国際法解説シリーズ。この記事では、コンゴ領域における武力活動事件のICJ判決についてまとめています。
【事件名】コンゴ領域における武力活動事件
【判決日】国際司法裁判所(ICJ)本案判決:2005年12月19日
事実と経過
- 民族対立や資源獲得を背景とした第一次コンゴ戦争は1997年に終結。同戦争では、ウガンダとルワンダの支援を受けたローラン・カビラが、ザイールのモブツ・セセ・セコ政権を打倒して自ら大統領に就任、国名をコンゴ民主共和国(the Democratic Republic of Congo, DRC)へと変更した。
- 政権を奪取したカビラは、国内の支配体制を強化。これにより、DRC 国内の武装勢力は近隣諸国に対する活動を活発化、ウガンダとルワンダはこれを自国の安全保障上の脅威と捉え、両国は反政府勢力特にカビラ政権に反対するツチ系のバニャムレンゲの武装勢力に援助を行った。
- 1998年8月、バニャムレンゲの武装蜂起に続いてウガンダ及びルワンダ軍が、DRC の領域に進駐。これにより、第二次コンゴ戦争(大アフリカ戦争 Great African War)が勃発した。これに対して、アンゴラ、ジンバブエ、ナミビア、チャドなどの諸国はカビラ政権を支持するために軍事援助を開始。
- 1999年6月23日、DRC は、ウガンダ、ルワンダ及びブルンジをICJに提訴。三カ国による武力による侵略("armed agression")は、国連憲章及びアフリカ憲章違反であると主張した。
- 同時にRDCはウガンダに対する仮保全措置を要請。ICJは、軍事活動を差し控えること、国際法上の義務を履行すること、紛争地域における基本的人権の尊重を命令した。
当事国の主張
ウガンダの主張
- そもそも第一次コンゴ紛争中の1997年5月から1998年9月にかけて、ウガンダ軍がDRCの領域内に駐留することについてカビラ政権の同意(consent)があった。
- また、ウガンダは、DRC領域内に存在する反ウガンダ勢力からの脅威に曝されており、これに対処するために自衛権を発動した(ただし自衛権行使として安保理に報告したのは2000年6月になってから。)。
- (武装勢力は非国家主体であるが)その目的を知りながら武装集団に兵站支援をすることは自衛権発動のための武力攻撃(armed attack)を構成する。
DRCの主張
- ウガンダの侵略行為は、国連憲章第2条4項の武力不行使原則に違反。
- 武装集団による自国領域内からの他国(ウガンダ)への攻撃について、領域国(DRC)は国際法上の責任を負わない。
- ウガンダによる攻撃に対しては自衛権行使が可能(1997年9月2日には安保理に通知)なお、親カビラ政権勢力(アンゴラ、ジンバブエ、ナミビア、チャド)についても集団的自衛権の行使を主張。
判決要旨
ウガンダの武力行使は、領域国の同意及び自衛権行使により正当化することはできず、国連憲章第2条4項に違反する。
領域国の同意
- カビラ政権のウガンダ軍駐留についての同意は、少なくとも1998年8月のビクトリア会議(Victoria Summit)において明示的に撤回(withdraw)された。したがって、裁判所はこの時から同意は終了したものと判示。
- よって、領域国の同意による武力行使の正当化はできない。
非国家主体に対する自衛権
- DRCに対する自衛権の発動を認めるためには、武装集団による攻撃がDRCに帰属することが必要であるが、DRCが武装集団による攻撃に関与していたことを示す十分な証拠は提示されなかった。
- また、これらの攻撃を累積的に(as cumulative)検討したとしても、DRCへの帰属を肯定することができない。
- また、管理不能であるというだけでは非国家主体の行為は領域国に帰属しない。
- よって、武装集団の行為はDRCへ帰属せず、DRCに対して自衛権を発動することはできない。
論点
- 非国家主体に対する自衛権行使については、ニカラグア事件、オイル・プラットフォーム事件の判決を踏襲し、伝統的な国際関係における自衛権概念に沿った限定的解釈を提示した。
- ただし、裁判所は、非正規軍による大規模な武力攻撃に対する自衛権行使の可能性については完全には排除しておらず、本判決には曖昧な部分が多い。
- 特に9.11テロ以降の国家実行(ex. unable or unwilling の基準)により非国家主体に対する自衛権の合法性については議論のあるところであるが、本判決についても評価は分かれる。
- 裁判所はその必要性がないとして判示しなかったが、ウガンダの武力行使は必要性及び均衡性についても満たしておらず、非国家主体に対する自衛権を肯定したとしても、正当化することは困難。
- ウガンダの国連安保理への自衛権行使の報告の遅滞について、裁判所はその事実に言及したものの、法的評価にどのような影響を与えるか具体的に示すことはなかった。
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備考
- 本件は、2003年に終結した大アフリカ戦争とも呼ばれる国家及び非国家主体を含む複雑な武力紛争のうち、開戦法規(jus ad bellum)に焦点を絞ったものに過ぎない。他にも、武力紛争の性質(国内紛争であるか国際紛争) 、国際人道法及び人権法の違反、平和維持(peacekeping)及び監視などの法的論点考えられる。
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DRC は、ウガンダに対する仮保全措置命令後、ルワンダとブルンジに対する提訴を取下げ。2002年3月28日、国連憲章第2条3項及び4項違反としてルワンダを再提訴。同時にルワンダに対する仮保全措置も請求するが、ICJは、(一応の)管轄権の基礎がないとしてこれを棄却(同年7月10日)2006年には、本案についても同様の理由で棄却した。
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