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(40)武力紛争法 II:戦闘手段及び方法の規制と武力紛争の犠牲者の保護【国際法】

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国際法解説シリーズ、武力紛争法その2。この記事では、戦闘手段及び方法の規制や戦争犠牲者の保護など具体的な交戦規定についてまとめています。

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武力行使の手段と方法の規制

戦闘手段の規制

(1)一般的規制規準

ハーグ陸戦条約22条は害敵手段につき、無制限の権利を否定。ジュネーブ諸条約第一追加議定書35条で再確認。

  1. 不必要な苦痛を与える兵器:ハーグ陸戦条約23条は「不必要の苦痛を与えるべき兵器、投射物その他の物質」の使用を禁止。交戦国の目的は「敵の軍事力を弱めること」(サンクトペテルブルク宣言)
  2. 文民・民用物と軍事目標を区別し得ない兵器:特定の軍事目標に限定しえない兵器の使用は禁止。伝統的戦時国際法の軍事目標主義。第一追加議定書51条4
  3. 広範な環境被害を与える兵器:第一追加議定書35条3
(2)条約による特定兵器の禁止
  • 一般的な規制は新兵器に対処しうる利点を有する反面、兵器の特定性を欠くことから、特定兵器の使用生産等を禁じる個別条約が制定。
  • 例として、サンクトペテルブルク宣言(1868年)、毒ガス禁止宣言、ダムダム弾禁止宣言、自動触発海底水雷条約、ガス使用等の禁止に関するジュネーブ条約(1925年)、細菌兵器及び毒素兵器の開発・生産・貯蔵等の禁止条約(生物兵器禁止条約)(1972年)、化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約(化学兵器禁止条約)、特定通常兵器条約、対人地雷禁止条約(オタワ条約)(1997年)、クラスター弾禁止条約(2010年)
(3)核兵器使用の合法性問題
  • 禁止する条約がないために見解が対立(ただし、2017年7月、核兵器禁止条約が採択。ただし2020年2月現在未発効。)。
  • 原爆訴訟事件(1963年)で東京地判は、広島・長崎の原爆投下を違法とする。「無防備都市への原爆投下は無差別爆撃と同視すべきであって、当時の国際法に違反」
  • 核兵器には様々な機能:特に平時における政治的効用(核抑止政策)。そのため包括的な禁止条約が存在しない。
  • 核兵器使用の合法性事件での勧告的意見:武力紛争法の定める軍事目標主義や不必要な苦痛を与える兵器の禁止規則等とほとんど両立しない、として一般的には武力紛争法の規則に反するとした。ただし、国家存亡のかかる自衛の極限状況におけるその使用の合法・違法は国際法の現状と裁判所が認定できる事実に照らし、確定的にこれを決定することはできないとも述べた。
  • 第一追加議定書:米国等は本議定書は核兵器には適用されないとするが、軍事目標に限定し得ない兵器の禁止や文民を区別し得ない無差別攻撃は慣習法化。

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戦闘方法の規制

(1)軍事目標主義
  • 一般市民(civilian)や非軍事的施設等を保護するため、無差別の攻撃は禁止。 ハーグ陸戦規則はその基準として無防守都市と防守都市の区別。

  • 第一追加議定書52条2「攻撃は厳格に軍事目標に対するものに限定する」また平和的住民の生存に不可欠のものに対する攻撃や自然環境の重大な破壊を禁止(54条ー56条)

(2)背信行為の禁止
  • 相手側の信頼を裏切る意図をもって法的に保護される権利ないし義務があるかのように相手の信頼を誘う行為(第一追加議定書37条1)

  • 降伏旗を掲げて交渉を装うこと、傷病による行動不能を装うこと、文民・非戦闘員の地位を装うことなど。

  • 他方で奇計は適法:敵を誤導しまたは無謀に行動させる意図を持つ行動で武力紛争の法規に違反せず、かつ国際法上の保護に関して敵の信頼を誘うものでない行動(37条2) 

武力紛争の犠牲者の保護

  • 傷病者の保護:第1回赤十字条約(1894年)からジュネーブ傷病者条約(第一条約)は、自国の権力内にある軍隊の傷病者は性別・人種・国籍・宗教による差別なしに人道的に待遇・看護されなければならないとする。
  • 第一追加議定書は「軍人であるか文民であるかを問わず」看護を必要とするもので敵対行為を行わないものを含む(8条)

捕虜の待遇

条約上の待遇制度:ラテラン条約(キリスト教徒の奴隷化禁止)、ハーグ陸戦規則の捕虜規定(4条、20条)、1929年捕虜の待遇条約、1949年ジュネーブ捕虜待遇条約(第三条約)

(1)捕虜(Prosoner of war, POW)資格
  • 当事国の正規の軍隊構成員とその一部をなす民兵隊・義勇兵の構成員のほか、当事国のその他の民兵隊・義勇隊であって、①指揮者の存在②特殊標章の装着③公然たる武器の携行④戦争の放棄の遵守を満たすもの(4条)後者はレジスタンスの構成員等。第一追加議定書はさらにゲリラ戦を考慮して資格を拡大。
  • 議定書は正規兵・不正規兵の区別を排除し、「すべての組織された軍隊、集団及び団体」を一律に紛争当事国の軍隊とし、かつその構成員として敵対行為に参加するものでそのものが敵の権力内に陥った場合は捕虜となる(43条)戦闘員の資格を持たない傭兵には捕虜資格は与えられない(47条)敵国の部隊の下で参加した自国民にも適用されない。
(2)具体的義務
  • 常に人道的に待遇されなければならず、捕虜の生命身体への重大な危害はもとより、捕虜に対する報復も禁止。待遇については抑留国が責任を負う。
  • 抑留する場合は、戦闘地域から離れ、良好な健康の維持に必要な食料・衣服等が供給されなければならない。敵対行為終了後は、捕虜は遅滞なく釈放送還されなければならない。
判例】シベリア抑留事件:ジュネーブ捕虜待遇条約66条と68条の強制労働に対する補償義務につき、東京地裁は、本条約が成立する前に原告らは捕虜たる身分を終了していたので本条約は適用されないとし、また「自国民捕虜補償の原則」は慣習国際法として確立していなかったとして棄却 。

文民の保護

  • 1949年ジュネーブ文民条約は原則として紛争当事国の領域及び占領地域内にいる敵対国の国民のみ文民(civilian)とする(4条)第一追加議定書は無国籍者と難民を含む。
  • 人道的取り扱いとともに紛争当事国から退去する権利を拒否し得ず(35条)、強制移送・追放を禁止(49条)パレスチナの壁事件では49条6項違反を認定。

武力紛争法の履行確保

復仇行動 reprisal action

  • 相手国の違反があるときにこれを阻止中止させるために自らをも相手国に対し法の違反で持って対抗すること。
  • 正当化のためには、相手国への事前の警告、他の合理的な方法の欠如、相手国の先行違法行為との均衡性。
  • ジュネーブ4条約は復仇行動が正当化される場合を大幅に制限し、これらの条約の被保護者に対する復仇行動は一律禁止。第一追加議定書では、禁止の範囲を拡大 ex.文化財・礼拝所 

当事国による違反者の処罰

中立制度の地位

  • 伝統的中立制度:戦争状態の発生と共に交戦国間では交戦法規が、交戦国とその他の国との間には中立法規が適用。中立法は公平原則と不関与原則が適用。中立国の通商活動等を確保する目的。
  • 中立義務:①黙認義務、②避止義務(軍事的支援を差し控えること)③防止義務(自国の領域が交戦国の軍事目的に使用されることを防止すること)
  • 国家が平時に有する権利・自由が交戦国との関係で制限、一方で、交戦国は中立法上認められる中立国の行動の自由を妨害しない義務を負う。
  • アラバマ号事件(1872年):南北戦争の際のイギリスの中立義務違反を認定。国際仲裁裁判の雛形を提示。

中立制度の動揺

  • 戦争の違法化:違法な戦争に訴えた国に対する不関与・公平は制度趣旨に反する。国連の強制措置が決定した時は違反国との間に「中立関係」は成立しないものと解される。
  • 国連の特別の決定がない場合:自動的中立説と個別的決定説。中立を取ることも、被害国を支援することも各国が独自に判断できる。集団的自衛権との関係。

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