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(2)国際裁判管轄 I:総論及び各論(1)【国際私法】

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国際私法解説シリーズ。この記事では、国際裁判管轄の総論及び各論(前半)についてまとめています。 

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総論 

国際裁判管轄とは、国際民事訴訟において、ある国の裁判所が訴訟を審理する権限があるかの問題。例えば、日本人が旅行先のインドで交通事故に遭い、帰国後に損害賠償請求を求めて日本の裁判所に提訴する場合、日本の裁判所はこれを受理することができるかが問題となる。

国内裁判管轄との異同

  • 国内土地管轄は一国内のいずれの管轄区域へ事件を配分するかという問題に過ぎないが、国際裁判管轄は、距離的な問題、手続で用いられる言語、訴訟費用、抵触規則の相違(準拠法)などに重大な影響を与える。
  • 例えば、国内土地管轄の場合、ある国内裁判所がある事件について管轄権がないと判断する場合、管轄裁判所へと事件を移送しなければならない(民訴16)
  • これに対して、上記のインドの例の場合、裁判所はそもそも日本が当該事件を審理する権限(国際裁判管轄)を有しているのかを判断しなければならない。国際裁判管轄がないと裁判所が判断した場合、国内管轄のように事件をインドに移送するということはなく、訴えは却下となる。

国際裁判管轄が訴訟の結果に与える影響

  • 狭義の国際私法(抵触規則)が国ごとに異なることを考えれば、どの裁判所に管轄があるかによって実体問題を扱う法(実質法)、すなわち、準拠法が異なることがありうる
  • また、手続は法廷地の法によるの原則から、管轄がどこの国にあるかによって大きく手続も異なってくる(ex.陪審制度の有無)
  • 各国はそれぞれ独自の国内法によって国際裁判管轄について規律しているため国際的にルールが統一されていない。したがって、複数の国に管轄権が認められる場合がありうるが、これについて規律する法もない。例えば、日本の民事訴訟法は、日本に国際裁判管轄があるかどうかのみを規定し、外国に管轄権があるかどうかについては規定していない。

直接管轄と間接管轄

国際裁判管轄という場合、我が国に国際裁判管轄があり、本案判決を行ってよいかという問題(直接管轄)と外国で既になされた判決について国内で承認・執行する際に、判決を下した外国が国際裁判管轄を有していたかという問題(間接管轄)が考えられる。ここでは前者の直接管轄についての規律を扱う。間接管轄については、民訴118条1号が問題となる。 

国際裁判管轄の規定を巡る判例・理論

民訴法 3 条の 2 以下に国際裁判管轄が明文で規定される以前は、そもそも国際裁判管轄に関する規定は存在するか否かについて議論があった。

学説の議論

  • 多数説は、明文の規定は存在しない(法の欠缺)とした上で、国内土地管轄に関する規定を転用するとする逆推知説、国内土地管轄に国際的な要素を考慮するとする修正類推説、民訴法の規定を離れて独自のルールを作成するとする新類型説などに学説は別れていた。

  • また、国際裁判管轄独自の考慮をどこまですべきかという点についても、法的安定性及び予見可能性を重視し、一切の例外を認めない一般的規定とするのか、あるいは、具体的妥当性を重視し、事案ごとにケースバイケースでの利益衡量を認めるものとするのかについて争いがあった。

判例法理の発展

(1)最二小判昭和56年10月16日判決(マレーシア航空事件)
  • 原則として、裁判管轄権は国家の主権の及ぶ範囲と同一である。しかし、例外的に、我が国となんらかの法的関連を有する事件については、我が国が管轄権を有する場合がありうる。
  • しかし、この例外的範囲について、国際裁判管轄を直接規律する法規はなく、承認された国際法上の原則も確立されていない
  • このような状況においては、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理に従い決定するのが相当である。(条理による欠缺の補充)
  • 条理の具体的内容は「民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国にあるとき」は管轄権ありとする(したがって、国内土地管轄ルールの転用に過ぎない。)。
  • 本事案では、日本に営業所を有している被告につき管轄を認めたが、マレーシア国内線での事故であることにつき、賛否両論。
(2)最判平成年11月11日判決
  • 条理の具体的内容について修正を加えた「特段の事情論」の是認。
  • 第一に、民訴法の国内土地管轄ルールの転用で管轄権の有無につき判断し、第二に、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情の有無を判断。特段の事情がなければ管轄権は肯定され、特段の事情があれば管轄権は否定される。
  • 特段の事情論については、要件として一般化可能な事情を特段の事情の考慮に含めており(特段の事情の肥大化)、具体的妥当性を重視して法的安定性が損なわれるという問題点。
(3)国際裁判管轄に関する規定の整備

2008年から、国際裁判管轄に関する規定について法制審議会で審議。2011年に「民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律」が成立。2012年4月1日から施行。 

各論

国際裁判管轄の基本理念は、「当事者間の公平、裁判の適正・迅速」にあるとしても、民訴3条の2以下のそれぞれの管轄原因を検討するうえで抽象的である。具体的には、紛争の法廷地国との客観的な密接関連性、主観的関連性、弱者への裁判所へのアクセス、法廷地国の主権の保護という観点から整理し、検討すべきである。

被告に対する一般的な管轄

  • 人に対する訴えについては、住所、住所がない場合は居所、居所がない場合は訴え提起前に日本国内に住所があった場合に管轄権を認める(民訴第3条の2第1項)(法人は主たる事務所または営業所所在地(同条3項)
  • 被告との客観的な密接関連性:どのような種類の訴えであっても提訴された場合には被告は裁判を受けて立つことが要求されても仕方がないほどの関連を有している。また、防御する側の被告を重視するという手続的な公平の理念にも合致する。

民訴第3条の2  

1 裁判所は、人に対する訴えについて、その住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合にはその居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には訴えの提起前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。

3 裁判所は、法人その他の社団又は財団に対する訴えについて、その主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき、事務所若しくは営業所がない場合又はその所在地が知れない場合には代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるときは、管轄権を有する。 

事件類型ごとの管轄

  • 準拠法と異なり、国際裁判管轄は複数国に認められても構わず、原告が提訴する国を選べるというのは我が国を含めた国際的な通説。
  • 民訴第3条の3以下では特定の事件類型ごとに特定の内容の訴えに限って管轄権が認められる。これは、当該事件類型が法廷地である我が国と客観的に関連しているため。
(1)契約債務履行地(1号)
  • 債務者は履行地が日本である場合、履行地において履行義務を負っているので、我が国で提訴されることを甘受すべき。ただし不法行為などの法廷債務は除外。(売買債務の目的物不引き渡し等債務不履行に基づく損害賠償請求は適用範囲)
  • 基準となる債務は訴訟で履行を求められている債務。履行地は、まず、契約中で合意した場所による。
  • 合意なき場合は、契約準拠法による任意規定で補充されて決定。法の適用に関する通則法(通則法)第7条により、当事者が合意していた場合は契約によって選択された法が準拠法となる。しかし、当該合意がない場合に通則法第8条によって客観的に決まるとしても、この場合は債務者が提訴されることを想定するものではなく、国際裁判管轄は認められない。

民訴第3条の3

1 契約上の債務の履行の請求を目的とする訴え又は契約上の債務に関して行われた事務管理若しくは生じた不当利得に係る請求、契約上の債務の不履行による損害賠償の請求その他契約上の債務に関する請求を目的とする訴え 

契約において定められた当該債務の履行地が日本国内にあるとき、又は契約において選択された地の法によれば当該債務の履行地が日本国内にあるとき。

(2)財産所在地(3号)
  • 前段は請求の目的が日本国内にある場合。例えば、契約の債務履行地は外国であるが引き渡し目的物が日本国内に所在している場合。
  • 後段は、金銭支払請求につき差し押さえることのできる被告の財産が日本国内にある場合。
  • 後者の場合、契約と無関係な被告の財産が日本に所在する場合にも認められることになり不合理。本来は事件と関連する外国法廷で判決を得た後、日本で執行することを求めるべきであるが、外国判決の執行承認制度の現状では認められるとは限らない。そのような可能性に配慮し、原告の権利の実現を確保する趣旨。

3  財産権上の訴え 

請求の目的が日本国内にあるとき、又は当該訴えが金銭の支払を請求するものである場合には差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるとき(その財産の価額が著しく低いときを除く。)。

(3)事務所・営業所所在地および事業活動地(4号・5号)
  • 被告の法人の主たる事務所または営業所が外国にある場合は管轄を認めることはできない(3条の2第3号)
  • しかしながら4号は、日本にある事務所または営業所の業務に関連するものについては管轄権を認める。5号は、事務所・営業所を持たずに我が国で事業活動を行う外国法人に対しても同様に考えられることから認めている。

4  事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの 当該事務所又は営業所が日本国内にあるとき。
5  日本において事業を行う者に対する訴え 当該訴えがその者の日本における業務に関するものであるとき。

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