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【メモ】カロライン号事件 The Caroline Incident

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判例ではないですがしばしば慣習法上の自衛権の先例として取り上げられることの多いカロライン号(キャロラインと訳しているのを見かけることもありますね)についてまとめてみました。

 

事実と経過

1812年の米英戦争後、両国間の関係が悪化する中、カナダ北部(現在のオンタリオ)で暴動が発生。反乱軍は英国から独立し「カナダ共和国」の樹立を宣言。アメリカは同暴動に対して人的・物的にカナダを支援。

1837年12月中旬、反乱軍の指導者が更なる支援を求めるべくニューヨーク州のバッファローにて集会を開催。同月13日、反乱軍と義勇軍の一部は、ナイアガラの滝の上流のネイビー島(カナダ領)に拠点を確立、同島において蒸気船カロライン号によってアメリカから物資の供給を受けていた。

同月29日の夜、英国ーカナダ軍は、アメリカ側へと航行していたカロライン号を拿捕するべく同号を追跡し、乗船員を下船させた上で、同号を炎上させナイアガラの滝に放った。この過程で乗組員一人が殺害。死亡者・行方不明者の数は誇張され、米国国民の感情を激化させた。

1838年1月、米国と英国の間で書簡のやり取りがなされたが具体的な進展はなかった。その後、1841年には、カロライン号に放火した首謀者がアメリカ政府により逮捕されたことにより事態は進展。

1842年、米国国務長官ダニエル・ウェブスター(Daniel Webster)は、在米英国公使アシュバートン卿 (Lord Ashburton)等との書簡でのやり取りにて、英国による破壊行為は自衛権行使によって正当化しえない旨を訴えるとともに、自衛権行使の要件(いわゆる「ウェブスター・フォーミュラ」ないし「Caroina Test」)を表明した。

これに対し、英国は、国際法上の領域主権の原則と武力行使の例外としての自衛権及びその要件としてのウェブスター・フォーミュラを認め、その上で英国の行動は自衛権行使の要件に合致していたと主張した。米国は、国際法の原則について英国が認めたことにより、これ以上本件については争わないとし、両国は、ウェブスターアシュバートン条約により和解の合意に至った。

自衛権行使の具体的要件

英米間の書簡の中で、ウェブスター・フォーミュラとされる部分は以下のとおり。 

... those exceptions (=self-defense) shuold be confined to cases in which necessity of that self-defence is instant, overwhelming, and leaving no chioce of means, and no moment for deliberation

自衛権の行使は、自衛の必要性が急迫しており、圧倒的手段の選択の余地がなく熟慮の余裕がない場合に認められる。

先例的価値

  • ウェブスター・フォーミュラは、特に国家責任法、主権免除、及び開戦法規(jus ad bellum)の領域においてしばしば引用され、とりわけ武力紛争法の分野においては、先制的(anticipatry)自衛権及び非国家主体に対する自衛権行使の根拠として援用されるほか、自衛権行使の必要性及び切迫性の議論においても主張されてきた。
  •  1940年のニュルンベルク軍事裁判所は、ドイツのノルウェー侵攻に対する自衛権行使による正当化の主張に対して、本原則を援用した上で退けた。国連安保理での議論においてもしばしば援用される。 ex. イスラエルによるイラクのオシラク原子炉爆撃
  • 国連憲章51条は、国連加盟国に対する武力攻撃( if an armed attack occurs)に自衛権の行使を限定。これに対し、同条は、憲章以前の慣習法上の自衛権に影響を与えるものではないとする説もあるが、近年の実行は、むしろ51条の自衛権行使の対象に差し迫った(imminent)武力攻撃も含まれると読み込むもの(=先制的自衛権)。
  • 他方で、カロライン事件は自衛権行使の例ではなく、憲章時代における武力行使の根拠と異なる19世紀における緊急避難(necessity)であるとする説(国際法委員会(ILC)の国家責任法条文コメンタリー、2001年)
  • 米オバマ政権は、2016年12月、カロライン事件を非国家主体に対する自衛権行使の先例として援用した上で、切迫した武力攻撃に対する先制的自衛権の行使の合法性を認める(2017年1月には英国、4月にはオーストラリアも同旨を表明。)。
  • 米国の同表明によると、テロリストなどの非国家主体やサイバー攻撃など新たなる脅威に対して、ウェブスター・フォーミュラのような近代型の切迫性の基準に限らず、テロ組織の現代的能力、技術、技術革新の観点から、柔軟性を持って解釈されるべきとする。

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