Dancing in the Rain

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ジェノサイド条約適用事件

ボスニア・ヘルツェゴビナ vs セルビア・モンテネグロ 

国際司法裁判所(ICJ)

判決 2007年2月26日

事実と経過

 冷戦終結後、ユーゴスラビア社会主義共和国連邦の構成国が独立を宣言。ユーゴ解体の流れを契機として、ボスニア・ヘルツェゴビナは1991年10月に独立を宣言。これに対し、地域人口の一部を占めるセルビアは独立に反対し、1992年4月7日には、ボスニア・ヘルツェゴビナ領域内のセルビア人が「スルプニカ共和国」を樹立。これを契機にセルビアボスニア・ヘルツェゴビナ間で武力衝突が発生。こうした旧ユーゴの解体に伴い、民族・宗教間での対立が激化し、内戦へと発展し、多くの犠牲を出した。

 1993年3月20日、ボスニア・ヘルツェゴビナは、「集団殺害の罪の防止及び処罰に関する条約」ジェノサイド条約(以下、条約)9条を根拠として、セルビアモンテネグロ共和国が樹立したユーゴスラビア連邦共和国(後に、セルビア・モンテネグロに改称。以下、セルビアが、ジェノサイド条約、国際人道法、国連憲章国際慣習法等に違反して集団殺害、武力行使、主権侵害、内政干渉等を犯したとして国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、セルビアの国際違法行為の確認と損害賠償を求めた。

判旨

1 ジェノサイドの存在

 条約1条は、締約国にジェノサイドを防止し、処罰する義務を定めるが、条約は、締約国にジェノサイドを実行しないことも義務付けていると解釈。

 条約2条によると、ジェノサイドとは、①「国民的、民族的、人種的又は宗教的集団」の、②「全部又は一部に対し、その集団自体を破壊する意図」を持って、③集団構成員の殺害等列挙された行為をすること意味する。

 スルプニカ共和国軍によるスレブレニツァの虐殺(1995年7月、約7000人のムスリムが殺害)については、旧ユーゴ国際刑事裁判所ICTY)がジェノサイドを認定した。裁判所は同認定を踏襲し、虐殺がジェノサイドであったと認定する。

2 集団の行為の国家への帰属

 スルプニカ共和国のジェノサイド行為が、セルビアに帰属すると認定できれば、セルビアの国家責任を追及可能。

(1)国際慣習法及び国家責任条文4条に照らして、スルプニカ共和国がセルビア国内法上の機関であったとは認定できない。

(2)ニカラグア事件判決で判示したように、国内法上の機関でなくても、人又は集団が国内法上の国の機関の地位を持たない場合でも、事実上、国に「完全に従属」する場合には、当該集団の行為は国に帰属する。しかし、スルプニカ共和国は、セルビアから支援は受けていたものの、虐殺時には限定的であるが独立性はあったのであり、「完全に従属」していたとは言えず、事実上の国の機関とは認定でいない。

(3)国際慣習法である国家責任条文8条によれば、人又は集団が国の機関の地位を持たない場合でも、違法行為が国の指示又は指揮もしくは支配の下で行われたならば、当該集団の行為は国に帰属する。同条は、ニカラグア事件判決で判示した基準に照らして解釈され、「実効的支配」が証明されなければならない。違法行為が国家に帰属するためには、違法行為を行った人又は集団によりとられた行動全般に対してではなく、違法と主張される個々の行為に対して国の「実効的支配」が行使された又は指示があったことが示されなければならない。

 これに対し、ボスニアは、ICTY上訴裁判部のタジッチ事件判決(1999年)が判示した「全般的支配」の基準の採用を主張した。これは、集団殺害は多くの特定行為が異なる時と場所でなされることにより構成されるという特殊な性格を有することから、個々の行為に対して「実効的支配」が存在する必要なく、作戦全体に対して「全般的支配」が存在すれば十分であるというものである。

 しかし、「全般的支配」の基準は、武力紛争の国際性の基準としては適切であるが、国家責任の基準としては説得力を欠く。国際違法行為の性格によりこれを国に帰属させる規則は変わるものではなく、「全般的支配」の基準は行為と国家の間に存在すべき結びつきをほとんど断ち切るという欠陥を有することから採用できない。

 スレブレニツィアの虐殺はセルビアの関与の下に行われたが、それは実効的支配に該当するものではなかった。

(4)以上から、スルプニカ共和国のジェノサイドはセルビアに帰属しない。

3 ジェノサイドを防止する義務

(1)ジェノサイドを防止する義務は行為の義務であり、「相当の注意」義務を果たしたか否かにより国家の責任の有無が決定する。この防止義務の履行は、ジェノサイドの行為者に対する影響力等によって評価される。また、防止の手段がジェノサイドの防止に十分であったか否かは無関係である。この義務は、国家がジェノサイドの危険を知っていたか、通常知るべきであったことが必要である。

(2)セルビアは、スルプニカ共和国と強固な関係にあり「影響力」を行使できる立場にあったこと、当時の状況からスレブレニツァが占領された時点でジェノサイドが行われる危険を了知していなかったとは考えられないこと等から、セルビアはジェノサイドを防止するために措置をとらなかったことにより防止義務に違反した。

4 義務違反に対する賠償

 セルビアの防止義務違反とスレブレニツァのジェノサイドの間に因果関係はなく、防止義務を履行すれば虐殺を回避され得たとは証明されなかった。故に金銭賠償ではなく、満足(サティスファクション)が適切である。判決主文において、セルビアが防止義務を履行しなかったとの宣言がサティスファクションを構成する。

 

 

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