丘の上に築かれた白い街に向かって
剥き出しの山肌をひたすらに登っていると
いかにもその街は
僕という存在を拒んでいるかのように思われた
その街は外敵から身を守るために
ー渇ききった旅人の感受性をただ癒すためではなくー
海賊の襲来に備えるために建設された
古代の城塞都市だった
街はもはやその目的を失ってはしまったけれど
決してかつての記憶を忘れてはいないようだった
時折強い向かい風が僕の間を吹き抜けた
あたかも何か異質なものの到来を警告するかのように
やがて神話の時代は終焉を迎え
この島も近代化の流れを否応なく受けたが
19世紀後半には幸いにも鉄鉱の採掘業で栄えた
島の西端には当時の工場跡が残されている
といっても遺構として保存されているわけではなく
剥き出しの残骸が静かに横たわっているだけだ
長年の風雨に曝され続けた荷台や滑車は
痛ましいくらいに完全に錆びきってしまっている
かつて過酷な労働に耐えた人々の叫びすら
もはや想像するには難い
それでも
このエーゲ海の深い深い青だけは
幾つの時代を経ても何も変わっていないんじゃないか
英雄ペルセウスがメドゥーサの首を持ち帰ったときも
ローマが流刑地とした時代も
ヴェネツィアの支配を受けていた頃も
それはいつだって残酷なくらいに青かったのだ