国際経済法(WTO法)シリーズ第7弾、補助金と相殺関税についてその2です。前回の記事に対して各論といったところでしょうか。文量の問題もあって補助金の該当要件とそれに関する判例については踏み込んでいません。
対抗可能な補助金
- WTO加盟国が、相殺関税措置又はWTOの紛争処理手続を利用するためには、対象となる補助金が対抗可能な補助金(actionalble subsidy)でなければならない。
- その要件として、補助金が特定(specific)されていること、及び悪影響を与えていることが必要。なお、禁止補助金(後述)についてはこの限りでない。
特定性
- SCM第2条によれば、補助金が特定性を有するには、まず、当該補助金の対象が企業又は産業(enterprise or industry)でなければならない(同条第1項)
- 次に、補助金の対象が法律等により明示的に特定企業に限定されている場合は、特定性を有するものとみなされる。他方で、補助金の交付条件につき、客観的な基準ないし定めらており、かつ、適正に運用にされている場合は特定性は存在しないものとされる。
- 禁止補助金(SCM第3条)については、デフォルトで特定性を有するものとされる(SCM第2条3項)
SCM第2条
1.1 ... 補助金が当該補助金を交付する当局...の管轄の下にある一の企業若しくは産業又は企業若しくは産業の集団...について特定性を有するか有しないかを決定するため、次の原則を適用する。
( a )交付当局又は交付当局の適用する法令が補助金の交付の対象を明示的に特定企業に限定している場合には、当該補助金は、特定性を有するものとする。
( b )交付当局又は交付当局の適用する法令が補助金の交付を受ける資格及び補助金の額を規律する客観的な基準又は条件を定めている場合には、特定性は、存在しないものとする。ただし、当該資格が自動的に付与されるものであり、かつ、当該基準及び条件が厳格に遵守されていることを条件とする。当該基準又は条件については、確認することができるように、法令その他の公文書に明確に定めなければならない。
(略)
1.2 交付当局の管轄の下にある地理的に指定された地域内にある特定企業のみに交付される補助金は、特定性を有するものとする。
1.3 次条の規定に該当する補助金(注:禁止補助金)は、特定性を有するものとみなす。
悪影響
- SCM第5条は、補助金によって悪影響(adverse effect) を及ぼしてはならないと規定。
- 悪影響は、( a )他の加盟国の国内産業に対する損害(injury)、( b )他の締約国のGATTに基づく利益(特に第2条の譲許の利益)の無効化又は侵害(nullification or impaierment)、または、( c )他の加盟国の利益に対する著しい害(serious prejusdice)がある場合に存在。
(1)国内産業に対する損害
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損害とは、実質的な損害(material injury)、実質的な損害のおそれ、または、国内産業の確立の妨害を意味する。
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国内産業に対する損害は、補助金を受けた輸入品の量、補助金を受けた輸入品の国内の同種の産品の価格に及ぼす影響等を検討しなければならず、検討に際しては販売量、市場占有率、利益、生産性、雇用、賃金といったすべての経済的な要因を含めなければならない(SCM第15条4項)
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補助金と損害の間には因果関係がなければならず、因果関係は、すべての関連する証拠及び要因に基づいて立証されなければならない(SCM第15条5項)
(2)無効化又は侵害
- 申立国は、補助金の使用が、締約国が協定上享受している利益(benefits)を無効化又は侵害していることを立証しなければならない。
- US-相殺法事件において、パネルは、SCM協定上の無効化又は侵害についてGATT第23条におけるそれと同義であり、同条と同様の手法により評価されるべきとした。
(3)著しい害
SCM第6条は、補助金の効果が、以下の4類型のいずれか(または複数)をもたらす場合に著しい害が生じうる(may arise)と規定。
- 他の締約国からの同種の産品の輸入を代替し又は妨げる(displace or impede )ものである場合。
- 第三国市場において他の加盟国の同種の産品の輸出を代替し又は妨げるものである場合。
- 補助金を受けた輸入品が、他の加盟国の同種の産品の価格を著しく下回る場合(undercutting)又は、同一の市場における価格の上昇を著しく妨げ(price supression)、価格を著しく押し下(price depression)げ若しくは販売を著しく減少させるものである場合。
- 補助金の交付を受けた産品の当該補助金を交付している国の世界市場における占拠率を増加し、かつ、その増加が、補助金が交付された期間を通じて一貫したものである場合。
禁止補助金
禁止される補助金とは、SCM第3条によれば、以下の2類型に分類される。
- 法令上又は事実上、唯一の目的であるか他の条件のうちの一つであるかを問わず、輸出が行われることに基づいて(contigent upon export performance)交付される補助金(輸出補助金)。
- 唯一の目的であるか他の条件のうちの一つであるかを問わず、輸入物品よりも国産物品を優先して使用すること(upon the use of domestic over imported goods)に基づいて交付される補助金。
補助金に対する救済措置
- 禁止補助金及び対抗可能な補助金に対する救済措置として、WTOの紛争解決手続による救済と相殺関税措置による救済をとることが可能。同時に両者を追求することも可能であるが、二重の救済は許されない。
- また、救済措置をとるためには、対抗可能な補助金の場合、特定性、悪影響、因果関係が必要。禁止補助金の場合は、特定性及び悪影響要件は不要。
WTOの紛争解決手続による救済
相殺関税措置(後述)とは異なり、禁止補助金と対抗可能な補助金とではそれぞれ別の規定が存在。
(1)対抗可能な補助金
- 補助金が悪影響をもたらしたとする旨の報告をパネル又は上級委員会が採択する場合には、補助金交付国は、悪影響を除去するための適当な措置(appropriate steps )をとるか、または、補助金を廃止しなければならない(SCM第7条8項)
- 報告採択日から6か月以内に加盟国が補助金の悪影響を除去し又は補助金を廃止するための適当な措置をとらず、かつ、代償についての合意が存在しない場合には、紛争解決機関(DSB)は、申立国に対し、悪影響の程度及び性格に応じた対抗措置をとることを承認する。(同条9項)
(2)禁止補助金
- パネルは、禁止補助金であると認める場合には、補助金を交付している加盟国に対し、当該補助金を遅滞なく(without delay)廃止するよう勧告(SCM第4条7項)
- パネルが定めた期限内に紛争解決機関(DSB)の勧告が実施されない場合には、同機関は、申立国に対し、適当な対抗措置(appropriate countermeasures)をとることを承認する(同条4条10項)懲罰的な報復措置としての性格。
相殺関税措置(Countervailing Duties, CVDs)
- SCM第10条は、相殺関税措置がGATT第6条の規定に適合(consistent)しなければならないと規定。すなわち、相殺関税は、産品の製造、生産又は輸出について直接又は間接に交付される補助金を相殺する目的とするものであり、悪影響に対するものではない。
- 相殺関税は、損害を与えている補助金に対処するために必要な(necessary to counteract)期間及び限度においてのみ効力を有する(SCM第21条1項)
- 相殺関税は、その賦課の日から合理的な期間が経過している場合、見直しの必要性を裏付ける実証的な情報(positive information substantiating the need for a review)を提供する利害関係を有する者の要請に基づいて、見直しが行われなければならない(同条2項)
- いずれの場合においても、いかなる相殺関税も、その賦課の日又は見直しの日から5年以内に撤廃されなければならない。ただし、見直し後に、相殺関税の撤廃が補助金及び損害の存続又は再発をもたらす可能性があると決定する場合は、この限りでない(同条3項)