国際法解説シリーズ。この記事では、国際法と国内法の関係についてまとめています。二元論、一元論、調整理論などの理論的な部分と条約の自動執行性といったプラクティカルな部分があります。
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国際法と国内法の関係:伝統的理論
- 君主政治により一元的に管理され、国際法の規律対象は限定的であったため、19世紀後半までは国内法との觝触なし。近代憲法は行政権に条約締結権を付与。
- 産業革命によって国際交易が拡大することにより国内法と競合が発生。一方で、人権保障の普遍的実現、地球環境の保護、国際犯罪の規制といった国内法と国際法の協働調和が必要な領域が発展。
- 国際法と国内法の関係(競合があった場合の優劣をどのように決めるのかという問題)についての伝統的な理論として、二元論と一元論が主張されてきたが、現在では、調整理論が一般説となっている。
- なお、EU法(二つの基本条約からなる一次法と規則や指令、決定等からなる二次法によって構成)においては、通常の国際法や国内法の関係とは異なる独自の法体系が存在する。
二元論(Dualism)
- 国際法と国内法は異なる社会関係を規律。国内においては国内法が適用。国際法は、国内法に編入されることによって国内法秩序の一部となる。ex. オッペンハイム
- 戦前の有力説。トリーペル「国際法と国内法」(1899年)で展開 。
- 規律対象:国内法は個人相互間ないし個人と国家、国際法は国家間の関係。
- 妥当根拠:国内法は一国単独の意思 、国際法=国家間の意思の合致。
- 国際法の国内適用性が認められるとしても妥当根拠が異なるから変型が必要。
一元論(Monism)
国内法と国際法は同一の法秩序に属する。ただし、国内法と国際法のどちらを優位とするかによってバリエーションあり。
(1)国内法優位論
- ベルグホームら19世紀末ドイツ法学者らにより提唱。
- 国際法の効力は、国家の意思表示の限度で認められ、その国家意思は憲法に依存している。国家の対外関係を取り結ぶ機関は憲法により定められるため。国家意思の至上性:ヘーゲル哲学の影響。
- 反論:国際法の自律的存在を否定することに繋がる。
- ケルゼンらウィーン学派により提唱。
- 国内法の妥当根拠は国際法によって与えられる。国家は国際法によって定められた領域においてのみ管轄権を行使可能。国家主権や主権平等など国家管轄権を行使するめの前提条件も国際法により担保。
- 反論:現実から乖離・国際法に反する国内法が当然無効とはならない。
調整理論 (co-ordination theory )
- フィッツリーモスら近時有力説。等位理論とも。
- 国際法と国内法はそれぞれの領域で最高の法として機能 。優劣も抵触も存在しないという二元論に類似した立場。
- 体系としての觝触はないが、国内の裁判所などによって国際法上の義務に適合できないなどの実行レベルでの「義務の觝触」はありうる。国家は、その義務の抵触を調整すべき国際法上の義務が存在し、その履行は各国の憲法判断に委ねられる。
- ただし、国際法のレベルにおいては国内法援用禁止原則(後述)が適用。
国際法と国内法の適用関係
国際法体系における国内法の地位
国内法援用禁止原則
- 国際法上の義務を免れるために自国の国内法を援用できない ex.アラバマ号事件の仲裁判決(1872年)
- ウィーン条約法条約27条:当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することはできない。
国際裁判における国内法の効力
国際法と合致しない国内法上の措置があってとそれを理由として直接国内法を無効とすることは避ける傾向。
(1)国際的効力の否認
【
判例】ノッテボーム事件:
リヒテンシュタインが与えた
帰化の効力否定。国籍付与が国内管轄事項であっても、そのことが直ちに国際的効果をもたらすものではない。
(2)対抗力の否認
【
判例】
アイスランド漁業管轄事件:
アイスランドの50カイリ漁業水域拡大立法は12カイリ水域を確認したイギリスとの
漁業協定に対抗できない。 "not opposable to the uk"
(3)国内裁判への判断関与
国内法体系における国際法の地位
慣習国際法の国内的受容:一般に、特別の措置を必要としない
【
判例】尹秀吉事件:確立した
国際法規を遵守すべきことは
憲法98条2項に定めるところであり、同条項の趣旨とするところは、確立された
国際法規をの国内法的効力を認めるということにある。
条約の国内的効力
(1)変型方式
イギリスなど、条約の国内的適用のためには議会の立法が必要。
(2)一般的受容方式
- 日本や米国など、公布を条件に国内的効力を一般的に認める。ただし、国内裁判所における直接的適用を直ちに可能ならしめるものではない。
【
判例】フジイ事件(加州
最高裁) :
国連憲章第55及び56条の規定は、将来の立法活動の指針を述べたものであり、
自動執行的でなく個人の権利義務を創設しない。
(3)自動執行性の可否
- 一般受容方式においても、条約等が国内裁判所において直接適用されるためには、当該条約が自動執行的(self-executing)でなければならない。なお、自動執行性がない条約の場合も間接適用(ex. 他の法律等の解釈指針として機能)が可能。
- 要件:①当該条約ないし締約国の意図、②条件の定める権利義務の性質、③条約規定の具体性と明確性の度合 (シベリア抑留事件)
- 国内判例において、塩見事件では、社会権規約について否定。指紋押捺拒否損害賠償事件で自由権規約について肯定。
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