国際法解説シリーズ、国家責任法その2・この記事では、国際違法行為(特に行為の国家帰属基準)と違法性阻却事由についてのまとめています。
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国際違法行為の成立
国家責任の発生には国際違法行為が存在することが必要。そのためには国家の行為が国際義務を違反するものでなければならない。cf. 在テヘラン米大使館事件
- 問題の行為の国家への帰属=帰属の問題 imputability, attribution of conduct
- 当該行為による国際義務違反=客観的要件 objective element
行為の国家への帰属ー主体的要件
(1)国家機関の行為
- 国内法上国家機関の地位にあるものがその資格で行った行為は当該国家の行為とみなされる。
- 行政、立法、司法、あるいは、上級、下級の機関であることを問わない(訴訟免除事件)
- 立法機関:国際義務に違反する国内法の制定、条約上必要とされる立法義務の不履行。司法機関:「裁判拒否」①狭義の裁判拒否、②手続上の差別、③判決の明白な不当性、④判決の執行・履行の拒否。
(2)権限外の行為
(3) 私人の行為
- 国家は条約による特段の定めがない限り私人の行為について直接責任を負うことはない。(cf.宇宙条約)しかし、それが「相当の義務」違反による場合は国家が責任を負う。
- 根拠:①国家加担説、②代位責任説 私人の行為と国家の行為を同一規範レベルで捉えている。③領域責任説:領域主権に基づく排他的統治を有するのであるから、領域内の外国の権益を保護する義務を負う。
- 国の指揮下の私人の行為:私人であってもそれが国家の命令・指揮の下に行われるときは、国家の行為とみなされる(8条)
- 支配の関係の問題:
- 実効的支配 effective control(ニカラグア事件):軍事的支援や財政援助等の「密接な協力」は指摘するも、軍事活動面での帰属関係は否定。
- 全般的支配 overall control(タジッチ事件):組織化された軍事的団体については財政・装備等の支援を超えて軍事行動の組織・調整・計画という全般的支配があれば良く、特定の命令や指令の発出は必ずしも必要でない(旧ユーゴ刑事裁判所)
- 国家責任条文は後者を採用:「指示(instructions)、指令(directions)または支配(control)」の下にある行動(8条)
- なお、「全般的支配」説につき、ジェノサイド条約適用事件本案は批判。国家責任法と開戦法規(jus ad bellum)において異なる基準の存在?
(4)私人の行為の国家による是認
- 支配命令関係になくとも、国家が私人の行動を自己のものとして是認した時は帰属が肯定(11条)
- 在テヘラン米大使館事件:大使館占拠の第二段階から、その行動は「国家の行為」に「変質した」
- 国家の是認は必ずしも明示的表明を必要とせず、行為によって確認される場合も含む。
(5)叛徒団体の行為
- 国内の反乱組織の行為は国家の行為としてみなされない。
- 「相当の注意」義務が適用されるが、同時にその限界も存在 ex.反政府団体=政府の権力が及ばない。
- 反乱団体が新政府の樹立に成功した場合は、あるいは当該国の一部に新国家を樹立した場合は、内戦時の反乱団体の行為は新政府下の国家ないし独立した新国家の行為とみなされる(10条)
国際義務の違反ー客観的要件
特別の義務の類型
単独の行為によって即時にそれが完結 違法行為が継続性を持つもの
- 特定事態発生の防止義務(相当の注意義務):私人の行為に付随して発生することと侵害発生の絶対的防止を要求するものではないことが特徴。
- 合成的行為による義務違反:一連の行為の総体的遂行が義務違反を構成(15条)ex.ジェノサイド、アパルトヘイト
違法性阻却事由
- 一定の状況のもとでは「違法性」が阻却される。
- 阻却事由(正当化事由)は明らかでなかった「正当防衛」「緊急避難」「自力救済」(アンツィロッティ)「相手国の承認」「履行不能」「自衛」「内乱」「復仇」(フィッツモーリス)
- 国家責任条文は、「同意」「自衛」「対抗措置」「不可抗力」「遭難」「緊急避難」(20ー25条)これが網羅的なものであるかは明らかでない。
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立証責任は援用国にあり。また、強行規範の違反に対しては阻却されない(26条)
【判例】ガブチコヴォ・ナジマロシュ事件:たとえ緊急避難が認められるとしても、それは条約の終了事由ではない。(条約の終了事由は条約法の規律領域であるのに対し、阻却事由は責任法)
相手国の行為に起因する阻却事由
(1) 国家の同意 consent
許可、授権、受諾を含む意思表示であり、強制等によらない国家の真の同意が必要 事後の同意は責任追及の放棄として扱われる(45条)
(2)自衛 self-defense
個別的・集団的を問わない。ニカラグア事件・オイルプラットフォーム事件
(3)対抗措置 countermeasure
復仇に基礎を持つ=他国の違法な権利侵害に対して被害国自ら必要な措置を取るための自助の一手段であり、以前は武力によることも禁止されていなかった。
【判例】ナウリラ事件(1928年、仲裁判決):復仇が正当化される3要件①先行違法行為の存在②侵害行為と復仇措置の均衡性③事前の救済請求の提起
戦後の国連体制では、武力復仇は許されないため、「対抗措置」として再構成
【判例】米仏航空業務協定事件(1978年):他国の国際義務の違反を生じさせる事態が発生したと考える国は、武力の行使に関する一般国際法の規則によって設定された限界内で「対抗措置」を通して自己の権利を確保する権限を有する。
【判例】ガブチコボ・ナジマロシュ事件:違法性阻却事由としての対抗措置の3要件①他国の先行違法行為の存在②被害国による違法行為の中止要請と賠償請求の提起③受けた侵害との均衡性
- 条文は3要件を中心とし、特別の規定(49ー54条)に従ってとられる限度でその違法性が阻却される(22条)
客観的事態の発生に伴う阻却事由
(1)不可抗力 force majeure
- 国家の制御不能な事態によって生ずる行為の違法性を阻却する事由:①問題の行為が抗しがたい力ないし予見し得ない事態に基づくこと②それが国家の制御能力を超えること③義務の履行を実質的に不可能とすること(23条)
- 義務履行が「より困難ないし厄介」であるというのではなく、「絶対的かつ実質的に不可能」であることを要する(レインボー・ウォーリア号事件)
(2) 遭難 distress
人命救助のためやむを得ず義務違反の行動を取る場合。純粋に人道的要請に立脚するものであり、違法行為の意図性がないとは言えない点で不可抗力と区別。
(3)緊急避難 necessity
- 国家の「不可欠の利益」の擁護
- 当該利益が「重大かつ急迫した危険」にさらされていること
- 対処する行為が「唯一の手段」であること
- その行為が「相手国または国際社会全体の不可欠の利益」の重大な侵害を構成しないこと (=武力行使の禁止)
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