36条3
  • 政治的紛争を裁判の対象から除く理由:現行法の適用をめぐる紛争ではなく、その改変を目指す紛争であるので、法の適用を使命とする裁判には馴染まないとする見解。また、政治的重要性を持つ紛争は法的基準の解決には馴染まないとする見解。
(2)識別基準
  1. 大利益説:当該紛争が国家の死活的利益や独立に関わるような重大な利害を伴うとき。1903年の英仏の仲裁裁判条約→重大かどうかは主観的判断によるので識別基準として不適当であり、裁判義務を逃れる方策にもなる。
  2. 適用法規存否説:適用できる国際法の規則の有無を基準とする。適用される法規、とりわけ慣習法の生成・存否は裁判審理を尽くさなければ確定し得ない。 ex.核実験事件
  3. 権利主張方式説:当事国が権利義務を争う形式において当該紛争の争点をフォーミュレートとするか否かにかかる。現在の支配的立場。
  • 混合紛争論:あらゆる紛争は政治的・法律的な両側面を持ち、その法的評価を問う形で定式化するときは法律的争となる。

平和的解決の手段・方法

国連憲章33条1項:平和的解決義務

「その継続が国際の平和及び安全の維持を危なくする虞のある」紛争は、交渉、仲介、調停、国際裁判等に解決を求めるべきものとする。

cf.2条3項はすべての紛争に対し、平和的解決義務の一般原則。33条の場合は安保理への付託義務と連動しているため限定的。 

解決方法の類型

  • 憲章は、交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決、地域的機関の利用を列挙 周旋 good offices は仲介に含まれるとする説もあり。
  • 明示的言及を欠く方法:①普遍的国際機構における解決手続、②個別条約による特別の手続、③機能的裁判所の手続

伝統的解決方法の概要ー非裁判手続

(1)交渉 negotiation
  • 紛争解決のための当事国による直接の協議。多くの裁判条約では交渉前置主義。ex.コンゴ領軍事活動事件では女性差別撤廃条約29条1違反を理由に管轄権を否定。
  • 短期間の交渉でも暗礁に乗り上げた時や相手国が一切の譲歩をも確定的に拒否するときなどは交渉実施の条件を満たす(マヴロマティス事件)
  • 条約上の義務でない場合、交渉前置主義は適用されない:「一般的規則」の存在を否定(カメルーン・ナイジェリア事件)
  • 交渉命令判決:紛争の解決に必要な基本的法原則や考慮事項を提示しつつ、これを踏まえて当事国の交渉による最終的解決を命ずる判決。北海大陸棚事件、アイスランド漁業事件、ガブチコボ事件 「合意に到達する目的をもって」その交渉が「意味を持つ」ように誠実に遂行する義務
(2)仲介 mediation
  • 三者が交渉の機会の設定や場所の提供等に続いて、当事国の合意のもとに和解案を提示。19世紀には仲介者の公平性がとりわけ強調。
  • 周旋の例:日露戦争ルーズベルト大統領、仲介の例:カーター大統領によるキャンプデービット合意、テヘラン事件のアルジェリア
  • レインボー・ウォーリア号事件:国連事務総長の裁定が仲介か仲裁裁判か定説なし。法的理由が提示されておらず、仲介に拘束力が生じたとする見解。
(3)審査 inquiry
  • 専門的知識を有する委員で構成される委員会が紛争の事実関係を解明することによって解決の進展を図る制度。
  • ドッガー・バンク事件:英露間の委員会の報告書に基づきロシアが賠償金を支払い解決(1904年)
  • ハーグ国際紛争平和的処理条約に採用。戦後の例:レッド・クルセイダー号事件:イギリス・デンマーク間の発砲行為の合法性など、事実関係のみならず必要な法的判断にも踏み込む。
(4)調停 conciliation
  • 当事国の合意によって設置される中立的委員会が紛争の実態と両当事国の主張を調査・勘案しつつ、友好的解決のために妥当な解決案を提示する手続。
  • 中立的・専門的委員会によることで仲介と区別され、事実問題の解明に限定されないことで審査と区別、必ずしも法に準拠しなくてもいいことから仲裁裁判とも区別。
  • 一般的受容のための柔軟性:法的規準に拘束されずに利害の調整・解決策が法的拘束性を持たない。成功例としてヤン・マイエン事件。裁判の方が費用に見合うことが多い。 

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