Dancing in the Rain

Dancing in the Rain

Life is not about waiting for the storm to pass but about learning how to dance in the Rain.

MENU

(9)アンチ・ダンピング措置 GATT第6条1項とAD協定【国際経済法】

f:id:hiro_autmn:20210110220407j:plain

貿易救済措置その2、アンチ・ダンピング措置についてまとめました。

国際経済法はもういいかなと思っていたのですが、相殺関税だけまとめたのはなんとも中途半端なので残りの救済措置についても書きます。残すはセーフガード。

アンチ・ダンピングについては、授業ではいわゆるゼロイング(zeroing)とか米国の実行についてもやったのですが、なんだか自分の理解も怪しいのでそこまで踏み込んでいません。

 

概論

  • アンチ・ダンピング措置(Anti-Dumping duties, AD)とは、正常な価格(nomal value)よりも低い価格で輸入された産品が、輸入国の産業に実質的な損害(material injury)を与える、または、与えるおそれがある場合に認められる関税措置。
  • AD措置は、相殺関税及びセーフガードとともにWTO法上認められている貿易救済措置。根拠規定は、GATT 第6条及びアンチ・ダンピング協定(Anti-Dumping Agreement)
  • AD措置の前提となるダンピング調査(investigations)は、加盟国内の調査当局(authority)により実施。多くの場合、影響を受けた国内生産者の要請に基づき調査を開始。
  • WTOの紛争処理手続を経ずに輸入国の権限でAD措置をとることが可能であるため、輸出国及び業者にとっては大きなリスクとなりうる。輸出国は、AD措置の協定適合性について紛争処理機関(DSB)で争うことが可能。

GATT 第6条1項

締約国は、ある国の産品をその正常な価額より低い価額で他国の商業へ導入するダンピングが締約国の領域における確立された産業に実質的な損害与え若しくは与えるおそれがあり、又は国内産業の確立を実質的に遅延させるときは、そのダンピングを非難すべきものと認める。

アンチ・ダンピング措置の発動要件

AD措置は、以下の要件が満たされる場合に発動が認められる(AD 第2条及び第3条)

  1. ダンピングの存在
  2. 実質的な損害(material injury)
  3. ダンピングと損害の間の)因果関係(causation)

これらにつき調査当局はWTOに整合的な調査に基づいて立証しなくてはならない。

ダンピングの存在

ダンピング(不当廉売)は、ある産品の輸出価格が、輸出国内における「正常な価格」よりも低いものであるときに認められる。

輸出価格 < 正常価格

AD 第2条1項

この協定の適用上、ある国から他の国へ輸出される産品の輸出価格が輸出国における消費に向けられる同種の産品通常の商取引における比較可能な価格よりも低い場合には、当該輸出される産品は、ダンピングされるもの、すなわち、正常の価額よりも低い価額で他の国に導入されるものとみなす。

正常な価格
  • 正常な価格(nomal value)とは、輸出国の消費に向けられる同種の産品(like product)の通常の商取引(ordinary course of trade)による輸出国の価格(国内価格)を指す(AD 第2条1項)例えば、かかるコストよりも低い価格は通常の商取引によるものとはいえない。
  • (1)同種の産品の販売がない場合、又は、(2)市場が特殊な状況にある場合(particular market situation)は、適当な第三国(appropriate third country)の比較可能な価格又は生産費用(cost of production)に利益やその他費用を上乗せした価格を利用することができる。(AD 第2条2項)

  • 特殊な状況とは、特に独占市場や非市場経済(non-market-ecenomy, NME)など、輸出価格と国内価格を適切に比較することができない場合を指す。特に米国やEUで、正常価格を上方修正したり、輸出価格を下方修正することにより、ダンピングを認定する実行。
公正な比較
  • 輸出価格と正常価格は、公正に比較(fair comparison)されなければならない。この比較は、商取引の同段階において、かつ、可能な限り同じ時期に行われる。(AD 第2条4項)
  • 恣意的に価格の高い時期の価格だけを正常価格の計算に参入する(あるいは安い時期の価格を排除する)ことは許されない。
ダンピング・マージン
  • アンチ・ダンピング措置の関税率は、ダンピング・マージン率(dumping margin)を超えてはならない。なお、ダンピング・マージンが2%以下である場合は、関税措置を課すことができない。
  • ダンピング・マージン率は、正常価格から輸出価格を差し引いたものを輸出価格で除したものをパーセントで表したもの。ex. 正常価格120ドル、輸出価格ドルの場合、(120ー80)/ 80*100=50%

実質的な損害

実質的な損害(及びその恐れ)の有無は、(1)ダンピング輸入の(volume)と輸入国における同種の産品の価格に対する効果(effect)と(2)ダンピング輸入が同種の産品の生産者に与える影響(impact)の双方に関する実証的な証拠(positive evidence)に基づいて客観的な検討(objective examination)によって評価(AD 第3条1項)

AD 第3条1項

GATT第六条の規定の適用上、損害の決定は、実証的な証拠に基づいて行うものとし、( a ) ダンピング輸入の量及びダンピング輸入が国内市場における同種の産品の価格に及ぼす影響並びに ( b ) ダンピング輸入が同種の産品の国内生産者に結果として及ぼす影響の双方についての客観的な検討に基づいて行う。

数量効果と価格効果
  • 数量効果については、ダンピング輸入品の絶対的な量(absolute volume)が著しく増加したか、又は、輸入国内の生産もしくは消費に対して相対的に著しく増加したかどうかを検討する(AD 第3条2項
  • 価格効果については、輸出価格が輸入国の同種の産品の価格を著しく下回るものであるか(undercutting)、または、価格が著しく押し下げられているか(depression)、もしくは、輸入がなかったとしたならば生じたであろう価格の上昇が著しく妨げられているか(suppression)を考慮する(同条)
  • 複数の国の産品が問題となっている場合は、一定の条件の下でその輸入の影響を累積的に(cumulatively)評価することができる(AD 第3条3項)
国内産業に与える影響
  • ダンピング輸入の国内産業に与える影響(impact)の評価については、当該国内産業の状態に関連する経済的要因及び指標を検討しなければならない(AD 第3条4項)
  • 第3条4項は、影響の評価に含まれるべき要素として、実際のまたは潜在的な(actual and potential )販売や利潤等の低下、国内価格への影響、ダンピング・マージンの大きさ(magnitude)、キャッシュ・フローや雇用等に及ぼす実際のまたは潜在的な悪影響を列挙(ただし網羅的ではない。)。

因果関係

  •  ダンピング輸入の及ぼす影響によって損害が与えられていることが立証(demonstrate)されなければならず、この因果関係は、全ての関連する証拠(all relevat evidence)に基づき評価されなければならない(AD 第3条5項)
  • 国内産業に影響を与えている他の要因(other factors)については、ダンピング輸入に帰責してはならない(“non-attribution” analysis)。
  • 第3条5項は、ダンピング価格以外の価格、需要の減少や消費者態様の変化など、他の影響を与え得る要因について列挙。
  • 調査当局は、ダンピングの因果関係を証明するために、国内産業の損害についてダンピングによるものとそうでないものを区別しなければならないことになる。

アンチ・ダンピング措置

  • WTO加盟国は、ダンピングを相殺または防止するため、ダンピングされた産品に対して、ダンピング防止税を課すことができる。ただし、ダンピング防止税は、ダンピング・マージン(margin of dumping)を超えてはならない(GATT 第6条2項)
  • AD措置は、ダンピングに対する唯一排他的な救済措置。ダンピング輸出に対するいかなる措置(any specific action against dumping)も、この協定により解釈されるガットの規定による場合を除くほか、とることができない。(AD 第18条1項)
  • 米国ーBYRD条項(2003年)において、上級委は、アンチダンピング関税を影響を受けた国内生産者に分配することは、当該措置がダンピングと強い関連要素を有することから、第18条1項におけるダンピングに対する措置に該当し同条に違反すると認定。

関連記事

hiro-autmn.hatenablog.com

hiro-autmn.hatenablog.com

hiro-autmn.hatenablog.com

hiro-autmn.hatenablog.com