国際私法解説シリーズ。この記事では、国際私法の意義についてまとめています。
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国際私法の意義
- 国際私法:渉外的法律関係から生じる実体法上及び手続法上の特別の問題を規律する法規範の総体。
- 渉外性とは、法律関係を構成するいずれかの要素が外国との関連を有すること。例えば、中国人と米国人の婚姻、フランスに所在する日本人が所有する不動産の所有権など。
純粋の国内的法律関係との相違
- 国際私法とは、具体的には国際裁判管轄、準拠法選択、外国判決の承認・執行を指す。特に、狭義の国際私法とは、準拠法選択などの実定法上の問題を指す。また国際裁判管轄と外国判決の承認執行については、国際民事手続法と呼ばれることもある。
(1)国際裁判管轄
- 国際裁判管轄とは、いずれの国の裁判所が管轄権を有するかの問題。
- つまり、どの国の裁判所が争訟を裁判できるかを決める規則が必要となる。例えば、米国人と日本人の離婚を考えると、米国の裁判所か、日本の裁判所か、どちらが裁判をすることができるのかという問題。
- 外国と密接に関連している事案、ほとんど日本と関係がない事案など、常に日本が管轄権を持つとすることは訴訟経済上不合理であるため、事案によって管轄権を検討することが重要となる。
(2)準拠法選択
- 準拠法選択とは、いずれの法域の法を判断基準とするのかという問題。
- 国際管轄権を有する裁判所の国・地域の法(法廷地法)を適用することが必ずしも当事者の期待に沿ったものとは言えない。前例で、仮に米国裁判所が管轄権を有するとしても米国法を適用するか、日本法を適用するかは、別途検討しなければならない。
- また、法廷地法が常に適用されるとすると、当事者が法廷地法の適用が自己に都合の良い裁判所を選択するというフォーラム・ショッピングの問題がある。
- 他方、準拠法選択には、法廷地国の国際私法が適用されるため、国際裁判管轄は準拠法選択の処理を大きく左右する。
(3)外国判決の承認・執行
- 外国判決の承認及び執行とは、外国判決が国内において効力を持つかどうかの問題。
- 仮に外国で確定判決を得たとしても、その判決が当然に自国内でも執行力を有するわけではない。例えば、米国裁判所において離婚が確定したとしても、それが日本においても効力を有するかは別の問題。
- 主権平等ないし相互主義によって外国判決を常に無視することは不適切な場合がある。特に、外国裁判所において十分な攻撃防御を尽くして下された判決である場合は承認しないことは当事者の期待に反する。
- 準拠法選択は、抽象的な外国法規範を受け入れるものであるのに対し、外国判決の承認・執行は具体的な外国法規範を受け入れるものである。
国際私法の性質
(1)狭義の国際私法の性質
民法や商法など、法的問題に対して直接に答える規範(実質法)に対し、狭義の国際私法(抵触法)は、問題に対して適用すべき法を準拠法として選択・指定する規範(間接規範性)cf.米国における管轄権アプローチ cf.渉外実質法
(2)国際民事手続法の性質
抵触規則(準拠法選択)と異なり、国際裁判管轄と外国判決の承認執行は実質法。特に「手続は法廷地法による」の原則。
(3)問題へのアプローチ
- 国際私法による問題処理について、実定法規範が国際的案件においてどこまで適用可能かという法規からのアプローチと法律関係から送致すべき法を選ぶ法律関係からのアプローチが考えられる。
- 伝統的には法律関係のアプローチは、内国法と外国法を平等に扱う(双方主義)ものであるとされ、法規からのアプローチは一方主義であり、刑法や税法などで採用されてきた。私法上の関係については、国家の法政策的な関心の度合いが低いのでどちらのアプローチでもよいとされる。
- 19世紀半ばのサヴィニーに始まる大陸法系諸国では、法律関係からのアプローチが望ましいとされた。内外法の平等や私法の国家以前からの存在。
- それ以前は、条例理論が一般的。人法と物法に分類し、人法は他の都市においても適用されるが、物法はその領域内でしか効力を有しないとされた。
- 20世紀半ば、アメリカ抵触法革命は現代における法規からのアプローチ。大陸法国でも、国際的な強行法規については法規からのアプローチ。
国際法との関係
- 国際私法が行っていることは、本来的には、各国の主権とは無関係であるとしても、国際法からの制約はないのか。この点に関連して、狭義の国際私法において、適用される国際私法によって矛盾する結果が得られる場合にどういう態度をとるべきか。
- 普遍主義によると、国際私法は国内法にすぎないけれど、その立法・解釈にあたっては、一国の立法者・解釈者であると同時に、超国家的なそれでもあるというように考えるべきである、とする。
- これに対して、個別主義は、わが国の国際私法の立法・解釈はあくまでもわが国の国内法であるので、わが国独自の立場から立法・解釈するべきである、とする。
- 普遍主義は、自らの解決の普遍性を強調しすぎると、それ以外の他国の解決は存在すべきものでないので、それを考慮に入れることに否定的になる。しかし、現実には現実のは異なる規律を受けている個人が存在する。当事者の立場を配慮して解決することが求められることもある。この点、EU法や欧州人権規約といった国際私法外の規範が要求する場合があり、それが国際私法の制約となりうる。
国際私法の基本理念
- 国際的私法交通の円滑と安全:渉外的法律関係であっても、国境、各国の法の相違を意識せずに私人が行動できる状態。cf. 跛行的法律関係:同一の法律関係であるにもかかわらず、ある国では有効な法律関係であるとされるのに、別の国では有効でない法律行為とされるような状態を指す。
- 国際的判決調和:あらゆる私法上の法律問題について、どの裁判所であっても、しかるべき法域の法が適用されることが目的。そのためには、条約による抵触規則の統一、各国が普遍主義的態度をとって立法することが必要。前提として、内外法平等(内国法が優先適用されないようにする)
- 最密接関係地法適用の原則:当該法律関係と場所的に最も密接な関係を有する地の法を準拠法として選ぶこと。個別に最密接関係地法を探求するのではなく、ある概括的な単位(単位法律関係)を認定し、それぞれの単位ごとに最密接関係地法を類型的に探求=法的安定性・予見可能性に配慮。一方で具体的妥当性に配慮する例外条項あり。
国際私法の法源
国内法
- 狭義の国際私法:国際私法部分を民法から分離する形で法例(明治23年、1890年)が成立。その後、平成元年法例改正(男女平等の実現)などを経て、2006年(平成18年)、法例を全部改訂する形で、法の適用に関する通則法(通則法)が制定。
- 国際民事手続法:明文規定が散在
条約
- ハーグ国際私法会議(HCCH):国際私法に関する規則の漸進的統一を目的とする政府間国際機関。原則として4年に1回開催される通常会期において条約の採択及び将来作業についての審議が行われる。
- 日本が締約しているもの:遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約、民事訴訟手続に関する条約、民事または商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約、外国公文書の認証を不要とする条約、子に対する扶養義務の準拠法に関する条約、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の7つ。
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