不法行為
総説
- 法例11条は、不法行為地法主義を採用。新たな類型の国際的不法行為に関して適切な準拠法を選択しない、偶然に決まる不法行為地が連結点として必ずしも適切ではないという点から批判。これに対する学説の主張は、①個別的不法行為に関する特則の導入、不法行為に関する準拠法のより柔軟な決定、③当事者自治の導入。
- 通則法では、原則として加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、通常予見可能性がない場合は、加害行為が行われた地の法による。
- 個別的不法行為の特則として、製造物責任(18条)及び名誉または信用の毀損(19条)についての特則がある。さらにこれらの規定により指定された法よりも明らかにより密接な関係を有する地がある場合の例外条項が置かれている(20条)当事者による事後的な準拠法の変更も認められている(21条)
一般不法行為
- 原則:結果発生地 法例11条は、隔地的不法行為に関して不明確
- 加害行為地の秩序維持というよりも損害の公平な分配という点を重視
- 結果発生地とは、法益侵害の結果が発生した地である。この点、二次的(後続)侵害は含まれないというのが一般的理解。
- 結果発生地の特定が困難な場合、20条により個別的に最密接関係地法を探求。単一の行為により複数国で損害が発生する場合:個々の被害者ごとに決定可能
- これに対し、ネットや衛生通信を通じた知財侵害や不正競争などにおいては、困難
- 例外:結果発生地における結果の発生が「通常予見することができないものであったとき」(17条但し)は、加害行為地法。被害者と加害者の利益の公平を図り、準拠法につき加害者の予見可能性を確保する趣旨。予測可能性は一般的・平均的なものが予測できたかどうか。対象は結果発生地における結果の発生。
第17条 不法行為
不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、 加害行為が行われた地の法による
個別的不法行為
(1)生産物責任(18条)
- 原則:被害者が生産物の引き渡しを受けた地の法
- 生産物責任の場合、生産から事故の発生まで原因となる生産物が転々とする。17条の一般則を適用すると、結果発生地は偶然に左右されることから適当とは言えない。
- 18条は生産物で引き渡しがされたものの瑕疵により他人の生命、身体または財産を侵害する不法行為によって生ずる生産業者等に対する債権の成立及び効力の準拠法を、原則として「被害者が生産物の引き渡しを受けた地の法」としている。
- これは被害者が生産物を取得した時点での当該生産物の所在地を指し、通常は市場を意味する。市場は生産者と被害者の接点であるという点で中立的であり、かつ密接に関連する。
- 生産者は市場の安全基準をに従うと考えられ、生産業者等の行為を不法と評価する規範も市場地法に因るべきであるとする。当事者間のバランスに配慮した連結点であり、市場における競争の平等といった公益的観点に立つものではない。
- 例外:生産者等の主たる事業所の所在地法
- 予見可能性がなかった場合。一般則の加害行為地法に対応。例として、中古車市場。製造地や販売地なども考えられるが、むしろ生産物を市場に投入する意思決定を行う地である主たる事業所所在地の方が、市場地を原則的な連結点とする生産物責任における加害行為地としてより適切であると考えられた結果といえよう。
- 引き渡しを受けた者以外の者が被害を受けた場合、18条の「被害者が生産物の引き渡しを受けた地」という連結点は、被害者が事前に生産物や生産事業者等と直接接触したことを前提としているところ、生産物の引き渡しを受けた者ではないバイ・スタンダーは、このような前提を欠いており、市場地法の適用を予測できる立場にはない。
- とすれば、一般則である17条が適用されるべきである。例外として、生産物の引き渡しを受けた者の従業員や同居家族のように、引き渡しを受けた者と一体しできるような場合は、18条の適用が認められるだろう。
第18条 生産物責任の特例
前条の規定にかかわらず、生産物で引渡しがされたものの瑕疵により他人の生命、身体又は財産を侵害する不法行為によって生ずる生産業者(生産物を業として生産し、加工し、輸入し、輸出し、流通させ、又 は販売した者をいう)又は生産物にその生産業者と認めることがで きる表示をした者に対する債権の成立及び 効力は、被害者が生産物の引渡しを受けた地の法による。ただし、その地における生産物の引渡しが通常予見することのできないものであったときは、生産業者等の主たる事業所の所在地の法 による。
(2)名誉または信用の毀損(19条)
- 被害者の常居所地法:同時に複数の法域ぼとに不法行為がなされたとして、それぞれについて結果発生地法によりとすると、当事者間の紛争処理が複雑になるため単一の準拠法とした。
- 被侵害利益である名誉又は信用は物理的所在を持たないため、連結点としていずれの地を選ぶかが問題となるが、被害者の救済に資すること、加害者の予見可能性にも配慮し、何より常居所において最も重大な社会的損害が発生していると考えられることから、被害者の常居所地法が選ばれた。
第19条 名誉又は信用の毀損の特例
第十七条の規定にかかわらず、他人の名誉又は信用を毀損する不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、被害者の常居所地法(被害者が法人その他の社団又は財団である場合 にあっては、その主たる事業所の所在地の法)による。