Dancing in the Rain

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Life is not about waiting for the storm to pass but about learning how to dance in the Rain.

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(10)セーフガード措置 GATT第19条とSG協定【国際経済法】

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この記事では、WTO法における貿易救済措置第その3、セーフガードについてまとめています。

 

概要

  • セーフガード(safeguard)措置とは、 予見されなかった展開(unforseen development)により、輸入量が増加(in such increased quantities)し、輸入品と同種の又は代替する国内産品の生産者に重大な損害(serious injury)を与えるかまたはそのおそれがある場合に、協定上の義務の停止等を認める制度。日本語では、緊急措置と呼ばれる。
  • SG措置は、相殺関税及びアンチ・ダンピング措置と並ぶ貿易救済措置だが、他国の不公正(unfair)な実行を前提としていないこと、4年の期限があること(ただし延長可能)、全加盟国に対して適用されること(erga omnes)という点で他の措置と異なる。
  • SG措置の前提となる調査(investigations)は、加盟国内の調査当局(authority)により実施。多くの場合、影響を受けた国内生産者の要請に基づき調査を開始。
  • 根拠規定は、GATT 第19条及びセーフガード協定(Safeguard Agreement)

GATT第19条

締約国は、事情の予見されなかつた発展の結果及び自国がこの協定に基いて負う義務(関税譲許を含む。)の効果により、産品が、自国の領域内における同種の産品又は直接的競争産品の国内生産者に重大な損害を与え又は与えるおそれがあるような増加した数量で、及びそのような条件で、自国の領域内に輸入されているときは、その産品について、前記の損害を防止し又は救済するために必要な限度及び期間において、その義務の全部若しくは一部を停止し、又はその譲許を撤回し、若しくは修正することができる

 セーフガード措置の発動要件

SG措置は以下の要件が満たされる場合に認められる。

  1. 輸入の増加
  2. 重大な損害
  3. 因果関係
  4. 予見されなかった展開

輸入量の増加

  • 輸入の増加(increased imports)とは、輸入品の絶対量または相対量(マーケット・シェア)の増加を指す。
  • 輸入品の増加は、単に数理的にまたは技術的に決定するのではなく、調査期間(典型的には3〜4年)における輸入の傾向(trends)を考慮しなければならない(アルゼンチン ー履物)
  • 増加は、十分に最近(recent)で、十分に急激(sudden and sharp)で、十分に重大(significant)でなければならない(同上)

SG協定第2条1項

加盟国は、ある産品が、同種の又は直接に競合する産品を生産する国内産業に重大な損害を与え又は与えるおそれがあるような増加した数量(絶対量であるか国内生産量に比較しての相対量であるかを問わない。)で、及びそのような条件で、自国の領域内に輸入されていることを当該加盟国が次の規定に従って決定した場合にのみ、当該産品についてセーフガード措置をとることができる。

重大な損害

  • 重大な損害(serious injury)とは、国内産業の状態の著しい全般的な悪化(a significant overall imopairment)をいう(SG第4条1項(a))
  • 重大な損害の調査にあたっては、全ての関連性を有する要因(客観的かつ数値化された輸入の増加率及び増加量、輸入品のマーケット・シェア等)を検討しなければならない(SG第4条2項(a))
  • 重大な損害のおそれ(threat)については、それが明らかに差し迫った(imminent)なものでなければならず、推測ではなく事実に基づかなければならない。
  • 重大な損害は、アンチ・ダンピング措置の実質的な損害(material injury)よりも重大であることが必要とされるが、究極的には調査当局の裁量によるところとなる。
  • 国内産業(domestic industry)とは、輸入品と同種又は直接競合品の生産者全体又は国内生産全体の相当な部分(major proportion)を占めている生産者をいう(SG 第4条2項(c))

因果関係

  • 輸入の増加と損害の発生が同時に存在し、増加した輸入と国内産業に対する重大な損害(及びそのおそれ)の間に因果関係(causal link)がなければならない(SG 第4条2項(b))
  • また、損害発生に輸入の増加以外の要因がある場合は、その他の要因による損害については輸入の増加に帰責してはならない(non attribution analysis)

予見されなかった展開

  • GATT第19条1項は、予見されなかった展開(unforseen development) 及びGATT上の義務の効果の結果による場合にSG措置を認めることを規定。SG協定には同旨の規定はないものの、WTO判例では予見されなかった展開についても説明することを求める。
  • その展開により輸入が増加したこと(輸入の増加自体が予見されなかった展開を構成することはできない)及び当該産品の関税交渉の時点で合理的に期待できなかったことが必要。

救済措置

  • 相殺関税及びアンチ・ダンピング措置と異なり従価税である必要はなく、関税の引き上げ(関税割当を含む)又は量的輸入制限(輸入割当など)の救済措置をとることが可能。
  • 最恵国待遇(MFN):救済措置は問題となっている輸入品に対して無差別的に適用されなければならない(SG第2条2項)
  • 期間:重大な損害を防止しかつ調整のために必要な期間(as may be necessary to)においてのみ可能。原則4年以内。延長も可能であるが、最長で8年まで(SG 第7条)
  • なお、SG 措置が終了した後、直ちに新しいSG措置をとることは原則的には許されない。

補償

  • 緊急措置を実施する場合は、他の影響を受ける加盟国との間で、実質的に同等のレベルの譲許及びその他の義務を維持するよう努めなければならず、このための補償(compensation)についても合意することができる(SG第8条1項)
  • 30日以内に合意できない場合、影響を受ける加盟国は、SG措置の実施国に対して実質的に同等のレベルの譲許を停止(=報復措置)できる(同条2項)
  • ただし、絶対量の増加を要因とするSG措置の場合は、措置から3年間は上記の譲許停止はできない(同条3項)
  • なお、実際に補償の交渉に至ることは稀。

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国際法学習のリンク集

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国際法学習に役に立ちそうなオンライン・リソースをまとめています。ほとんど英語です。分野に偏りがあると思うのでほぼ自分用です。適宜気がついたら拡充していきます。全て順不同。

 

議論や学説

書籍は通常何年か遅れて出版されるので、現実の事象とどうしても時間的なギャップが生じてしまいます。特に開戦法規(jus ad bellum)の分野だと常に国家実行は変遷しているので、最新の学説や議論についてフォローする必要が出てきます。

ブログ

時事系の国際法問題について調べる時など役立ちます。特に米国の場合、論文で引用されてたりするので侮れません。メンバーシップも不要で無料。

(1)LAWFARE 

(2)Just Security(でも安全保障だけじゃない)

(3)EJIL:Talk!(欧州での議論をフォロー)

(4)Opinio Juris

専門誌・ジャーナル

登録が必要だったりしますが、国際法と外交・国際関係とのリンケージを考える上で有益だったりします。

(1)American Journal of International Law(AJIL)(国際法)

(2)Arms Control(軍縮・軍備管理)

(3)Center for Strategic and International Studies(政策論)

(4)Foreign Affairs(国際関係) 

公式文書

何か調べているとき学説だけでなく極力一次資料に当たるようにします。

判例

(1)国際司法裁判所(ICJ)

(2)国際貿易機関(WTO)

データベース

(1)国連文書検索 文書番号が分かっていればこれで検索

(2)国連安保理決議 会議ごとに調べる。バーベンタムの記録も。

(3)国連総会決議 同上

(4)国連国際法委員会 (ILC) Draft Article などを探している場合。

(4)外務省条約検索 条約の公定訳を調べる場合。日本が締約国の条約のみ。

(5)国会議事録検索 日本政府の見解を調べる場合。

条約など

これから(たぶん)適宜収集していきます。

(1)国連憲章(英語 / 日本語

(2)国家責任条文(本文 / コメンタリー

(3)条約法条約

(4)国際刑事裁判所(ICC)規程(英語 / 日本語

(5)国際司法裁判所(ICJ)規程(英語 )

(6)国連海洋法条約(UNCLOS)

(7)侵略の定義に関する決議

(8)GATT(英語 / 日本語

(9)セーフガード協定(英語 / 日本語

補足

調べればすぐに出てきますが手元にあったのでこれらも。

(1)ニカラグア事件本案判決

(2)オイル・プラットフォーム事件判決

(3)在テヘラン米国大使館事件判決

(4)核兵器の合法性勧告的意見

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【国際法判例】コンゴ領域における武力活動事件(コンゴ対ウガンダ:ICJ判決)

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国際法解説シリーズ。この記事では、コンゴ領域における武力活動事件のICJ判決についてまとめています。

【事件名】コンゴ領域における武力活動事件

【当事国】コンゴ民主主義共和国 v. ウガンダ 

【判決日】国際司法裁判所(ICJ)本案判決:2005年12月19日

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事実と経過

  • 民族対立や資源獲得を背景とした第一次コンゴ戦争は1997年に終結。同戦争では、ウガンダルワンダの支援を受けたローラン・カビラが、ザイールのモブツ・セセ・セコ政権を打倒して自ら大統領に就任、国名をコンゴ民主共和国(the Democratic Republic of Congo, DRC)へと変更した。
  • 政権を奪取したカビラは、国内の支配体制を強化。これにより、DRC 国内の武装勢力は近隣諸国に対する活動を活発化、ウガンダルワンダはこれを自国の安全保障上の脅威と捉え、両国は反政府勢力特にカビラ政権に反対するツチ系のバニャムレンゲの武装勢力に援助を行った。
  • 1998年8月、バニャムレンゲの武装蜂起に続いてウガンダ及びルワンダ軍が、DRC の領域に進駐。これにより、第二次コンゴ戦争(大アフリカ戦争 Great African War)が勃発した。これに対して、アンゴラジンバブエナミビア、チャドなどの諸国はカビラ政権を支持するために軍事援助を開始。
  • 1999年6月23日、DRC は、ウガンダルワンダ及びブルンジをICJに提訴。三カ国による武力による侵略("armed agression")は、国連憲章及びアフリカ憲章違反であると主張した。
  • 同時にRDCウガンダに対する仮保全措置を要請。ICJは、軍事活動を差し控えること、国際法上の義務を履行すること、紛争地域における基本的人権の尊重を命令した。 

当事国の主張

ウガンダの主張
  • そもそも第一次コンゴ紛争中の1997年5月から1998年9月にかけて、ウガンダ軍がDRCの領域内に駐留することについてカビラ政権の同意(consent)があった。
  • また、ウガンダは、DRC領域内に存在する反ウガンダ勢力からの脅威に曝されており、これに対処するために自衛権を発動した(ただし自衛権行使として安保理に報告したのは2000年6月になってから。)。
  • 武装勢力は非国家主体であるが)その目的を知りながら武装集団に兵站支援をすることは自衛権発動のための武力攻撃(armed attack)を構成する。
DRCの主張

判決要旨

ウガンダ武力行使は、領域国の同意及び自衛権行使により正当化することはできず、国連憲章第2条4項に違反する。

領域国の同意
  • カビラ政権のウガンダ軍駐留についての同意は、少なくとも1998年8月のビクトリア会議(Victoria Summit)において明示的に撤回(withdraw)された。したがって、裁判所はこの時から同意は終了したものと判示。
  • よって、領域国の同意による武力行使の正当化はできない。
非国家主体に対する自衛権
  • DRCに対する自衛権の発動を認めるためには、武装集団による攻撃がDRCに帰属することが必要であるが、DRCが武装集団による攻撃に関与していたことを示す十分な証拠は提示されなかった
  • また、これらの攻撃を累積的に(as cumulative)検討したとしても、DRCへの帰属を肯定することができない。
  • また、管理不能であるというだけでは非国家主体の行為は領域国に帰属しない。
  • よって、武装集団の行為はDRCへ帰属せず、DRCに対して自衛権を発動することはできない。

論点 

  • 非国家主体に対する自衛権行使については、ニカラグア事件、オイル・プラットフォーム事件の判決を踏襲し、伝統的な国際関係における自衛権概念に沿った限定的解釈を提示した。
  • ただし、裁判所は、非正規軍による大規模な武力攻撃に対する自衛権行使の可能性については完全には排除しておらず、本判決には曖昧な部分が多い。
  • 特に9.11テロ以降の国家実行(ex. unable or unwilling の基準)により非国家主体に対する自衛権の合法性については議論のあるところであるが、本判決についても評価は分かれる。
  • 裁判所はその必要性がないとして判示しなかったが、ウガンダ武力行使必要性及び均衡性についても満たしておらず、非国家主体に対する自衛権を肯定したとしても、正当化することは困難。
  • ウガンダ国連安保理への自衛権行使の報告の遅滞について、裁判所はその事実に言及したものの、法的評価にどのような影響を与えるか具体的に示すことはなかった。

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備考

  • 本件は、2003年に終結した大アフリカ戦争とも呼ばれる国家及び非国家主体を含む複雑な武力紛争のうち、開戦法規(jus ad bellum)に焦点を絞ったものに過ぎない。他にも、武力紛争の性質(国内紛争であるか国際紛争) 、国際人道法及び人権法の違反、平和維持(peacekeping)及び監視などの法的論点考えられる。
  • DRC は、ウガンダに対する仮保全措置命令後、ルワンダブルンジに対する提訴を取下げ。2002年3月28日、国連憲章第2条3項及び4項違反としてルワンダを再提訴。同時にルワンダに対する仮保全措置も請求するが、ICJは、(一応の)管轄権の基礎がないとしてこれを棄却(同年7月10日)2006年には、本案についても同様の理由で棄却した。

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【メモ】サウジアラビアのイエメンに対する軍事介入 The Saudi-led Military Intervention in Yemen's Civil War

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米国の国際法関連の記事でよく目にするイエメン内戦。今回は、特にその端緒となった2015年のサウジアラビア等のイエメンに対する軍事作戦の合法性についての議論についてまとめています。

 

 事実と経過

  • 2011年1月、アラブの春(Arab spring)」がイエメンにも波及。ムハンマド・アリ・アブドラ・サーレハ大統領の辞任を要求して抗議。これを受けて大統領は、湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council, or GCC)と国連、EUとの間で政権の移行プロセスに合意。
  • 2012年2月に行われた大統領選挙で、唯一の大統領候補であったハーディー副大統領が大統領に就任。国民対話会議(Conference for National Dialgue, or NDC)が新たに発足。
  • 2014年には、民主化プロセスを支援するために国連安保理決議2140が採択。同年、NDCは解散し、イエメンは、6つの地域からなる連邦制へと移行することとなった。
  • この間、イスラムシーア派の一派であるザイード派の武装組織であるフーシ(Houthi)派(アンサール・アッラー (Ansar Allah) とも呼ばれる)は政治不安に乗じて、イエメン北部から勢力を拡大していた。この動きには同じくシーア派であるイランが支援していると疑われていた。
  • サーレハ元大統領と同盟関係を結んだフーシ派の軍人アル・フーシは、2014年9月には首都のサヌアを完全に占拠し、ハーディー大統領を軟禁状態においた。
  • 2015年2月、フーシが政権掌握を宣言すると、ハーディー大統領は南部のアデンへの逃亡(その後、サウジアラビアのリヤドへと退避。)。2015年3月24日、ハーディ大統領は、GCCに対して軍事援助を求める書簡を送付した。
  • 同月25日、イエメン国民及びフーシにより奪取された正統な政府を保護することを目的として、サウジアラビアを始めとするGCC諸国による軍事作戦(Decisive Storm 作戦)が開始。また、米国及び英国には技術及び兵站の支援を行った。
  • その後、イエメン内戦は、幾度かの外交的な和平プロセスの試みはあったものの、サウジアラビアの支持する暫定政権とイランの支持するフーシの「代理戦争」の様相を呈し、さらにはアルカイダなどの地域勢力も巻き込み泥沼化、2020年現在においても継続している。

各国の反応・主張

(1)イエメン
  • ハーディー大統領は、GCCに対して軍事支援を要請する書簡及び国連へ宛てた書簡の中で以下を主張した。
  • フーシの軍事活動は、侵略行為であり、その脅威はイエメンの安全のみならず、地域全体と国際の平和と安全に対するもの。
  • 国連憲章第51条アラブ連盟憲章(the Charter of the League of Arab States)及びアラブ共同防衛条約に基づき、軍事介入を含めた必要な措置を及び支援を要請する。
  • フーシ勢力は、「地域勢力 (reginal forces)」により支援され、外部勢力の道具となっている。
(2)サウジアラビア及びアラブ連盟その他介入勢力
  • サウジアラビアは、イエメンと同様に集団的自衛権の行使を主張した。

  • アラブ連盟は、GCC及びアラブ諸国によるイエメンに対する支援を歓迎し、軍事作戦はアラブ共同防衛条約及び国連憲章第51条により正当化されるとした。

  • 米国は、ハーディー大統領の要請に基づくイエメンの正統な政府を防衛するためのサウジの軍事活動を認め、同様に、英国は政治的支持を表明した。
(3)その他の第三国及び国際機関
  • 他方で、国連(潘基文事務総長)、EUモゲリーニ上級代表)、中国及びオマーンは懸念を表明し、対話による解決を促した。
  • イランは、国連安保理の承認なき武力の行使は武力不行使原則にするとして軍事活動を非難した。ロシアも同様に法的根拠を欠くとした。イラクは、内政府介入を主張した。
  • 国連安保理は、決議2216においてハーディー大統領の軍事支援要請と介入勢力の書簡について参照したが、これを事後的に承認することも非難することもなかった。また、合法性について問題視する理事国もなかった。

合法性の問題

サウジの軍事介入は、国連憲章第2条4項及び慣習法上の武力不行使原則に違反。これを正当化する国際法上の根拠として、自衛権(イエメンに対する集団的自衛権及びサウジの個別的自衛権)と領域国の承認が考えられる。

イエメンへの武力攻撃に対する集団的自衛権の行使

(1)武力攻撃の外部性
  • 国連憲章第51条自衛権発動の要件である武力攻撃(armed attack)は越境攻撃(transbondary)であることを措定。
  • フーシ派はイエメン国内の武装組織(非国家主体)であり、その攻撃は基本的には対外性を有さない。
  • 第三国(ここではイラン)のフーシ派への関与により外部性を帯びることで間接的な侵略として構成できないか。非国家主体の国家への行為の帰属基準が問題となる。
(2)行為の国家帰属基準
  • 国際司法裁判所(ICJ)は、ニカラグア事件において、当該国家の実質的な関与(substantial involvement)が必要であると判示し、武器供与や兵站支援はこれに含まれないとの立場をとった。
  • 他方、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所ICTY)は、タヂッチ事件において、国家が軍事組織の財政や装備等の支援に加えて軍事行動の組織・調整・計画していれば、当該軍事組織の行為は国家に帰属するとする全般的支配(overall control)説を示した。
  • 全般的支配説は、武力紛争法ないし国際人道法(jus in bello)において、武力紛争が国際的か又は非国際的であるかを判断する基準として捉えられているため、これを開戦法規(jus ad bellum)にまで拡張できるかは争いがある。 cf. ジェノサイド条約適用事件
  • いずれにせよ、本件においては、具体的なイランの関与が公式に主張されることはなく、いずれの介入勢力も証拠を提示することもなかった。

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サウジアラビアへの武力攻撃に対する個別的及び集団的自衛権の行使

イエメンへの武力攻撃に対する集団的自衛権としてではなく、サウジアラビアへの武力攻撃に対する個別的自衛権行使として構成できないか。

(1)非国家主体に対する自衛権

フーシ派は非国家主体(Non-State Actor, NSA)であるため自衛権発動の対象となるかが問題。これについては関連記事参照。

(2)先制的自衛権
  • 非国家主体に対する自衛権を認めるとしても、Decisive Storm 作戦の時点ではサウジアラビアに対する実際の(actual)武力攻撃は発生しておらず、またサウジもその旨主張していないため、先制的自衛権(anticipatory self-defence)が問題となる。
  • 先制的自衛権の先例とされるカロライン事件の基準によれば、少なくとも武力攻撃が差し迫った(imminent)ものでなければならない。しかし、本件においては、フーシ派がサウジアラビアに対して敵対的であることは認められるも、武力攻撃が差し迫った状態にあると認めることは困難。

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領域国の同意

ハーディー大統領による武力介入の要請は、一般的に武力不行使原則の例外とされる領域国の同意(intervention by invitation)を構成するか。

(1)同意権限の問題
  • 政権の座を追われた大統領が他国による自国への武力行使に対して同意を与える権限を有するのかが問題となる。
  • 領域国の同意は、同意主体が(1)国家領域を実効的に支配していること、及び、(2)広く国際的に承認されていることを要件として議論されてきた。
  • 後者の要件について、国連安保理決議2216は明確にハーディー大統領の暫定政府を正統な政府として承認。
  • 他方、前者の要件について、2015年3月にはハーディー大統領は実効的支配を失っていた。この点に関して、正統性の根拠(ex. 民主的正統性)が実効性を相殺するとする立場など。
(2)内戦への干渉
  • ハーディー大統領の同意権限を認められるとしても、内戦については特別の考慮が必要。
  • 伝統的に、不干渉主義と人民の自決権尊重の立場から、国際法は内戦における第三国の介入を禁じているとする立場が多数説。
  • これに対して、法律上の(de jure)政府に対する援助は許されるする学説。また、前者の説を採用するにしても、既に叛徒に対する第三国の支援が存在している場合には、国際的に認められた正統な政府をに対する支援は許されるとする立場もあり。 

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(9)アンチ・ダンピング措置 GATT第6条1項とAD協定【国際経済法】

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貿易救済措置その2、アンチ・ダンピング措置についてまとめました。

国際経済法はもういいかなと思っていたのですが、相殺関税だけまとめたのはなんとも中途半端なので残りの救済措置についても書きます。残すはセーフガード。

アンチ・ダンピングについては、授業ではいわゆるゼロイング(zeroing)とか米国の実行についてもやったのですが、なんだか自分の理解も怪しいのでそこまで踏み込んでいません。

 

概論

  • アンチ・ダンピング措置(Anti-Dumping duties, AD)とは、正常な価格(nomal value)よりも低い価格で輸入された産品が、輸入国の産業に実質的な損害(material injury)を与える、または、与えるおそれがある場合に認められる関税措置。
  • AD措置は、相殺関税及びセーフガードとともにWTO法上認められている貿易救済措置。根拠規定は、GATT 第6条及びアンチ・ダンピング協定(Anti-Dumping Agreement)
  • AD措置の前提となるダンピング調査(investigations)は、加盟国内の調査当局(authority)により実施。多くの場合、影響を受けた国内生産者の要請に基づき調査を開始。
  • WTOの紛争処理手続を経ずに輸入国の権限でAD措置をとることが可能であるため、輸出国及び業者にとっては大きなリスクとなりうる。輸出国は、AD措置の協定適合性について紛争処理機関(DSB)で争うことが可能。

GATT 第6条1項

締約国は、ある国の産品をその正常な価額より低い価額で他国の商業へ導入するダンピングが締約国の領域における確立された産業に実質的な損害与え若しくは与えるおそれがあり、又は国内産業の確立を実質的に遅延させるときは、そのダンピングを非難すべきものと認める。

アンチ・ダンピング措置の発動要件

AD措置は、以下の要件が満たされる場合に発動が認められる(AD 第2条及び第3条)

  1. ダンピングの存在
  2. 実質的な損害(material injury)
  3. ダンピングと損害の間の)因果関係(causation)

これらにつき調査当局はWTOに整合的な調査に基づいて立証しなくてはならない。

ダンピングの存在

ダンピング(不当廉売)は、ある産品の輸出価格が、輸出国内における「正常な価格」よりも低いものであるときに認められる。

輸出価格 < 正常価格

AD 第2条1項

この協定の適用上、ある国から他の国へ輸出される産品の輸出価格が輸出国における消費に向けられる同種の産品通常の商取引における比較可能な価格よりも低い場合には、当該輸出される産品は、ダンピングされるもの、すなわち、正常の価額よりも低い価額で他の国に導入されるものとみなす。

正常な価格
  • 正常な価格(nomal value)とは、輸出国の消費に向けられる同種の産品(like product)の通常の商取引(ordinary course of trade)による輸出国の価格(国内価格)を指す(AD 第2条1項)例えば、かかるコストよりも低い価格は通常の商取引によるものとはいえない。
  • (1)同種の産品の販売がない場合、又は、(2)市場が特殊な状況にある場合(particular market situation)は、適当な第三国(appropriate third country)の比較可能な価格又は生産費用(cost of production)に利益やその他費用を上乗せした価格を利用することができる。(AD 第2条2項)

  • 特殊な状況とは、特に独占市場や非市場経済(non-market-ecenomy, NME)など、輸出価格と国内価格を適切に比較することができない場合を指す。特に米国やEUで、正常価格を上方修正したり、輸出価格を下方修正することにより、ダンピングを認定する実行。
公正な比較
  • 輸出価格と正常価格は、公正に比較(fair comparison)されなければならない。この比較は、商取引の同段階において、かつ、可能な限り同じ時期に行われる。(AD 第2条4項)
  • 恣意的に価格の高い時期の価格だけを正常価格の計算に参入する(あるいは安い時期の価格を排除する)ことは許されない。
ダンピング・マージン
  • アンチ・ダンピング措置の関税率は、ダンピング・マージン率(dumping margin)を超えてはならない。なお、ダンピング・マージンが2%以下である場合は、関税措置を課すことができない。
  • ダンピング・マージン率は、正常価格から輸出価格を差し引いたものを輸出価格で除したものをパーセントで表したもの。ex. 正常価格120ドル、輸出価格ドルの場合、(120ー80)/ 80*100=50%

実質的な損害

実質的な損害(及びその恐れ)の有無は、(1)ダンピング輸入の(volume)と輸入国における同種の産品の価格に対する効果(effect)と(2)ダンピング輸入が同種の産品の生産者に与える影響(impact)の双方に関する実証的な証拠(positive evidence)に基づいて客観的な検討(objective examination)によって評価(AD 第3条1項)

AD 第3条1項

GATT第六条の規定の適用上、損害の決定は、実証的な証拠に基づいて行うものとし、( a ) ダンピング輸入の量及びダンピング輸入が国内市場における同種の産品の価格に及ぼす影響並びに ( b ) ダンピング輸入が同種の産品の国内生産者に結果として及ぼす影響の双方についての客観的な検討に基づいて行う。

数量効果と価格効果
  • 数量効果については、ダンピング輸入品の絶対的な量(absolute volume)が著しく増加したか、又は、輸入国内の生産もしくは消費に対して相対的に著しく増加したかどうかを検討する(AD 第3条2項
  • 価格効果については、輸出価格が輸入国の同種の産品の価格を著しく下回るものであるか(undercutting)、または、価格が著しく押し下げられているか(depression)、もしくは、輸入がなかったとしたならば生じたであろう価格の上昇が著しく妨げられているか(suppression)を考慮する(同条)
  • 複数の国の産品が問題となっている場合は、一定の条件の下でその輸入の影響を累積的に(cumulatively)評価することができる(AD 第3条3項)
国内産業に与える影響
  • ダンピング輸入の国内産業に与える影響(impact)の評価については、当該国内産業の状態に関連する経済的要因及び指標を検討しなければならない(AD 第3条4項)
  • 第3条4項は、影響の評価に含まれるべき要素として、実際のまたは潜在的な(actual and potential )販売や利潤等の低下、国内価格への影響、ダンピング・マージンの大きさ(magnitude)、キャッシュ・フローや雇用等に及ぼす実際のまたは潜在的な悪影響を列挙(ただし網羅的ではない。)。

因果関係

  •  ダンピング輸入の及ぼす影響によって損害が与えられていることが立証(demonstrate)されなければならず、この因果関係は、全ての関連する証拠(all relevat evidence)に基づき評価されなければならない(AD 第3条5項)
  • 国内産業に影響を与えている他の要因(other factors)については、ダンピング輸入に帰責してはならない(“non-attribution” analysis)。
  • 第3条5項は、ダンピング価格以外の価格、需要の減少や消費者態様の変化など、他の影響を与え得る要因について列挙。
  • 調査当局は、ダンピングの因果関係を証明するために、国内産業の損害についてダンピングによるものとそうでないものを区別しなければならないことになる。

アンチ・ダンピング措置

  • WTO加盟国は、ダンピングを相殺または防止するため、ダンピングされた産品に対して、ダンピング防止税を課すことができる。ただし、ダンピング防止税は、ダンピング・マージン(margin of dumping)を超えてはならない(GATT 第6条2項)
  • AD措置は、ダンピングに対する唯一排他的な救済措置。ダンピング輸出に対するいかなる措置(any specific action against dumping)も、この協定により解釈されるガットの規定による場合を除くほか、とることができない。(AD 第18条1項)
  • 米国ーBYRD条項(2003年)において、上級委は、アンチダンピング関税を影響を受けた国内生産者に分配することは、当該措置がダンピングと強い関連要素を有することから、第18条1項におけるダンピングに対する措置に該当し同条に違反すると認定。

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