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(37)武力不行使原則の例外 III 非国家主体に対する自衛権と先制的自衛

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これまで、集団安全保障と国際法上の自衛権として書いていたものを、武力不行使原則の例外としてまとめ直しました。その一環で、今回は自衛権のパートを少し拡張し、非国家主体に対する自衛権と先制的自衛についてまとめています。領域国の同意、人道的介入、自国民の保護といったその他の例外については次回第4弾でまとめています。

 

自衛権に関するその他の論点

  • 安保理決議がない場合における武力行使の正当化のため、自衛権は頻繁に援用されてきた。
  • 9.11テロ以降、新たな脅威に対抗するため、米国を中心とする国家実行が積み重ねられることで、自衛権の概念が拡張。
  • 特にに、非国家主体に対する自衛権行使と先制的自衛権の許容性については国際社会において意見が激しく対立してきた。

非国家主体と自衛権

  • 憲章第51条は、自衛権発動について、武力攻撃の主体を規定していない。そのため、テロリストなど特定の国家に属さない非国家主体(Non-Stat Actor, NSA)による武力攻撃に対して、自衛権を行使できるのかどうかが問題となる。
  • 国際司法裁判所(ICJ)は、パレスチナの壁事件の勧告的意見において、憲章第51条は「国家による他国への武力攻撃」を前提としているとし、イスラエルのパレスチナ占領地域における自衛権行使を否定した。
  • なお、非国家主体であっても、その行為が国家に帰属(attribute)する場合、当該非国家主体の行為は支援する国家の行為として自衛権行使が可能となる。ここでは当該非国家主体の行為を国家の行為とみなせるかどうかという行為帰属基準が問題となる。これについて、ICJは、コンゴ領域における軍事活動事件(2005年)において、管理不能というだけでは当該反徒の行為は国家に帰属しないとした。cf. 実効的支配(effective control)基準(ニカラグア事件)

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(1)正当化根拠
  • 国家実行(state practice):特に2011年の9.11テロ以降、非国家主体に対する自衛権行使の実行とそれに対する国際社会の支持。アフガニスタンのアルカイダやシリアにおけるイスラム国(IS)に対する事例や、最近では、トルコがクルド勢力に対して自衛権行使を主張。
  • 伝統的自衛権の概念:憲章以前の伝統的自衛権(慣習法上の自衛権)は、その対象が国家であるか、非国家であるかを問わず行使可能(ex. カロライン号事件)第51条は、この伝統的自衛権に影響を与えるものではない(なお、ニカラグア事件では、慣習法上の自衛権の存在については確認されたが、憲章上の自衛権との関係についてが必ずしも明らかでない。)。
  • 国際法の進化(evolution):慣習法は、国家実行と法的信念に依存するため、国家実行の積み重ねとそれに対応する法的信念に応じて進化するもの。特にテロリスト等の非国家主体の増大する脅威に対抗するためには法を進化させる必要性。
  • 事後の慣行(subsequent practice):国家実行は、ウィーン条約法条約第31条第3項(b)が規定する条約解釈についての「事後の慣行」を構成する。すなわち、近年の国家実行に即して第51条は解釈されるべき。

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(2)問題点
  • 領域主権(territorial sovereignty)との衝突:特定の国家に帰属しない非国家主体に対して自衛権を発動することは、非国家主体の所在国の領域に対する武力行使となる。ex. シリアに所在するISに対する自衛権行使は、必然的にシリア領域に対する攻撃となる。
  • 文言解釈的問題:憲章第2条4項は、「すべての加盟国」に対し、「その国際関係において」武力を行使することを禁止している。すなわち、国家をその主体及び客体として想定しているため、非国家主体は、そもそも武力不行使原則の枠外あり、これに対して自衛権は発動できない。
  • 憲章の最高法規性:憲章第103条は、国連憲章上の義務は他の全ての条約上の義務に優先すると規定。したがって、新たな慣習法が成立したとしても、憲章上の明文の規定をも変更すると解釈することは困難。
  • 武力不行使原則の強行規範(jus cogens)性:ニカラグア事件において、ICJは、武力不行使原則が強行規範であることを認定。さらに、条約法条約第53条によれば、強行規範は他の強行規範によってのみ変更が可能。
(3)近年の国家実行
  • 米国は、イラクにおけるISへの攻撃について、領域国であるイラクの「同意 consent 」があったと説明(なお、米国によると、この同意は公に宣言することを要するものではない。)。後述するように、領域国の同意は武力不行使原則の不文の例外として広く認識。したがって、同意がある場合は、非国家主体に対する武力行使は第2条4項違反とならない。
  • 他方、例えば、シリアにおけるISのように、常任理事国(シリアのケースではロシア)の拒否権のために武力行使を承認する安保理決議を議決できず、かつ、明示又は黙示を問わず領域国(シリアのアサド政権)の同意も得られない場合、米国及びその同盟軍はいかなる法的根拠により、ISに対して武力行使を正当化できるかが問題となる。
  • この問題について、米国は、「意思がないか又は不可能か unwilling or unable 」の基準を主張。(ex. 2014年9月23日付け国連事務総長宛米国発書簡)これによると、領域国が自国内に所在する武装勢力(非国家主体)が外国を攻撃するのを防ぐ能力がない場合、または、防ぐ意思がない場合に、被攻撃国は、当該領域国の同意を得ることなく自衛権の発動として武力行使が可能となるとする。英国なども緩やかに支持しているが同基準を要件として明示はしていない。
  • unwilling or unable の基準の法的根拠は必ずしも明らかではない。またその濫用の危険性から意見の対立があり、慣習国際法となるに至っていない。
  • 領域国の保護責任に依拠(あるいは類推)すれば、一般的に領域国の相当の義務違反が必要となるが、特に効果的な予防措置をとることのできない国(unable state)に対しては、過失がなくとも厳格責任(strict liablity)が適用されることになり、国家責任法との整合性が問題となる。

先制的自衛 

  • 先制的自衛権(anticipatory self-defense):武力攻撃が実際に発生していないが、武力攻撃が差し迫って(imminent)いる場合に、自衛権の発動が認められるかという問題。
  • 憲章制定時には想定されていなかった核やミサイル攻撃が現実味を帯びることで自衛権問題の核心的論点となる。近年では、サイバー攻撃やテロ攻撃などの新たな脅威に対して実効的に対処する必要性からこれを容認する議論があるが、非国家主体に対する自衛権行使と同じく、濫用の危険性が高いことから国際的な合意を得るに至っていない。
  • なお、武力攻撃発生の時間的近接性から、しばしば先制的自衛権と予防的自衛権(preventive self-defense) とを区別し、急迫性をも要件としない後者については米国も支持していない。また先制的自衛権についても、anticipatory self-defense とpreemptive self-defnse に区別される場合があり、米国は後者を採用している。
(1)正当化根拠と問題点
  • 憲章第51条は、「武力攻撃が発生した場合 if an armed attack occurs」に自衛の権利を認める。これに対して、19世紀以来の伝統的な慣習国際法は、脅威が急迫している場合においても自衛権の行使が許容されるとする(この例として、カロライン号事件がしばしば援用される。)。
  • このため、非国家主体に対する自衛権と同じく、伝統的自衛権と憲章上の自衛権の関係について上記と同様の議論が展開される。ただし、先制的自衛権については、後述するとおり、伝統的自衛権の文脈ではなく、むしろ、憲章第51条を柔軟に解釈するという主張が有力。
(2)国家実行と判例
  • 2002年のブッシュ政権時の米政府の国家安全保障戦略(National Security Strayegy, or NSS)はテロリストに対する先制的自衛権を肯定するものであったことから、国際世論は紛糾。なお、2016年のオバマ政権でもこの可能性を排除せず。

2002年9月米国国家安全保障戦略(NSS)
テロリストが米国民と米国に対して危害を与えることを防止するため、必要な場合には、単独で行動し、先制的に行動(act preemptively)することにより、自衛権を行使することを躊躇することはない。
国際法は数世紀にわたり、国家が攻撃の急迫した危険を示す実力から自国を守るための行動を正当に取ることができるようになる前も攻撃を甘受する必要はないことを認めている。
米国は、発生する脅威の機先を制するためにあらゆる場合において実力を行使することとなるのではなく、また、諸国は、先制を侵略のための口実として用いるべきではない。

  • 今日では、慣習法上の先制的自衛権を正面から主張するのではなく、憲章第51条上の「武力攻撃」の中に「武力攻撃の急迫した脅威 imminent threat of armed attack」をも読み込む余地があると解釈。ex. 2016年4月1日の米国務省法律顧問の発言
  • 急迫性を要件に先制自衛を認める米国の見解は、英国や豪州も支持。他方で、自衛の名における「先制襲撃」の合法化につながる危険性。
  • ICJは、ニカラグア事件において、武力攻撃の急迫した脅威への対応の合法性については当事国から提起されなかったとして、裁判所としての見解を示さなかった。コンゴ領域における軍事活動事件においても同様の立場であった。いずれにせよ、ICJがこれまで発生していない武力攻撃に対する自衛権を肯定したことはない。

REPORT ON THE LEGAL AND POLICY FRAMEWORKS GUIDING THE UNITED STATES’ USE OF MILITARY FORCE AND RELATED NATIONAL SECURITY OPERATIONS(2016年12月)

開戦法規(jus ad bellum)において、国家は、すでに発生している武力攻撃のみならず、発生する以前の差し迫った攻撃(imminent attacks)に対しても固有の自衛の権利を発動して武力を行使することができる。

他国又は他国領域に対して初めて武力を行使するために、開戦法規に照らして武力攻撃が差し迫ったものであるかどうかを検討するに際して、米国は、様々な要因を分析する。

その要因には、脅威の即時性と性質、武力攻撃が発生する確率、予想される攻撃が継続する軍事活動に同調する一部であるかどうか、攻撃のあり得る規模(scale)とそれを減殺する行動がない場合に生じる可能性のある損傷、損失又は損害、及び、付随する損傷、損失又は損害がより深刻でない実効的な自衛の他の手段の行使可能性、が含まれる。

さらに、武力攻撃が発生する場所又は、武力攻撃の正確な性質についての特定の証拠がない場合であっても、武力攻撃が差し迫っていることを結論づける合理的かつ客観的な基礎(basis)がある場合は、自衛権を行使する上での切迫性を結論づけることを妨げられない。

また、現代の国際社会において広く認識されているように、何が切迫した攻撃を構成するかという伝統的な概念は、テロリスト組織の今日における能力、手法(techniques)、技術的革新に照らして理解されなければならない。

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