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(10)セーフガード措置 GATT第19条とSG協定【国際経済法】

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この記事では、WTO法における貿易救済措置第その3、セーフガードについてまとめています。

 

概要

  • セーフガード(safeguard)措置とは、 予見されなかった展開(unforseen development)により、輸入量が増加(in such increased quantities)し、輸入品と同種の又は代替する国内産品の生産者に重大な損害(serious injury)を与えるかまたはそのおそれがある場合に、協定上の義務の停止等を認める制度。日本語では、緊急措置と呼ばれる。
  • SG措置は、相殺関税及びアンチ・ダンピング措置と並ぶ貿易救済措置だが、他国の不公正(unfair)な実行を前提としていないこと、4年の期限があること(ただし延長可能)、全加盟国に対して適用されること(erga omnes)という点で他の措置と異なる。
  • SG措置の前提となる調査(investigations)は、加盟国内の調査当局(authority)により実施。多くの場合、影響を受けた国内生産者の要請に基づき調査を開始。
  • 根拠規定は、GATT 第19条及びセーフガード協定(Safeguard Agreement)

GATT第19条

締約国は、事情の予見されなかつた発展の結果及び自国がこの協定に基いて負う義務(関税譲許を含む。)の効果により、産品が、自国の領域内における同種の産品又は直接的競争産品の国内生産者に重大な損害を与え又は与えるおそれがあるような増加した数量で、及びそのような条件で、自国の領域内に輸入されているときは、その産品について、前記の損害を防止し又は救済するために必要な限度及び期間において、その義務の全部若しくは一部を停止し、又はその譲許を撤回し、若しくは修正することができる

 セーフガード措置の発動要件

SG措置は以下の要件が満たされる場合に認められる。

  1. 輸入の増加
  2. 重大な損害
  3. 因果関係
  4. 予見されなかった展開

輸入量の増加

  • 輸入の増加(increased imports)とは、輸入品の絶対量または相対量(マーケット・シェア)の増加を指す。
  • 輸入品の増加は、単に数理的にまたは技術的に決定するのではなく、調査期間(典型的には3〜4年)における輸入の傾向(trends)を考慮しなければならない(アルゼンチン ー履物)
  • 増加は、十分に最近(recent)で、十分に急激(sudden and sharp)で、十分に重大(significant)でなければならない(同上)

SG協定第2条1項

加盟国は、ある産品が、同種の又は直接に競合する産品を生産する国内産業に重大な損害を与え又は与えるおそれがあるような増加した数量(絶対量であるか国内生産量に比較しての相対量であるかを問わない。)で、及びそのような条件で、自国の領域内に輸入されていることを当該加盟国が次の規定に従って決定した場合にのみ、当該産品についてセーフガード措置をとることができる。

重大な損害

  • 重大な損害(serious injury)とは、国内産業の状態の著しい全般的な悪化(a significant overall imopairment)をいう(SG第4条1項(a))
  • 重大な損害の調査にあたっては、全ての関連性を有する要因(客観的かつ数値化された輸入の増加率及び増加量、輸入品のマーケット・シェア等)を検討しなければならない(SG第4条2項(a))
  • 重大な損害のおそれ(threat)については、それが明らかに差し迫った(imminent)なものでなければならず、推測ではなく事実に基づかなければならない。
  • 重大な損害は、アンチ・ダンピング措置の実質的な損害(material injury)よりも重大であることが必要とされるが、究極的には調査当局の裁量によるところとなる。
  • 国内産業(domestic industry)とは、輸入品と同種又は直接競合品の生産者全体又は国内生産全体の相当な部分(major proportion)を占めている生産者をいう(SG 第4条2項(c))

因果関係

  • 輸入の増加と損害の発生が同時に存在し、増加した輸入と国内産業に対する重大な損害(及びそのおそれ)の間に因果関係(causal link)がなければならない(SG 第4条2項(b))
  • また、損害発生に輸入の増加以外の要因がある場合は、その他の要因による損害については輸入の増加に帰責してはならない(non attribution analysis)

予見されなかった展開

  • GATT第19条1項は、予見されなかった展開(unforseen development) 及びGATT上の義務の効果の結果による場合にSG措置を認めることを規定。SG協定には同旨の規定はないものの、WTO判例では予見されなかった展開についても説明することを求める。
  • その展開により輸入が増加したこと(輸入の増加自体が予見されなかった展開を構成することはできない)及び当該産品の関税交渉の時点で合理的に期待できなかったことが必要。

救済措置

  • 相殺関税及びアンチ・ダンピング措置と異なり従価税である必要はなく、関税の引き上げ(関税割当を含む)又は量的輸入制限(輸入割当など)の救済措置をとることが可能。
  • 最恵国待遇(MFN):救済措置は問題となっている輸入品に対して無差別的に適用されなければならない(SG第2条2項)
  • 期間:重大な損害を防止しかつ調整のために必要な期間(as may be necessary to)においてのみ可能。原則4年以内。延長も可能であるが、最長で8年まで(SG 第7条)
  • なお、SG 措置が終了した後、直ちに新しいSG措置をとることは原則的には許されない。

補償

  • 緊急措置を実施する場合は、他の影響を受ける加盟国との間で、実質的に同等のレベルの譲許及びその他の義務を維持するよう努めなければならず、このための補償(compensation)についても合意することができる(SG第8条1項)
  • 30日以内に合意できない場合、影響を受ける加盟国は、SG措置の実施国に対して実質的に同等のレベルの譲許を停止(=報復措置)できる(同条2項)
  • ただし、絶対量の増加を要因とするSG措置の場合は、措置から3年間は上記の譲許停止はできない(同条3項)
  • なお、実際に補償の交渉に至ることは稀。

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