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(8)補助金と相殺関税 II SCM協定(各論)【国際経済法】

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国際経済法(WTO法)シリーズ第7弾、補助金と相殺関税についてその2です。前回の記事に対して各論といったところでしょうか。文量の問題もあって補助金の該当要件とそれに関する判例については踏み込んでいません。

 

対抗可能な補助金

  • WTO加盟国が、相殺関税措置又はWTOの紛争処理手続を利用するためには、対象となる補助金対抗可能な補助金(actionalble subsidy)でなければならない。
  • その要件として、補助金が特定(specific)されていること、及び悪影響を与えていることが必要。なお、禁止補助金(後述)についてはこの限りでない。

特定性

  • SCM第2条によれば、補助金が特定性を有するには、まず、当該補助金の対象が企業又は産業enterprise or industry)でなければならない(同条第1項)
  • 次に、補助金の対象が法律等により明示的に特定企業に限定されている場合は、特定性を有するものとみなされる。他方で、補助金の交付条件につき、客観的な基準ないし定めらており、かつ、適正に運用にされている場合は特定性は存在しないものとされる。
  • 禁止補助金(SCM第3条)については、デフォルトで特定性を有するものとされる(SCM第2条3項)

 

SCM第2条

1.1 ... 補助金が当該補助金を交付する当局...の管轄の下にある一の企業若しくは産業又は企業若しくは産業の集団...について特定性を有するか有しないかを決定するため、次の原則を適用する。

( a )交付当局又は交付当局の適用する法令が補助金の交付の対象を明示的に特定企業に限定している場合には、当該補助金は、特定性を有するものとする。

( b )交付当局又は交付当局の適用する法令が補助金の交付を受ける資格及び補助金の額を規律する客観的な基準又は条件を定めている場合には、特定性は、存在しないものとする。ただし、当該資格が自動的に付与されるものであり、かつ、当該基準及び条件が厳格に遵守されていることを条件とする。当該基準又は条件については、確認することができるように、法令その他の公文書に明確に定めなければならない。

(略)

1.2 交付当局の管轄の下にある地理的に指定された地域内にある特定企業のみに交付される補助金は、特定性を有するものとする。
1.3 次条の規定に該当する補助金(注:禁止補助金)は、特定性を有するものとみなす。

悪影響

  • SCM第5条は、補助金によって悪影響(adverse effect) を及ぼしてはならないと規定。
  • 悪影響は、( a )他の加盟国の国内産業に対する損害(injury)、( b )他の締約国のGATTに基づく利益(特に第2条の譲許の利益)の無効化又は侵害(nullification or impaierment)、または、( c )他の加盟国の利益に対する著しい害(serious prejusdice)がある場合に存在。
 (1)国内産業に対する損害
  • 損害とは、実質的な損害(material injury)、実質的な損害のおそれ、または、国内産業の確立の妨害を意味する。

  • 国内産業に対する損害は、補助金を受けた輸入品の量、補助金を受けた輸入品の国内の同種の産品の価格に及ぼす影響等を検討しなければならず、検討に際しては販売量、市場占有率、利益、生産性、雇用、賃金といったすべての経済的な要因を含めなければならない(SCM第15条4項)

  • 補助金と損害の間には因果関係がなければならず、因果関係は、すべての関連する証拠及び要因に基づいて立証されなければならない(SCM第15条5項)

(2)無効化又は侵害
  • 申立国は、補助金の使用が、締約国が協定上享受している利益(benefits)を無効化又は侵害していることを立証しなければならない。
  • US-相殺法事件において、パネルは、SCM協定上の無効化又は侵害についてGATT第23条におけるそれと同義であり、同条と同様の手法により評価されるべきとした。
(3)著しい害

SCM第6条は、補助金の効果が、以下の4類型のいずれか(または複数)をもたらす場合に著しい害が生じうる(may arise)と規定。

  1. 他の締約国からの同種の産品の輸入を代替し又は妨げる(displace or impede )ものである場合。
  2. 第三国市場において他の加盟国の同種の産品の輸出を代替し又は妨げるものである場合。
  3. 補助金を受けた輸入品が、他の加盟国の同種の産品の価格を著しく下回る場合(undercutting)又は、同一の市場における価格の上昇を著しく妨げ(price supression)、価格を著しく押し下(price depression)げ若しくは販売を著しく減少させるものである場合。
  4. 補助金の交付を受けた産品の当該補助金を交付している国の世界市場における占拠率を増加し、かつ、その増加が、補助金が交付された期間を通じて一貫したものである場合。 

禁止補助金

禁止される補助金とは、SCM第3条によれば、以下の2類型に分類される。

  1. 法令上又は事実上、唯一の目的であるか他の条件のうちの一つであるかを問わず、輸出が行われることに基づいて(contigent upon export performance)交付される補助金(輸出補助金)。
  2. 唯一の目的であるか他の条件のうちの一つであるかを問わず、輸入物品よりも国産物品を優先して使用すること(upon the use of domestic over imported goods)に基づいて交付される補助金

補助金に対する救済措置

  • 禁止補助金及び対抗可能な補助金に対する救済措置として、WTOの紛争解決手続による救済と相殺関税措置による救済をとることが可能。同時に両者を追求することも可能であるが、二重の救済は許されない。
  • また、救済措置をとるためには、対抗可能な補助金の場合、特定性、悪影響、因果関係が必要。禁止補助金の場合は、特定性及び悪影響要件は不要。

WTOの紛争解決手続による救済

相殺関税措置(後述)とは異なり、禁止補助金と対抗可能な補助金とではそれぞれ別の規定が存在。

(1)対抗可能な補助金
  • 補助金が悪影響をもたらしたとする旨の報告をパネル又は上級委員会が採択する場合には、補助金交付国は、悪影響を除去するための適当な措置(appropriate steps )をとるか、または、補助金を廃止しなければならない(SCM第7条8項)
  • 報告採択日から6か月以内に加盟国が補助金の悪影響を除去し又は補助金を廃止するための適当な措置をとらず、かつ、代償についての合意が存在しない場合には、紛争解決機関(DSB)は、申立国に対し、悪影響の程度及び性格に応じた対抗措置をとることを承認する。(同条9項)
(2)禁止補助金
  • パネルは、禁止補助金であると認める場合には、補助金を交付している加盟国に対し、当該補助金を遅滞なく(without delay)廃止するよう勧告(SCM第4条7項)
  • パネルが定めた期限内に紛争解決機関(DSB)の勧告が実施されない場合には、同機関は、申立国に対し、適当な対抗措置(appropriate countermeasures)をとることを承認する(同条4条10項)懲罰的な報復措置としての性格。

相殺関税措置(Countervailing Duties, CVDs)

  • SCM第10条は、相殺関税措置がGATT第6条の規定に適合(consistent)しなければならないと規定。すなわち、相殺関税は、産品の製造、生産又は輸出について直接又は間接に交付される補助金を相殺する目的とするものであり、悪影響に対するものではない。
  • 相殺関税は、損害を与えている補助金に対処するために必要な(necessary to counteract)期間及び限度においてのみ効力を有する(SCM第21条1項)
  • 相殺関税は、その賦課の日から合理的な期間が経過している場合、見直しの必要性を裏付ける実証的な情報(positive information substantiating the need for a review)を提供する利害関係を有する者の要請に基づいて、見直しが行われなければならない(同条2項)
  • いずれの場合においても、いかなる相殺関税も、その賦課の日又は見直しの日から5年以内に撤廃されなければならない。ただし、見直し後に、相殺関税の撤廃が補助金及び損害の存続又は再発をもたらす可能性があると決定する場合は、この限りでない(同条3項)

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(7)補助金と相殺関税 I GATT第6条3項とSCM協定【国際経済法】

 

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国際経済法(WTO法)シリーズ第6弾、補助金と相殺関税についてです。わかりやすくするため2回に分けることにしました(2回で収まれば良いですが。)。 

 

概論

  • 輸入品の製造コストが外国政府(輸出国政府)によって助成又は相殺されているために、自国の産品が損害を受けた場合、WTO加盟国は貿易救済措置(trade remedy measure)として、一方的に、つまりWTOによる紛争解決手続の終了を待たずに相殺関税countervailing duties, or CVDs)を課すことができる。その根拠はGATT第6条3項に求められる。
  • なお、貿易救済措置とは、特定の条件下において正当に輸入を制限できる措置であり、WTO法上、相殺関税のほか、ダンピング措置及びセーフガード措置が認められている。また貿易救済措置には、なお、一般例外条項(GATT第20条)は適用されない。
  • 1979年に合意、1994年に改定された補助金及び相殺措置に関する協定(相殺措置協定:Agreement on Subsidies and Countervailing Measures, or SCM Agreement)は、相殺措置及び反ダンピング措置について、実体的及び手続的事項を規定。
  • SCM協定の下では、WTO加盟国は、補助金に対する救済措置として、相殺関税措置だけでなくWTOの通常の紛争処理手続による解決も追求可能。定められた期限内に、紛争解決機関の勧告の実施がなされない場合には、申立国は対抗措置(countermeasures)の承認を求める申請が可能。
  • 相殺関税と紛争処理手続による解決は同時に追求可能だが、二重の救済(double relief)は許されない。

GATT 第6条3項

いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、原産国又は輸出国においてその産品の製造、生産又は輸出について直接又は間接に与えられていると認められる奨励金又は補助金の推定額に等しい金額をこえる相殺関税(countervailing duty)を課せられることはない。「相殺関税」とは、産品の製造、生産又は輸出について直接又は間接に与えられる奨励金(bounty)又は補助金(subsidy)を相殺する目的で課する特別の関税をいう。

補助金の定義

SCM第1条補助金の定義を規定。これによれば、政府又は公的機関(a government or any public body)による資金面での貢献( a financial contribution)があり、これにより利益(benefit)が発生した場合に、補助金が存在するとみなされる。

SCM 第1条

この協定の適用上、次の( a )の( 1 )又は( 2 )のいずれか及び( b )の条件が満たされる場合には、補助金は、存在するものとみなす(shall be deemed to exist)。

( a )(1)加盟国の領域における政府又は公的機関資金面で貢献していること。

すなわち、

  1. 政府が資金の直接的な移転(direct transfer of funds)を伴う措置(例えば、贈与、貸付け及び出資)、資金の直接的な移転の可能性を伴う措置又は債務を伴う措置(例えば、債務保証)をとること。
  2. 政府がその収入となるべきものを放棄し又は徴収しない(otherwise due foregone)こと(例えば、税額控除等の財政による奨励)。
  3. 政府が一般的な社会資本以外の物品若しくは役務を提供し(provide goods and services)又は物品を購入(purchases goods)すること。
  4. 政府が資金調達機関に支払を行うこと、又は政府が民間団体に対し、通常政府に属する任務 ... を遂行すること若しくは政府が通常とる措置と実質上異ならないものをとることを委託し若しくは指示する(entrusts or directs a private body )こと。

(2)GATT 第16条に規定する何らかの形式による所得又は価格の支持があること。

( b )( a )の(1)又は(2)の措置によって利益がもたらされること。

救済措置の対象となる補助金

SCM協定の下、補助金は以下の2種類に分類。

  1. 禁止補助金(prohobited subsideis):輸出が行われることに基づいて公布される補助金、輸入品よりも国内品を優先して使用することに基づく補助金(SCM第3条)
  2. 対抗可能な補助金(actionalble subsideis):相殺関税措置又はWTOによる紛争解決措置の対象となる補助金。要件として、補助金特定(specific)されていること(SCM第2条)、他の加盟国に悪影響(adverse effects)を及ぼすものであること(SCM第5条)が必要。

補助金に対する救済措置の概観 (まとめ)

  1. そもそもSCM協定上の補助金が存在するか(SCM第1条:政府行為+利益)
  2. その補助金特定性を有するかどうか(SCM第2条)ただし、禁止補助金(SCM第3条)は特定を有するものとみなされる。
  3. 補助金悪影響を及ぼすか(SCM第5条)ただし、禁止補助金は悪影響要件は不要。
  4. 対抗可能な補助金(1〜3を満たす補助金)及び禁止補助金に該当する場合、救済措置として、(1)SCM協定に基づく相殺関税措置を一方的に実施、(2)WTOの紛争解決手続(紛争解決機関の勧告+対抗措置)の開始のいずれか又は両方を追求できる。

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コニー・アイランドの憂鬱 【旅エッセイ/アメリカ・ニューヨーク】

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コニー・アイランドという地名が、なんとなく頭の片隅に残っていたのは、最近見た映画のちょっとした場面に登場したからだった。

 

ニューヨークが舞台の物語。親友に裏切られ、おまけに母親ともなんだかうまくいかない思春期の娘。亡くなった祖母だけが心のよりどころだった。ある日、彼女はマンハッタンを飛び出して、ブルックリンにあるコニー・アイランドへと一人で向かう。浜辺に座って、波音に耳を傾けながら、祖母に想いを馳せる。気がつけば祖母が彼女の隣に座っている。肩を寄せ合う二人。かつてよくそうしたように。海辺の遊園地は昼間と打って変わって静まり返っている。星空だけが二人を見下ろしている。

 

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遅かったじゃない、と詰め寄る母親。娘の返事はない。「コニー・アイランドまで行ってたの」と彼女はぼそり呟く。すると母親は血相を変えたように言う。「ねえ、あなた今日は学校お休みしなさい。2人だけの時間が必要だわ」それから、母親は娘をぎゅっと抱き寄せる。彼女は、その瞬間、喪われかけた愛がまだそこにあることを知る。母親が自分にもう一度振り向いてくれたことを嬉しく思う。たとえそれが、ほんの束の間のものであったとしても。

 

ぼうっと見ていたら何気なく見過ごしてしまいそうなシーンではあるけれど、やはりこの場面のポイントは、年頃の女の子(中学生くらいだったと思う)がマンハッタンから小一時間かけてメトロに揺られながら、コニー・アイランドに一人で出かけていく、というところにあるのだろうと思う。これにはやっぱり母親にとってそれなりのインパクトがあるんじゃないか。もしこの映画の舞台が東京で、世田谷かどっかの瀟洒な邸宅に住む一家の娘が、小田急で江ノ島まで行ってきたの、なんて言ったならば母親は同じような対応しただろう(偏見です)。

 

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そういう柄でもないのだけれど、時々、無性に浜辺で風に吹かれていたいと思うことがある。たぶん、これが初めてのニューヨークで、時間もそれなりに限られていたならば、わざわざオフ・シーズンのコニー・アイランドのビーチまで出向くことはなかったろう。けれども、幸いにもそれは僕にとって4回目のニューヨーク訪問で、それに完全に自由に自分の時間の使うことができた。行き帰りを考えると結構な遠出ということになるけれど、かといって他に行きたいところもうまく思いつかない。それに例の映画のこともある。

 

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メトロはいつの間にかマンハッタンを抜けると、地上に出て橋を渡りブルックリンへと向かっていた。4月のよく晴れた平日の午後。もともとそんなにいなかった乗客の数もどんどんと疎らになっていく。本当にこのまま乗っていても大丈夫なのかと、少し不安になってくるくらいに。なんというか、この感覚は東京からどこか郊外へ出てさらに海辺へと向かう路線に似ている気がする(それこそ小田急線か片瀬江ノ島線らへんなんじゃないかと思う)。

 

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調べてみると、コニー・アイランドというのは、100年以上も前からニューヨーカーや観光客に愛されてきた憩いの場で、現在でも夏になれば、ビーチはもちろんのこと、水族館や遊園地に人の波が押し寄せるのだという。けれども、実際に足を運んでみると、ロー・シーズンだからか、これでもニューヨークなのかと思うほど、なんとも鄙びた雰囲気である。日本のような海の家こそないけれど、海浜に向かって等間隔に置かれたベンチには、なんだか物憂げな人々が(多くは老人である)ただただ座ってじーっと水平線の彼方を眺めているか、何をするでもなく佇んでいるのだ。なんとも言えない哀愁が、そこにはある。僕は彼らの抱えるそのやり場のない感情をコニー・アイランド的メランコリー、と呼びたい(たぶん、というかもちろん英語にもそんな表現はない) 。

 

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僕は彼らを横目で眺めながら、海岸線沿いに張り巡らされたボード・ウォークをひたすら歩いて、なんとなく人気のある方へと向かっていく。ヘルシンキで見たような図体の大きなカモメが、眩いばかりの太陽を背に悠々と頭上を飛び交っている。しばらく歩いていると、昔ながらのホットドック・スタンドが立ち並んでいるのが見えてくる。ここまで来ると少し賑わいが感じられる。カメラを携えた観光客らしき人々も増えてくる。それから何と言っても、コニー・アイランドの最大の目玉は、(水族館もあるけれど)このどこか懐かしいような遊園地だろう。と言ってもそれは、とてもこじんまりとしていて、遊園地というよりかは、行き場のないジェットコースターやら観覧車やらを便宜的に陳列しただけの屋外博物館のようにも見える。

 

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やはりまだ春だからか、遊園地の半分以上のアトラクションが稼動してしていなかった。これがまたなんとも侘しい感じで、なんというか、どうしようもなく気だるい雰囲気があっていい。そして、皮肉にもこの遊園地の存在は、彼らが抱えるコニー・アイランド的メランコリーを陽気に笑って吹き飛ばすどころか、逆に彼らに同調するかのような、あるいは、そっと寄り添うかのような、そんな不思議なフィット感がある。

 

とはいえ彼らがどうして、そして、どこからこの海岸にやってくることになったのかを僕は知らない。あるいは、僕は少し感傷的になり過ぎているかもしれない。映画のせいもある。実際のところ、彼らはただただ海辺の風に当たりたくて、ふらっと散歩がてらやって来たマンハッタンの高級アパートメントに住むラグジュアリーなご老人かもしれない。ウォール・ストリートで荒稼ぎした後のアーリー・リタイアメントで時間を持て余したノマドなのかもしれない。あるいは、僕みたいな物好きな旅行客かもしれない。

 

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ただ、僕がここで言いたいのは、つまり誰にだって、多かれ少なかれ何かしらのコニー・アイランド的な問題(ないし憂鬱)を抱えているし、そして時にそれは、コニー・アイランド的な解決を必要としているのだということだ。映画の中の女の子みたいに、ある日ふと思い立ってコニー・アイランドの浜辺で風に当たっている、そんな日があってもいいんじゃないかということなのだ。

 

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映画について

文中に出てきた映画は「ワンダー 君は太陽」です。紹介は割愛しますがラストシーンからお気に入りのセリフの引用を。

Be kind, for everyone is fighting a hard battle. And if you really wanna see what people are, all you have to do... is look.

必死にたたかっている人に優しくすること。それから、もし本当にあなたがその人のことを知りたいと思うなら、すべきことはただ一つ、見るということ。

 

 

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(6)一般的例外条項 GATT第20条【国際経済法】

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国際経済法(WTO法)その5、GATT 第20条の一般例外条項についてまとめました。第21条の安全保障例外については別にまとめようと思います。

 

一般的例外条項 General Exceptions  

  • GATT 第20条は、量的制限(第11条)や内国民待遇(第3条)の例外として一般的な例外条項(=あらゆる協定違反の正当化根拠)を定める。
  • ただし、貿易救済措置(反ダンピング、セーフガード、補助金)については適用がない。なお、安全保障に関する例外については別立てで第21条に規定。
  • さらに、衛生植物検疫措置についてはSPS協定、国際的規格に関してがTBT協定がそれぞれ特定分野の権利義務及び例外を規定。

GATT第20条

  • 締約国は、任意の又は正当化できない差別(arbitrary or unjustifiable discrimination)でないか、又は、偽装された制限(a disguised restriction)でないことを条件として、下記の措置(抜粋)をとることができる。
  • すなわち、何らかの国内措置が一見して協定違反であっても、次の場合に当てはまる場合は正当化されうる。

(a)公徳(public morals)の保護に必要な措置

(b)人、動物、植物の生命又は健康の保護に必要な措置

(d)法令規制の遵守compliance with laws or regulations )に必要な措置

(g)有限自然資源(exhaustible natural resources)の保護関する(relating to)措置

GATT 第20条

この協定の規定は、締約国が次のいずれかの措置を採用すること又は実施することを妨げるものと解してはならない。ただし、それらの措置を、同様の条件の下にある諸国の間において任意の若しくは正当と認められない差別待遇の手段となるような方法で、又は国際貿易の偽装された制限となるような方法で、適用しないことを条件とする。

a. 公徳の保護のために必要な措置

b. 人、動物又は植物の生命又は健康の保護のために必要な措置

d. この協定の規定に反しない法令の遵守を確保するために必要な措置この協定の規定に反しない法令の遵守を確保するた

g. 有限天然資源の保存に関する措置。ただし、この措置が国内の生産又は消費に対する制限と関連して実施される場合に限る。

要件

(1)協定違反の措置の存在(ex. 量的制限、内国民待遇、最恵国待遇など)

(2)第20条の要件充足(二段階テスト

  (i)各号いずれかの要件

  (ii)柱書(chapeau)の要件:恣意的な又は正当化できない差別、偽装された制限

  • 第20条を援用して、国内措置のGATT違反を正当化するためには、そもそも違反が存在しなければならない。被申立国としては、そもそも当該措置が協定違反でないことを主張するか、あるいは、又は同時に、協定違反を第20条による正当化を主張することが可能。
  • 第20条の適用可能性は、判例法理によると、二段階テストによって審査される。すなわち、まずは、(a)〜(g)の各号のいずれかに該当することを被申立国は立証しなければならない。この点、後述のブラジルータイヤ事件によれば、非申立国は、当該措置の必要性((g)号を除く)について一応の証明がなされればよいとされる。これに対して、申立国は、代替手段があることを立証しなければならない。
  • 次に、第20条のシャポー(柱書)の要件として、当該措置が、(1)恣意的な差別であるか(2)正当化できない差別であるか、又は(3)偽装された制限であってはならない。すなわち、申立国は、第20条の各号が立証されたとしても、当該措置が恣意的又は正当化できない差別であること、あるいは、偽装された制限であることを立証することにより、当該措置の違法性を主張することが可能となる。
  • 後述の、シュリンプータートル事件によれば、同条柱書は、例外を主張する(規制権限を有する)加盟国とGATTの実体法上の権利を持つ加盟国の権利と義務のバランスを図ったもの。同事件は、恣意性及び正当性ついて、措置の実施に関する非柔軟性と手続の透明性(due process)の欠如誠実な交渉の不在により認定。なお、偽装された制限については確立された判例法理は存在しない。

主要判例

DS332:ブラジルータイヤ(2007)

【事実】

  • ブラジルは再生タイヤの輸入を通産省令により禁止。これについてECは、当該輸入禁止措置がGATT第11条1項に違反すると主張。ブラジルは、抗弁として、GATT第20条(b)による例外の適用を主張。

【判旨】

(※必要性要件について)

  • 「必要性」とは、「不可欠性(indispensable)」に限定されない。
  • 必要性は、政策目標と達成手段の比較衡量(weighing and balancing )により判断される。
  • 具体的に考慮すべき事項として:措置の遵守による目的への貢献度、規制や措置によって保護される利益や価値の重要性、国際貿易に対する制限的効果(trade restrictiveness)等がある。
  • 措置が目的達成に貢献するというためには、目的と措置の間に「真正な目的と手段の関係」がなければならない。また、貢献は、実質的な貢献(material contribution)でなければならない。
  • 措置の必要性の予備的結論が得られた場合(非申立国の立証責任)、代替手段の有無によって確定される。申立国(本件ではEC)は、合理的に利用可能な(reasonably available)より貿易制限的でない代替手段を提示しなければならない。
  • 代替手段は、非申立国の保護水準(level of protection)を達成する権利を保護するものでなければならない(本件の場合、ブラジルには政策目標として保護水準を設定する権利を有する、ECはその設定された水準を満たすような代替手段を提示する必要がある。)。
DS58:シュリンプータートル(1998)

【事実】

  • エビ底引き漁における海亀の大量死を削減する目的で、米国は、海亀除去装置(TEDs)を開発。
  • 米国は、エビの捕獲国が米国と同等の規制プログラムを有しており、かつ同等の付随的捕獲率を維持しているか、捕獲国の漁業環境は海亀に対して危険がないことを証明しない限り、 海亀に悪影響を与える可能性のある方法で捕獲されたエビの輸入を禁止。(ただし、適用対象はカリブ海大西洋地域に限定)
  • 国務省の1991年ガイドラインは、同等と認定されるために外国は、常に TEDs を使用することを義務づけ、又は代替的にエビ漁に絡む海亀大量死を削減するための、統計的に信頼でき、かつ検証可能な科学的プログラム導入を約束しなければならないとした。さらに、1993年には、代替プログラムのオプションを削除した。
  • 同1996年ガイドラインは、TEDの使用の義務づけを全ての外国で捕獲されたエビについて拡張認証国以外からの輸入を禁止した。新たに対象となった国については、より短い経過期間が設定された。

【判旨】

  • 第11条1項(量的制限)違反については争いがない。
  • 第20条(g)の天然資源には、非生物天然資源に限定されていない
  • 関連する」とは、措置の一般的な構造と設計と達成しようとする政策目標の関係を審査し、手段が目的に合理的に関連していることが必要である。
  • 第20条柱書について、恣意的又は正当と認められない差別を構成するためには「差別」、「恣意性又は不当性」、「同様の条件の下にある諸国の間の差別」の要素が必要。
  • 柱書は、20条各号の例外を主張する加盟国の権利と他の加盟国の実体法上の権利の間で権利・義務のバランスをはかるための規定であり、その均衡線は特定の事案に応じて移動する。
  • 正当と認められない差別に関して、法律上の規定それ自体は、本質的に同じ政策の採用を要求しておらず、それだけでは同等性決定において裁量又は柔軟性が認められるように見える。しかし、国務省の現行ガイドラインによる実施及びその運用実務においては当該柔軟性が排除されている(すなわち、一律に米国の採用するTEDsを採用してることを義務付けている。)。
  • ある政策目標を達成するために自国内で実施されているのと本質的に同一の包括的規制プログラムを採用するよう要求するような禁輸措置を使用するのは受け入れられない。 また、非認証国である限り輸入が認められないことは、ウミガメ保護という政策目標にも矛盾。
  • また、米国は、禁輸実施以前に、被上訴国等エビ輸出国とともに海亀保護のための二国間又は多国間協定の締結に向けた真剣かつ全般的な交渉を行っておらず、米国は一部の輸出国(米州諸国)とは真剣に交渉し、他の輸出国とはそれを怠ったのであるから、差別であり、かつ正当と認められない。
  • さらに、カリブ海・西大西洋地域の 14の輸出国は TEDs 使用要求に対応するために 3 年の経過 期間が与えられたが、被上訴国を含む他の輸出国は要求実施のため 4 ヶ月しか与えられ ていない。
  • 非柔軟性及び手続の不透明性は恣意的な差別も構成する。

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【メモ】カロライン号事件 The Caroline Incident

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判例ではないですがしばしば慣習法上の自衛権の先例として取り上げられることの多いカロライン号(キャロラインと訳しているのを見かけることもありますね)についてまとめてみました。

 

事実と経過

  • 1812年の米英戦争後、両国間の関係が悪化する中、カナダ北部(現在のオンタリオ)で暴動が発生。反乱軍は英国から独立し「カナダ共和国」の樹立を宣言。アメリカは同暴動に対して人的・物的にカナダを支援。
  • 1837年12月中旬、反乱軍の指導者が更なる支援を求めるべくニューヨーク州バッファローにて集会を開催。同月13日、反乱軍と義勇軍の一部は、ナイアガラの滝の上流のネイビー島(カナダ領)に拠点を確立、同島において蒸気船カロライン号によってアメリカから物資の供給を受けていた。
  • 同月29日の夜、英国ーカナダ軍は、アメリカ側へと航行していたカロライン号を拿捕するべく同号を追跡し、乗船員を下船させた上で、同号を炎上させナイアガラの滝に放った。この過程で乗組員一人が殺害。死亡者・行方不明者の数は誇張され、米国国民の感情を激化させた。
  • 1838年1月、米国と英国の間で書簡のやり取りがなされたが具体的な進展はなかった。その後、1841年には、カロライン号に放火した首謀者がアメリカ政府により逮捕されたことにより事態は進展。
  • 1842年、米国国務長官ダニエル・ウェブスター(Daniel Webster)は、在米英国公使アシュバートン卿 (Lord Ashburton)等との書簡でのやり取りにて、英国による破壊行為は自衛権行使によって正当化しえない旨を訴えるとともに、自衛権行使の要件(いわゆる「ウェブスター・フォーミュラ」ないし「Caroina Test」)を表明した。
  • これに対し、英国は、国際法上の領域主権の原則と武力行使の例外としての自衛権及びその要件としてのウェブスター・フォーミュラを認め、その上で英国の行動は自衛権行使の要件に合致していたと主張した。米国は、国際法の原則について英国が認めたことにより、これ以上本件については争わないとし、両国は、ウェブスターアシュバートン条約により和解の合意に至った。

自衛権行使の具体的要件

英米間の書簡の中で、ウェブスター・フォーミュラとされる部分は以下のとおり。 

... those exceptions (=self-defense) shuold be confined to cases in which necessity of that self-defence is instant, overwhelming, and leaving no chioce of means, and no moment for deliberation

自衛権の行使は、自衛の必要性が急迫しており、圧倒的手段の選択の余地がなく熟慮の余裕がない場合に認められる。

先例的価値

  • ウェブスター・フォーミュラは、特に国家責任法、主権免除、及び開戦法規(jus ad bellum)の領域においてしばしば引用され、とりわけ武力紛争法の分野においては、先制的(anticipatry)自衛権及び非国家主体に対する自衛権行使の根拠として援用されるほか、自衛権行使の必要性及び切迫性の議論においても主張されてきた。
  •  1940年のニュルンベルク軍事裁判所は、ドイツのノルウェー侵攻に対する自衛権行使による正当化の主張に対して、本原則を援用した上で退けた。国連安保理での議論においてもしばしば援用される。 ex. イスラエルによるイラクオシラク原子炉爆撃
  • 国連憲章51条は、国連加盟国に対する武力攻撃( if an armed attack occurs)に自衛権の行使を限定。これに対し、同条は、憲章以前の慣習法上の自衛権に影響を与えるものではないとする説もあるが、近年の実行は、むしろ51条の自衛権行使の対象に差し迫った(imminent)武力攻撃も含まれると読み込むもの(=先制的自衛権)。
  • 他方で、カロライン事件は自衛権行使の例ではなく、憲章時代における武力行使の根拠と異なる19世紀における緊急避難(necessity)であるとする説(国際法委員会(ILC)の国家責任法条文コメンタリー、2001年)
  • オバマ政権は、2016年12月、カロライン事件を非国家主体に対する自衛権行使の先例として援用した上で、切迫した武力攻撃に対する先制的自衛権の行使の合法性を認める(2017年1月には英国、4月にはオーストラリアも同旨を表明。)。
  • 米国の同表明によると、テロリストなどの非国家主体やサイバー攻撃など新たなる脅威に対して、ウェブスター・フォーミュラのような近代型の切迫性の基準に限らず、テロ組織の現代的能力、技術、技術革新の観点から、柔軟性を持って解釈されるべきとする。

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