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Dancing in the Rain

Life is not about waiting for the storm to pass but about learning how to dance in the Rain.

(4)国際裁判管轄③

⑦併合管轄:単独提訴によっては管轄権が認められない請求について、別の請求と併合して提訴された場合に一定の要件のもとで管轄権を認める。

第三条の六  一の訴えで数個の請求をする場合において、日本の裁判所が一の請求について管轄権を有し、他の請求について管轄権を有しないときは、当該一の請求と他の請求との間に密接な関連があるときに限り、日本の裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に限る。
    
(ⅰ)客観的併合(同一の被告に対する複数の請求):国内土地管轄につき、7条本文は2請求に何の関係がなくとも客観的併合に基づき管轄を認める。国際裁判管轄の場合、本来管轄の認められない請求につき、それと無関係の請求と併合提起するだけで管轄が認められるとすると被告の利益を著しく損なうことになる。そこで3条の6は、両請求間に密接な関係が認められることを要するとした。反訴について146条3項も同趣旨。ex.不法行為に基づく損害賠償請求と差止請求


(ⅱ)主観的併合(異なる被告に対する複数の請求):国内土地管轄につき、7条ただし書きは、38条前段の場合に限って、主観的併合に基づく土地管轄を認めている。国際裁判管轄においては、共同で提訴されることで、自分と関係のないわが国で訴えられることになり、被告の利益を著しく害する。3条の6は、客観的併合と同様に請求間に密接な関連がある場合には管轄をも認めている。
 
第三十八条  訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときも、同様とする。

 

(3)当事者の意思に基づく管轄
 ①合意管轄:契約当事者としては紛争発生時にいずれの国の裁判所で処理されるのかを自分達であらかじめ決めておきたい。このような場合に、当事者間で専属的な管轄裁判所を合意する条項を管轄合意条項と呼ぶ。これには合意がなければ本来管轄のない裁判所に管轄を付与・創設する側面と合意がなければ本来は認められた裁判所から管轄権を排除する側面を有する。3条の7の1項は、管轄合意が有効である旨を規定している。2項は、当事者間の一定の法律関係に基づく訴えに限定し(実質的要件)、書面によることを規定している(形式的要件)後者の解釈につき、特定国の裁判所が明示的に指定されていて、当事者間の合意の存在と内容が明白であれば足りるとするのが判例の立場である。4項は指定された裁判所が法律上または事実上裁判権を行使できない場合は当該合意を援用できないと規定する。これは当事者がいずれの裁判所でも裁判を受ける機会を喪失することになってしまうのを避けるためである。国際裁判管轄の合意が甚だしく不合理で公序法に違反するときに無効とすることも考えられるがこの点、同条は規定していない。しかし管轄合意についても、合意の不成立、錯誤等による無効・取り消し、合意内容の著しい不合理性による公序違反による無効などの余地は当然にある。

第三条の七  当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。
2  前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
4  外国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意は、その裁判所が法律上又は事実上裁判権を行うことができないときは、これを援用することができない。

②応訴管轄:本来は管轄が認められない場合であっても、被告が応訴して我が国で本案審理に応じる意思を示したならば被告保護の観点からは管轄を認めても問題がない。3条の8は、被告が日本の裁判所が管轄権を有しない旨の抗弁を提出しないで本案について弁論したとき、また弁論準備手続において申述したときは、我が国に国際裁判管轄を認めている。


第三条の八  被告が日本の裁判所が管轄権を有しない旨の抗弁を提出しないで本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、裁判所は、管轄権を有する。

(4)弱者保護のための規制
  消費者契約及び労働契約においては、消費者と事業者、労働者と事業主の間に、一般的に大きな力の差がある。準拠法選択ではこのような弱者のために通則法11条・12条の特則が設けられた。国際裁判管轄において弱者保護規定を置かなければ次のような不都合が生じる。第一に、当事者間で合意がない場合に被告側の管轄を認める原則のままでは、弱者が原告として提訴する場合に、強者の国である外国での提訴が認められるが法的知識や費用負担などから実質的には権利救済の途を閉ざすこととなる。第二に、合意管轄においても強者が一方的に自らに有利な国での管轄を定める条項を弱者に押し付ける危険がある。この点、前者につき3条の4が、後者につき3条の7第5項が規定する。
 消費者契約:消費者と事業者の間で締結される契約(3条の4第1項)
 個別労働関係民事紛争:労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主のあいだに生じた民事に関する紛争(3条の4第2項)

①管轄合意がない場合の法廷管轄についての特則 
(ⅰ)原告が弱者
 消費者の場合:訴え提起時または契約締結時に住所が日本国内である場合。事業者は認識できるので甘受するべき。消費者の保護を重視し、そのことで事業者にあまりにも不利益を及ぼす場合は、3条の9により例外的に管轄を否定することで調整を図ることを前提。なお、3条の2や3条の3に基づいて認めることも排除されない。

第三条の四  消費者と事業者との間で締結される契約に関する消費者からの事業者に対する訴えは、訴えの提起の時又は消費者契約の締結の時における消費者の住所が日本国内にあるときは、日本の裁判所に提起することができる。
 労働者の場合:当該契約における労務提供地が日本国内である場合。労働者にとってアクセスが容易であり、事業者も予測可能である。提供地が不定の場合は、雇い入れた事業所の住所が日本国内にある場合。労務提供地については1つに絞られる必要はないという点で、通則法12条とは異なる。すなわち、契約上の労務提供地のに限らず、現実に労務を提供しているあるいは提供していた地でよいとされる。
2  労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争に関する労働者からの事業主に対する訴えは、個別労働関係民事紛争に係る労働契約における労務の提供の地(その地が定まっていない場合にあっては、労働者を雇い入れた事業所の所在地)が日本国内にあるときは、日本の裁判所に提起することができる。

(ⅱ)被告が弱者:3条の3の適用が排除、つまり、被告たる消費者・労働者の住所が訴え提起時に日本国内にある場合しか管轄は認められない。
3  消費者契約に関する事業者からの消費者に対する訴え及び個別労働関係民事紛争に関する事業主からの労働者に対する訴えについては、前条の規定は、適用しない。

②管轄合意の制限
 紛争発生後の合意は、交渉力格差が問題とならず、通常通り扱われる。これに対して、紛争発生前の事前の管轄合意は、双方の交渉力格差を考慮して以下の場合のみその効力が認められる。
 事前の合意であるが、紛争発生後に同意したあるいはしたと見なせる場合
 消費者契約において、契約締結時の消費者住所地国に管轄を認める場合(転居した場合の事業者の不利益を考慮)
 個別労働関係民事紛争において、労働契約終了時に労務提供地に管轄を認める場合(外国人労働者が契約終了後に本国において競業避止義務に違反して会社に損害を与えた場合などを想定)
(3条の7)


5  将来において生ずる消費者契約に関する紛争を対象とする第一項の合意は、次に掲げる場合に限り、その効力を有する。
一  消費者契約の締結の時において消費者が住所を有していた国の裁判所に訴えを提起することができる旨の合意であるとき。
二  消費者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき、又は事業者が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において、消費者が当該合意を援用したとき。
6  将来において生ずる個別労働関係民事紛争を対象とする第一項の合意は、次に掲げる場合に限り、その効力を有する。
一  労働契約の終了の時にされた合意であって、その時における労務の提供の地がある国の裁判所に訴えを提起することができる旨を定めたものであるとき。
二  労働者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき、又は事業主が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において、労働者が当該合意を援用したとき。

(5)個別事案における例外的調整
 3条の2から3条の8までの規定によって本来であればわが国に管轄が認められる場合であっても、わが国で審理及び裁判をすることが、当事者間の衡平を害し、または適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情がある場合は裁判所は訴えを却下することができる。その際の考慮要素として、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地等が例示列挙されている。なお、わが国を専属管轄とする合意に基づく訴えの場合にはこのような例外的な却下はできない。国際取引においては専属管轄権の合意をすることによって当事者は紛争発生時のリスクについて計算を行っているのであり、裁判所の裁量を容れるべきではない。
 なお、従来の判例の問題点であった、「特段の事情」の肥大化という問題があった。この点、特段の事情の考慮に含まれていたもののうち、ルールとして一般化できる事情の幾つかは諸規定の要件として書き込まれた。このことにより、原則として3条の2から8までの規律によって国際裁判管轄が認められ、例外的に3条の9により否定されるという運用がなされることとなった。しかし、財産所在地管轄や消費者に関する特則については3条の9の発動を前提とした規定となっており、あまりに抑制的に運用すると不合理に広く管轄を認めることにもなりうる。


第三条の九  裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全部又は一部を却下することができる。