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(23)外交・領事関係法 II:領事関係条約・国家元首の特権免除【国際法】

国際法解説シリーズ。この記事では、外交・領事関係法その2、領事関係条約と国家元首等の特権免除についてまとめました。

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領事制度の発展

  • 中世の十字軍時代、地中海東方には商業都市居留地を建設。領事は商人仲間の長として選任、商人相互の裁判や滞在国政府との交渉。
  • 15世紀、ヨーロッパ相互国間でも普及。17、18世紀、主権国家体制のもと変貌。
  • 領事は本国政府が直接任命し、相互主義、領域主権の原則のもと、領事裁判の制度が廃止( 中東ではcapitulationとして残る。)。外交使節制度の普及、資格権限が使節に移る。領事の役割は、自国の通商上の利益や自国民の保護に限定
  • 領事関係法は、慣習法として発展して外交関係法とは異なり、主として二国間の領事条約ないし通商航海条約により定められる。
  • 共通する規定も相当に存在し、一般条約として「領事関係に関するウィーン条約」(1963年採択)が誕生。「国際法の法典化と漸進的発達」の両方を含む 「本条約は締約国間に効力を有する他の条約に「影響を及ぼすものではない」(73条)

領事関係の開設と領事機関の設置

  • 相互の合意:外交関係の開設は特段の表明がない限り、領事関係の開設の同意を含むものとみなされる。もっとも、外交関係の断絶は当然に領事関係の断絶をもたらすものではない(2条)
  • 領事機関は一定の管轄区域  consular districtを持つ。
  • 領事機関の長(9条①):
  1. 総領事 counsel general
  2. 領事 consul
  3. 副領事 vice-council
  4. 代理領事 consular agent 
  • 外交使節と異なり、アグレマン制度はない。資格等を示した委任状 commission が派遣国から出され、これに対する接受国の認可状 exquatur が交付される。
  • 本務領事と名誉領事:後者は、接受国の住民から選任・委嘱される。

領事の任務

  • 従来、国や地域によって異なっていた。領事裁判権の否認=欧米キリスト教国、個別条約による修正=アジア・中近東。東洋諸国の法は、「欧米人の身体・財産の正当な処遇のための十分な保証を提供していない」(ポメロイ、1886年)
  • 条約は、①派遣国とその国民の利益の保護、②派遣国と接受国のあいだの通商・経済・文化・科学の発展と友好関係の促進、③接受国の通商・経済・文化等の状況の報告および情報の提供、旅券および査証の発給を規定(5条)
判例ラグラン事件:逮捕・抑留されたドイツ国民が自国領事と連絡を取る権利(36条)が与えられないままアメリカで刑事裁判が進められたことが同条の違反をなす。もしこの権利が無視されたまま重罪が認定されるときはなんらかの形で裁判のやり直しの措置が取られるべきものとする。 

領事特権

  • 伝統的には、領事は国家や原種の威厳を代表することなく、その任務は基本的に自国民の通商利益の保護に限定されてきたことから外交使節のような特権は認められてこなかった。
  • ウィーン条約作成時には対立:通商活動の国家的実施体制をとる旧社会主義国の主張により、妥協 総じて領事特権は強化。
(1)公館の不可侵
公館長の同意がある場合を除いて接受国当局の立ち入りは認められない。ただし、火災等の緊急時には長の同意があったものとみなされる(31条)
cf.瀋陽事件;北朝鮮の脱出者5人が日本総領事に駆け込み、中国は建物に入り込んで連れ戻した。
(2)身体の不可侵と裁判権の免除
  • 原則として抑留・拘禁されないが、重大な犯罪であって司法当局の決定がある場合は別(41条第1項)
  • 裁判権については、「領事任務の遂行に当たって行った行為」に関して、事務技術職員を含めて接受国の裁判権から免除(43条第1項)
  • 民事につき例外あり、刑事は任務遂行中のものであり限り全面的に免除(43条第2項)
  • ペルソナ・ノン・グラータ制度あり 

国家元首等の国際的地位

  • 国家元首の地位:当該国家を代表する身分を持つことから国際法上は広い特権と免除を享有。cf.君主国の君主と共和国の大統領を区別する見解。リヴィエ・オッペンハイム
  • 国家元首が身分を伏せて外国を旅行するときは、その特権を一時的に放棄したものとみなされる(ホール、リヴィエ)
(1)国家元首裁判権免除
判例ピノチェト事件:病気療養のためにイギリスに滞在中の元チリ大統領ピノチェトに対して、スペインは在職中のスペイン人に対する拷問・殺人・人質等の犯罪行為を理由に引渡請求。
1999年、英貴族院は免除を否定し、引渡を可とする
  ①現職の元首は国家を代表する者として、公的行為か私的行為かであるを問わず、国際法上、外国の裁判権から人的免除 immunity ratione personae を有する。
  ②退任後の国家元首は、任務終了後の外交使節と同様、「その任務の遂行にあたって行った行為」にかぎって「事項的免除 immunity ratione materiae」を引き続き持つ。
  ③この事項的免除については、拷問禁止条約のような普遍的管轄権の設定された国際犯罪は元首が遂行すべき「国家の任務」とは言えない。 
(2)政府の長と外務大臣の地位
  • 国際的には十分明確化されてこなかったが、少なくとも政府の長については元首と同様の取り扱いがなされるべきであるとされる。cf. 外交関係条約7条②
  • 外務大臣は、慣例上、国家を代表して外国に赴くときは政府の長と同様にみなされてきた。
判例逮捕状事件(ベルギー対コンゴ民主共和国の現職の外務大臣):「外務大臣は、その職責の遂行という事実によって、元首や政府の長と同様に国際法上本国を代表する資格が認められ、よって在任中は「完全な刑事裁判権からの免除と不可侵権を享受する」のであって、この場合が公的・私的行為の区別は認められない。ただし、私的行為については退任後においてその免除を主張し得ない。
(3)外国軍隊の地位
  • 軍隊構成員に対する刑事裁判権は、関係国の条約により規律 ex.NATO軍事地位協定
  • 在日米軍地位協定(1960年):在留米軍の構成員は犯罪については日米両国が裁判権を有するとしつつ、同時にそれぞれが有する専属的裁判権を確認した上で、裁判権が競合する場合は、合衆国が第一次の裁判権を有する事項のほかは、日本が第一次の裁判権を行使する(17条)裁判権を放棄することも認められる。 ex.ジラード事件:公務執行中は勤務時間内の意味ではなく、公務遂行過程とする。
(4)外国軍艦の地位
  • 軍艦は公海上で管轄権から完全な免除を有する(海洋法95条)領海・内水では裁判権から免除。
  • 沿岸国の法令違反を行った場合は、沿岸国は領海から退去を要求できる(同30条)
  • 軍艦は不可侵権を有する 犯罪人が逃げ込んだ場合も、引渡請求が必要。軍艦は一般に庇護権を有さないが、政治犯はこれを肯定する見解がかつては有力であった
判例】神戸水兵事件:「公務外で上陸し」犯罪を犯したときは、特別の条約上の取り決めが無い場合は、「領土国に刑事裁判権があることが」国際法上是認される。

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