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【国際法判例】核軍備競争の停止及び核軍縮交渉に関する義務事件(ICJ判決)

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国際法判例シリーズ。この記事では、核軍備競争の停止及び核軍縮交渉に関する義務事件のICJ判決についてまとめています。

【事件名】核軍備競争の停止及び核軍縮交渉に関する義務事件

【当事国】マーシャル諸島 v. パキスタン、インド、英国 

【判決日】国際司法裁判所(ICJ)管轄権判決:2016年10月5日

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事実と経過

  • 2014年4月25日、マーシャル諸島共和国国際司法裁判所(ICJ)に、核兵器保有国9カ国(中国、北朝鮮、米国、フランス、英国、ロシア、イスラエル、インド、パキスタン)に対し、核軍備競争の停止及び核軍縮交渉義務を果たしていないとして提訴。
  • マーシャル諸島は、インド、パキスタン、英国に対する管轄権の基礎として、ICJ規程36条2項の強制管轄受諾宣言を主張した。(マーシャル諸島:2013年4月24日、インド:1974年9月18日、パキスタン:1960年9月13日、英国:2004年7月5日にそれぞれ宣言)
  • 他6カ国については、管轄受諾宣言を出していないため、管轄権受諾の同意が必要となる(応訴管轄:38条8項)
  • マーシャル諸島は、核兵器不拡散条約(Nuclear, Non-Proliferation Treaty, or NPT)締約国である英国に対して、NPT第6条及び慣習法上の義務違反を主張。交渉開始を求める国連総会決議に反対していること、核軍備競争の停止に対して消極的かつ妨害的な行動を取ってきたこと、核兵器に依存する意思を繰り返し表明していること等を追及。

核兵器不拡散条約(NPT)第6条

各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。

  • NPT未締約のインド・パキスタンついては、「NPT第6条の義務は、単なる条約上の義務ではなく、国際慣習法上も別個に存在」し全ての国家に適用されるとし、インドとパキスタンはこの国際慣習法の義務に違反していると主張した。
  • インド・パキスタン・英国を除く被提訴国は、管轄権に同意することなく裁判所の管轄権は認められなかったが、同3国は裁判所の管轄権及び受理可能性に対して複数の抗弁を提出した。

判決要旨

裁判所は、当事国間に紛争の存在が認められないとして管轄権を否定し、本案審理に進むことができない旨の判決をした。(3件の個別の判決であるが、全てほぼ同内容)

提訴時に当事国間に紛争が存在していなかったとする抗弁
  • 当事国間に紛争が存在することは、裁判所の管轄権を認める条件の一つである紛争が存在するためには、両者の間に、特定の国際的義務の履行あるいは不履行の問題について明らかな意見対立がなければならない。
  • 紛争は、相手国が、提訴国と明らかに意見対立があると認識していた、あるいは認識自覚していなかったはずがなかったと証明された時にその存在が認められる。
  • 紛争の存在は、提訴時の原則に基づいて認めらなければならない。
紛争の存在の根拠
  • マーシャル諸島は多数国間のフォーラムでの2つのステートメントが紛争の存在を証明するとする。
  • 第1のステートメントは、2013年9月26日の「核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合」において、マーシャル外相が行なったものである。
  • 第2のステートメントは、2014年2月13日の「第2回核兵器の人道的影響に関する会議(ナジャリット会議)」において、マーシャル諸島の代表が行なったものである。
  • 第1のステートメントは、勧告的に(hortatory terms )述べたものであり、相手国(インド・パキスタン・英国、以下同じ)が何らかの法的義務違反を主張するものとは理解されない。
  • 第2のステートメントは、核軍縮の考え方についての交渉の問題ではなく、核兵器の人道的影響についての広範な問題を扱うもの会議で行われたものであった。 (また同会議に英国は出席していなかった)さらに、同ステートメントは、全核兵器国の行動に対する 一般的な批判であり、特定の国の行動が義務に違反していると主張するものではなかった。またこのステートメントに対して相手国の反応はなかった。
  • したがって、これら2つのステートメントを個別にまたは同時に考慮して、相手国が、マーシャル諸島が相手国の義務違反を主張していたと認識していたということはできず、当事国間に法的紛争が存在していたということはできない。
提訴時または手続進行中の紛争の存在
  • マーシャル諸島が提訴したこと及び訴訟手続進行中の当事国の立場(position)が紛争の存在を示すと主張。
  • 提訴時及びそれに続いてなされた宣言や主張は様々な目的、特に紛争の範囲を明確化する目的に資するが、もともと存在していなかった紛争を新たに(de novo) 紛争を創出することはできない
  • また、マーシャル諸島は、英国の核軍縮の多数国間のフォーラムでの投票行動の記録が紛争を成立させると主張する。
  • 裁判所の見解では、国連総会のような政治的機関における決議の投票から紛争の存在を推論する慎重でなければならない。多数の主張を含む決議に対する国家の投票が、それ自体によってある一つの主張に関して他の国家との間で紛争が存在を構成するということはできない
紛争の存在の推論
  • マーシャル諸島は、相手国の行動から紛争の存在が推論(infer) されると主張。
  • 多数国間のフォーラムでなされたどちらのマーシャル諸島ステートメントも、相手国の行動に関して特定していない。このことから、相手国の行動が当事国間の意見対立を示すということはできず、当事国間の紛争を発見する基礎を提供しない。

結論 

裁判所は、当事国間の紛争の不存在に基づく管轄権に対する抗弁を認める。

 (対パキスタン・インド:9対7、対英国:賛否同数のキャスティング・ボート)

裁判所は、管轄権が欠如していることから、本案に進むことができない。

 (対パキスタン・インド:10対6、対英国:9対7)

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