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【国際法判例】主権免除事件(ドイツ対イタリア)

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主権免除事件 Jurisdictional Immunities of the States

ドイツ v. イタリア 国際司法裁判所(ICJ)

判決 2012年2月3日

 

事実と経過

第二次世界大戦中、イタリアはドイツの同盟国として参戦するも連合国に降伏。1943年10月、イタリアはドイツに対し宣戦布告。戦争中、ドイツは数十万人ものイタリア人兵士を収容した。

1998年9月、第二次世界大戦中、ドイツに移送され強制労働を強いられたとするイタリア国籍のフェリーニ氏は、ドイツの行為によって損害を被ったとして同国政府をイタリアの裁判所において提訴。裁判所はドイツの主権免除を認め、原告の請求を棄却。上訴裁判所もこれを支持。

2004年3月、イタリア破毀院(最高裁判所)は、国際人道法違反を構成する行為については主権免除を享受できないとして、本件事案についてのイタリア裁判所の管轄権を確認し、補償の請求を認めた。これを受けて同様の訴訟が、イタリア国内で複数提起された。

また、2005年5月、イタリアの上訴裁判所は、ギリシャ人遺族がギリシャ国内でドイツに対して提起した裁判の補償請求を認容する判決をイタリア国内で執行することを認めた。

2008年12月、ドイツは、これらの動きに対し、イタリアが自国の裁判権免除を侵害しているとして、同国をICJに提訴した。また、ギリシャも訴訟参加を申請し、2011年7月に裁判所はこれを許可した。 

判決要旨

本件訴訟では、主としてイタリアが以下の行為により、ドイツに認められる裁判権からの免除を尊重する義務に違反したかどうかが争われた。結果として、裁判所はこれらについてドイツの主張を認容し、イタリアは裁判権免除を尊重する義務に違反すると判示した。

  1. 国際人道法違反を根拠とするドイツの行為に対する民事請求を認めたこと
  2. イタリア領域内にあるドイツ所有財産に対する強制執行措置を認めたこと
  3. ギリシャ裁判所の判決をイタリア国内で執行可能であると宣言したこと 

管轄権

ドイツは、紛争の平和的解決に関する欧州条約(1957年)の第1条を根拠に管轄権を主張し、裁判所は、イタリアの措置及び決定が、同条の「国際的な法的紛争(international legal disputes)」に該当するとしてこれを認めた。

適用規範

  • 主権免除に関する適用規範について、イタリアは欧州国家免除条約の締約国ではなく、また、ドイツ及びイタリアは国連国家免除条約に署名していなかったため、両国間に適用可能な主権免除に関する条約は存在しない。そのため、裁判所は、主権免除に関する慣習法が存在するかについて検討する。
  • 結論として、裁判所は、主権免除が国家平等原則に由来し、国際法及び国際関係において重要な位置づけを持つとし、主権免除の規則について慣習国際法性を認めた。

主権免除の規則

  • 裁判所は、国家の行為について主権的行為(acta jure imperii)と非主権的行為(acta jure gestionis)に区分した上で、前者については他国の裁判所の管轄権から免除されるとした。
  • その上で、本件で問題となっているドイツの行為は主権的行為であったとして、裁判権免除の対象となるとした。
領域的不法行為に関する例外
  • イタリアは、欧州免除条約第11条及び国連国家免除条約第12条を根拠に、法廷地(=イタリア)において行われた身体の傷害及び財産の損傷については、主権免除が認められないとする領域的不法行為の例外(territorial tort exception)を主張した。
  • この点について、裁判所は、両条約上及び慣習国際法上、軍及び国家機関による行為や武力紛争を伴う状況は、同例外原則の対象から除外されていること、又、イタリアを支持するような国家実行が存在しないことを根拠としてイタリアの主張を退けた。

国連国家免除条約 第12条:身体の傷害及び財産の損傷

いずれの国も、人の死亡若しくは身体の傷害又は有体財産の損傷若しくは滅失が自国の責めに帰するとされる作為又は不作為によって生じた場合において、当該作為又は不作為の全部又は一部が他の国の領域内で行われ、かつ、当該作為又は不作為を行った者が当該作為又は不作為を行った時点において当該他の国の領域内に所在していたときは、当該人の死亡若しくは身体の傷害又は有体財産の損傷若しくは滅失に対する金銭によるてん補に関する裁判手続において、それについて管轄権を有する当該他の国の裁判所の裁判権から の免除を援用することができない。ただし、関係国間で別段の合意をする場合はこの限りでない。

 

欧州国家免除条約 第11条:損害賠償

締約国は、人に対する侵害または有体財産に対する損害の救済であって、侵害又は損害を生ぜしめた事実が法廷地国の領域で発生し、かつこれらの事実が発生したときに侵害又は損害の加害者が当該領域に存在したものにかかる訴訟においては、他の締約国の裁判所の管轄権からの免除を主張することができない。

 

強行規範違反の効果
  • イタリアは、第二次世界大戦中のドイツの行為が強行規範(jus cogens)に違反しており、抵触する他の規則に優位する強行規範との関係で、強行規範ではない主権免除は劣後するため、ドイツは免除を享有し得ないと主張した。
  • これに対して、裁判所は、国際慣習法上の主権免除の規則は手続的性格を有するもの(=合法か違法かの判断を含むものではない)であり、そもそも強行規範との間に抵触が存在しないとした。また、主権免除に関するいかなる国内法制も強行法規違反を理由に免除を制限するものではないとした。
  • したがって、イタリアは、国際人道法違反を根拠とするドイツの行為に対する民事請求を認めたことで、ドイツの主権免除を尊重する義務に違反したと判示した(12対3)

 裁判権免除と執行からの免除

  • 次に、イタリアが自国領域内におけるドイツ所有財産について強制執行を認めたことについて、裁判所は、執行からの免除(immunity form enforcement)と裁判権からの免除を区別した上で、仮に後者が認められずに判決が下されたとしても、そのことによって強制執行措置が常に可能となるわけではないと判示した。
  • その上で、ドイツは、国連国家免除条約第19条に反映される慣習法を根拠にイタリアによる措置は認められないと主張した。
  • これについて裁判所は、同条の全体としての慣習国際法性についての判断は避けつつも、その要素については国内判例によって確立されているとして、検討の結果、イタリアは、同国内に所在するドイツ所有財産に対する強制執行措置を認めたことで、ドイツの執行からの免除を尊重する義務に違反したと判示した(12対3)

国連国家免除条約 第19条:判決後の強制的な措置からの免除

いずれの国の財産に対するいかなる判決後の強制的な措置...も、他の国の裁判所における裁判手続に関連してとられてはならない。ただし、次の場合は、この限りでない。

(a)当該国が、次のいずれかの方法により、そのような強制的な措置がとられることについて明示的に同意した場合...

(b)当該国が当該裁判手続の目的である請求を満たすために財産を割り当て、又は特定した場合

(c)当該財産が、政府の非商業的目的以外に当該国により特定的に使用され、又はそのような使用が予定され、かつ、法廷地国の領域内にあることが立証された場合。ただし、そのような強制的な措置については、裁判手続の対象とされた団体と関係を有する財産に対してのみとることができる。 

外国判決の承認・執行と免除

  • 裁判所は、そもそもギリシャの裁判所がドイツの裁判権からの免除を侵害したかどうかを検討する必要はなく、イタリアの裁判所がギリシャの判決の執行を容認することにより当該判決が効力を持つことになることから、イタリアの裁判所がドイツの裁判権からの免除を尊重したか否かを検討すれば足りるとした。
  • その上で、裁判所は、第三国に対する外国裁判所の判決を認容するかに際しては、外国裁判所(=ギリシャ)において当該第三国(=ドイツ)が裁判権からの免除を享有するか否かを検討しなければならないとした。
  • すなわち、イタリアは、同一の主題を自国が審理する場合に、第三国に裁判権免除が認められるかを判断しなければならなかったのであり、したがって、イタリアは、ギリシャの裁判所の判決をイタリア国内で執行可能であると判決したことにより、ドイツの裁判権からの免除を尊重する義務に違反したと判示した(14対1) 

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