Dancing in the Rain

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Life is not about waiting for the storm to pass but about learning how to dance in the Rain.

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喪われたものとの訣別

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経験上、失われるものは失われるべくして失われる。

この点、なんだかジンクスみたいになってしまっているのは、旅行中のコンパスだ。海外旅行に行くときには毎回といっていいほどコンパスを持っていく。(といっても最近はGoogleマップにとって変わられてしまったけれど)それで、人一倍に方角感覚がないから、最初の何日かはそれが大活躍する。けれど気づいた頃にはそのコンパスは忽然と消えてしまっている。でもこれは織り込み済みで、ああ、やっぱりか、という感覚である。これはなんだか自分の不注意を合理化しているみたいに聞こえるけれど、うーん、確かにそうかも知れない。でも、ここで重要だと思うのは、失くしてしまうだろうなと思っているから、本当に喪われてしまうのだ。あるいは、潜在的に許容しているから、といってもいい。もっといえば、ときにそれはそう望んでいるからなのかもしれない。自分では気づいていない(あるいは、気がつかないふりをしている)だけなのかもしれない。

本題に入ろう。先月、3年ほど使っていた携帯電話からiPhoneへと乗り換えた。これは不本意ながら、という留保つきだ。というのも、もともと買い替えるつもりはなかったから。けれど、携帯を紛失してしまったため、まあどうしようもない。このタイミングで、新たに従来型の携帯電話を買うのは、ちょっと現実的でない。一応警察には届けたけれど、もう見つかる望みはないだろう。死んではいないけれど、失踪宣告を受けた、といったところだ。僕は惜しむ。何よりそれはまだ十分に機能していたし、これといって不便はなかった。携帯電話としては最新の機種で、スマートフォンと比べて遜色ないハイクオリティだった。といっても、最近では以前に比べればそれをあまり使わなくなっていた。もともと電話はそれほどしないし、写真やメモもiPod touchで代用していた。そうすると、おそらくそれを失うことに対しての許容が心の中に芽生えてきたのだと思う。それはどんどん増幅してやがて、現実の世界に放出されることになる。それから、これは往々にしていえることだけれど、喪って初めてその大切さを痛感することになる。

これを機に、思い出したことがいくつかある。いや、というよりも覚えておくべきことがあるといったほうがいいかもしれない。故人を偲ぶ酒宴の席のように、それは語られなければならない。大げさのようだけれど、それは重要なことのように思える。それはある種の諦観であるかもしれない。

それはだいたい年に一回、冬になるときまって故障した。画面の不良だった。その度に僕は気の遠くなるほど長い間、修理のための列に並ぶことになった。幸い毎回補償がついていて、無料だった。これで金銭的な負担があれば、迷わず買い換えていたかもしれない。初めてそれが故障したのは、ロンドンでのことだった。僕にとって初めての一人旅で、まだ残り二週間ほどヨーロッパに滞在する予定だった。写真も電話も、インターネットもその一台の携帯電話に頼りきっていたから、なかなか焦ることになった。といっても、そのときはなんとかどこかで直してもらえると信じていたから、街中必死になって探しまわった。それで一日費やしてしまったわけだから、何ともついてない。最終的には公衆電話から、日本のキャリアーに連絡して、まあどうしようもない、という結論にいたった。まさかこんな形であのロンドンのシンボルを利用することになるとは思っていなかった。結局、いろいろ不便はあったけれど、その分いろいろな情報に惑わされずに旅を出来たことはよかったのではないかと思う。海外に行ってまで携帯をいじっているっていうのも見苦しいものだ。また、おかげで諸国のインターネットカフェを(あれをカフェと呼ぶかどうかは別として)利用することが出来た。日本では未だに利用したことがないけれど。

もうひとつ、忘れられない出来事がある。インドはカジュラホでのことだ。最初から書けばずいぶん長い話になるけれど、シンプルにいえば、僕はこの半ば観光地化された村で盗難被害にあう。盗まれたものはもちろん、携帯電話だ。インドでは他にも散々な目にあっけれど、この件はまあメインに次ぐサブといえるかもしれない。しかし、彼らについてフェアにいえば、これは盗難というよりも僕の不注意で落としてしまったから、としたほうが良いのかもしれない。でも真相は分からない。一体誰に非があるのか。今となっては奇妙な一件である。うーん、やっぱり、長くなりそうなので続きは次回に。