Dancing in the Rain

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オイル・プラットフォーム事件

イラン vs 米国 国際司法裁判所 

本案判決 2003年11月6日

<事実と経過>

 1980年〜1988年のイラン・イラク戦争に際して、イラクは湾岸地域を航行する船舶に攻撃を開始。イランもこれに応じてイラクと交易をする船舶に攻撃を開始し、第三国の船舶にもにも影響が及ぶようになると、クウェートは旗国を米国に切り替え、米海軍による保護を確保した。

 そうした背景の下、1987年に、米国船籍のクウェートのタンカー(Sea Isle City 号)がイランからミサイル攻撃を受けたとして、米国はイランのオイル・プラットフォームを攻撃。翌88年にも、バーレーン沖公海上を航行中の米国軍艦がイランの機雷攻撃を受けたとしてオイル・プラットフォームを攻撃した。

 1992年、イランは、これらの米国の行為が1955年の「米国とイラン間の友好経済関係領事権条約」(以下、1955年条約)の諸条項並びに国際法の「基本的な違反」を構成するとして、同条約21条2項(裁判条項)を援用し、米国を国際司法裁判所(ICJ)に提訴。

 米国は、管轄権を争う先決的抗弁を行なったが、96年12月、ICJはこれを退け、裁判所の管轄権を確認。他方で、ICJは、イランがペルシャ湾で行なった一連の行動(機雷敷設やミサイル攻撃等)が1955年条約に違反したとする米国の反訴を受理(98年3月)し、本案と併合して審理。

<判決要旨>

(1)争点整理

 イランの申し立ては、米国の攻撃が、締約国間の領域の間の通商と航行の自由を規定した1955年条約の10条1項等に違反したというもの。したがって、同項の解釈・適用の問題。他方で、米国は、本質的な安全保障上の利益を守るために必要な措置をとることを排除しない旨規定した同条約の第20条1項dを援用し、自己の行為を正当性を主張した。

(2)審理の順序

 1955年条約の第10条1項と第20条1項dのどちらを先に取り上げるかの優先順位につき、裁判所は裁量により後者の解釈・適用の問題を扱う。この紛争はもともと米国の攻撃が武力行使に関する国際法の原則に照らして合法かを巡って生じたものである。裁判所の管轄は、1955年条約 第20条1項dの解釈・適用にあたり、必要に応じて、米国の行動が国際法に照らして合法的な武力行使に当たるか否かの認定にも及ぶ。

(3)個別的自衛権の要件

 米国は、自己の行為を正当化するため個別的自衛権を主張しているため、以下を立証しなければならない。

  ①米国攻撃に対するイランの帰責性

  ②国連憲章第51条及び国際慣習法上の「武力攻撃」該当性

  ③被正当化行為の「武力攻撃」に対する「必要性」及び「均衡性

  ④自衛権行使対象の正当な軍事目標性

 (4)個別事例の検討

⒈ Sea Isle City 号へのミサイル攻撃

 ミサイル攻撃に対するイランの責任を示す証拠は十分でない。仮に帰責性の問題を留保して、米国が主張する同船を含む一連の行為全体を累積的に捉えたとしてもニカラグア事件で示されたような最も重大な武力の行使と評価されるような米国に対する「武力攻撃」を認定することは困難。

⒉ 米国軍艦の触雷

  機雷敷設は、イランとイラクの双方が行なっており、米国軍艦の触雷がイランの敷設した機雷によるものかどうかが問題。米国の提示した証拠は示唆的であるが、決定的でない。米艦一隻の触雷事件だけでも自衛権発動の原因になることは否定しないが、イランの帰責性が明らかでないことも含め、当時の状況から判断して、触雷事件が米国に対する「武力攻撃」を構成するとは考えない。

⒊ 必要性及び均衡性

 核兵器使用の合法性事件勧告的意見で示したように、自衛権の行使が必要性(necessity)及び均衡性(proportionality)の条件に服することは慣習国際法上の規則

 必要性について、両事件とも必要性があったとは考えない。均衡性について、87年の攻撃については必要性が認められたなら、均衡性のあるものとみなされたかもしれない。88年の攻撃については、重大な損害は生じたものの沈没せず、人的損害もなかった事件への対応としては均衡性があったとはいえない。 

⒋ 結論

 87年及び88年に行われた米国のイラン石油施設に対する攻撃は、自衛権の行使として評価されるものではなく1955年条約の第20条1項dに定める「本質的な安全保障上の利益を守るために必要な措置」としては正当化できない。

 (5) 1955年条約第10条1項の解釈・適用

 同条は、両締約国の領域間の通商の自由を保証。攻撃対象となったオイルプラットフォームは、全体として石油の生産輸送に従事しており同条の保護対象。しかし、87年の攻撃の際は、当該オイルプラットフォームは修理中で機能停止状態にあり、87年の攻撃の際は、イラン米国間の原油貿易は禁止されていた。そのため、オイルプラットフォームへの攻撃が、締約国領域間の通商の自由を侵害したとはいえず、イランの損害賠償は認められない。

 

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