Dancing in the Rain

Dancing in the Rain

Life is not about waiting for the storm to pass but about learning how to dance in the Rain.

MENU

(36)武力不行使原則の例外 II:国際法上の自衛権【国際法】

f:id:hiro_autmn:20200503004953j:plain

国際法解説シリーズ、武力不行使原則の例外その2。この記事は、国際法上の自衛権とそれに付随する議論についてまとめました。非国家主体に対する自衛権及び先制的自衛権については次の記事でまとめています。

国際法関連の記事一覧はこちらから>

hiro-autmn.hatenablog.com

自衛権

  • 現代国際法において、個別的及び集団的自衛権は、国連憲章及び慣習国際法上の武力不行使原則の例外として確立。
  • 自衛権とは、一般的には、急迫不正の侵害に対して、自国を防衛する必要がある場合に、武力を持ってこれを排除する国家の権利を指す。ただし、その内容については、国連憲章前時代の慣習法上の広範な自衛権(伝統的自衛権)から、より制限された憲章上の自衛権(第51条)へと変遷(ただし、憲章の規定は伝統的自衛権に影響を与えないとする少数説あり。)。
  • また、自衛権は近年、武力行使の正当化根拠としてしばしば援用されるが、その要件及びその対象についても争いがある(ex. 先制的自衛権、非国家主体への自衛権行使)。

伝統的自衛権の概念

  • 自己保存権自然権)として理解:国家が自己の存在を維持するのに必要な措置をとることができる。他国による武力攻撃を必ずしも必要としない。20世紀には包括的な保存権は他国の権利侵害の口実になるとして次第に否定
  • カロライン号事件(1873年):英米間の間で自衛権行使の要件について認識の一致。ウェブスター・フォーミュラと呼ばれ、自衛権行使要件として考慮されることがあるが、これを自己保存権ないし緊急避難の例として捉える有力説。

「自衛の必要性が急迫しており、圧倒的で手段の選択の余地がなく熟慮の余裕がない場合(a necessity of self-defense, instant, overwhelming, leaving no choice of means and no moment for deliberation)」であってさらに「不合理ないし過剰なものでないこと(unreasonable or excessive)」

  • 伝統的自衛権は、外国の私人や私人グループによる領域侵害等も対象とし、武力攻撃も要するものではない。カロライナ事件は、非国家主体への自衛権行使の例としてしばしば援用。cf.不戦条約・国連憲章51条は狭く限定的な自衛権

hiro-autmn.hatenablog.com

国連憲章における自衛権の地位

武力不行使原則(憲章第2条4項)の例外として、憲章第51条個別的及び集団的自衛のための固有の権利(the inherent right of indiviual or collective self-defence)を規定。

憲章第51条

この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃(an armed attack)が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会 に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。

武力不行使原則と自衛権の関係

  • 憲章第2条4項の定める例外としての位置付け。ただし、自衛権行為の対象は「武力攻撃 armed attack」であり、これは、2条4項の「武力による威嚇または武力の行使 use of force 」よりも狭く限定。すなわち、武力攻撃に至らない武力行使については自衛権行使ができない
  • 国際司法裁判所(ICJ)は、ニカラグア事件において、武力行使の形態をさらに2分類。自衛権発動の要件となる「武力攻撃」は「最も重大な形態(the most grave forms)」の武力の行使を指し、「その他のより重大でない形態(other less grave forms)」の武力の行使(武器供与、兵站の支援等)に対しては、「均衡のとれた対抗措置(proportinate counter-measures)」に訴えることができるのみと判示した。
  • 武力行使と武力攻撃を区別しない説:特に憲章51条の「固有の」の文言は、その対象を武力攻撃に限定してこなかった伝統的自衛権利を同条が包含しているものと解釈。少数説に留まるものの、米国はおよそいかなる武力行使自衛権発動の対象となるとの立場。 

hiro-autmn.hatenablog.com

自衛権行使の要件

個別的自衛権の行使には、少なくとも以下を充足することが必要となる。

(1)武力攻撃の発生
  • 前述のとおり、判例によれば、最も重大な形態である武力行使であるところの武力攻撃が発生していなければならない。
  • 実際に武力攻撃が発生していなくとも、差し迫った(imminent)武力攻撃が存在すれば自衛権発動の要件となるとする説。先制的自衛権(anticipatory self-defense)として議論。
(2)必要性及び均衡性
  • 必要性necceseity)及び均衡性(proportionality)は憲章上明文の規定はないものの、伝統的に自衛権発動の要件として認められてきた。
  • 必要性とは、自衛権に基づく武力行使が、他の措置をとることができる手段がなく、緊急やむをえないものでなければならないという要件。
  • 均衡性とは、武力行使が侵害の程度と均衡を失しないものでなければならないという要件。
(3)手続要件(国連安保理への報告

自衛権を発動した国は、その旨を国連安保理に対して直ちに報告しなければならない。多くの場合、事後的及び書簡(Article 51 letter )の形で行われる。

集団的自衛権

  • 集団的自衛権(right of collective self-defense)とは、一般的に、ある国が他国により攻撃を受けた場合に、第三国と共同で防衛を行う国際法上の権利をいう。
  • 国連憲章が採択されたサンフランシスコ会議直前、米州諸国はチャプルテペック協定において共同防衛措置(米州諸国一国に対する攻撃は、全ての署名国に対する攻撃とみなす)を規定。背景には拒否権の行使による集団安保体制の機能不全を懸念があった。
  • 憲章51条はこの矛盾を解消すべく、安保理が「必要な措置を取るまでの間」、「武力攻撃」の発生を前提条件に集団的(及び個別的)自衛権の行使を認めている。

集団的安全保障の法的性質

(1)共同防衛説(バウエット) 

複数の国が同時に攻撃を受けた場合に、それらの国が共同して対処する権利とする説。個別的自衛権の共同行使として捉える。

批判:集団的自衛権を個別的自衛権と区別して規定した意義が失われる。

(2)限定共同防衛説ラウターパクト)

被攻撃国と政治的・経済的緊密性ゆえに、その国への攻撃が自国の安全にとって不可分な関係にある特定の諸国が取りうる権利とする説。

批判:権利の濫用を抑制する効果を持つが対象国の範囲が不明確。NATO条約等あらかじめこの範囲を限定することも考えられるが、これは旧同盟体制を事実上忍び込ませることになる。

(3)任意的共同防衛説(シャクター)

国家関係を限定せずにすべての加盟国に認められるもので、任意に行使できるとする説。

批判:武力攻撃は全ての国に対する義務違反を構成し、いかなる国にも武力行使の法的基礎を与えるとするが、自衛の概念を超えている。実質的に他国防衛説である(ただし、後述のニカラグア事件では、本説によるものと考えられる。)。

集団的自衛権の行使要件

  • 個別的自衛権の行使要件(武力攻撃の発生、必要性、均衡性)の充足に加え、ICJのニカラグア事件及びオイルプラットフォーム事件によれば、被攻撃国による攻撃事実の「宣言」及び被攻撃国からの支援の「要請」が必要とする。
  • 「宣言」は他国による一方的な武力攻撃発生の認定を防ぎ、「要請」は権利行使の有資格者の範囲を大幅に限定。
  • 宣言及び要請主体の問題:特に内戦等の場合、武力攻撃の発生を宣言・要請する主体(政府など)が正統性を有するか。 

hiro-autmn.hatenablog.com

関連記事

hiro-autmn.hatenablog.com

hiro-autmn.hatenablog.com

hiro-autmn.hatenablog.com