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国際法解説シリーズ、条約法その3です。この記事では、条約の解釈、無効と終了原因について条約法条約の規定をまとめています。
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条約の適用
条約の不遡及の原則
- 条約は別段の合意がある場合を除いて、その効力が締約国について生じた日以前の行為や事実あるいはその日以前に消滅した事態には適用されない(条約法28条、以下同じ)
- ジェノサイド条約適用事件(先決的抗弁)では、ボスニア・ヘルツェゴビナに対して遡及的適用を認めた。ただし、その理由は時間的適用制限規定がなく、両国もその旨を留保していない、かつ、そう解するのが条約の目的に合致するとした→完了した行為・事実に対しては適用されないが、継続しているときは適用する、とするべきではなかったかとの批判。
前後する条約の適用
条約の解釈
条約解釈の基本的方法
- 条約締約国の意思の探求を重視する主観的解釈
- 条約本文を重視し、その文章と用語の意味に従って内容を確認する客観的解釈
- 条約は固有の目的を持って締結されるとの観点からその目的を重視して条文の意味を捉える目的論的解釈
- 19世紀、2国間条約が主流、意思の探求に解釈原理が置かれる→20世紀、多数国間条約の増加とともに客観的解釈を重視。国際機関については目的論的解釈。
条約法条約の解釈規則
- 「条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする」(31条1)実効性の原則は明記せず。
- 「文脈」とともに締約国間の事後の同意ないし事後の慣行(subsequent practice)を考慮するものとする(31条3)ただし全締約国の一般的な合意ないし慣行であることが必要。
- 31条の解釈でも不明確であるか明らかに不合理な結果をもたらす場合、補足的手段として、条約の準備作業や締結時の事情等に依拠することができる(32条)→あくまでも補足手段であり、条約解釈を争う場合は、文脈(事後の同意ないし慣行を含む)による文言解釈によってでは意味が不明瞭であることを示す必要。
条約と第三国
- 条約は締約国を拘束することの裏返しとして、合意は第三者を益しも害しもしない。一方、反射的効果と区別。ただし、ただちに権利義務が創設されたとすることはできない。
- 条約法条約の第三国規定:「条約は、第三国の義務又は権利を当該第三国の同意なしに創設することはできない」(34条)
- 第三国への義務の創設:締約国がそれを意図し、第三国が書面により明示的に同意することが必要(35条)cf.国連憲章2条6項
- 第三国への権利の創設:締約国の意図と第三国の同意(36条1)ただし、同意しない旨の意思表示がない限り、あったものと「推定」ex.スエズ運河条約 一方、慣習法規則となれば第三国を拘束する(38条)
条約の無効
条約法は安定性のために無効原因につき網羅主義。その中でも特定国の同意の効力を否定する同意の無効原因と条約そのものの効力を否定する無効原因に分ける(2国間の場合)
(1)同意の無効
- 締結権能・手続に関する国内法違反:原則として有効(46条)ただし、違反が明白でありかつ基本的重要性を有する国内法の規則にかかるものである場合は例外として援用可能。
【判例】カメルーン・ナイジェリア事件:条約の署名権に関する規則は「基本的な重要性を持つ憲法的規則」であるとする一方、国の元首に課された条約締結上の制限は、それが事前に公にされていない限り明白性を欠くものとした。
- 代表者の権限踰越:代表者に課される特別の制限は、その存在を事前に交渉国に通告していないときは、国は制限を超えて表明された代表者の同意の無効を主張不可(47条)
(2)同意の瑕疵
事実の錯誤(48条)、交渉国の詐欺行為(49条)、代表者の買収(50条)、代表者への強制・強迫(51条)最後の事由では、事後の同意や黙認によっては治癒されない。
(3)条約の無効原因
条約の終了
条約の終了(terminaton):有効に成立した条約がのちにその効力を否定。 cf.「運用の停止」(suspension of the operation)
(1)内因的事由による終了
- 条約規定に基づく終了 ex.有効期限の到来
- 全締約国の合意(54条b)なお、異なる取り扱いを意図した条約の成立時は旧条約は終了したものとみなされる(59条)
- 廃棄・脱退の黙示的権利の行使:廃棄の可能性を許容する意図があると認められるとき、また条約の性質上その権利があると認められるとき(56条)
(2)外因的事由による終了
条約の重大な違反:条約の終了又は運用停止の根拠として援用可能(60条1)終了させるかどうかは他の締約国の裁量 cf.国内法では裁判所によって決定・強制
後発的履行不能:条約の実施に不可欠な対象が永久的に消滅ないし破壊された結果、条約の履行が不可能となる場合(61条1)「不可能なことは何人も責任なし」
- 物的不能に限定しているか:ガブチコボ・ナジマロシュ事件では法的制度の対象性の判断を回避。
事情変更の原則:「事情存続約款」=すべての条約にはその締結時の事情が存続する限りで効力を持つとする約款が暗黙のうちに含まれている。
- 国際法上の実行も消極的、認められるケースはほとんどない cf.パリ条約のロシアの黒海中立化条項の破棄、自由地帯事件(本質論の立ち入りを回避)
- 条約法62条は、消極的に成文化:否定文形式で規定、援用条件が極めて厳格。①当該事情の存在が条約に拘束されることについての当事国の同意の不可欠の基礎となっており、②当該事情の変化が義務の範囲を根本的に変更する効果がある場合。
- アイスランド漁業事件では、慣習法化を確認したが、第二の要件につき、本件では全面的に満たされないとした。ガブチコボ事件では、条約関係の安定性から、例外的な場合のみに適用されるとした。
- 除外規定:①境界確定条約の場合 ②自国の義務違反によりもたらされた事情の根本的変化
- 新強行規範が成立するまで当該条約の有効性は認められ、原則としてこの条約によって創設された法的状態は影響を受けない(71条1)=無効原因とする53条とは区別。
- 網羅主義をとる以上、本条約に規定される原因以外の事由によって終了を主張することはできない ex.ガブチコボ事件、国家責任法における緊急避難を援用。
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