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(13)国際法上の主権免除【国際法】

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国際法解説シリーズ。この記事では、国際法上の主権免除についてまとめています。国家管轄権とセットで扱われることが多いですが、文量が多いため切り離しました。

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総論:主権免除の意義と伝統的理論

  • 主権免除(sovereign immunity)とは、国家はその行為や財産について外国の裁判所の管轄権に服さないことをいう。
  • もともとは各国の国内判例を通して発展。国際司法裁判所(ICJ)は、ドイツ対イタリア主権免除事件(2012年)において、主権免除法が慣習国際法であることを認定。他方で、制度の個別的側面については必ずしも一致していない。
  • 国連国際法委員会(ILC)は国連裁判権免除条約を作成、2004年に総会採択されたが、発効はしていない。

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根拠

形式的理由
  • スクーナー・イクスチェンジ号事件(1812年、米連邦最高裁)におけるマーシャル首席裁判官:「対等なるものは対等なるものに対して支配権を持たない」
  • ただし、この対等者非支配原則は、制限免除主義(後述)を採る今日の国際法上、正当化根拠としては不十分である。 
  • 各国主権者の「完全な平等と絶対的な独立」に鑑みてそれら相互交流の利益の促進のため各国は自国の「完全で排他的な領域管轄権」の行使を一部放棄したものとみなされる。(主権平等原則と領域主権原則の緊張関係)
実質的理由
  1. 国家の尊厳を尊重するための国際礼譲international comity)の要請
  2. 国内法制度の類推適用=19世紀の国家免責
  3. 判決実現不能論(国内裁判の判決を外国に対して常に履行できるとは限らない)
  4. 政策的配慮論、相互主義(reciprocity)

絶対免除主義から制限免除主義へ

(1)絶対免除主義
  • 19世紀、原則として国家の全ての行為・財産が免除の対象。国家と主権者が同等視され、またそもそも主権的統治活動のみが国家の行為とする認識に基づく。
  • 政府自らが対外的経済活動に従事する状況が増大し、従来とは異なる考えが主張されるものの20世紀前半まで有力であったが、取引活動において私人や企業が不利益を受ける恐れがあり、国際通商の発展に好ましくないと考えられるようになった。

判例】中国約束手形事件(1928年、大審院)ただし、法廷地国にある不動産に関する訴訟は例外とする

(2)制限免除主義
  • 国家が行う活動について、主権的行為acta jure imperii)と通商活動のような非主権的行為acta jure gestionis)に分類、後者については免除を認めないとする立場。米国は1945年のホフマン事件、英は1975年のフィリピン・アドミラル号事件で移行。
  • 私人の法的保護と国際通商の発展という点から制限免除主義が多勢となっているが、国際法の原則となったかは即断を許さないものがある。絶対免除主義の採用を国際法違反とは言えない。
  • 日本の判例の展開:長らくの絶対免除主義から制限免除主義へ。2009年には、「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」制定。

判例横田基地事件(最判平成14年4月12日):「免除の範囲を制限しようとする諸外国の国家実行が積み重ねられてきている」

判例】貸金請求事件(最判平成18年7月21日):「外国国家は、その私法的ないし業務管理的な行為については、我が国による民事裁判権の行使が当該外国国家の主権を侵害する恐れがあるなどの特段の事情がない限り、我が国の民事裁判権から免除されないと解するのが相当である」

制限免除主義における行為の区分基準

制限免除主義を採用するとして、いかなる行為が免除の対象となる公的行為となるのか、特に債権者保護の観点からその判断基準が問題となる。

  1. 行為目的基準説:国家が行う当該行為の目的及び動機 ex.軍隊のためのタバコ購入契約 主観的要素=免除適用拡大
  2. 行為性質基準説:当該行為の性質が私人間でも行われる私的契約行為と同等のものかどうか 客観的尺度=厳格化
  3. 行為実体評価説:行為の性質とともに目的も含めて総合的にその実体を判断すべきとする立場 「行為の本質はしばしばその目的によって明確化される」
なお、最高裁は性質基準説をとる:「その性質上、私人でも行うことが可能な商業取引であるから、その目的のいかんにかかわらず」(最判平成18年7月21日)

各論

不法行為訴訟と主権免除

  • 主権免除の原則は、通商関係や雇用関係など、契約をめぐる訴訟において問題となることが多かった。しかし、不法行為の場合、被害者の側からすればその不法行為者が私人であるか外国の国家であるかによって法的救済手続きの有無が決せられるのは不合理。

  • アメリカ及びイギリスの免除法は不法行為による身体・財産の損害につき賠償請求を非免除事項としている。

  • 通商や雇用関係の場合は、当事者があらかじめ事故の危険を考慮した上で法的関係を設定しうるが、不法行為の場合は被害者の予測を超えて発生するのでその法的保護が強く要請されるため。

  • 一方で、横田基地事件などでは免除の対象としており、一般化しているとはいえない。

裁判を受ける権利と主権免除

  • 戦後の主要な人権条約はいずれも公正な裁判を受ける権利を定めるが、このことは民事裁判にも保証されているのであり、主権免除原則との関係が問題となる。
  • しかし、各国の判例は、国家の免除を優先させてきた。強行規範(jus cogens)の違反であっても、国際法の現状では免除の拒否事由とはならない。
判例】アル・アドサニ事件(2001年、欧州人権裁判所):裁判を受ける権利は絶対的ではなく、「正当な目的の追求」と「手段と目的の均等性」から判断。

裁判権免除と強制執行

制限免除主義の下で裁判権が行使されたとしてもそれが執行されるかは別の問題 ex.資産の押収や差し押さえなどの強制執行
絶対的執行免除主義

裁判権行使と判決の執行はそれぞれ別の手続とする。以前は支配的であった。

裁判連動主義

裁判が行われるときはこれに連動して執行措置が取られるとする立場。外交的配慮から純粋にこの立場をとる国は少ない。

制限的執行免除主義

執行の対象となる財産が国家の主権的ないし外交的活動に使用されるものか否か、対象財産の用途上の性質を基準に免除の可否を決める立場。特に「商業目的」使用される財産か否か 一方で、銀行の預金資産のように個別に判別する必要のあるケースもあり。 

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