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【メモ】米国大統領の軍事力行使権限

f:id:hiro_autmn:20200508005837j:plain米国の国外における軍事行動の合法性について米国内法(特に合衆国憲法との関係)の観点から考えてみたいと思います。 

 

概論

  • 合衆国憲法第2条は、大統領に対し、最高司令官(commander-in-chief)として米国陸軍と海軍の指揮権及び外交権限 (foreign relations power)を規定。
  • 他方で、同1条は、連邦議会に対して、宣戦(declear war)権限を規定している。両者の関係について解釈には依然として争いがあるが、歴史的慣行(historical practice)から、大統領が特に国外で軍事力を行使する場合には、事前の議会の承認(Congressional Authorization)が必要であるとされてきた(ただし、他国の侵入に対する反撃、すなわち自衛のための軍事行動を除く。)。
  • なお、裁判所は、議会承認なき大統領権限の一方的行使による軍事行動の合憲性についてこれまで判断していない。

Section 2 of Article II

“The President shall be Commander in Chief of the Army and Navy of the United States, and of the Militia of the several States, when called into the actual Service of the United States”

Section 8 of Article I

11: To declare War, grant Letters of Marque and Reprisal, and make Rules concerning Captures on Land and Water;

憲法上の大統領権限に基づく一方的軍事力行使

  • 議会の承認がない場合に大統領は最高司令官としての独自の権限に基づき軍事力を行使することが可能であるか、2011年のリビア空爆に対する司法省法律顧問局(Office of Legal Counsel, OLC)の見解は、歴史的実行に基づく二段階テスト(①国益要件、②戦争要件)を提示(ただし、行政府による独自の見解であり法的拘束力はなし。)。 

国益要件

  • 武力行使によって重要な「国益national interest)」が保護される(vindicate)と大統領が判断すること。行政府は伝統的に国益を広く解釈してきた(ex.朝鮮戦争(1950):効果的な国際機関としての国連の継続的存在への最も重要な米国の利益、シリア空爆(2018):地域の安定(regional stability)と国連安保理決議の信頼性と有効性の支持。)。
  • さらに、シリア空爆についてのOLC意見(2018)では、人道的災害(humanitarian disasters)の緩和も近年の実行に照らして認められるとする。

戦争要件

  • 当該武力の行使が「戦争 (war)」を構成しないこと(議会の宣戦権限に抵触しないこと。)。
  • そのためには、軍事行動の想定される「性質、範囲、期間 (nature, scope and duration)」が戦争の域(threshold)に達していないことが必要。長期的かつ実質的な軍事行動であり、米軍構成員が実質的な期間において重大な危険に晒される場合は、戦争と判断可能。

議会によるコントロール

  • 大統領の独断による軍事力行使に制限をかけるため、議会は憲法の範囲でないで抵抗手段として何ができるか議論されてきた。
  • ただし、議会には戦争責任を負いたくないという面もあり、伝統的には戦争権限について大統領と積極的に争うことはしてこなかった。

戦争権限法 War Power Resolution, or WPR (1973年)

主に手続面を規制するものであるが、立法者が意図したように機能しているとは言い難い。

(1)制定の背景

ベトナム戦争時、ニクソン大統領の拒否権(veto)を覆して成立。歴代大統領は、同法を憲法違反として批判し、遵守しない傾向。なお、同法の趣旨は、「憲法起草者の意思を補完し、議会と大統領による集団的判断を確実にするため」であって、武力行使を承認するものではない。

(2)主な規定内容 

戦争権限法は、①宣戦布告がある場合、②特定の法律による承認がある場合、③米国、米国領域あるいは軍隊に対する攻撃による国家の非常事態の場合に限って大統領の武力行使を容認し、その上で以下の手続事項を規定。

  • 大統領は軍事行動の前に議会に協議(consult)するよう努める。
  • 大統領は、軍事行動の開始等から48時間以内に議会に対して報告しなければならない。
  • 軍事行動 (hostilities)は、60日以内に議会により承認又は延長されない限り(米国への攻撃により議会が物理的に機能していない場合を除く)終了しなければならない(30日の撤退期間あり。)。なお、軍事行動の構成要件は大統領により判断(ex.イエメン紛争におけるサウジ軍への空中給油、インテリジェンス・サポートは該当しない。)。
  • 大統領は、軍事行動を継続する場合、6ヶ月ごとに議会に対し状況を報告しなければならない。
(3)問題点
  • そもそも軍事行動(hostilities)の定義が規定されていないため、48時間以内の報告及び60日のカウントダウンの始期につき争いがある。この点について行政府は、軍事行動が終了しなければ当該行動の性質は定められないと主張している。
  • 2019年4月、議会は、大統領に対し、イエメンでの軍事行動の終了を命じる決議を議決したが、大統領の拒否権によりこれを退け、かつ連邦議会は再議決することもできなかった。
  • 2020年1月のソレイマニ・イラン軍司令官殺害の際の軍事行動開始の議会への報告が機密扱いとされたことで問題となったが、少なくともWPRによれば公にすることは要件となっていない。
  • 議会は、大統領の拒否権行使を避けるべく大統領の署名を必要としない共同決議(concurrent resolution)により軍事行動の終了を議決(ただしこれがWPRが規定する決議に該当するかについては議論あり)することができるが、この場合の法的拘束力はない。

予算編成権限(Appropriations Power) によるコントロール

議会は、大統領による議会承認なき軍事力行使を防止するために、軍事費の支出を削減、支出の条件付けあるいは特定使途について限定することで対抗。ex.対特定国に対しては使用できないとする修正案など。ただし、議会は、軍事費の削減及び制限については消極的であり、実効性に疑問。

国際法上の制限

合衆国憲法第2条3項によると、大統領には、誠実に法を執行する義務Take Care Clause)があり、同条における法(Laws)は、国際法たる国連憲章の規範を含む。したがって、武力行使の禁止(憲章第2条4項)と自衛権(同第51条)から、必要性及び均衡性が要件となる。

議会による承認

2001年(対9.11テロ)と2002年(対イラク)のみ。大統領の最高司令官としての権限を強化するものとして理解(最高裁判例 Yongstown v. Sawerによるところの議会意思 (Congressional intent)の表明。)。

2001年の軍事行使権限承認 (Authorization of Use of Military Force, AUMF)

  • 9.11テロ後に制定 2001年9月18日(ブッシュ政権
  • 「2001年9月11日に発生したテロ攻撃を計画し、承認し、関与し、援助した、または、そのような組織及び人を保護した(harbored)と大統領が判断する国家、組織、又は人に対し、そのような国家、組織又は人による将来のいかなる米国に対するテロ攻撃を未然に防止するため、あらゆる必要かつ適切な武力の行使を容認する」(all necessary and appropriate force against those nations, organizations, or persons he determines planned, authorized committed or aided in the Sept. 11 attacks”
  • これまでにアルカイダ及びアルカイダのネットワーク、アルカイダアフガニスタンにおいて匿っていたタリバン、及びその関連勢力(associated forces)に適用。
  • なお、最高裁はHamdi v. Ramsfeldにおいて、武力の行使は、国際法に整合的な場合に限って認められるとした。

2002年の軍事行使権限承認(AUMF)

  • イラクによる継続する脅威に対する米国の国家安全保障を防衛し、イラクに対するすべての安保理決議を強制することを目的とする。(to use the Armed Forces of the United States as he determines to be necessary and appropriate in order to … defend the national security of the United States against the continuing threat posed by Iraq)

AUMFの射程

  • 2014年、オバマ政権は、イスラム国(IS)に対する解釈拡大。トランプ政権も踏襲。オサマ・ビンラディン本人と直接関係があり、ビンラディンが生存時の紛争を継続しており、かつ、米国に対して紛争を継続していることが理由(他方で、オバマ政権は、2001年AUMFとは別に、議会に対して承認を要求。)。
  • 国務省は、2019年6月28日の書簡において、2001年及び2002年AUMFは、対テロ作戦に従事する又は安定的で民主的なイラクを確立するための作戦に従事する米軍又はパートナー軍を防衛するのに必要である場合を除いて、現時点において、イランに対して軍事行動を承認するものではない、とした。

まとめ

  • 歴史的慣行から、大統領が軍事力を行使するためには事前の議会承認が必要であるが、実際に承認を得た例は限られる(2001年と2002年のみ。)。
  • 行政府は、国益保全するための戦争未満の軍事力行使(自衛権の発動を除く)は、大統領の憲法上の最高司令官の権限として認められると説明。
  • 法的拘束力はないものの、政府の見解に対し争うことは、立法府及び司法府ともに消極的。大統領の一方的軍事力行使を防ぐための議会の抵抗手段として、戦争権限法(WPR)や予算編成権があるが実効的とはいえない。
  • また、国際法上の制限として、軍事力行使について必要性と均衡性を満たさなければならないが、その判断基準については曖昧であり実質的な制限となるかについては疑問。

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