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(12)国際法上の国家管轄権【国際法】

f:id:hiro_autmn:20200503073050j:plainこの記事では、国家管轄権についてまとめています。主権免除とセットですが、分量が多いので分けました。

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国家管轄権

国家管轄権(state jurisdiction)とは、国家が人や物に対して統治権能を及ぼす権限を指す。単に管轄権と呼ぶ場合もある。国家管轄権は、大別して立法管轄権、執行管轄権、司法管轄権に分類される。

管轄権の類型と適用範囲

(1)立法管轄権(prescriptive jurisdiction

ある法が、ある人、事物、行為に対して適用可能かどうかの問題

(2)執行管轄権(enforcement)
逮捕や、押収、命令等の法の執行が可能かどうかの問題
(3)司法管轄権(adjudicative jurisdiction

ある紛争を裁判所が裁判することが可能かどうかの問題

  • 場所的適用範囲:国家領域内については、国際法による特別の制限がある場合を除いて、国内法が全面的に適用。
  • 一方、域外適用(extraterritorial application)については、立法について国際法は必ずしも禁止するものではないが、執行については厳格に制限 ex. ロチュース号事件「国家は他国領域で権限行使不可」

自国法令(国内法)適用の根拠原則

どのような根拠に基づいて管轄権を認めるのか、主に刑事法の場所的適用範囲の問題とされてきた。

(1)属地主義(Territorial Jurisdiction
  • 国家が自国領域内や自国船籍にもつ管轄権。主観的属地主義(犯罪開始国が持つ管轄権)と客観的属地主義(結果発生国が持つ管轄権)に分類。
  • ロチュース号事件では後者を採用し、被害船の刑事管轄権を認めたが、その後の国家実行により修正された。
(2)属人主義 (Nationality)
  • 国籍を根拠に立法管轄権を認める。積極的属人主義(実行行為者が自国民である場合にその者の国外での犯罪に自国法を適用)と受動的属人主義(自国民が国外で被害者となった場合に自国法を適用)に分類。
  • 今日では、どの国も一定範囲の犯罪につき前者を適用している(ex.刑法3条)なお、管轄権が競合しても、国際法上、双方が行使可能 。
(3)保護主義(protective principle)
  • 国家の重要な権益の侵害に対しては、実行者の国籍、実行地のいかんを問わず処罰の対象とするもの。
  • 特に国家の政治的安全を脅かす行為や経済的・社会的秩序を害する犯罪を対象。
(4)普遍主義(Universal Jurisdiction
  • 全ての国の立法管轄権を認める原則。歴史的には海賊行為(piracy)について適用。また、戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドなどが慣習国際法上認められてきた。ただし、テロ行為については争いあり。
  • アイヒマン事件(1961年)では、イスラエルが普遍的管轄権を肯定し、刑事裁判権を行使。一方、逮捕状事件では判断を避ける。
  • 国際刑事裁判所ICC)規定は、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪および侵略犯罪を同裁判所の処罰犯罪として取り込んだが、補完性の原則が前提(後述)また、慣習法上のみならず、条約上の規定として、ハイジャック防止条約(1970年)、「引渡しか訴追かの義務」条約、拷問禁止条約(1984年)等などがある。

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論点

管轄権の競合(concurrent jurisdiction
  • 複数の国が正当な根拠を有する限り同一の人、事物、行為に対して管轄権を行使可能。歴史的には、国際法による禁止規範がない限り国家は規制権限を持つとされてきたが(ロチュース号事件)、近代では、管轄権の衝突を避けるべく自発的に域外適用を制限する実行がある。
  • また条約によっては、管轄権を有する国家を特定するものもある。
受働的属人主義の妥当性
国外での犯罪被害者が自国民であることを理由に被害者本国の管轄権を認めるこの原則は必ずしも普遍的に認められてきたわけではない。近年の事例:アキレ・ラウロ号事件(1985)、ピノチェト事件(ただし実際には不引渡し)
平成15年改正刑法3条の2(要アップデート)
強制わいせつ、逮捕監禁、略取誘拐強盗の被害者に適用=海外において犯罪の被害者となる自体が増えたため。一般論としては、国際慣習法とはなっていない。国家主義的性格から慎重論→近年では、海外渡航の一般化やテロの増大により支持する国は増加傾向。
効果理論(effect doctrine)の妥当性
  • 戦後、他国における経済活動が自国の経済秩序等に一定の効果を及ぼすとの理由で、当該活動について自国法の域外適用を認めるとする米国の実行。
  • 特に、外国企業の制限的取引活動に対する米競争法(antitrust law)で顕著。一方主義的な性格(unilateralism)で領域内行為の要素を欠き、伝統的な客観的属地主義とは異なる。

執行手段の違法性と司法管轄権の行使

基本的原則:執行管轄権は国家の特別の同意がない限り他国の領域内で行使できない。

判例アイヒマン事件:アルゼンチンに逃亡していた容疑者を誘拐し、イスラエルへ連行し訴追。安保理は、主権に影響を及ぼし(affect the sovereignty)、国際摩擦を引き起こしたとして、イスラエルに「相当な賠償」をなすべきものとした。他方で、裁判所は、裁判所は提起された事件の法廷プロセスのみに関与すべきであり、主権侵害については国家間の外交的関係によって解決されるべき問題であるから、違法な手段で容疑者を連行したとしても法廷地国は裁判権行使可能と判示した(国際判例ではなくイスラエルの国内判例であることに注意。)

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