Dancing in the Rain

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Life is not about waiting for the storm to pass but about learning how to dance in the Rain.

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(20)国際化地域・空・宇宙【国際法】

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国際法解説シリーズ。この記事では、国際河川と国際運河、南極、空と宇宙についてまとめています(無理やり詰め込んだ感がなくはないですが。)。宇宙については要アップデートかなと思っています。

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国際化地域

国際化地域:国家領域を構成する地域・水域であって、領域国の排他的使用が制限され国際的利用に供される空間。

国際運河

(1)スエズ運河 
  • 1869年開通 1876年、エジプト政府保有株を買収した英国が筆頭株主。1888年、コンスタンチノープル条約がトルコ(=エジプト)と西欧諸国の間で結ばれる。

  • 自由通航の保障:すべての商船・軍艦に対し、平時・戦時を問わず、常に開放される。

  • 運河の中立化:ただし、エジプト国の防衛および公の秩序の維持のために必要な措置を取ることができる。

  • 1956年、エジプト政府によるスエズ運河国有化 同年のイスラエル・エジプト館の武力衝突を機に、英仏は軍事占領→スエズ危機で国連緊急軍。

  • 1957年、コンスタンチノープル条約の自由航行を保証する声明。スエズ運河問題につき義務的管轄権受諾。

(2)パナマ運河
  • 1901年、英米間でヘイ・ポンスフォート条約。すべての国の商船・軍艦の自由航行、敵対行為の禁止原則、防護のための軍事力配備。

  • 1903年、パナマ・米間でヘイ・ヴァリラ条約。パナマの独立を擁護する一方で、運河の建設・管理、保護の独占的権利を有する。

  • 問題点:①管理国アメリカが交戦国になった場合の通航の自由を保障する規定がない、②運河の領域国以外の国が排他的管轄権を有する  

  • 1977年「パナマ運河条約」「パナマ運河の永久中立と運営に関する条約」管理運営権をパナマに移管、すべての国の船舶の「平和的通過」のために開放されるものとする。

国際河川 

  • 複数の国を貫流するか複数の国の国境をなし、通航の自由やその他の使用について条約で取り決められた河川。それぞれの国境内では各河川流域の領域主権に服する。そのため、同一の河川であっても法的には各国の領域として分属。
  • 他国の通航の自由を認める義務が一般国際法上あるわけではない。特別の条約により規律されるべき問題。一方で、河川流域国は河川の利用について無制限の使用の自由を有するものではない。

南極

セクター理論

  • 極地に近い国の領土の両端から極点に引いた2本の子午線によって囲まれる扇型区域内に入る陸地や島を当該隣接国の領域とする。カナダやソ連によるの援用。南極につきアルゼンチン・チリの援用。
  • 地理的近接性を基礎としつつ極地の過酷な気象条件のために先占の法理の適用が適当ではないとする考え方→近隣国の利益のみ考慮、普遍的な承認は得られず。

南極条約体制 

  • 大陸を持つ南極はかつて7ヶ国がそれぞれ領有権を主張: 英・仏・ノルウェー・オーストラリア・ニュージーランド・アルゼンチン・チリ。これに対し、米旧ソ連は自国の領有権を留保しつつ反対。
  • 1959年 南極条約 日本、ベルギー、南アを含む12カ国:①領有権の凍結 領土問題の棚上げ、②平和利用の原則=軍事利用禁止の明確化、③非核化、④監視員制度、⑤南極条約協議国会議
  • 資源と環境の保護:1988年、南極鉱物資源活動規制条約→発効せず。1991年、南極環境保護議定書=自然保護地域とするとともに、科学調査の場合を除いて、鉱物資源の開発活動を一切禁止 。

  • 国際航空制度の基本構造:領域主権の原則から、一般国際法上、領空においては外国の航空機の自由飛行、無害飛行の権利も有しない。
  • 1944年 シカゴ国際民間航空条約不定期航空の民間機に限って他の締約国の、領空飛行、および運輸以外の目的における着陸の権利を認める。国の航空機には認められず、定期国際航空業務に就く民間機にも特別の許可なしに適用されない。

国際航空協定

  • アメリカ の自由競争主義とイギリスの国際的規制主義が対立。
  • 定期航空について別の協定で規律:
  1. 国際航空業務通過協定:2つの自由協定(①無着陸の領空通過、②運輸以外の目的での着陸の自由)
  2. 国際航空運送協定: 5つの自由協定(③自国領域内で積み込んだ貨客を他の締約国で下ろす自由、④他の締約国で自国向けの貨客を積み込む自由、⑤第三国向けあるいは第三国からの輸送の自由)
  • いずれに加入するかは各国の判断だが、前者が多数で、結局2国間の個別協定へ。
  • 1946年、英米バミューダ協定をモデル 1990年代、アメリカのオープン・スカイ政策。2010年に日米間も協定。

領空侵犯の対処措置 

  • 領域国がいかなる措置を取ることができるか、国際的な法規則はなく、シカゴ条約でも明文化されず。一般には、警告措置、退去命令あるいは着陸命令、強制着陸等の対処措置を取るべきものとされ、直ちに攻撃等の実力行使が許されるものとはみなされなかった。
  • 近年の軍用機と民間機を分けてとらえる見解:軍用機は高度に危険な現代的兵器を搭載している可能性もあることから、状況によっては領域国の強制措置もやむなしとする立場。
  • 1983年大韓航空機撃墜事件(269名全員死亡):ICAO(国際民間航空機関)は直ちに非難決議、各国も対ソ制裁。1984年シカゴ条約改正3条の2新設:民間機に対する「武器の使用」を禁止するとともに、「要撃 interception の場合には、航空機内における人命を脅かし又は航空機の安全を損なってはならない」(=武器不使用原則)「武力の行使」ではない「武器の使用」であるから禁止されていなかった。
  • 防空識別圏air defense identification zone ADIZ):領空侵犯の事前防止等に対処するため、領空に接続する一定範囲の排他的経済水域ないし公開上空に設定され、航空機に飛行計画、目的地等を報告させるための制度。国際法上は、海洋法が「上空飛行の自由」を認めているのであって、このような規制の一方的設定は本条約はもとより、シカゴ条約にも見いだすことはできない。事実上、黙認状態となっている 。

宇宙

  • 宇宙法の形成:1957年、ソ連人工衛星の打ち上げによる宇宙時代の開幕。月その他の天体を含む宇宙空間の法的地位とその探査利用法を規律する法が必要とされる。
  • 宇宙法(space law, law of outer space):1963年、宇宙法原則宣言(総会決議1962年)宇宙の地位と利用の基本原則、探査利用の自由、全人類の利益目的、領有の禁止、国家責任。1967年、月その他天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約(宇宙条約)、宇宙救助・返還協定(1968年)、宇宙損害責任条約(1972年)、宇宙物体登録条約(1974年)、月協定(1979年)  
  • 宇宙条約に定められた幾つかの基本原則(=探査利用の自由の原則、領有の禁止原則)はその後の諸国家による広範な承認、国際的文書による再確認を通して、国際慣習法として確立。  

宇宙の基本原則

(1)探査・利用の自由
  • 天体を含む宇宙空間は、すべての国がいかなる差別もなく、また経済的・科学的発展の程度にかかわりなく、国際法に従って自由に探査利用することができ、また、すべての天体に自由に立ちいることができる(1条)
  • 探査利用の自由は「すべての国の利益のために」行われるべきもの 深海底と異なり、「開発」概念は慎重に回避 宇宙活動は「登録国」の「管轄権及び管理」の下に行われる(8条) 
  • 登録国とは、宇宙物体の打ち上げ国であって、自国の登録簿に当該物体を記録し、これを国連事務総長に通報する国。なお、宇宙活動により他国に損害を加えた場合に責任を負うのは「打ち上げ国」。
(2)領有の禁止
  • 月その他の天体を不空宇宙空間は、いかなる根拠であれ、国家による領有は禁止される(2条)
  • 宇宙の法的地位につき、①無主物、②万民共有物、③取引外のもの、④公法上の公共物、利用権の共有物説が有力。
  • 月協定:月の領有を改めて禁止、月及びその天然資源を「人類の共同遺産」とし、その開発が実施可能となった段階で、これを規律するための「国際制度」を創設するするもの。しかし、締約国は10余カ国と極めて少なく、宇宙活動の展開国がいずれも未加入であり、実効性を欠く。
(3)軍事利用の規制
  • 宇宙の「平和的目的」の利用を確認しつつ(前文)、軍事的利用については「宇宙空間」と「天体」とを分けて規定し、前者に対しては、「核兵器及びその他の種類の大量破壊兵器」を地球を回る軌道に載せないこと、及び、これらの兵器を宇宙空間に配置してはならない(4条前段)
  • 全面禁止は貫徹されず:①通常兵器の配置は禁止されていない②大量破壊兵器であっても地球の軌道外は対象外 ex.大陸間弾道ミサイル   
  • 天体については、全面的な非軍事化、軍事基地や軍事施設の設置のみならず、あらゆる兵器の実験・演習が禁止(4条後段) 
(4)国家の国際責任
  • 国家専属責任の原則:政府機関によって行われるか非政府団体によって行われるかを問わない(6条)cf.一般国際法上は、事前の防止ないし事後の救済手続きにおいて「相当の注意 due diligence」を払わなかった場合にかぎって義務違反の責任を負う  
  • 責任原則の形態:
  1. 無過失責任(2条):宇宙物体が「地表において引き起こした損害又は飛行中の航空機に与えた損害」。宇宙活動は、高度に危険を伴う活動 ultra-hazardous activity であって、他国はその被害を合理的に防止措置を取ることが困難、被害者による過失の立証が困難。ただし、発生した損害が被害請求国側の重大な過失ないし損害発生を意図した作為不作為によることを打ち上げ国が立証した場合は免責。
  2. 過失責任(3条):その活動が地表以外の場所においてある国の宇宙物体に損害を与えるとき。
  • 責任主体と損害の範囲:打ち上げ国とは、①打ち上げを行う国、②打ち上げを行わせる国、③その領域施設から打ち上げられる国(1条c)これらの打ち上げ国は連帯責任を負う また、被害国はいずれにも請求が可能であり、打ち上げ国は内部で求償権を有する。
  • 損害「人の死亡若しくは身体の傷害その他健康の傷害又は国、自然人、法人もしくは国際的な政府間機関の財産の滅失もしくは損傷」
  • 賠償額「当該損害が生じなかったとしたら存在したであろう状態に回復させる補償」(12条)
  • 賠償請求の手続:請求主体は被害国、被害者の国籍国、被害発生地国、被害者の永住国。外交的保護に該当するが、国内的救済完了の原則は適用されない(11条)1年以内に解決に至らないときは、いずれかの国の要請により3名の委員で構成される請求委員会に付託。両国が拘束性に合意すれば拘束力を持つ決定に、合意なき場合は「勧告的な裁定」となる。

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(1)処分性:取消訴訟の訴訟要件 I 【行政法】

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処分性とは

行政庁の処分またはその他公権力の行使(行訴3条2項)に該当するか

判例によると「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められている行為」に限って取消訴訟の処分性が肯定される。 

公権力性

法が認めた優越的地位に基づき、行政庁が法の執行としてする権力的な意思活動

ポイント:

  1. その行為によって法律関係を一方的に変動させる法的仕組みがあるか
  2. 根拠法令上その行為につき不服申し立て等の行政訴訟が認められているか
  3. 当該行為の根拠法令上、申請に対する処分と解する要素があるか

ケース: 

(1)私法上の契約との区別=根拠法の解釈による
 否定:国有財産法における普通財産の売払い 農地法に基づく農地の売払い
 肯定:託金取戻請求への供託官の却下 国税通則法上の還付金の国税への充当
(2)公共施設の建設・稼働=内部的手続行為+私法上の契約にすぎない
 否定:東京都によるごみ焼却場の設置行為
(3)給付行政における決定=個別法上、不服申立てを許容しているか

直接性

法的規律の直接性・個別具体性=行政庁が法的見解を表明したにすぎない場合と区別、不利益だけでは不足

(1)表示行為:単なる事実行為にすぎない

否定されたケース:

  • 交通反則金制度における通告(通告それ自体は行政機関の意思表明)
  • 海難審判庁による原因解明裁決
  • 知事による保険医に対する戒告
  • 地代家賃統制令に基づく家賃台帳の作成・登載行為
  • 公務員の採用内定通知の取消
  • 都市計画法における開発許可申請の過程での公共施設管理者の同意拒否
  • 市町村長が住民票に世帯主との続柄を記載する行為

肯定されたケース

  • 関税定率法上の税関長の輸入禁制品該当の通知(実質的な拒否処分)
  • 税務署長のする納税告知(滞納処分の不可欠の前提)
  • 登記官が不動産登記簿に記載する行為
  • 食品衛生法に基づく食品の輸入届出をした者に対し検疫所長が行う通知
  • 登記機関が還付通知できない旨を申請者に伝えた通知(利用できる地位を保障しているため)
  • 医療法に基づき都道府県知事が行う病院開設中止の勧告・病床数削減の勧告(行政指導)

判例は、関連する法令の仕組みの解釈に基づき救済の必要性を考慮して処分性を拡大:①それが法律に根拠を置く仕組みであり、②関連する法的仕組み全体の中で法的効力を有するか、を判断基準とする

(2)規範定立行為:原則として特定人の具体的権利義務変動なし 

①条例の制定行為:行政処分と実質的に同視できるか否かがポイント

肯定されたケース

  • 市が設置する保育所廃止を定める条例の制定行為

 (I)効果発生の直接性=行政処分を待つことなく発生

 (II)特定可能な法的地位の剥奪

 (III)第三者効の必要性=紛争解決の合理性

否定されたケース

  • 水道料金の改定を内容とする供給規定を定めた簡易水道事業条例

②告示などの一般行為:特定人に具体的な法的効果を発生させること

 肯定されたケース

  • 建築基準法に基づく2項道路の指定が一括指定の方法で告示された場合

③内部行為=行政機関を拘束するのみ ex.通達

否定されたケース

  • 異宗派であることのみを理由とした埋葬拒否を認めないとした通達
  • 消防法に基づいて消防長が知事に対してする同意
  • 全国新幹線鉄道整備法に基づき運輸大臣が鉄道建設公団にする認可

④段階的行為=一連の行政過程を経て進行する場合の中間段階の行為の処分性

肯定されたケース

  • 土地区画整理事業計画の決定
        (I)一定の限度での具体的な予測可能性
        (II)換地処分を受けるべき地位に立たされる=直接的な影響
        (III)事情判決の可能性=実効的な権利救済
  • 土地区画整理組合の設立の認可
  • 市町村土地改良事業の事業の認可
  • 第二種開発地再開発事業の事業計画の決定・抗告

否定されたケース

  • 都市計画法に基づく用途指定
      ポイント:実効的な権利救済を図る必要性

国民

外部効果がない場合は否定

権利義務を形成しまたはその範囲を確定する

行政不服審査法では明文で「継続的権力的行為」を規定 通説では取消訴訟でも肯定

※申請に対する応答:拒否決定は処分性を有するが、申請権があることが必要であり、また、事実上の応答では足りない。

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(2)原告適格:取消訴訟の訴訟要件 II 【行政法】

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原告適格の意義 

  • 行政訴訟9条1項は、処分・裁決の「取消を求めるにつき法律上の利益を有するもの」に限り、取消訴訟を提起できると定める(誰が訴えを提起できるか=原告適格の問題)
  • 行政処分・採決の直接の相手方=名宛人が訴えを提起する場合は問題とならないが、三者取消訴訟を提起できるか検討する場合に問題となる。
1 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

法律上の利益の解釈

  • 行訴9条1項の「法律上の利益」の解釈については、法律上保護された利益説と法的な保護に値する利益説が対立。
  • 前者は、通説・判例であり、「法律上の利益」を当該処分の根拠法令が保護している利益と解釈。
  • 後者は、取消訴訟を利用して救済することが望ましいと思われる者について、広く原告適格を肯定しようとする。これによると、個々の実定法解釈からは導くことのできない「事実上の利益」であっても、裁判的救済を与える実質が認められれば、原告適格を拡大すべきであると解する。
  • 判例は、9条1項にいう「法律上の利益を有するもの」について、「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう」とした上で、「当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収・解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する」と定式化している。

判例法理確立の経緯

  • 取消訴訟原告適格の解釈に関する判例法は次のような経緯を経て確立。
  • 最高裁は、まず、公衆浴場法の営業許可につき既存業者が無効確認を求めた訴訟において、処分の根拠法令の規定の趣旨を解釈して原告適格の有無を判定するという立場を明らかにする。
  • その後、最高裁は、主婦連ジュース訴訟判決において、「法律上保護された利益」につき、「行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であって、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別される」と定式化し、その上で、一般消費者の利益は、法の目的である公益の保護の結果として生じる「反射的な利益ないし事実上の利益」とした。
  • 続いて、最高裁は、長沼ナイキ訴訟判決において、自衛隊基地建設のための保安林指定解除につき周辺住民が争った事例について、保安林指定解除によって洪水緩和や渇水予防の点で直接影響を受ける者につき原告適格を認めた。判決は、保安林指定解除処分が「一般的公益の保護を目的とする処分」であるとしつつ、森林法の仕組みや同法の沿革を検討し、森林法上処分への手続的関与が認められたもの等に原告適格を認めた。
  • これは、一般公益と個別的利益の両者が重複して保護されることを認め、処分の根拠法令の規定を手がかりに原告適格を拡大するという手法をとるものであった。

判例の三段階テスト

  • 上記の判例法は、①不利益要件、②保護範囲要件、③個別保護要件という3段階のテストによると分析されている。これによれば、②のレベルで法が保護する範囲に含まれていても、③のレベルで、公益の中に吸収解消されず、個々人の個別的利益としても保護されていえるかが重要な解釈問題となる。
【権利利益の侵害または侵害されるおそれがあるか→それは当該処分等の根拠法令等によって保護されるものか→その保護された利益が単に一般的な公益としてでなく個々人の個別的利益としても保護する趣旨であるか】
  •  その後、判例による解釈は一定の柔軟化を示す。
伊達火力発電訴訟判決

公有水面埋立法に基づく埋立免許・竣工許可の取消訴訟において、「法律上の影響を受ける権利利益」の解釈について、行政法規の明文の規定のみではなく、法律の合理的解釈からも導かれることに言及した。

新潟空港訴訟判決

空港の周辺住民が、運輸大臣日本航空に対する定期航空運送事業免許の取消訴訟を提起した事例について、定期航空運送事業免許の根拠法である航空法に加え、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律まで含めた解釈を行い、当該事業免許にかかる路線を運行する飛行機の騒音により社会通念上著しい障害を受けることとなる周辺住民について、原告適格を肯定した。

ここでは、原告適格を基礎付ける「法律上の利益」の解釈について、係争処分の根拠法令のみではなく、関連法令まで拡大するという重要な進展がみられる。

もんじゅ訴訟判決

「当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである」とした上で、原子炉等規制法は単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含む、としている。

その後、最高裁は、急傾斜地における都市計画法上の開発許可について、崖崩れ等により生命身体等に直接的な被害を受けることが想定される範囲の住民、林地開発許可の取消訴訟において、開発行為によって起こりえる土砂の流出・崩壊、水害等の災害により生命身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住するもの、建築基準法上の総合設計許可について、当該許可にかかる建築物の倒壊・炎上等により直接的な被害を受けることが予測される範囲の建物の居住者・所有者、同様の事例につき建築物により日照を阻害される周辺建物の居住者に、それぞれ原告適格を肯定した。

他方、最高裁は、環状6号線道路拡幅事業認定許可処分取消訴訟において、当該事業地内の不動産権利者に「法律上の利益」を認めたものの、事業地の周辺住民や通勤通学をするにとどまる者については、原告適格を否定した。また、委任条例による風俗営業制限地域における風俗営業許可について制限地域内の居住者や墓地の経営許可について、墓地から300メートル以内の居住者についての原告適格を否定した。

最高裁は、また、処分により影響を受ける者が特定できないよう被侵害利益について、原告適格を否定する。地方鉄道事業者に対する特急料金改定の認可処分について、その鉄道線路沿線に居住して通勤定期券を購入するなどしていた利用者近鉄特急事件判決)、文化財保護法・権文化財保護条例に基づく史跡指定解除処分に対し、その指定史跡を研究対象としてきた学術研究者伊場遺跡保存訴訟判決)について、原告適格は否定されている。これは、一般消費者や文化財の研究者などは、行政法令の解釈上、個別的な法的地位を持つ者として切り分けて保護されていると解釈することには困難があることによる。

原告適格の拡大

平成16年の行政事件訴訟法改正では、「国民の権利利益の実効的な救済」を確保するため、取消訴訟原告適格を実質的に拡大することが試みられた。9条2項が新設され、処分の相手方以外の第三者について「法律上の利益」を有するか否かの判断をする際の解釈指針が明示された。同項は、まず、「当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく」という全体にかかる解釈指針を置いた上で、①当該法令の趣旨及び目的を考慮し、その際には、②目的を共通にする関連法令の趣旨・目的をも参酌する、③処分において考慮されるべき利益の内容・性質をも考慮し、その際には、④処分・裁決が違法にされた場合の侵害利益の内容・性質、これが害される態様・程度をも勘案する、という2つの判断手法を定めている。

最高裁は、小田急高架訴訟大法廷判決において、9条2項の解釈を示した。判決は、都市計画法に基づき、建設大臣が東京都に対してした、鉄道の連続立体交差化を内容とする都市計画事業認可の取消訴訟について、当該事業が実施されることにより騒音・振動等による健康または生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者原告適格を肯定した。これは、環状6号線訴訟判決を変更し、事業地外の一定範囲の住民等にまで原告適格を拡大したものである。

本件では、第一の考慮事項について、公害対策基本法・東京都環境影響評価条例の趣旨・目的を参酌した上で、都市計画法の趣旨・目的を明らかにした。第二の考慮事項について、違法な都市計画の決定・変更を基礎として都市計画事業が認可された場合、周辺住民が事業に起因する騒音・振動等に由来する被害は、健康や生活環境の著しい被害になりかねず、都市計画法の規定は、このような被害を受けないという具体的利益を保護し、被害の性質・内容・程度等に照らせば、この具体的利益は、一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものであると解釈している。

行政事件訴訟法 第9条

2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

 

参考