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【国際法判例】米国によるイランへの再制裁事件(ICJ仮保全措置命令)

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国際法判例シリーズ。この記事では、米国によるイランへの再制裁事件のICJ仮保全措置命令についてまとめています。

【事件名】米国によるイランへの再制裁事件

【当事国】イラン v. 米国 

【決定日】国際司法裁判所(ICJ)仮保全措置命令:2018年10月3日

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事実と経過

  • 2018年5月、米国は、イランの核プログラムに対する制約と引き換えに制裁解除を約束した、イランと国連安保理常任理事国、ドイツ及びEUによる2015年の合意であるJCPOA(Joint Comprehensive Plan of Action)からの離脱を表明。さらに米国は、2018年11月までに同国のイランに対する制裁解除を解く意思を表明。これに対し、イランは米国を国際司法裁判所(ICJ)に提訴。同時に、再制裁を防止する仮保全措置命令を要請した。
  • 米国は、ICJの強制管轄権を1986年に離脱しているため、イランは、管轄権の基礎として、1955年の米国イラン二国間の友好経済関係領事権に関する条約(1955 Iran-U.S. birateral Treaty of Amiy, Economic Relations, and Consular Rights. 以下、友好条約)を主張した。友好条約第21条2項は、同条約の「解釈又は適用」にかかる紛争について、「外交により十分な解決がなされない場合」にICJの管轄権を認めている。
  • イランは、米国の再制裁により経済的な損害を被り、これにより米国は友好条約の以下の各条に違反したと主張した。第4条1項(国民、法人及びその財産に対する公平で平等な取り扱い)、第7条1項(両国間の資金の移動の自由)、第8条1項及び2校ならびに第9条2項(輸出入品に対する最恵国待遇)及び第10条1項(二国間の通商及び航海の自由)
  • これに対し、米国は以下を主張し、イランに反論した。
  1. JCPOAは独自の紛争処理メカニズムを備えているため、ICJによる紛争解決を排除している。
  2. 放射性物質に関する措置及び安全保障上の不可欠の利益を保護するために必要な措置の適用を友好条約違反の正当化自由として認める同条約の第20条1項を援用し、JCPOAからの離脱及び再制裁の実施は、米国の安全保障上の利益及び核不拡散のために必要な措置である。
  3. イランが外交的解決のための努力を怠っているために管轄権を援用する要件を欠いている。

命令要旨

  • 裁判所が仮保全措置を命令するためには以下の3要件を充足する必要がある。すなわち、(1)裁判所に一応の(prime facie)管轄権があり、(2)主張する権利が少なくとももっともらしいものであり(plausible)かつ要請する措置と関連しており、(3)当該措置を否定することが、回復不可能な損害をもたらす真正で急迫な(real and imminent)危険があることを提訴国は立証しなければならない。

一応の管轄権

  • 裁判所はまず、友好条約20条1項は、同条約の解釈及び適用に関する紛争に対するICJの管轄権を認めていることから、米国の主張する同条約第21条2項の安全保障例外が適用されるか検討する必要性は、裁判所の管轄権を受諾するのに十分であると判示し、一応の管轄権を認めた。
  • また、裁判所は、同条約は外交交渉を裁判所の管轄権の前提条件として要求していないと判示した。

権利と措置の関係性

  • 次に、裁判所は、権利と措置の関係について、イランの主張する権利は、少なくとも人道的物資の貿易及び民間航空機の安全に関する権利については安全保障例外の範囲外であることを認めた。さらにこれには、医療及び医療機器、食料、民間航空の維持及び支援のサービスが含まれるとした。
  • これに対し、米国は、すでに民間航空の安全を含む人道的例外の制度を有しており、かつ、人道支援及び民間航空の安全にかかる問題が、完全で迅速な考慮を受けるべく最大の努力をすることを保証すると主張したが、裁判所は、その保証の野心的な性格(aspirational nature)から裁判所の介入が必要であると判示した。

回復不能な損害

  • 最後に、裁判所は、回復不可能な損害について、制裁の実施による生命及び健康に対する損害と解釈した上で、人道的物資及びサービスの通商に対する制約はそのような損害を引き起こす可能性があると判示した。

以上から、裁判所は、イランに対する人道的物資及び民間航空の安全を確保するためのサービスの輸出に対する再制裁によるいかなる損害を除去することを要請する仮保全措置命令を決定した。また、裁判所は、両国が、これ以上紛争を悪化させないことを約束することを命令した。

備考

  • 1955年のイランと米国間の友好条約は、1979年に両国の外交関係が断絶する前に締結された条約であるが、これまでにもテヘラン米国大使館事件(1980年)及びオイル・プラットフォーム事件(2003年)において管轄権の基礎として認められてきた経緯がある。またイランは、イランの財産事件(Certain Iranian Assets Case)においても同条約を管轄権の基礎として主張している。
  • 本決定を受けて、米国は友好条約を即時に破棄する旨を表明した。また、同時に、本決定とは関係なく、人道的支援に関連した取引に対する例外的措置は維持する旨発表した。ただし、友好条約第23条3項は、条約の破棄について、書面による通知の1年後に失効するとしており、本件及び保留中の米国対イランの事件については影響を受けない。  

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