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【メモ】キューバ危機 Cuban Missile Crisis

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ちょっと気になったので、キューバ危機の際の米国の「隔離」措置について、その国際法上問題点についてまとめてみました。自衛権がらみかと思ったらリオ条約の解釈という割とニッチな論点に行きついてしまいましたが。

 

事実と経過

  • 1959年の革命後、キューバ共産主義政権と米国の関係が深刻に悪化。カストロ政権打倒を企図したピッグス湾事件(the Bay of Pigs)が失敗した後、ケネディ米国大統領は、1961年11月に、マングース計画(Operation Mongoose)を公式に策定。
  • 米国とその他西側諸国の措置によって打撃を受けた結果、キューバ は、ソ連及び共産圏諸国にその経済的依存を強めることとなった。
  • 1962年10月、米国は、ソ連が核ミサイルをキューバ へ運搬及び配備することを計画しているという情報を入手。冷戦時代の当時、国連安保理が拒否権行使により機能不全(the Cold War deadlock)に陥っていることから、米国は、米州機構(the Orgnization of American States, OAS)に対して協力を要請。
  • これを受けて同月23日のOAS外相会合において、加盟国は、1947年の米州相互援助条約リオ条約)(Inter-American Treaty on Reciprocal Assistance, the Rio Treaty)の第6条及び第8条に基づき、キューバ政府が中共ソ連勢力から軍事物資の供給を受けることを阻止し、(アメリカ)大陸の平和と安全に対するこれまでにない脅威となりつつあるミサイル配備を防止するための、武力行使(use of armed force)を含めた全ての必要な(may deem necessary)措置をとることを勧告した。
  • また、OASは、国連憲章第54条に基づきその決定について国連安保理に報告し、キューバへの国連オブザーバー派遣に対する期待を示した。
  • 10月23日、ケネディ大統領は、キューバへの武器及び関連物質の輸送を禁止し、米陸海空軍はこれ維持するために適切な措置をとることを表明し、キューバの海上「隔離(quarantine)」を宣言した。これを受けて米軍は、OAS諸国の協力を得て、キューバへと向かう船舶及び航空機の捜索及び臨検を実施する体制を整え、事実上の海上封鎖blockade)を行った。
  • 米ソの緊張関係は急激に悪化し、核戦争寸前の事態にまで陥ったものの、ソ連がキューバから核ミサイルを撤去することを条件として、米国はキューバの不可侵を保証し、11月21日に隔離を終了した。

各国の立場

  • 米国は、海上隔離について、国連憲章第51条の自衛権の対象となる武力攻撃が存在したことは主張せず。また、大統領の宣言においても自衛権の言及はなかった。
  • OASも、武力攻撃に対する自衛権を定めたリオ条約第3条ではなく、武力攻撃以外の平和に対する脅威についての対応を規定した第6条を援用した。
  • キューバは、米国による一方的な海上封鎖は、戦争行為(act of war)であるとして米国を非難。国連安保理の議論においても、ソ連及びアラブ連合共和国は同様に批判。
  • 地域的機関の安保理承認なき強制行動を禁じた国連憲章第53条に照らして違法とする主張も少数ながらあった。

合法性の問題

  • 論点:米国のキューバ に対する事実上の海上封鎖は、実定国際法上、合法であるかどうか。
  • 適用法規:米ソ(及びキューバ)が戦争状態にあったとは評価できず戦時国際法(jus in bello)ではなく、平時の国際法、とりわけ開戦法規(jus ad bellum)が適用
  • 前提として、事件の法的評価は、米国・キューバ関係の政治的文脈から切り離して独立して行われなければならない。敵対国の過去の行為に遡って自国の行為を正当化を主張することを許してはならない。ex. 在テヘラン米国大使館事件

武力不行使原則違反と自衛権

  • 米国の主張する海上「隔離」は「封鎖」と実質的に同様。なお、米国は平時封鎖(pacific blokade)にも依拠せず。
  • したがって、この隔離が国連憲章第2条4項の武力の行使及びその威嚇に該当し、武力不行使原則に違反することは明白。そもそも平時における海上封鎖及び復仇は正当化されない。
  • しかし、米国は、自国及び同盟国に対する武力攻撃があったとは主張していない。また、OASについても、自衛権を規定した第3条に依拠していない。
  • また、ソ連によるキューバへのミサイル配備が武力による威嚇を構成するとも考えにくい。cf. 19世紀ヨーロッパにおける勢力均衡

地域的機関による武力行使承認

  • OASによる決議は、履行措置としての武力行使を米国に対して承認しているかのように読めるためリオ条約の解釈が問題となる。
  • 条約第6条は、武力攻撃ではない侵略行為(aggression)、米大陸外又は大陸間の紛争、または、アメリカの平和を脅かす事態に対する集団的措置について規定し、条約第8条は、この条約の目的のためにとられる措置(特に第3条及び第8条上の措置)については、武力の行使(use of armed force)が含まれることを認める。
リオ条約第6条と第8条
  • リオ条約第6条は、武力攻撃ではない侵略行為が存在すること、当該侵略によってある国家が影響を受けた(affected)こと、これにより被害国(victim)となったことを要件として集団的措置を決定することを規定。
  • ソ連のミサイル配備は、それを規律する法がない(cf. 軍備管理・軍縮条約)ことから国際法違反とは認められない。また、米国の領土及び領水を侵害するものでもない。さらに、キューバの同意によることから同国の主権を侵害するものでもない。したがって、第6条の「侵略」を構成すると考えることは困難
  • 仮にミサイル配備が侵略を構成するとしても、米国が、それにより実質的に影響を受け、被害国となったとはいえない。また、条約は、先制的な措置については認めない。
  • また、第6条は「平和に対する脅威(threat to the peace)」についても集団的措置を求めるが、国連憲章上、安保理にのみその認定権限が与えられていることを考えれば、OASにはこれを認めて武力の行使を承認することはできない
国連憲章との関係
  • 条約第8条が、第3条(武力攻撃)及び第6条(武力攻撃でない侵略)の両条の場合に適用されるとすれば、武力攻撃か否かを問わずに、武力の行使を含むを措置をとることを認められることになり、このような解釈は、武力攻撃の有無を区別する国連憲章の解釈と矛盾
  • さらに、安保理の事前承認なき地域的機関の武力行使を禁じる憲章第53条とも相反。
  • 憲章第103条は、国連憲章の最高法規性を規定するが、同規定は権利ではなく、義務の抵触を解決する規範。OAS諸国は、リオ条約の構造上、海上隔離に参加する義務を負っているわけではない(米国の圧力または政治的意思によるものに過ぎない)ので、同条は適用されない。
  • なお、特別法優先の原則を根拠として、米国は、少なくとも当時OASの加盟国であったキューバ に対しては、特別法(lex specialis)たるリオ条約上の規定が、一般法(lex generalis)たる国連憲章上の規定(2条4項及び53条)に優先するため、武力の行使が認められるとする議論もあり。
  • ただし、これについては、①キューバは、海上隔離が実施されていた間、OASの資格を停止されていたこと、②条約第1条及び第10条は、条約が国連憲章の規定に劣後すると解釈できること、③武力不行使原則は強行規範であり、これを逸脱する規範は無効であることから否定される。

参照条文

(1)リオ条約

ARTICLE 6

If the inviolability or the integrity of the territory or the sovereignty or political independence of any American State should be affected by an aggression which is not an armed attack or by an extra-continental or intra-continental conflict, or by any other fact or situation might endanger the peace of America, the Organ of Consultation

shall meet immediately in order to agree on the measures which must be taken in case of aggression to assist the victim of the aggression or, in any case, the measures which should be taken for the common defense and for the maintenance of the peace and security of the Continent.

ARTICLE 8

For the purposes of this Treaty, the measures on which the Organ of Consultation may agree will comprise one or more of the following: recall of chiefs of diplomatic missions; breaking of diplomatic relations; breaking of consular relations; partial or complete interruption of economic relations or of rail, sea, air, postal, telegraphic, telephonic, and radiotelephonic or radiotelegraphic communications; and use of armed force.

(2)国連憲章

 第53条1項

安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極または地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。

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