国際法解説シリーズ。この記事では、国際法における個人に無理やり押し込んだ感がありますが、犯罪人の引き渡しについてまとめました。
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犯罪人の引渡し
- 義務説:犯罪の防止 ex.ヴァッテル・グロティウス
- 非義務説:礼譲 comity説 領域固有の裁量「領域主権の通常の行使を意味する」(庇護事件)
引き渡しの基本原則
(1)双方可罰の原則 principle of double criminality
(2)特定主義の原則 principle of speciality
請求国は引渡し前に行われた犯罪であって、被請求国によって引渡しが許諾された犯罪についてのみ訴追・処罰することができる(日米7条)
(3)政治犯不引渡しの原則 principle of extradition of political offenders
- 非慣習法説=条約等で認められてきただけ オコンネル等
- 国家権能説=義務ではない ex.尹秀吉事件(東京高裁)
- 国家義務説 ex.同事件の東京地裁、ブルンチュリ
- 偽装引渡し(disguised extradition)にも適用。同地裁「客観的にこれと同視すべき程度に処罰の確実性」
(4)自国民の不引渡し
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一般的慣行は存在せず、国家の裁量に委ねられている。
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英米法系:犯罪地国法定主義。①回復すべき法秩序は犯罪地国、②手続上の便宜。
不適切な引き渡しの効果
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犯罪人引き渡し条約が結ばれていない国家間においてしばしば不適切な方法により犯罪人の移送が行われるケース。ex. 誘拐(abduction)、誘導(luring)ただし、(事実を誤認していたとしても)自らの意思による場合はこれに当たらない。
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アイヒマン事件では、イスラエルが、アルゼンチンで逃亡生活を送っていたかつてのナチス政権の将校アイヒマンを同地から連行。 人道に対する罪などによりイスラエルにおいて訴追。裁判所は、逮捕時の態様によらず裁判権行使可能とした(ただしアルゼンチン の国家主権に対する侵害は認定。)。
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ニコリッチ事件(ICTY、2003年) では、戦争犯罪の嫌疑をかけられたセルビア人のニコリッチ司令官は、NATOにより誘拐の上、裁判所に連行。同司令官は、自らの意思に基づかない誘拐は国家主権の侵害であるとして、ICTYの管轄権を争った。これに対して、裁判所は以下の衡量基準を提示。
- 普遍的に非難される犯罪(universally condemned offenses)の迅速な裁判に対する国際社会の期待
- 領域国の主権の侵害(該当する場合)
- 被疑者の基本的権利の侵害
国際人権法の発展と引渡し
【判例】ゼーリング事件(欧州人権裁、1989年):死刑そのものではなく「死刑の順番待ち現象」に鑑みて、それが欧州人権条約「第3条:拷問等の禁止」の違反を引き起こすとした。
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