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(5)内国民待遇 II 国内規制 GATT 第3条4項【国際経済法】

 

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国際経済法(WTO法)シリーズ第4段です。国内規制についてまとめています。英語で勉強したので日本語訳は少々おかしいところがあるかもしれません。

 

国内規制(Internal Regulations)とは

  • 輸入品の国内での販売等に関する法律、規制、要件は、輸入国の国内における同種の産品よりも不利でない (no less favourable) 待遇を与えるものなければならばい。
  • 国内市場において輸入品と同種の産品に対して同じ競争環境を担保する趣旨。例えば、輸入品であるウイスキーに対して、国内の同種の産品である焼酎よりも高い酒税を課すことは、輸入品に対して不利でない待遇を与えていないために本条違反となる。

根拠規定:GATT 第3条4項

いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、その国内における販売、販売のための提供、購入、輸送、分配又は使用に関するすべての法令及び要件に関し、国内原産の同種の産品に許与される待遇より不利でない待遇を許与される。

 ただし、例外として第20条の一般的例外条項が適用される可能性あり。

GATT 第3条4項違反の要件

次の3要件が満たされる場合、GATT第3条4項違反を認定。

( i )産品に影響を与える国内規制であること(規制の存在)

( ii )同種の産品であること及び輸入品が国内産品と競合関係にあること

   判断基準ー物理的性質、消費者の嗜好、認識、間税分類など 

( iii )不利な待遇を与えていること(効果だけでは不足、競争関係に不利な影響を与えることが必要)なお、保護要件は不要(ECーシールズ) 

主要判例

DS135:ECーアスベスト(2001)

【事実】

  • 仏政府はアスベストの製造、使用、輸入を禁止する政令を制定。アスベストをフランスに輸出していたカナダは、当該政令GATT第3条 (NT)、11条 (数量制限)及びTBT協定 (技術的障害) 違反として主張。

【パネル報告】

  • アスベストに類似する4種の産品と、①性質上の類似性、②最終用途、③消費者の選好及び購買慣行、④関税分類といった観点から比較し、類似性を認定。
  • 第3条4項違反(ただし、第20条(b)で正当化)

 【上級委報告】

  • 前提として、同種の産品と不利な待遇を受けている輸入品は競合関係になければならない
  • 第3条2項については、同種の産品と直接競合・代替品 (DCS) を区別して規定しているため、前者を狭く解するとしたのに対し、同条4項の同種の産品については、そのような区別がないため広く解釈する余地あり。アスベストの発がん性は消費者の選好の観点から差異があり、他の類似品と同種の産品であるとは言えない。
  • カナダは、同種の産品であることの立証責任を負う。
DS400:ECーシールズ(2014)

【事実】

  • ECは、アザラシ製品のEC市場への導入を禁止。ただし、IC規定(先住民族によって狩猟されたアザラシ製品を対象)とMRM規定(海洋資源管理のために捕獲されたアザラシ製品を対象)の例外を設定。

【争点】

  • カナダ/ノルウェー産のアザラシが、グリーンランドと比べて不利となるので、第1条 (最恵国待遇) 、第3条4項及びTBT協定第2条1項違反を主張。EUGATT第20条 (a)及び(b)により正当化。

【ポイント】

  • 国内産業の保護目的は要件ではない。
  • 第3条は、輸入品に対する競争機会の平等を保護するものであり、「不利でない待遇」とは、輸入品に対して異なる扱いをするだけでは不十分。また、実際に不利な影響が存在することは立証不要。措置によるインプリケーションを評価。
  • 措置と競争機会への悪影響(detrimental impact)の間には真正な関係 (genuine relationship) がなければならない。
  • 措置自体の正当性は検討しない(第20条により判断。)。そのため当該措置に合理的な理由が存在した場合(国内規制には、WTO違反となるものであっても、例えば環境保護や公徳の保護など一見最もらしい正当化事由を背景にしている場合が少なくない)でも、一旦は同条で違反を認定し、その上で第20条の規定により違法性を阻却するという構造。

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(4)内国民待遇 I 国内税 GATT 第3条1項及び2項【国際経済法】

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国際経済法(WTO法)シリーズ第3段、国内税についてです。英語で勉強したので日本語訳は少々おかしいところがあるかもしれません。

 

内国民待遇 National Treatment(NT)とは

  • GATT 第3条1項は、課税及び国内規制の適用についての保護主義に対する原則、同条2項(及び付属書)は国内税、4項は国内規制についてそれぞれ規定。
  • 国内税については、輸入品が「同種の国内産品」に対して差別的に扱われる(=輸入品に対してより高い税率の国内税が課せられる)ことがないようにしなければならず、「同種性」がしばしば争点となる。また、直接競合品又は代替品については、輸入品と国内産品が「同様に」課税されなければならないと規定されており、この場合においても「直接競合性又は代替性」が争点となる。
  • 他にも、関税は第2条により認められているのに対し、国内税は第3条に規定があるため、両者の区別が問題となる。

GATT 第3条1項

締約国は、国税 (internal taxes) その他の内国課徴金と、産品の国内における販売、販売のための提供、購入、輸送、分配又は使用に関する法令及び要件並びに特定の数量又は割合による産品の混合、加工又は使用を要求する内国の数量規則は、国内生産に保護を与えるように (so as to afford protection to domestic production) 輸入産品又は国内産品に適用してはならないことを認める。

GATT 第3条2項

いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、同種の国内産品 (like domestic products)に直接又は間接に課せられるいかなる種類の国税その他の内国課徴金をこえる(in excess)内国税その他の内国課徴金も、直接であると間接であるとを問わず、課せられることはない。さらに、締約国は、前項に定める原則に反するその他の方法で内国税その他の内国課徴金を輸入産品又は国内産品に課してはならない。

Ad Note2:(同種の産品でなくとも)課税品と直接競合するか代替品である製品が、同様に課税されていない (not similarly taxed) 場合でかつ、保護目的があるときも適用。

2の第一文の要件に合致する租税は、一方課税される産品と他方そのように課税されない直接的競争産品 (directly competitive) 又は代替可能の (substitutable) 産品との間に競争が行われる場合にのみ、第二文の規定に合致しないと認める。

GATT 第3条2項違反の要件

第3条2項第1文

  1. 国内税又は課徴金であること
  2. 全ての課税対象が同種の産品であること
  3. 国内産品を超える課税が適用されていること

第3条2項第2文

  1. 国内税又は課徴金であること
  2. 直接的に競争関係にあるか代替品であること
  3. 同様に課税されていないこと
  4. 保護目的であること(第3条1項)

主要判例

D S8/10/11:日本酒税事件(1997年)

【事実】

  • 日本の酒税法は、税率をアルコール度数により分類。ECは、ウォッカ、ジン、ラム及び焼酎は同種の産品(like products) であり、焼酎よりも高い税金を課していることは、GATT第3条2項第1文に違反すると主張。
  • また、同種の産品でないとしても、直競合品又は代替品(directly competitive or substitutable products) であるため、同条同項第2文に違反(ウィスキー、ブランディ、リキュールについても第2文違反を主張)。
  • これ対し、日本は、国内産業保護目的ではなく、スピリッツ類、ウィスキー、ブランディ、リキュールは、like products でなく、directly competitive or substitutable products でもない旨を主張した。

【論点】

  • 同種の産品及び直接競合品又は代替品の意義

【パネル報告】

  • 二段階アプローチ:① like products or competitive/substitutable products ② in excess or not similarly taxed
  • Like productsは厳格に解釈、その審査はケースバイケースだが、最終使用 (end uses)、消費者の嗜好 (consumer's taste and habits)、製品の特徴や性質が考慮要素として重要。
  • Directly competitive or substitutable products については、価格弾力性(elasticity of substitution) が重要となる。同様に課税されているかどうかについては、de minimis であるかどうかによる。
  • 第二文の保護目的は、(立法者意思など主観的基準ではなく)客観的基準により審査。デザイン、構造、措置のストラクチャーから判断。
D S339:中国ー自動車(2009年)

【判旨】

  • 支払うべき税金が輸入に際して(on importation)に生じる場合は関税であり第2条により規律されるが、国内事情 (internal domestic event)のために生じる場合は国内税となり第3条によって規律される。

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(3)非関税障壁ー量的制限 GATT 第11条【国際経済法】

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国際経済法(WTO法)シリーズ第2段、非関税障壁のうちの量的制限に関するまとめです。英語で勉強したので日本語訳のおかしいところがあるかもしれません。

 

数量制限の一般的な廃止 General Elimination of Quantitative Restrictions とは

  • 原則としてGATT 第11条1項は、関税、税、課徴金 (duties, taxes or other charges)以外の輸入・輸出にかかる制限や禁止の禁止。制限・禁止の態様が割当 (quotas) であると、輸出入ライセンスであると、他の措置であるとを問わない。第11条2項は例外を定めている。
  • GATT法制上、数量制限は非関税障壁 (Non Tariff Barriers)として一般的に禁止。ただし供給不足物資に関する措置は大きな例外。また、輸出税に関しては禁止されていない(GATT第2条2項)ため、高税率の輸出税を課すことで事実上の輸出制限となり、制度上の抜け穴(loop hole)となる可能性はある。
  • さらに国際収支の擁護(第12条)及び低開発国の産業育成(第18条)のための例外の他、第20条による一般的例外規定が存在。

GATT 第11条1項

締約国は、他の締約国の領域の産品の輸入について、又は他の締約国の領域に仕向けられる産品の輸出若しくは輸出のための販売について、割当によると、輸入又は輸出の許可によると、その他の措置によるとを問わず、関税その他の課徴金以外のいかなる禁止又は制限も新設し、又は維持してはならない。

 GATT 第11条2項

(a) 輸出の禁止又は制限で、食糧その他輸出締約国にとつて不可欠の産品の危機的な不足を防止し、又は緩和するために一時的に課するもの

(b) 輸入及び輸出の禁止又は制限で、国際貿易における産品の分類、格付又は販売に関する基準又は規則の適用のために必要なもの

(c) 農業又は漁業の産品に対して輸入の形式のいかんを問わず課せられる輸入制限で、次のことを目的とする政府の措置の実施のために必要なもの(以下略) 

主要判例

L6309:日本ー半導体(1988年5月4日)

【事実・経緯】

  • 1980年代に日本の半導体の輸出が米国を上回ったことにより、米国はダンピング(不当廉売)調査を実施。交渉の結果、日米半導体協定を締結。
  • 同協定により、米国および第三国に輸出されるコストならびに輸出価格を監視、これにより半導体価格が上昇。EECは、反ダンピング措置は、輸入国産業に損害がある場合にのみ取りうるとして提訴。

【争点】

  • 第三国に対する監視措置は、輸出価格及び輸出数量を制限するものであり、GATT第11条に反する。

【パネル報告】

  • 一定以下の価格での輸出を制限することは、第11条における数量制限に該当する。
  • 第11条は、法律や規制に限定されずより広い措置について適用され、法的拘束力のない事実上(de facto)の量的制限も射程にある。
  • 非拘束的要請が、第11条上の措置となるには、①当該要請が実施されるのに十分なインセンティブがあると考えられる合理的な根拠が存在すること、②当該措置(企業に特有の費用を下回る価格での輸出)が政府の介入に本質的に依存していること。
D S155:アルゼンチンー皮革(2000年)

【事実】

  • アルゼンチンは、同国の皮革産業団体かに皮革等の輸出前段階の輸出通関代理の権限を付与。同団体は皮革を含む製品に関する手続規定を作成。
  • 同手続によると、積込前輸出検査に国内皮革産業関係者が臨席することとされ、実際の検査は国内皮革産業関係者が実施していた。

【争点】

  • EUは、国内皮革産業関係者が輸出の通関手続に臨席することが事実上の輸出制限に該当し、 GATT第10条3項 (a)、11条1項に違反する旨主張。

【パネル報告】

  • 当該措置は、公平的、かつ合理的に貿易に関する法、規則、その他の措置を実施しなければならないことを規定するGATT第10条3項 (a) に違反し、かつ輸出制限を規定した同手続規定がGATT 第11条の適用範囲となりうる(ただし、措置が第11条に違反するかどうかについては、 EUが国内皮革産業団体の税関手続における介在が同条に違反する旨の立証を行っていないとして違反を否定。)。
  • また、それ自体は直接には輸出制限ではないが、間接的に輸出制限の効果を持ちうる措置をGATT第11条に違反する。
D S438:アルゼンチンー輸入措置(2015年) 

【事実】

  • アルゼンチンは、貿易関連要求措置(TRRs)を含む輸入制限措置を実施。
  • TRRs は、輸入者等に、輸入するための条件をつけるものであり、これらの条件には、輸出入均衡要件、輸入量上限設定、送金制限、国内投資要求、ローカルコンテント要求が含まれていた。

【パネル報告】

  • 申立国は、違反の疑いのある措置について立証責任を負うが、本件のような明文の規定のない措置の場合は全てを証明しなくともよい。
  • 被申立国にも協力義務があり、拒否すれば不利な事実認定を受ける可能性がある。
  • 量的制限について、貿易量が実際に減少したことを立証する必要はなく、第11条は、輸入産品の競争機会を保護するものである。
D S366:コロンビアー輸出入港(2009年) 

【事実】

  • コロンビアは、織物及び衣料の輸入の通関港を26中11港に制限。中でもパナマと中国製品についてはボゴタ1港のみ認める措置となっていた。

【争点】

  • パナマは、GATT第11条違反、第1条(最恵国待遇)、コロンビアは、20条(d)による正当化を主張。

【パネル報告】

  • 入港規制措置は、第11条の「その他の措置」に該当する。
  • 第11条により禁止される措置は、量的制限のみではなく、不確実性を創出し投資計画に影響する措置、 輸入品の市場アクセスを制限する措置、輸入コストを禁止的に高額にする措置(=輸入者の競争的地位に影響を及ぼす措置)を含む。
  • 事実上の制限効果(貿易量の低下)は11条違反の認定には必要なく、制度の設計及び構造から判断可能である。

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(2)譲許表 GATT 第2条【国際経済法】

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国際経済法(WTO法)シリーズ第一弾、譲許表についてです。英語で勉強したので日本語訳が少しおかしいところがあるかもしれません。

 

譲許表 Schedule とは

原則として、WTO加盟国は各メンバー国に対して約束した関税率(bound rate)を超える関税を課したり、その他のいかなる義務も課してはならない。他方で、これにはいくつかの例外があり、第3条に整合的な内国民待遇(national treatment, NT)、第6条に整合的なアンチ・ダンピング措置及び相殺関税 (countervailing duty))等の貿易救済措置 (trade remedies) 、関税事務手続等に伴う手数料その他の課徴金 (fees or other charges)による義務については譲許表の範囲を超えても認められる。

なお、同条は関税についての規定であり、輸出入の量的制限については第11条が定める。関税割当 (Tariff Rate Quota, TRQ) については、量的制限を伴うものであるが、関税制度の一種であり、第2条により規律される。WTO法は譲許表の範囲内で関税を課すことについては認めているのであり、必ずしも保護主義を禁じているとは言えない。他方で、量的制限についてはこれを一般的に禁止している(ただしこれについても例外あり。)

GATT 第2条1項

譲許表に定めるよりも不利でない待遇(no less favourable )を譲与する義務

(a) 各締約国は、他の締約国の通商に対し、この協定に附属する該当の譲許表の該当の部に定める待遇より不利でない待遇を許与するものとする。  

GATT第2条2項

ただし、(1)第3条に定める内国税、(2)第6条に整合的な反ダンピング措置または相殺関税、(3)提供された役務に相応する手数料または課徴金を除く

 この条のいかなる規定も、締約国が産品の輸入に際して次のものを随時課することを妨げるものではない。

  1. (a) 同種の国内産品について、又は当該輸入産品の全部若しくは一部がそれから製造され若しく生産されている物品について次条2の規定に合致して課せられる内国税に相当する課徴金
  2. (b) 第六条の規定に合致して課せられるダンピング防止税又は相殺関税
  3. (c) 提供された役務の費用に相応する手数料その他の課徴金

譲許表の修正

GATT第28条1項:当初の交渉国及び主要な供給国は、実質的な利益を有する他の加盟国と協議することにより譲許表を修正することができる。

GATT第28条2項:補償を含む交渉における交渉国は、相互主義的で交渉前よりも不利でない譲許となるように努めなければならない。

主要判例

DS256 アルゼンチンーテキスタイル(1998年4月22日)

【事実】

アルゼンチンは繊維製品等につき以下の関税を実施。①特別最低輸入関税:繊維、衣料品、及び履物に関連する関税品目ごとに平均輸入価格を算定し、それに基づき35パーセントの義務的税率を掛けて最低関税を算出適用。②統計税:従価3パーセントの統計税を統計サービスを財政的に賄うために設定。米国は、GATT第2条 (a) 及び (b) 違反を主張。アルゼンチンは、譲許税率である35パーセントの従価税相当額を超えない限り反しない。

【争点】譲許表は従価税であるがその上限を超えなければ最低関税を設定しても第2条違反とならないのか。

【パネル報告】

  • アルゼンチンが従価税方式で関税を約束しながら特別最低関税を利用するという事実は、同国の譲許表およびGATT2条の要件に合致しない。

【上級委報告】

  • 最低関税制度は(その適用自体ではなく)譲許表に規定された関税を超える範囲で適用される場合に2条1項(a)及び(b)違反を認定する。

DS269 ECー冷凍チキン(2005年9月27日)

【事実】

ECの譲許表は「加塩された」冷凍鶏肉について、他の鶏肉よりも低い関税率を適用。ブラジル産の骨なし冷凍鶏肉は加塩された鶏肉であるものの、「長期保存のため」に加塩されたものではないとして、本来の譲許表の分類とは異なる分類により高い税率の関税を適用。ECは、同分類について「保存」の意味を読み込むことによって、ブラジル産の鶏肉を低関税の枠から排除したい思惑があった。

【争点】EC 譲許表 における「加塩された(salted)」は専ら 「保存 (preservation) 」の意味を持つものと解釈でき、よって物理的に加塩されていても保存に堪えうる塩分含有がなければ 「加塩された」冷凍鶏肉に分類されないのか。

【パネル報告】

  • ウィーン条約法条約(VCLT)第31条ないし第32条によって解釈。「趣旨及び目的」は「文脈」によって文言を確定。
  • 「加塩された」の「通常の意味」は、保存だけに限られない。文脈を検討する必要がある。

【上級委報告】

  • 前提として、条約解釈は終局的に一体化した営為 (holistic exercise) であり、特定の状況の勘案は、「通常の意味」、「文脈」のいずれの名目でも解釈の結果に影響しない。
  • 統一システム (HS) は、条約法条約第31条2項 (a) の「合意」であり、解釈上の「文脈」となり得る。同条約第31条3項 (b)の「事後の慣行」について、ある程度の加盟国による慣行と少数国による慣行は異なるが、反応の不在による慣行の受容は、(当該実行が)既知となったにもかかわらず反応がない場合に起こりうる。 

【結論】ECはGATT第2条に違反(「加塩された」の定義により、よくかつ均一に食塩を浸透させ、塩分含有量が重量で 1.2%以上の骨なし冷凍鶏肉は、この文言に含まれるため、これと異なる分類により高い関税を課すことで不利な待遇を供与している。)。

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【国際法判例】米国によるイランへの再制裁事件(ICJ仮保全措置命令)

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国際法判例シリーズ。この記事では、米国によるイランへの再制裁事件のICJ仮保全措置命令についてまとめています。

【事件名】米国によるイランへの再制裁事件

【当事国】イラン v. 米国 

【決定日】国際司法裁判所(ICJ)仮保全措置命令:2018年10月3日

国際法判例の記事一覧はこちらから>

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事実と経過

  • 2018年5月、米国は、イランの核プログラムに対する制約と引き換えに制裁解除を約束した、イランと国連安保理常任理事国、ドイツ及びEUによる2015年の合意であるJCPOA(Joint Comprehensive Plan of Action)からの離脱を表明。さらに米国は、2018年11月までに同国のイランに対する制裁解除を解く意思を表明。これに対し、イランは米国を国際司法裁判所(ICJ)に提訴。同時に、再制裁を防止する仮保全措置命令を要請した。
  • 米国は、ICJの強制管轄権を1986年に離脱しているため、イランは、管轄権の基礎として、1955年の米国イラン二国間の友好経済関係領事権に関する条約(1955 Iran-U.S. birateral Treaty of Amiy, Economic Relations, and Consular Rights. 以下、友好条約)を主張した。友好条約第21条2項は、同条約の「解釈又は適用」にかかる紛争について、「外交により十分な解決がなされない場合」にICJの管轄権を認めている。
  • イランは、米国の再制裁により経済的な損害を被り、これにより米国は友好条約の以下の各条に違反したと主張した。第4条1項(国民、法人及びその財産に対する公平で平等な取り扱い)、第7条1項(両国間の資金の移動の自由)、第8条1項及び2校ならびに第9条2項(輸出入品に対する最恵国待遇)及び第10条1項(二国間の通商及び航海の自由)
  • これに対し、米国は以下を主張し、イランに反論した。
  1. JCPOAは独自の紛争処理メカニズムを備えているため、ICJによる紛争解決を排除している。
  2. 放射性物質に関する措置及び安全保障上の不可欠の利益を保護するために必要な措置の適用を友好条約違反の正当化自由として認める同条約の第20条1項を援用し、JCPOAからの離脱及び再制裁の実施は、米国の安全保障上の利益及び核不拡散のために必要な措置である。
  3. イランが外交的解決のための努力を怠っているために管轄権を援用する要件を欠いている。

命令要旨

  • 裁判所が仮保全措置を命令するためには以下の3要件を充足する必要がある。すなわち、(1)裁判所に一応の(prime facie)管轄権があり、(2)主張する権利が少なくとももっともらしいものであり(plausible)かつ要請する措置と関連しており、(3)当該措置を否定することが、回復不可能な損害をもたらす真正で急迫な(real and imminent)危険があることを提訴国は立証しなければならない。

一応の管轄権

  • 裁判所はまず、友好条約20条1項は、同条約の解釈及び適用に関する紛争に対するICJの管轄権を認めていることから、米国の主張する同条約第21条2項の安全保障例外が適用されるか検討する必要性は、裁判所の管轄権を受諾するのに十分であると判示し、一応の管轄権を認めた。
  • また、裁判所は、同条約は外交交渉を裁判所の管轄権の前提条件として要求していないと判示した。

権利と措置の関係性

  • 次に、裁判所は、権利と措置の関係について、イランの主張する権利は、少なくとも人道的物資の貿易及び民間航空機の安全に関する権利については安全保障例外の範囲外であることを認めた。さらにこれには、医療及び医療機器、食料、民間航空の維持及び支援のサービスが含まれるとした。
  • これに対し、米国は、すでに民間航空の安全を含む人道的例外の制度を有しており、かつ、人道支援及び民間航空の安全にかかる問題が、完全で迅速な考慮を受けるべく最大の努力をすることを保証すると主張したが、裁判所は、その保証の野心的な性格(aspirational nature)から裁判所の介入が必要であると判示した。

回復不能な損害

  • 最後に、裁判所は、回復不可能な損害について、制裁の実施による生命及び健康に対する損害と解釈した上で、人道的物資及びサービスの通商に対する制約はそのような損害を引き起こす可能性があると判示した。

以上から、裁判所は、イランに対する人道的物資及び民間航空の安全を確保するためのサービスの輸出に対する再制裁によるいかなる損害を除去することを要請する仮保全措置命令を決定した。また、裁判所は、両国が、これ以上紛争を悪化させないことを約束することを命令した。

備考

  • 1955年のイランと米国間の友好条約は、1979年に両国の外交関係が断絶する前に締結された条約であるが、これまでにもテヘラン米国大使館事件(1980年)及びオイル・プラットフォーム事件(2003年)において管轄権の基礎として認められてきた経緯がある。またイランは、イランの財産事件(Certain Iranian Assets Case)においても同条約を管轄権の基礎として主張している。
  • 本決定を受けて、米国は友好条約を即時に破棄する旨を表明した。また、同時に、本決定とは関係なく、人道的支援に関連した取引に対する例外的措置は維持する旨発表した。ただし、友好条約第23条3項は、条約の破棄について、書面による通知の1年後に失効するとしており、本件及び保留中の米国対イランの事件については影響を受けない。  

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