国際法解説シリーズ、国家領域その2。この記事では、国家領域の取得について、領域取得権限の原始取得及び承継取得についてまとめまています。
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国家領域の取得権限の意義と類型
- 権原(title):国家が領域を法的に取得するための淵源をなす根拠及び証拠。
- 19世紀から20世紀初頭にかけては、先占、添付、割譲、征服、時効。のちに併合も含むとする見解。
- 区分:原始取得(original mode of acquisition)と承継取得(derivative) :取得地域が他国の領有下にあったかどうかで区別。ただし、効果が異なるわけではない。
原始取得
(1)先占 occupation
- 無主の地に対して実効的な支配・占有をすること。
- 17世紀、スペイン・ポルトガルによる「発見」の権原性主張に対する対抗概念 cf.グロティウス「現実の占有を伴わなければならない」
要件:
⒈ 国家が主体であること(私人が授権される場合も含む)
⒉ 無主地であること
- 19世紀には文明国でないことは無主地であるとされた。これに対し、当時の国家実行では社会的政治的組織を持った部族の領地に対しては、当該部族の首長との協定による承継取得であったとする見解(西サハラ事件)
- しかし、国際法主体性が認められていないにもかかわらず、条約としての効力を認めることは不合理ではないか。
⒊ 実効的占有 effective possession 国家権力の実効的な表示ないし行使が必要
cf.「発見」は合理的期間内に実効的占有によって権原を完結するための「未成熟な権原」である(パルマス島事件判決、なお時際法の原則を採用している)
⒋ 国家による領有意思:なければ「占領」となる。
(2)添付 accretion
- 新しい土地の形成による領域拡大。
- 事実により領有の効果。自然現象によるものと人工的造成によるもの。ただし、人工島や海洋構築物によるものは例外(海洋法60条8)
承継取得
(1)割譲 cession
- 国家の意思、とくに条約による領土の移転 有償・無償を問わない。ex.樺太割譲、米のアラスカ購入
- 移転時期につき、19世紀は実効的占有の実現や引き渡しを要件とする。現代では、条約の発効日とする見解。しかし、条約の内容など個別的に対応する必要性。
- 住民投票の問題:ナポレオン戦争以後正統性を高めるために多用されてきたが、法的要件としては考えられていない。
- 一方、植民地その他非自治地域においては本国の領域とは「別個かつ異なる地位」が認められていることに留意(植民地独立付与宣言)
(2)征服 subjugation
- 武力の行使によって他国の領土の全部または一部を強制的に取得。実効的支配の確立と領有意思の存在が必要とされた。
- 現代国際法における征服:武力不行使原則の確立→違法から権利は生まれない。
- 合法性を承認してはならないとする不承認主義の一般化
【判例】ナミビア事件:「すべての国は南アフリカの占拠の「違法性を認める義務」と同国の行為の「合法性の承認を包含する」あらゆる行動・取引を慎む義務がある。
【判例】パレスチナの壁事件「イスラエルによる壁建設はパレスチナ地域の「事実上の併合 de facto annexation」に相当するものとし、友好関係原則における違法な領土取得の不承認義務の規定を再確認しつつ、「すべての国は壁の建設から生じる違法な状態を承認してはならない義務を負う」
(3)時効 prescription
- 土地の領有の意思を持って相当の期間、継続的かつ公然と占有することによって領有権を取得する形態。
- 長期の時間の経過に一定の法的効果を付与することは法秩序に内在する要請とも言えるが、国際法上、時効制度の本質的要件が明確にされておらず、要件充足の判断機関も存在しないため機能していない=学説では否定的
cf.「黙認」と同視されることもあるが、これは主観的意思を重視。カシキリ・セドゥドゥ事件で、当事国は時効を援用したが、裁判所は判断回避。
(4)領域権の歴史的凝固論 historical consolidation of title
- ノルウェー漁業事件で示唆:単に時間の経過だけを重視するのではなく、あらゆる歴史的・地理的・国際的要因を考慮して権限の凝固を認定する法理。
- 領域主権の確定を関連する諸要素の総合的評価に依存する点で伝統的領域権限とは異なる。領土紛争の解決基準の判断要素として考慮されるべき
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