国際法解説シリーズ、武力不行使原則の例外その1。この記事では、勢力均衡から集団安全保障体制へと向かう国際政治的な部分と、武力不行使原則と国連(特に安保理)における集団安全保障システム、さらには国連平和維持活動(PKO)についてまとめています。
<国際法関連の記事一覧はこちらから>
国連憲章上の武力不行使原則とその例外
- 国連憲章は「武力による威嚇又は武力の行使」を一般的に禁止(2条4項)国際司法裁判所(ICJ)は、武力不行使原則は国際慣習法である旨判示(ニカラグア事件など)強行規範(国際法委員会)とする説もあり。
- ただし、安保理決定に基づく軍事的強制措置(第7章)と自衛権の行使(51条)については、例外的に武力行使を認める。また、領域国の承認についても明文の規定はないものの例外として認められてきた。
- その他にも、自国民の保護や人道的介入(humanitarian intervention)についても合法化の余地があるか議論されてきた。
国連憲章第2条4項
すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土 保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
勢力均衡から集団安全保障へ
- 勢力均衡(balance of power):対立する国家間の力のバランスを図ることで国際的安定を創出し維持する国家間関係。ナポレオン戦争時には機能不全に陥ったものの、伝統的には一定の役割を果たしてきた伝統的安全保障。ex.1648年ウェストファリア条約、1713年ユトレヒト条約(スペインとフランスの分断)
- 国際的な平和維持機構の存在しない往時においては唯一の安全保障。一方的な勢力拡大は他の諸国の干渉行為の正当な理由をなす。ただし、一般国際法上の地位を有するかは争い。政治的な実践に過ぎないとする説。勢力均衡を保つための集団的な武力的干渉を認めることに対する否定的評価。また、アメリカはモンロー主義により制度の枠外。
- 重大な欠陥:仮想敵国の想定、正確な測定不可能な「勢力」の強弱を基準とすること、自国に有利な「均衡」を求めて絶えざる軍事増強を助長すること、同盟体制を必然化させること。
集団安全保障の理念
連盟における制度化
- 制度的要件:運用にあたる国際機構の創設、大国を含む大多数の国の参加、機構による統一的決定、集団的制裁実施の義務性など。
- 連盟規約は、戦争またはその脅威は加盟国すべての「利害関係事項」であり、連盟は「国際の平和を擁護するため適当且つ有効と認める措置」を執るべきものとする(11条1)
- 不完全性:戦争の禁止の不徹底(制限したにとどまる)と制裁の実施方法の不備(強制的な実施は加盟国の認定によるとした、また、いかなる制裁をとるかも各国が決定。理事会は兵力的制裁を「提案」するのみ)
国連における集団安全保障
安保理決定による強制措置
- 憲章39条:安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。
- 武力不行使原則と強制措置の関係:強制措置の適用は武力行使の場合に限定されない。「平和に対する脅威」「平和の破壊」「侵略行為」のうち、平和に対する脅威は必ずしも武力行使を前提としない(ex.自決権侵害、重大な人権侵害、民主政治の破壊、テロ行為の助長)。
(1)暫定措置(40条)
(2)非軍事的措置(41条)
(3)軍事的措置(42条)
授権方式の軍事的措置
-
加盟国に武力行使を授権:許可する多国籍軍型の形態と、国連が行うPKOに自衛権の行使を超える武力行使を是認するものに分けられる。
-
湾岸戦争に対するイラク:即時無条件撤退要請決議(決議660)経済制裁決議(決議661)による改善なし。「必要なあらゆる手段を取ることを許可する」決定(決議678)
-
決議には根拠規定の明記ないが、「国連憲章第7章の下で行動」するとの文言が入る。
-
42条に含まれる非拘束的(勧告的)軍事行動とみる立場:軍事的措置は拘束的・強制的行動を想定したものであるが、必ずしも非拘束的軍事的措置を排除したものではない。
地域的機関と強制措置
総会による安全保障
-
「平和のための結集決議(決議377)」平和に対する脅威等の発生にもかかわらず、安保理が拒否権を行使し行き詰まった場合は、総会が自ら兵力の使用を含む集団的措置を加盟国に勧告しうる。
-
11条2項は「行動」につき安保理の付託を規定。国連経費事件では、当該行動は第7章の「強制行動」をさすとした。
平和維持活動(PKO)
- 国連平和維持活動 UN Peaceeeping :伝統的には紛争当事者の同意の下に国連の部隊を現地に介在させ、停戦の監視や兵力の引き離し等の措置をとりつつ敵対行為の再発・拡大を阻止する活動。
- 停戦監視型PKOの任務は基本的に受動的・保守的・暫定的性格を持つ。 cf.国家構築型PKO(1990年代)
- 憲章第6章は紛争の平和的解決(平和創出の機能)、第7章は強制措置(平和回復のための平和強制)PKOはいずれにも属さない「平和維持」明文を欠くが国連経費事件で承認。
- 基本原則:国連の実践行動をとおして形成された活動形式であるので固有の法的枠組みを有さない多種多様な任務、理念的には矛盾していても行われてきた。
PKOの指導原則
(1)同意原則
- 強制措置の一環でない限り関係国の同意を必要とする。根拠として領域主権の要請と実効性の要請。強制措置と区別する上で重要「上位原則」
- 内戦時の紛争当事者の問題:全ての紛争主体の同意が必要か、中央政府が存在しない場合どうするか。
(2) 公平原則と武器不使用原則
- 全ての当事者に対して中立・不偏であることが求められる。一方の当事者を害することも利することもその任務でない。
- 武器不使用は、その活動の主眼が制裁の実施や解決を強制することではないため。
PKOの変遷
伝統的PKOは3原則の下に停戦監視、兵力引き離し、武力抗争の再発の防止を主任務としてきた。憲章上の制度的枠組みを持たないため、派遣活動によってその任務・目的・性格・構成・規模を多様に変化してきた
(1)平和強制活動 peace enforcement
- 第7章の強制措置と結合:当初は伝統的PKOとして派遣されたにもかかわらず、事態の進展に対応すべく任務権限が拡大強化。多国籍軍の任務を承継・連動。
- 第二次国連ソマリア活動 UNOSOMⅡ:第7章の行動として必要な措置を取ることを許可(決議814、1993年)内戦の一方当事者と敵対行動を起こす事態となり撤退。
- 旧ユーゴの国連保護軍 UNPROFOR:第7章の行動として幾つかの安全地域の防衛のための武力的措置をとる権限を与えるとともに、各国家がこれに支援するための必要な措置を取ることを承認。
- ガリ国連事務総長が「平和への課題」で提唱した「平和強制部隊」の実行版と言えるが、2つの活動が失敗に終わったことで軌道修正。
(2)国家構築型PKO
-
内戦で疲弊した国家の再建に従事する形態のPKO:「紛争後の平和構築」機能。
-
包括的平和協定に基づき国家再建を究極目標とするため、秩序回復、武装解除、選挙監視、難民の帰還、人権の保護、統治組織の再建、など大がかりの任務を必要とする。編成も軍事部門、民生部門、行政部門等大規模なもの。
-
国連ナミビア独立支援グループ(1989年)がその嚆矢。その後、国連カンボジア暫定統治機構 UNTAC (1992年)東ティモール暫定行政機構・コソボ国連暫定行政機構(1999年)など。