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(2)国際法の法源 I : 条約と慣習法【国際法】

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この記事では、国際法法源のうち、条約と国際慣習法についてまとめています。

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法源の類型

法源(source of law)とは、法がどのような形で存在しているか(法の存在形式)を指し、ここではどういった規範を「国際法」として扱うのかという定義にかかる問題となる。

法源二分論の発展

  • 形式的法源(sources of international law) と実質的法源(material source):オッペンハイムによれば、法の存在形式としての法源は、条約と慣習国際法に限定されるとした。
  • 常設国際裁判所(PCIJ)規程第38条前段(及び国際司法裁判所規程第38条):裁判の準則として、条約(treaties)、慣習国際法(international customary law, ICL)、法の一般原則を採用。
  • その他の基準(実質的法源)と区別。cf.国際決議・国際判例・学説・未発効の多数国間条約=法を発生させる事実・行為

ICJ 規程 第38条

1.裁判所は、付託される紛争を国際法に従って裁判することを任務とし、次のものを適用する。

a. 一般又は特別の国際条約で係争国が明らかに認めた規則を確立しているもの

b. 法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習

c. 文明国が認めた法の一般原則

d. 法則決定の補助手段としての裁判上の判決及び諸国の最も優秀な国際法学者の学説。但し、第五十九条の規定に従うことを条件とする。

形式的法源

条約 Treaties

  • 定義:一定の手続により締結され、かつ国際法によって規律される書面の国際的合意
  • 立法条約(law-making treaty):ある共通の目的の実現のために全ての締約国の規範的意思が同一の方向に向けられ、一般的性格の法規範を創設する条約。開放条約・実質的に国際立法として機能。ex.ジェノサイド条約・宇宙条約 
  • 契約条約(contract treaty):ある特定の問題を処理のために約定として締約国の意思が相対向し、双方の利害を調整をはかるもの。閉鎖条約。ex. 領土割譲条約、個別国家承継協定等
  • 条約の慣習法化ウィーン条約法条約第38条):条約は原則として合意した当事国間にしか効力を有しない(第三国に対しては拘束力を持たない)が、条約が慣習法化した規則を有するに至った場合は、非当事国もこれに拘束される。ex.人権条約の拷問禁止規定、国連憲章集団的自衛権ニカラグア事件)cf. 北海大陸棚事件

ウィーン条約法条約 第2条(用語)

1 この条約の適用上、
(a)「条約」とは、国の間において文書の形式により締結され、国際法によつて規律される国際的な合意(単一の文書によるものであるか関連する二以上の文書によるものであるかを問わず、また、名称のいかんを問わない。)をいう。

国際慣習法 Customary International Law, CIL

(1)国際慣習法の成立要件ー二要件論ー
  • 明示的な国家の意思により書面により締約される条約と異なり、全ての国を一般的に拘束する国際慣習法については、以下の二要件が充足することが必要とされる。
  1. 諸国家の一般的な慣行(state practice) 
  2. その慣行が全ての国によって遵守・履行されなければならいとの法的信念(opinio juris)
  • 2要件論はリヴィエやリストなどが先駆、19世紀末に定式化→20世紀オッペンハイムやアンツィロッティ、ハチェックに継受。
  • 常設国際司法裁判所ロチュース号事件は実質的にこの立場。ICJの北海大陸棚事件は2要件を詳述・強調、その後もこれを一貫して踏襲。
(2)2要件の認定基準
国家慣行:国際社会の一般慣行(general practice )となっていること。
  • ただし、「絶対的に厳格な一致」ではなく諸国家の行動が一般的に当該規則と合致していればよい」「たとえ抵触する国家の行動があっても、それが新しい規範の表示としてではなく、一般に規則違反として取り扱われればよい」(ニカラグア事件)
  • 国家実行に「動揺と不一致」や「不確実性と対立」があるときは認定し得ない(庇護事件)
  • 時間的・反復的要素:「短期間であっても、そのこと自体は新しい慣習国際法の形成を妨げない」「重要なことはその期間内に特別の利害関係を有する国を含む慣行が広範かつ実際上の一致をみることである」(北海大陸棚事件)cf.インスタント慣習法

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法的信念:ある国家実行が「(法的)義務の意識に動機づけられること」(ロチュース号事件)
  • 判例の展開:国際文書や条約という外部的素材に要件認定の証拠を求める。
  • ニカラグア事件では、友好関係原則宣言や欧州安保協力会議のヘルシンキ最終議定書等の国際文書を引用し、これら諸国の同意は法的信念の表明とする。
  • 北海大陸棚事件:大陸棚条約の1〜3条に「一方的な留保」が禁止されていることを根拠とする。
  • 核兵器使用の合法性事件では、核の抑止政策に依拠してきた諸国とその他の諸国の間の法的信念の相違から要件の成立を否定。
  • 論証回避のプロセス:ヤンマイエン事件、ガブチコボ・ナジマロシュ事件、カシキリ・セドゥドゥ事件

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(3)慣習国際法の効力
  • 普遍的適用性:確立した慣習法は国際社会のすべての国に適用される cf.二国間慣習法(インド領通行事件)、地域的慣習法(庇護事件)
  • 18世紀のヴァッテル「慣習法は黙示的同意に基礎を置き、それを採用した国のみを拘束する」
  • 19世紀末以降、条約法に対する形で慣習法の一般的適用性が広く承認、かつ自然法の担っていた規範的普遍性の役割をとってかわる。
  • ロチュース号事件 (PCIJ)は、国際法の原則という場合は、国際社会を構成するすべての国に適用される国際法のみをさす、と判示。北海大陸棚事件 (ICJ)は、慣習法は、まさにその性質上、国際社会のすべての構成国に等しく拘束性を持たなければならない、と判示。
  • 慣習法は成立後に登場する新独立国をも拘束するー国際社会の法秩序の維持に必要。 cf.一貫した反対国の法理(後述)
  • 普遍的適用性の根拠:多数説は諸国家の黙示的同意(tacit consent)に基礎。しかし、そもそも一国に慣習法受容の可否選択が現実的に可能なのか疑問。
  • 定着しつつある一般的な国家実行には従わなければならないとう規範的な意識ないしその必要性の認識の蓄積によって自ずと形成される=自然発生の法とする説。
(4)伝統的国際慣習法論の問題点
  • 国家慣行について、一定期間を要することの当否。国際機構や国際会議、情報通信技術の発達→国家の一般的動向を模索する新たな方法?
  • 法的信念は、認定が困難であり、また国家実行の認定に大きく依存する。成立の前に法的義務の存在を措定するという論理矛盾・主観的要素の独自の立証は困難。法的信念不要論(ケルゼン等)しかし、法的信念を除くと、「事実としての慣習」と「法としての慣習」の区別が困難となる。
5)一貫した反対国の法理 persistant objector doctrine 
  • 慣習法の形成に当初から継続して反対してきた国は当該規則が慣習法として成立したあとでもそれに拘束されないとする考え方=意思主義の表れ。
  • 国家実行:慣習法の形成を防ぐために自国の反対を明示的に表明する(国際会議でのステートメントやプレスリリース等)ケースが多数見られる。ex.核兵器禁止条約制定の動きに対する米国等の核兵器国の実行。
判例
  • ノルウェー漁業事件(1951年):英の主張する領海基線湾口10カイリ規則の慣習法性を否定した上で、さらに「いずれにしてもノルウェーは同規制を自国沿岸に適用する試みに反対してきており、本規則は同国に対抗できないように思える」として言及。

【問題点】

  • 理論的困難性:国家実行は「完全な一致」がなくとも普遍的適用性が認められるが、なぜ原初的反対国は特別なのか・新独立国との関係はどうなるのか。
  • 実証性の問題:これを正面から適用した裁判例・国家実行は存在しない。是認する姿勢もない。
  • そもそも反対を貫く主要な関係国を法的規制の外においたまま慣習法の成立を促したところでその法はいかなる意味を持つのか ex.アパルトヘイト違法化の南アの反対。

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