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【国際法判例】核兵器使用の合法性事件

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諮問機関:国連総会 国際司法裁判所(ICJ)

勧告的意見 1996年7月8日

 

事実と経過

1992年 ニューヨークの核政策法律委員会が1989年に設立した「核兵器国際法律家協会(IALANA)」が「世界法廷プロジェクト」を構成。

同協会は核兵器の合法性についてICJに勧告的意見を求めるうよう世界保健機関(WHO)と国連加盟国に働きかけた。

1993年5月、WHOは「健康及び環境上の影響の観点から、戦争における国家の核兵器使用は、憲章を含む国際法上の義務に違反するか」についてICJに勧告的意見を要請。

1994年12月、国連総会は、決議49/75Kで、「いかなる事情の下においても、核兵器の威嚇または使用は、国際法上許されるか」について勧告的意見を要請。

1995年10月30日〜11月5日にかけて、22カ国及びWHOがICJ法廷で口頭陳述、これは過去最多を記録した(日本は政府代表のほか、広島長崎両市長が原爆投下の被害の実相を陳述するという異例のもの)

1996年7月8日 ICJはWHOの請求を、その活動範囲内の問題ではないとして11対3で棄却。

同日、ICJは、総会の要請には答えるとして勧告的意見を判示。

意見概要

WHOに対する判示

国連憲章96条は、総会と安保理については「いかなる法律問題」について、その他機関及び専門機関については「その活動の範囲内において生ずる法律問題」について勧告的意見を要請できるとしており、かかる要請があった場合は、ICJ規程65条によれば、裁判所はいかなる法律問題についても意見を与えることができる、とする。

本件では、核兵器の使用の合法性の問題は、WHOの「活動の範囲内において生ずる」問題ではないために棄却。

総会に対する判示

(1)総会の要請に対する管轄権
  • ICJ規程65条 1項にいう国連憲章によって要請を許可された団体であり、かつ、要請事項は同規程及び憲章の意味における「法律問題」である。
  • 裁判所が裁量により要請を断るべき「決定的理由」も存在しない。
  • 質問事項は、「核兵器の威嚇または使用の合法性または違法性を決定すること」である
(2)関連適用法規の決定
  • 自由権規約6条「生命に対する権利」:恣意的に生命を奪われないことを定めるが、それは武力紛争法により決定されるのであって、自由権規約自体からは引き出せない。
  • ジェノサイド条約:同条約2条の「集団それ自体に向けられた意図の要素を含む場合」に該当するかは個別の特殊事情を考慮に入れた後でのみ判断できる。
  • 環境の保全及び保護に関する規範はここで直接適用される法規ではない。
  • ここでもっとも直接的に関連する法規は、「国連憲章に具現された武力行使に関する法」および「敵対行為を規制する武力紛争に適用される法」であると判断する。
(3)本件を適用するにあたり考慮すべき核兵器の特性
  • 他の兵器よりもはるかに強力な熱とエネルギーの放出、および核兵器に特有の放射線
  • 「これらの特徴は核兵器をして潜在的に破滅なものとし、その破壊力は空間的にも時間的にも限定されえず、すべての文明と地球の全生態系を破壊する潜在力を有する」
(4)武力の威嚇または行使に関する国連憲章規定についての検討
  • 憲章2条4項による武力行使の禁止は他の関連規定(51条・42条)に照らして検討されねばならないが、これらの規定は特定の兵器について言及していない。
  • 第51条の自衛権の場合は、必要性と均衡性という慣習国際法規則が適用される。核兵器使用が当然に均衡性を有しないとは言えないが、それが合法であるためには武力紛争法の要求を満たさなければならない。
  • 2条4項における武力の「威嚇」と「行使」の概念は、一体化しており、武力の行使そのものが違法であれば、それを行使するとの威嚇も違法である。よって核抑止政策が、第2条4項に違反する「威嚇」か否かは、特定の武力行使が国家の領土保全または政治的独立に対して、または国連の目的に対して向けられているか、あるいは、自衛の手段として意図された場合、必要性及び均衡性の原則に必然的に違反するかに依存する。
(5)核兵器の使用それ自体を規制する武力紛争法上の規則
  • 慣習法及び条約法は、正当な自衛の行使の際において核兵器または他の兵器を使用を許可する特定規定を含んでおらず、ある兵器使用の違法性は禁止の形で定式化。
  • 核兵器を禁止する条約規定として、1899年の第2ハーグ宣言、1907年のハーグ陸戦規則第23条a、1925年毒ガス議定書が挙げられるが、これらの解釈は様々で、当事国はこれまで核兵器を禁止したものとして扱ってこなかった。
  • 1972年の生物兵器禁止条約及び1993年の化学兵器禁止条約にも核兵器使用の特定の禁止は見いだせない。
  • 核兵器の取得、生産、保有、配備及び実験をもっぱら取り扱う条約はそれ自体核兵器使用の禁止を構成するものではない。
(6)慣習国際法の検討
  • 事実として、1945年以来、核兵器は使用されていない(国家実行)
  • 違法性を主張する側は、その不使用の恒常的実行が法的信念の表現と見るのに対し、合法性を主張する側(=核抑止政策の実践国)は、その不使用は単にその使用を正当化するような事態が幸いにも発生しなかったからだとする。
  • 裁判所は、「抑止政策」の実行について判断する意図はないが、一定数の諸国が冷戦の大部分の間にその実行に依拠しかつ依拠し続けていることは事実であることに留意して、国際社会の構成の意見が大きく分かれていることから法的信念の存在を見出すことはできないと考える。
  • 決議1653など核兵器の違法性を確認している一連の総会決議が法的信念の表明となるかについて、ここで問題とされている決議はかなりの数の反対票及び棄権票を伴って採択されたため、その違法性に関する法的信念の存在を確認することはできない。
  • さらに、同決議は、核兵器使用を禁止する慣習規則の特定規則が存在しないことを示している。
(7)国際人道法及び中立法の諸原則の検討
  • 第一原則:一般住民・民用物の保護を目的とする戦闘員と非戦闘員の区別
  • 第二原則:戦闘員に不必要な苦痛を与えることの禁止
  • 人道法の諸原則は国際慣習法の侵すことのできない諸原則を構成する。
  • 慣習法たる人道法は、1949年ジュネーヴ諸条約などに具現されている。
  • 核兵器は、人道法の原則・規則の大部分が存在するようになって後に開発された。 
  • ジュネーヴ諸条約は核兵器使用について言及していないが、人道法の確立した原則が核兵器使用に適用されないとは解されない。
(8)結論
  1. 核兵器使用の特別の許可は、慣習国際法及び条約法上存在しない。
  2. 核兵器による威嚇・使用の禁止は、慣習国際法及び条約法上存在しない。
  3. 国連憲章2条4項に違反し、第51条(自衛権)のすべての要請を満たさない、核兵器による武力の威嚇または使用は違法である。
  4. 核兵器の威嚇または使用は、武力紛争法とりわけ人道法の諸原則ならびに核兵器を明示的に取り扱う条約その他の約束の特別の義務と両立するものでなければならない。
  5. 核兵器の威嚇または使用は、武力紛争法とりわけ人道法の諸原則に一般的には違反するが、国家の存亡そのもののかかった自衛の極端な事情のもとで、合法であるか違法であるかにつき確定的に結論することはできない(賛否同数で決選投票)
  6. 厳格かつ効果的な国際管理の下において、すべての側面での核軍縮に導く交渉を誠実に行いかつ完結させる義務が存在する。 

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