独学で学んでいた民事訴訟法のまとめです。大学時代に民訴を取らなかったというちょっとした後悔から手をつけて見たものの、まさに眠訴と呼ばれる所以で昼休みに読むものじゃなかったです。
訴訟物
訴訟物の意義:法文上の概念ではなく、訴訟上の請求と同義であると定義。
広義:原告による権利主張とそれに基づく一定の形式及び内容の判決要求
狭義:原告による権利主張
最狭義:原告によって主張される権利自体
訴訟物の機能
訴訟物はこれ以上分割することのできない審判対象の最小単位を指し、訴訟法上の様々な問題が訴訟物概念を基準として処理。
ex.客体的併合該当性(136条)、訴えの変更該当性(143条)、二重起訴該当性(142条)、既判力の客体的範囲(114条1項)
訴訟物理論
(1)実体法説
- 実体法上の権利を訴訟物とする。(旧訴訟物理論=実務通説)
ex.鉄道事故:不法行為に基づく損害賠償請求権と契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権は実体法上権利として異なるものである以上、訴訟物としても異なる。
- 批判:紛争の蒸し返しや二重の認容判決の可能性
→選択的併合及び信義則による後訴の却下を認めることで一定程度解決。
(2)訴訟法説
- 一分肢説:一定の裁判要求が訴訟物。
ex.鉄道事故:「〇〇円支払え」という裁判の要求
- 二分肢説:裁判要求のみならず事実関係の同一性によっても訴訟物を枠付け(独通説)異なる事実関係から同一の裁判要求を基礎づける複数の請求権が発生する場合に一分肢説と異なる結論が導かれる。
ex.売買代金支払請求権と手形金額請求権:請求権ごとに異なる訴訟物を構成
(3)新訴訟物理論
- 学説では多数説。
- 同一の事実関係から複数の請求権が発生する場合であっても、実体法秩序が1回の給付しか認めていないのであれば、この給付を受ける法的地位又は受給権を1個の訴訟物として把握するべきとする。紛争の蒸し返し及び二重の認容判決を回避。
- 批判:裁判所の釈明義務拡大の可能性、請求権の実体法上の法的性質が不明
訴訟類型と訴訟物理論
(1)給付訴訟の訴訟物
- 新訴訟物理論によれば、複数の請求権によって基礎付けられ得る一回の給付を求める地位または受給権が訴訟物を構成する。
ex.500万円の支払を受ける法的地位(の存否)
(2)形成訴訟の訴訟物
- 新訴訟物理論では、実体法が定める個々の形成原因が訴訟物になるのではなく、一定の法律関係変動を求める地位が訴訟物を構成する。
- 旧訴訟物理論では、形成原因が訴訟物であり、形成原因が異なれば、求める結果が同じでも別個の訴訟物を構成する。
ex.離婚の訴え:離婚を求める地位が訴訟物であり、民770条1項の離婚事由はこのような地位を基礎づける法的観点にすぎないとする。
(3)確認訴訟の訴訟物
- 実体法上の権利の存否を確認することによって紛争を予防し、また、抜本的に解決すること目的とする結果、いずれの説でも実体法上の権利が1個の訴訟物を構成する。
- ただし、所有権につき、取得原因のいかんにかかわらず、同一の土地所有権である限り一個の訴訟物とするのが判例・通説。
処分権主義
- 処分権主義:訴訟の開始(「訴えなければ裁判なし」及び「不告不利の原則」)、審判の対象・範囲、判決によらない訴訟の終了に関する決定を当事者に委ねる考え方。
- 訴訟物たる権利ないし法的関係は私法の適用を受けるものである結果、私的自治(当事者の意思を尊重し国家の不当な介入を避ける原理)が妥当。
cf.訴訟要件に関する処分権主義:訴訟要件を欠く場合、裁判所は「訴訟判決(訴え却下判決)」をすることになるが、被告による訴え却下の申し出がない場合でもかかる判決をすることが許されるか。→原告による訴え提起には、訴えの適法性についての審判を求めるという意思も含むと解する。
処分権主義の機能
当事者が申し立てていない事項については判決することができない(246条)原告の意思を尊重するという意義と全部敗訴した場合の危険の限度を予告し、それによって訴状送達を受けた段階で、被告がかかる危険を考慮した上で、訴訟追行の仕方を決めることを可能にする意義。
訴訟の開始の効果
訴えの提起の効果
訴訟係属の発生:特定の訴訟物が、特定の裁判所で審理判決される状態。被告への訴状の送達により生じる。被告が訴え提起について了知する機会を与えられないまま訴訟係属が発生することを防ぐ趣旨。
時効の中断の効果
民法147条1号は「請求」によって取得時効及び消滅時効の期間が中断すると定める。民訴147条は「訴えを提起した時」=裁判所に訴状を提出した時点でその効果が生じるとする(従って訴訟係属の発生を待たない。)。
権利行使説:訴状の提出により権利行使の態度が明確になるとする説
権利確定説:たまたま訴訟の進行が遅れたことにより訴訟中に事項が完成するのは相当ではないことから訴えの提起時に時効中断効を発生させたものだとする説
なお、時効の中断は訴訟物に及ぶ。ex.所有権確認請求訴訟の提起により被告の取得時効は中断。判例では、債権不存在確認請求訴訟において、被告が債権の存在を主張し、棄却判決を求めた場合は、被告が債権の存在を主張した時から消滅時効は中断するとした(大判昭和16年2月24日)。
- 訴訟物たる権利の判断の前提となる権利について時効中断の効果:
権利確定説:伝統的には否定。肯定する学説もあり。
権利行使説:明確な権利行使の態度が認められる限り肯定。
判例では、所有権に基づく土地明渡請求訴訟提起は所有権の取得時効の中断する効果を持ち、根抵当権設定登記抹消請求訴訟における被告による被担保債権の主張は当該債権の消滅時効を中断する効果を持つとした。
- 時効中断の効果は訴えの却下または訴えの取下げがあった場合は失われる(民149条)
権利行使説:訴えの取り下げの場合、権利行使が行われなかったとみなされる。却下の場合は、不適法な訴えの提起では権利行使として認められない。
権利確定説:判決によって権利が確定する余地がなくなったためと解される。
出訴期間遵守の効果
遵守の効果は訴訟提出時に発生し(147条)、訴えの取り下げ又は却下によって遡って失われる。ex.占有の訴え(民201条)、嫡出否認の訴え(民777条)
その他の実体法上の効果
善意占有者の果実取得(民189条1項)は、本権の訴えを提起され敗訴した時は、訴えの提起の時から悪意の占有者とみなされる(民189条2項)法文上は訴え提起時に悪意が擬制されるが、訴状送達時点と解すべき。
訴訟係属の効果
裁判所の審理義務、二重起訴の禁止(142条)、補助参加、独立当事者参加、共同訴訟参加、訴訟参加、訴訟引き受け、訴えの変更、中間確認の訴え、反訴など。