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Dancing in the Rain

Life is not about waiting for the storm to pass but about learning how to dance in the Rain.

(34)人民の自決権②

Ⅲ.自決権の今日的意義

(1)分離要求と自決権

 非植民地化の過程で自決権に基づく国家の成立が認められたことの影響で、分離独立は広く自決権の実現として主張されるようになった。実際、冷戦以降の様々な地域紛争・民族紛争では、当事国は自決権の行使を正当化根拠として分離独立を主張した。しかし、その一方で国際社会は独立国家からの分離独立を自決権の行使として認めてこなかった。すなわち、一度独立国家として成立すれば、領土保全原則が優先し、分離権としての外的自決の継続的適用はありえない、とされた。また、国際司法裁判所は、コソボ独立宣言事件で一般国際法上、一方的独立宣言を禁止する原則・規範は存在しないが、非植民地化以外の文脈で、国家樹立の権利を内包する自決権の主張に関しては判断を回避した。バングラデシュ、旧ユーゴからの独立国、エリトリア、南スーダンなど、非植民地化意外の文脈で分離独立に成功した国家が存在するが、これらは自決権の行使としてではなく、実効的支配を確立することによって達成されたものであると解されている。

(2)内的自決理論

 独立国家には外的自決が認められないにもかかわらず、分離独立と自決権は全く無関係というわけではない。この点につき学説上有力に唱えられているのが内的自決理論である。内的自決とは、人民が代表性ある民主政府を求める権利とその国内の少数者団体が自治権又は自決権を求める権利を意味する。この理論は友好関係宣言7項の留保条項の反対解釈から導かれる。それは、「人権、信条又は皮膚の色による差別なくその領域に属するすべての人民を代表する政府を有する主権独立国家」のみが「領土保全又は政治的統一」を保持する資格があり、少数者団体の文化・アイデンティティ・宗教などを維持するための自治権が完全に否定された場合、その分離の要求が国際法上正当性のある要求として認められることとなる、とするものである。これによれば、限定された例外的な場合に限り、所属国家の領土保全は保護されず、従って集団の自決権が国家の領土保全に優先されることになり、当該集団には所属国家からの分離権が認められることになる。
 この理論によると、独立国家において自決権は「外的自決」から「内的自決」に変容することで、その領域内のの普遍的適用が可能となる。これは理論のレベルでは一定の説得力を持つが、国際法規として確立する望みはないとも主張される。国際社会の実行が伴っていないためである。また、この理論は「民主主義のための干渉」を正当化するという批判も存在する。


Ⅳ.国家資格要件・国家承認要件との関係
 
 伝統的国際法において、国家の成立は国際法が規律するところではなく、国家は国家としての資格要件備えて政治的事実として成立した時点で国際法主体となると捉えられていた。法主体としての国家が成立するための資格要件は伝統的に、①恒常的住民、②明確な領域、③政府、④他国と関係を取り結ぶ能力(外交能力)であるとされる。(1933年モンテビデオ条約1条)
 国家承認とは、国家の資格要件を中心とした判断に基づき、既存国家が新たに成立した領域的・政治的実体を国家として認める行為である。承認によって、政治的に承認国と非承認国の国家関係の正常な展開が可能となり、多くの場合外交関係の樹立につながる。国家承認は、個々の承認国によって一方的・個別的に行われるため、裁量性・相対性を内包する。
 国家承認の効果については、創設的効果説と宣言的効果説の学説が対立している。創造的効果説は、承認以前の国家の国際法主体性を全面的に否定し、国家承認によって初めて国際法上の法主体となるとするものである。これに対し、宣言的効果説は、国家は事実として存在するならば承認される前でもすでに国家としての法主体性を備えており、承認はそれを確認し宣言するだけのものとされる。今日では後者が有力となっているものの、一方で、宣言的効果説のみによっては捉えきれない側面も持つ。
 伝統的国際法において承認の要件は国家の資格要件と同一とされ、実効的支配という客観的事実に限るものであった。また、この要件を満たさない実体への承認は尚早の承認として旧国家への干渉(=母国の領域主権の侵害)とみなされ、国家責任が問題になるとされた。しかし、第二次世界大戦以降の現代的国際法の下における実行では、国家性基準が合法的に満たされていること、つまり、違法な武力行使や人権・自決権侵害によって国家が成立したのではないことが承認の要件とされるようになっている。
 自決権と国家承認につき、国際社会は所属する領域国の同意なしに国家の一部を構成する集団が分離独立することには抵抗してきた。このような分離実体に他国が国家承認を付与することは領域国の主権および領土保全の侵害を構成し、国家主権平等原則に反するからである。この点につき、母国の領土保全と主権侵害との主張に対抗して国際社会が分離独立を結果的に承認したケースとしてバングラデシュの事例ががあげられる。東ベンガル州としてパキスタンの東部領域を構成していた同州住民は、インドの国際法上違法な武力支援を受けて独立を達成した。このことは所属国家により重大かつ深刻な人権侵害を受け、参政権を否定され、自治の要求も無視された状況において、自決権としての分離権を国際社会が承認した事例として捉える見解がある。

 

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